ナタリー PowerPush - 40mP

魔法のロボットは少年の人生を変えた

遠くから横目でチラチラ見ながら曲を作る感じ

──ラストの3曲はこのアルバムのために作った新曲ですね。

はい。聴いていただくとわかると思うんですけど、3曲全部曲調が違うんです。新曲を作るんだったら自分の引き出しを端っこまで全部出したいなと思って。

──確かに「東京の真ン中で寝転ぶ」は2011年くらいに発表していた、マイナーコードから歌い始めるちょっと影のあるポップチューンと同じ流れにあると思いますし、「コトバのうた」は「ドレミファロンド」以降に作られるようになった童謡っぽい曲ですし、この3曲はこれまで40mPさんが作ってきたいろんなタイプの音楽の総まとめみたいな雰囲気ですよね。

そうですね。今自分が作れる曲調の中から好きなものを選んだらこうなったというか。

──今回のベストアルバムは代表曲が年代順に並んでいるので、音楽性の移り変わりを感じながら、最後にその集大成となる3曲が聴けるという構成なんですね。

音楽性の変化は自分では意識してなかったんですけど、やっぱり並べてみると時期によって曲調が意外と違うんだなって気付きましたね。やっぱりその頃に影響されていたものとか、その頃好きだった音楽とか、自分が置かれている状況とかによって微妙に変わってきたのかな。ほかのボカロ曲に影響されてたこともあると思いますし。

──ほかのボカロ曲からの影響もあったんですね。40mPさんはボカロシーンの流行とあまり関係なく曲を作っている印象がありますが、そういえば確かに「妄想スケッチ」や「からくりピエロ」あたりの頃の曲はボカロ界隈での流行に少し接近しているように感じました。

40mP

確かにそのへんの曲を作った時期って、いろいろボカロ曲を聴いてたし、どんな感じの曲が受けるのかなって歩み寄っていたところがあるかもしれないですね。でも今は、逆にそういうものからちょっと離れていってる時期なんです。実は最近ほとんどボカロ曲を聴いてなくって。流行に近付きすぎると自分のよさが失われると思うし、かと言って離れすぎてもいけないので、他の人がやってることを遠くから横目でチラチラ見ながら作ってる感じでいようと思ってますね。

──では、流行から離れた最近の作風は、具体的には何から影響を受けたものなんでしょうか。

自分の曲を聴いた人から「子供が生まれてから変わった」とはよく言われます。自分ではあんまり関係ないかなって思ってたんですけど、やっぱり少なからず影響はあるんでしょうね。子供が大きくなったときに「パパ、こういうものを作ってたんだよ」って言えるものを、何かしら残しておきたいっていう気持ちがあるので。

ニコ動で反応があることが、いまだに何よりうれしい

──今は虹色オーケストラもやっていますし、ボカロ以外の曲を作る機会も増えていますよね。

そうですね。最近は歌い手さんの楽曲の書き下ろしみたいなお話をいただくことが多くなりましたし、あと妻のシャノさんもボーカリストなので、一緒に曲を作ることも増えてきて。今はボカロと半々ぐらいかもしれないですね。

──先ほど「もともと歌ものを作りたかったけど、歌ってもらう人がいなかったからボカロを使い始めた」と言っていましたが、昔と違ってその気になれば実在のボーカリストと組んで活動できるようになった今、それでもボカロを使い続ける理由は?

40mP

ボカロ曲を発表する場がニコニコ動画にあって、それを楽しみにしてくれてる人もいるっていうのは、僕にとってすごく大きなことなんです。ボーカリストがいるからボカロをやめるというのは今はまず考えられないですね。もちろん生のボーカルにしかない良さもあるので、どちらも自分の中で重要ですし、バランスを取りながらやっていきたいなと思ってます。

──独創的な世界観の曲が注目されがちなボカロシーンの中で、40mPさんが作るストレートで誰からも愛されるような歌はむしろ異彩を放っているように感じます。だけどそういうポップソングって、今後もしボカロのブームが終わったとしてもきっと古く感じないと思うんですよね。

ああ、そうかもしれないですね。

──だから40mPさんの曲がボカロリスナー以外の耳に届く機会が増えたときに、「ボーカロイドのことは詳しくないけど40mPの曲はいいよね」と感じる人はきっとたくさんいるじゃないかと。それはもしかしたら今回の「みんなのうた」の起用がきっかけになるかもしれませんけど、大げさに言えば、例えば将来的にいきものがかりのようなポジションになってもおかしくないんじゃないかと思うんですよ。自分がそういう大きな舞台に進出していく将来ってイメージしませんか?

でも僕は基本的にはコンポーザーでありたいんですよ。自分が勝負できるのは歌詞、メロディ、アレンジを作ることだと思っているので、基本的にそれをずっと続けていきたいという、それだけなんです。もちろん「みんなのうた」は自分にとって1つの大きなステップになったので、ここからさらにいい曲を作っていきたいとは思うんですけど、その曲を何かに使ってもらいたいとか、こんな場所で演奏したいとか、そういうのは特に持ってないですね。「曲を作りたい」ということだけを考えていれば、おのずと自分がやりたい方向にたどり着くんじゃないかと思ってて。

──じゃあ、わりと現状に満足してるとも言えるんですかね。

ある意味、そうかもしれないです。作った曲に対してみんなから反応があるっていうのが、いまだに何にも代えがたいぐらいうれしいことなんです。だからニコニコ動画がある限り、ずっと同じように曲を発表し続けていたいなと思います。

ベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」
2013年9月18日発売 / 2500円 / Due. RECORDS / DGSA-10079
収録曲
  1. 少年と魔法のロボット(Album Edit Ver.)/ 40mP feat.GUMI
  2. Melody in the sky / 40mP feat.初音ミク
  3. Step to you / 40mP feat.初音ミク
  4. 巨大少女 / 40mP feat.初音ミク
  5. ジェンガ / 40mP feat.初音ミク
  6. トリノコシティ / 40mP feat.初音ミク
  7. 妄想スケッチ / 40mP feat.初音ミク
  8. キリトリセン / 40mP feat.GUMI
  9. 夢地図 / 40mP feat.GUMI
  10. からくりピエロ / 40mP feat.初音ミク
  11. シリョクケンサ / 40mP feat.GUMI
  12. ドレミファロンド / 40mP feat.初音ミク
  13. 春に一番近い街 / 40mP feat.GUMI
  14. 東京の真ン中で寝転ぶ(新曲)/ 40mP feat.初音ミク
  15. 千年橋と影法師(新曲)/ 40mP feat.初音ミク
  16. コトバのうた(新曲)/ 40mP feat.初音ミク、GUMI
40mP(よんじゅうめーとるぴー)

ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。2008年からニコニコ動画にオリジナル曲の投稿を開始し、同年公開された2作目「Melody in the sky」で早くもネットユーザーから多くの注目を集める。アーティスト名は「Melody in the sky」の動画で使用された初音ミクのイラストが、周囲の建物と比較して巨大に見えると視聴者に指摘されたことが由来。その後も「からくりピエロ」「トリノコシティ」「妄想スケッチ」などの多彩な表情を持つポップソングで人気を確かなものにした。2011年にはテレビ東京系アニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「Evidence」でDaisy×Daisyとコラボレートしている。その後、7人の歌い手と生バンド、ストリングス、ブラス、コーラス隊を率いたホールコンサート「虹色オーケストラ」を2012年に東京、2013年に神戸で開催。2013年夏にはNHK「みんなのうた」のオンエア曲に「少年と魔法のロボット」が選ばれ、ボカロ曲の採用が番組史上初ということもあって大きな話題になる。同年9月には自身のボーカロイド曲をリメイクしたベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」をリリースした。