ナタリー PowerPush - 9mm Parabellum Bullet
菅原卓郎&中村和彦が思う10年の進化
“荒々しさ”を洗練させていく
──ベスト盤はシングル曲中心の構成で、バンドが初期から現在の形へと進化していく様子がはっきりとわかる内容になっていますよね。
菅原 そう。9mmって作品を重ねるごとにバンドの狙いがはっきりしてきたんですけど、今回のベストでその感じがわかるんじゃないかと思います。
──初期の「The World」とか、ライブベストの1曲目「(teenage)Disaster」は、メタリックなアレンジではなく、ガレージロックに近いものですよね。
菅原 そうなんです。Kornだったり、Limp Bizkitだったり、そういうヘヴィロック的な感じはまったくなくて。「何かよくわからないけど激しい」みたいな……漠然とした(笑)。活動を始めた当時の僕らは、作品の制作よりもライブをやることが活動のメインだったんです。だからライブでどれだけ僕らの音楽に人を巻き込むことができるか、そして、自分がどこまでできるかが重要で、初期はサウンドデザインなんて意識していなかった。
中村 当時はレコーディングについても詳しくはわからなかったし。
──では9mmの個性というのは、やはりライブを重ねていく中で育まれていったと。
菅原 そうですね。だから今回のベスト盤でも、レコーディング音源よりも「Selected Bullet Marks」のほうに成長の様子が顕著に出ていて。“竜巻”みたいな演奏を繰り広げていた2007年頃の演奏……「Selected Bullet Marks」でいうところの「Heat-Island(2008.02.08 "Termination Tour 07/08" at 渋谷 CLUB QUATTRO)」「sector(2008.06.06 "無重力のキューブ" at SHIBUYA-AX)」あたりから、だんだんと演奏をコントロールできるようになってきたんです。“荒々しさを洗練させていく”というか、そういうコントロールができるようになったことで、全員でものすごい音を出すカオスなセクションがどんどん美しいものになっていった。そして今ではメンバー個々の音も楽曲にダイレクトに反映されていって。「和彦のベースの音だ」みたいなことがわかりやすくなったと思います。
──今回のベストアルバム、シングル中心という点では、シンプルな内容になりましたね。
菅原 THE YELLOW MONKEYやLUNA SEA、BLANKEY JET CITYなど、自分たちが子供の頃、新しい音楽と出会うきっかけはシングルコレクションやベストアルバムであることが多かったんですね。今回の作品は、僕らの10周年を記念するひとつの目印であり、9mmの音楽にこの作品をきっかけに出会う人が聴いても、「ああ、こういうバンドなんだ」と思えるもの。そして、これまで追いかけてくれた人にとっても、「やっぱり、こういうバンドなんだ」と思ってもらえるものがいいなって。そう考えたとき、自然とシンプルな内容にしようと思ったんですよね。そしてベスト盤がシンプルだからこそ、「Selected Bullet Marks」ではめちゃくちゃやろうっていう(笑)。
ギターとドラムは特攻隊長
──10年を振り返って、バンドにとってのターニングポイントに当たると思う楽曲はありますか?
菅原 自分が歌詞や歌を担当したものでは、2009年発表の「Black Market Blues」ですね。それ以前は「なんとか完成させよう」という感覚で歌詞を書いていたんですけど、「Black Market Blues」の歌詞は書いているとき「ああ、こういう感じで書いていけばいいんだ」と思える瞬間があったんです。具体的ではありませんが、全体をコントロールしながら、同時に新しい要素も組み込んで曲を作れるようになったというか。
──菅原さんの歌詞は、主観的な思いやメッセージを押し出すのではなく、世界観やストーリーを作り上げることに注力している印象を受けます。
菅原 そうですね。僕、“9mmから発注されて歌詞を書く”っていう感覚で書いているんです。だから「9mmが演奏するなら、こういう歌詞を歌ったほうが面白いんじゃないか?」という視点をまず大事にしていて。さらにそのうえで1つの世界や1つのストーリーを作り上げるってことを意識しているんですね。そうすれば聴き手は自分のこととしても感じることができるし、1つの例え話としても受け取ることができるって思っていて。そういう歌詞のあり方に面白さを見出したので、それを実践している感じなんです。
──では、中村さんにとってのターニングポイントとなった曲は?
中村 「Cold Edge」ですね。僕、2008年の2ndアルバム「VAMPIRE」あたりから曲のネタを自分でも出していくようになったんですけど、「Cold Edge」もそうやって作った曲で。自分で曲のネタを出すようになってからは、ベーシストとしてだけじゃなくコンポーザー的な視点で曲と向き合えるようになりました。それからは制作の作業がスムーズになって、最近ではより短時間で自分の理想形に近づけることができるようになったんです。あとコンポーザー的な視点で考えることができなければ、今のベースももっと頭でっかちなものになっていたような気がします。「カモメ」や「ハートに火をつけて」はまさにその経験が生かされた曲です。
──9mmは、滝善充さんのギターやかみじょうちひろさんのドラムがいい意味で個性を暴走させているので、ベースはその間を取り持って、うまく調和させるという重要な役割を担っていますよね。
中村 そう言っていただけるとものすごくうれしいです(笑)。
菅原 9mmのギターとドラムはバンドの中でも特攻隊長みたいな感じだからね。
中村 そうだね。だからベースはその2つをつなぐ接着剤として機能していて。あとは歌も同じですよね。演奏でどれだけむちゃくちゃやっても、結局はメロディが曲を持っていくっていう。
菅原 そう、そういう意味で僕と和彦がやっているのは、バンドの手綱を握って、引っ張るってこと。ギターとドラムはそれを振り切るっていう、そのバランスがいい感じなんじゃないかな、と。
9mmの歌って“暴風”の中で歌っているイメージ
──ポップなものとヘヴィなものという異質なものを1つにまとめあげる作業をしていくうえで、頭を抱えるような瞬間もあったのでは?
菅原 うーん、自分たちとしては、あまり異質なものだと感じていないんですよね。「そう来るなら、自分はどうしようか?」と考えて、あえて周りに合わせず自分がやりたいことをそのままやってみたり、あとは合わせるふりをして合わせないとか……けっこうみんな気付いていませんけど(笑)。
──バンド内でそういう駆け引きがあると。
菅原 あと歌という観点では、すごく激しい演奏の中でどうやって自分の声を響かせるか。僕、9mmの歌って、暴風の中で歌っているっていうイメージを持っているんです。だから嵐の中で遠くの人に話しかけるにはどうしたらいいのかって考えながら歌っていますね。
──そういえば結成当初、かみじょうさんのドラムセットのバスドラムは1つだったと思うんですけど、今はツーバスですよね。ドラムのスタイルが変わったときに中村さんもベースのアプローチを変えるようなことはありましたか?
中村 今はもちろんツーバスを踏まえたベースフレーズを考えますけど、かみじょうくんがツーバスにした頃は自分が未熟者だったこともあって、その違いでバンドサウンドがどういうことになるのかよくわかってなかったんですよね(笑)。でももしそのときに変化を自覚できていたら、ベースプレイは今より面白くなくなっていたかもしれないです(笑)。
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- ベストアルバム「Greatest Hits」 / 2014年7月9日発売 / EMI Records Japan
- 「Greatest Hits」
- 初回限定盤 [2CD] 3780円 / TYCT-69027~8
- 通常盤(2014年8月29日までの期間限定出荷盤)[CD] 1999円 / TYCT-69029
収録曲
- The World
- Discommunication
- Supernova
- Wanderland
- Black Market Blues
- Cold Edge
- 命ノゼンマイ
- 新しい光
- カモメ(Strings Version)
- ハートに火をつけて
- Answer And Answer
初回限定盤付属CD収録曲
ライブベストCD「Selected Bullet Marks」
- (teenage)Disaster(2007.02.25 "機械の遺伝子" at 渋谷 O-nest)
- Beautiful Target(2007.09.09 "カオスの百年 vol.4" at 渋谷 CLUB QUATTRO)
- Caucasus(2007.11.28 "硝子越しの暴走" at 恵比寿 LIQUIDROOM)
- Heat-Island(2008.02.08 "Termination Tour 07/08" at 渋谷 CLUB QUATTRO)
- sector(2008.06.06 "無重力のキューブ" at SHIBUYA-AX)
- Living Dying Message(2008.10.18 "暁の野音" at 日比谷野外大音楽堂)
- Vampiregirl(2009.01.29 "VAMPIRE EMPIRE TOUR 08/09" at 京都 磔磔)
- Talking Machine(2009.09.09 "999[アット ブドウカン] " at 日本武道館)
- キャンドルの灯を(2010.06.24 "Revolutionary Tour 2010" at 東京 NHKホール)
- Lovecall From The World(2010.09.09 "カオスの百年 vol.7" at 新木場 STUDIO COAST)
- Termination(2011.06.26 "Movement YOKOHAMA" at 横浜アリーナ)
- Scenes(2011.09.09 "Movement Moment Tour 2011" at Zepp Fukuoka)
- Mr.Suicide(2012.09.09 "カオスの百年 vol.8 昼の部[女性限定ライブ]" at 下北沢 GARDEN)
- The Revolutionary(2012.09.09 "カオスの百年 vol.8 夜の部[男性限定ライブ]" at 下北沢 GARDEN)
- Punishment(2013.03.09 "39 -Thank You- LIVE" at 新宿 風林会館)
- 光の雨が降る夜に(2013.04.17 "桜前線ブッタ斬リ2013" at Zepp Namba)
- Scream For The Future(2013.09.09 "カオスの百年 vol.9" at 横浜BLITZ)
- 新しい光(2013.11.01 "Breaking The Dawn Tour 2013" at Zepp Sapporo)
- Answer And Answer(2014.02.07 "10th Anniversary Live「O」" at 日本武道館)
- 黒い森の旅人(2014.02.08 "10th Anniversary Live「E」" at 日本武道館)
9mm Parabellum Bullet(キューミリパラベラムバレット)
2004年3月横浜にて結成。2枚のミニアルバムをインディーズで発表したのち、2007年10月に「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。パンク、メタル、エモ、ハードコア、J-POPなどさまざまなジャンルを飲み込んだ音楽性と、激しいライブパフォーマンスで人気を博している。2009年9月9日には日本武道館公演「999(アット ブドウカン)」、2011年6月には横浜アリーナ公演「Movement YOKOHAMA」を開催。結成9周年の2013年には5月に5thシングル「Answer And Answer」を、6月に5thアルバム「Dawning」を発表。2014年には2月に日本武道館2DAYS公演「10th Anniversary Live “O”/“E”」を実施し、その様子は5月にリリースされたライブ映像作品「act O+E」にパッケージされた。7月にはベストアルバム「Greatest Hits」を発売。このアルバムは初回限定特典としてライブベストCD「Selected Bullet Marks」が付属することでも話題を集めた。9月から全国ツアー「Next Bullet Marks Tour 2014」をスタートさせる。