ナタリー PowerPush - 虹色オーケストラ
40mPとたくさんの仲間が作り上げた感動の一夜
「一緒にやりたいんすよ」は社交辞令だと思ってた
──そもそも、虹色オーケストラの企画が始まったのはどういう経緯なんですか?
事務員G 「1人のボカロPが監修する」というコンセプトでいつかコンサートをしたいというのは3年くらい前から考えてたんですよ。それがずっと頭の片隅にありつつ、ある日ニコ動でいろんなボカロ曲を聴きまくってたときに「ジェンガ」を聴いてピンときたというか。そのあとに40mPさんの曲をいろいろ聴いて、僕が思い描いてたコンサートの適任は40mPさんしかいないって思い始めたんです。そんな折に、40mPさんが東京に転勤になって。
40mP もともと4~5年ほど関西に住んでたんです。
事務員G そのときに40mPさんの歓迎会をしたのですが、そこで初めて会いました。僕、酔っ払って「40さん一緒に何かやりましょうー」って絡んでました。
40mP 初対面でそんなこと言われたので「この人大丈夫かな」って思いながら(笑)。その後も会うたびに「やりたいんです」ってずっと言ってて、「また言ってるよ」みたいな(笑)。
事務員G しばらくして、日本青年館が取れるって話が入ってきたときに「だったら決行するしかない!」と思って、企画書に「40mPさんの曲しかやらない」「ストリングスとブラスを入れる」「ファミリーで来れる」みたいな基本概念をバーッと書いて送ったんです。そしたら「やりましょう」って答えてくれて。
40mP 「ホントに考えてたんだ」って思いました(笑)。社交辞令で「一緒にやりたいんすよ」って言ってるのかなと思ってたから。
──40mPさんの曲のどこに魅力を感じたんですか?
事務員G 「普通のポップス」寄りというか、歌い手さんが歌いやすい曲ですよね。奇をてらった作曲をあまりされないので、馴染みやすい。だから奏者目線だと弾き甲斐がありますよね。
40mP 今回、出演者の方とお話してるときに「21曲あるのに同じような曲調がない。いろんなジャンルがごちゃまぜになってるのに、ちゃんと40mPの色でまとまってる」って、すごくうれしい言葉をいただけて。物語的な構成で皆さんが2時間飽きずに聴いていただけたとしたら、そういうところに理由があったんじゃないかと自負しています。
事務員G だから曲順とかめちゃくちゃ考えましたよ。照明とかのイメージも細かく全部ノートに書いて。
──事務員Gさんが「40mPさんは奇をてらった作曲をしない」と言ってますが、本人はそれを意識してやってるんですか?
40mP いや、別にそこに重きを置いてるわけではないんですけど、ピアノ1本とかアコギ1本になってもちゃんと聴かせられるメロディと歌詞にしたいっていうことは大事にしてます。アレンジでごまかすんじゃなくて、詞とメロディで勝負したい、って。
チケット代は若い子でも手の届く金額にしたかった
──それにしても、企業などの後ろ盾がなく自分たちの力だけでキャパ2000人のホールを埋めて、これだけのクオリティのコンサートをするって大変なことなのでは。
事務員G こんな話、していいんですかね?(笑) 正直、金銭面はすごくシビアですよ。自分たちの財布から出してますから、埋まらなかったら大変ですよ(笑)。スポンサーがいて「今後のプロモーションのため」みたいな考えで多少の赤字を出してでもやるイベントとはちょっと違いますよね。
──例えは悪いかもしれないけど、アマチュアバンドがワンマンをやるために自分たちでライブハウスをブッキングしてチケットノルマを達成するというやり方を、ものすごく大きな規模でやっているようなもので。
事務員G 確かに。ホールの予約も個人名ですからね(笑)。
──それでいてチケット代も安めに抑えていて、すごいなと。
事務員G 40mPさんや歌い手さんも同じ意見だったんですけど、3000円っていうチケットがどうしても作りたかったんです。
40mP ファンの大半が中高生で、中には小学生もいたりするので、そういう若い子たちが少しでも手の届く金額にしたいっていう気持ちが強くて。本当はああいうホールでこの内容のコンサートをすると、どうしてももっとチケットが高くなるんですよ。でも、それ以上の数字にはしたくない。自分たちにリスクがあってでも、なるべくリーズナブルな価格にしたいって思ったんです。
事務員G 「3000円でも観ていただける席を作る」という挑戦は、席の種類を微妙なバランスで分けることでなんとか実現してるんです。こんな感じで、虹オケって試験的な試みがすごく多いんですよ。来場者にリーフレットと絵本を配るとか。MCをなくしたのも試験的ですしね。自分たちが作っているステージが、今後一生そのお客さんの心に残ることを考えると、安くてもヘタな物は作りたくないと思います。
──開演前にリーフレットを配るというのは、どこから出てきたアイデアなんですか?
事務員G リーフレットはもともと僕が虹色オーケストラより前にやってたコンサートのシリーズで作ってたんで、それを踏襲した形にしました。僕はこれもおもてなしの形の1つだと思ってて。
40mP さっき言ってたレストランの例えで言うと、コース料理のメニューみたいな?
事務員G ああ、そう言われてみれば僕、昔ずっとフランス料理のレストランで働いていて、ちっちゃいカードにコース料理を書いて、皿の上に乗せておくっていうのをやってました。たぶんそれがルーツなんですね。手元にお品書きがあると、お客さんはすごく安心してくれるし、持って帰って家で見直したら思い出していただける。それだけでちょっと心が温まるじゃないですか。
40mP あと入場口で出演者が、開演前にお出迎え、終演後にお見送りするっていうのもレストランっぽいよね(笑)。
事務員G レストラン歴が長かったんで(笑)。
──今回リハーサルからいろいろと観させていただいて、事務員Gさんの監督力の高さを強く感じたんです。いろいろと試験的なことができたというのは、その賜物だったんじゃないかと。
事務員G 東京公演のときは、誰が何をするのか僕しか決められない状態だったんですよ。だから本番の演奏中にスタッフさんが物販についての質問を僕にしてくるような状況になっちゃった(笑)。その教訓で今回はもうちょっとうまく回るように、スタッフさん1人ひとりに与える裁量を増やしました。
- 40mP×事務員G「虹色オーケストラ」/ 2012年12月31日発売 / 1800円 / 40メートル走 / 40M-001
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CD収録曲
- 夢地図(vocal:伊東歌詞太郎)
- トリノコシティ(Vocal:ENE)
- キミボシ(vocal:新社会人)
- Melody in the sky(vocal:レミュー)
- ジェンガ(vocal:ちびた)
- からくりピエロ(vocal:that)
- 春に一番近い街(vocal:シャノ)
- ドレミファロンド(vocal:ALL)
虹色オーケストラ大宮公演
- 2013年12月29日(日)
埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール - SS席 5800円 / S席 4800円 / A席 3800円 / 学生席 3000円(入場の際に学生証が必要です)
先行予約 7月上旬予定 / 一般発売 8月上旬予定 - <出演者>
40mP / 事務員G / 天月 / 伊東歌詞太郎 / 千穂(えいちぴよこ) / Φ串Φ / clear / that / シャノ / and more
好評だった神戸公演のスタイルを踏襲し、曲目・演出等を一部変更した形式で実施。全来場者に入場時に頒布される絵本は、大宮公演用に一部が改定される。
40mP(よんじゅうめーとるぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。2008年からニコニコ動画にオリジナル曲の投稿を開始し、同年公開された2作目「Melody in the sky」で早くもネットユーザーから多くの注目を集める。アーティスト名は「Melody in the sky」の動画で使用された初音ミクのイラストが、周囲の建物と比較して巨大に見えると視聴者に指摘されたことが由来。その後も「からくりピエロ」「トリノコシティ」「妄想スケッチ」などの多彩な表情を持つポップソングで人気を確かなものにした。2011年にはテレビ東京系アニメ「FAIRY TAIL」のオープニングテーマ「Evidence」でDaisy×Daisyとコラボレートしている。
事務員G(じむいんじー)
ニコニコ動画の「演奏してみた」カテゴリで活躍する演奏者。ピアノをメインにさまざまな楽器を同時に演奏する動画がネット上で大きな反響を呼んだ。2008年よりニコニコ動画でのパフォーマーを集めたイベントを企画し始め、2010年からは台湾・香港を始め海外でのイベント制作も精力的に行う。2012年にはボーカロイド楽曲214曲をつなげて弾いた映像がニコニコ動画「動画アワード」の「演奏してみた」カテゴリでMVDを受賞。2013年6月にはH ZETT M、紅い流星、まらしぃとともに4台のピアノでアニメソングをカバーするアルバム「4D-PIANO ANIME Theater!」に参加する。