ナタリー PowerPush - 40mP
魔法のロボットは少年の人生を変えた
40mPがボーカロイド曲をリメイクしたベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」をリリースした。今作は彼がこの5年間にニコニコ動画で発表してきた楽曲の数々をブラスやストリングスを含む生楽器アレンジでリメイクしたもので、演奏は彼が監修するホールコンサート「虹色オーケストラ」のメンバーを含む総勢12名が担当。NHK「みんなのうた」のオンエア曲に選ばれた話題の楽曲「少年と魔法のロボット」や書き下ろしの新曲3曲も収められ、ベストアルバムでありながら彼の最新のモードを全面に押し出した意欲作となっている。
今回の特集では40mPに、ボカロ曲としては「みんなのうた」史上初のオンエア曲となった「少年と魔法のロボット」に込めた思いや、リメイクベストアルバムの制作エピソードなどについてインタビューを実施。彼をアーティストとして育ててきたボカロシーンへの思いも語ってもらった。
取材・文 / 橋本尚平 インタビュー撮影 / 小坂茂雄
いろんなクリエイターと巡り会えるのがボカロの面白さ
──NHK「みんなのうた」で自分が作った曲「少年と魔法のロボット」が流れた感想は?
初回放送はテレビに貼り付いて観てたんですけど、そわそわしてちゃんと観れなかったんです(笑)。何度も放送されて、そのたびに家族と一緒に観て「ああ、本当にオンエアされたんだな」ってようやく実感できた感じですね。ずっとこのために楽曲を作ってきて、映像も絵師のたまさんが長い時間かけてこだわって作ってくださったので、ようやく皆さんの手に届いたんだなって感慨深かったです。
──確かに、テレビで放送するのとネットにアップするのでは、プロセスが全然違いますもんね。
そうですね。作りたての曲が投稿ボタン1つで全世界に配信されるよさもあると思うんですけど、いろんな人の手を通って届けられるっていうのも、また違った感動があるんだなって思いましたね。
──この曲を作る上で気を付けたことはありますか?
この5年間の活動で自分に付いたイメージをちゃんと守って作りたいなって。作曲の依頼をいただいたときには、まず「自分の曲の中でどの路線が求められてるんだろうか」っていうのを考えるんです。僕が作る曲って「さわやか」「明るい」っていうイメージを持ってもらってるから、なるべくその期待と違うものを作らない、かつ自分が聴きたい音楽にしたいと常に思って作ってます。
──歌詞に直接的な言葉は出てきませんが、この曲はボーカロイドとボカロPの関係を歌ってるんですよね。
そうですね。やっぱり「ボーカロイドが歌う意味」のある曲を作りたいなと思ったので。ボーカロイドの魅力ってキャラクターのかわいさとか、歌声の魅力とかいろいろあると思うんですけど、僕にとっては「曲を全世界に発信することで、いろんなクリエイターと巡り会ってどんどん面白いものを作れるところ」が魅力なんです。ボカロ界隈という場所自体がすごく面白いと思っていて、それを限られた尺の中で表現したのがこの曲です。映像を作っていただいたたまさんもボーカロイドを通じて知り合った仲間ですし、演奏に参加した皆さんもそうですし、そうやって集まった仲間たちで作品を作ってるんだってことを知ってもらって、ボーカロイドやニコニコ動画を知らない人にも興味を持ってもらえたらいいなと思って作りました。
──この曲の歌詞は「自分の声に自信が持てない弱虫な少年に、ロボットが力を与えてくれた」というストーリーですけど、実際、40mPさんにとってボーカロイドは自分に力を与えてくれる存在だったんですか?
なんかその言い方だと厨二な感じがしちゃってアレなんですけど(笑)、でも自分に当てはめたところは少なからずあると思います。自分自身は歌があんまり得意じゃなくて、歌ってもらえるボーカリストも周りになかなかいなくて、歌モノを作りたくてもずっと形にすることができなくて、それがボーカロイドを使い始めようと思ったきっかけだったので。そういう、自分が始めた頃のことを思い出しながら歌詞を書いたところはあります。
歌を形にするのはハードルが高かった
──ちなみに、周りに歌ってくれる人がいなかったとのことですが、ボカロPになる前にバンドを組んだことはなかったんですか?
バンドをやったことはないですね。だから歌モノを作っていたのにボーカルの録音ができなくて。歌を録るとなるとそれなりのマイクや環境が必要だし、まず当然歌う人が必要になってくるので、そのハードルがあって、歌を形にすることがずっとできなくて。
──じゃあ、初めて組んだ自分のバンドが「虹色オーケストラ」だったという?
ああ、そういえばそうですね。まあ、あくまで「虹色オーケストラ」はバンドではなくてコンサートの名称なんですけど。ニコニコ動画のイベントに呼んでいただいてユニットを組んでライブをしたことはありましたけど、ちゃんとバンドを組んだことは今までないです。
──確かにボカロがない時代だったら、自分で歌わず、バンドやユニットも組んでいない人は、歌モノの曲を作っても人に聴いてもらう手段はありませんでしたよね。
そうですね。手段もないし、それを発表する場所もなかなかなかったと思います。有名無名関係なくどのアーティストも同じように作品を発表できて、それをなんの先入観もなく聴いてもらえるニコニコ動画があったというのが大きいと思いますね。
──ということは、もしもボーカロイドやニコニコ動画といったツールがなかったら、今音楽を続けているかどうかわからない?
まあ、音楽をまったくやってないってことはないと思うんですけど。やっぱり曲を作っててうれしいのは、聴いてくれる人がいてくれて、反応してくれることなので。もしそういう場所がなかったら今と同じようなモチベーションは絶対なかったと思います。
- ベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」
- 2013年9月18日発売 / 2500円 / Due. RECORDS / DGSA-10079
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収録曲
- 少年と魔法のロボット(Album Edit Ver.)/ 40mP feat.GUMI
- Melody in the sky / 40mP feat.初音ミク
- Step to you / 40mP feat.初音ミク
- 巨大少女 / 40mP feat.初音ミク
- ジェンガ / 40mP feat.初音ミク
- トリノコシティ / 40mP feat.初音ミク
- 妄想スケッチ / 40mP feat.初音ミク
- キリトリセン / 40mP feat.GUMI
- 夢地図 / 40mP feat.GUMI
- からくりピエロ / 40mP feat.初音ミク
- シリョクケンサ / 40mP feat.GUMI
- ドレミファロンド / 40mP feat.初音ミク
- 春に一番近い街 / 40mP feat.GUMI
- 東京の真ン中で寝転ぶ(新曲)/ 40mP feat.初音ミク
- 千年橋と影法師(新曲)/ 40mP feat.初音ミク
- コトバのうた(新曲)/ 40mP feat.初音ミク、GUMI
40mP(よんじゅうめーとるぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。2008年からニコニコ動画にオリジナル曲の投稿を開始し、同年公開された2作目「Melody in the sky」で早くもネットユーザーから多くの注目を集める。アーティスト名は「Melody in the sky」の動画で使用された初音ミクのイラストが、周囲の建物と比較して巨大に見えると視聴者に指摘されたことが由来。その後も「からくりピエロ」「トリノコシティ」「妄想スケッチ」などの多彩な表情を持つポップソングで人気を確かなものにした。2011年にはテレビ東京系アニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「Evidence」でDaisy×Daisyとコラボレートしている。その後、7人の歌い手と生バンド、ストリングス、ブラス、コーラス隊を率いたホールコンサート「虹色オーケストラ」を2012年に東京、2013年に神戸で開催。2013年夏にはNHK「みんなのうた」のオンエア曲に「少年と魔法のロボット」が選ばれ、ボカロ曲の採用が番組史上初ということもあって大きな話題になる。同年9月には自身のボーカロイド曲をリメイクしたベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」をリリースした。