ナタリー PowerPush - 1966 QUARTET×NIGO
マニア納得のTHE BEATLESカバー集を紐解く
QUEENやマイケル・ジャクソンなどの洋楽曲を斬新なアレンジでカバーするクラシックユニット、1966 QUARTET。彼女たちの4作目となるアルバム「HELP! ~Beatles Classics」がリリースされた。今作は、デビューアルバム同様THE BEATLESをフィーチャーした原点回帰とも言えるカバー集で、バイオリン、チェロ、ピアノの華麗な音色が名曲を彩る。そして今作ではその魅力をさらに引き出すべく、NIGOがアルバムのアートディレクターを担当。“自称ビートルマニア”と語るNIGOが、彼女たちのサウンドとどのようにコラボしたのか。ナタリーでは、1966 QUARTETのメンバー4人とNIGOの対談をセッティングし、その共同作業について話を聞いた。
取材・文 / 井手朋子 撮影 / 上山陽介
Amazonで偶然見つけてとりあえず買った
──NIGOさんが最初に1966 QUARTETの存在を知ったのはAmazonだそうですね。
NIGO ビートルズ関連の商品を探してるとき、Amazonで偶然彼女たちのデビューアルバム(「ノルウェーの森 ~ザ・ビートルズ・クラシックス」)を見つけて。僕はいまだに頻繁にCDを買う人なので、気になったものはとりあえず買ってみるんですよ。
──彼女たちのサウンドを聴いてどう思いました?
NIGO いいじゃんって思って、そのあとも聴きました。1回聴いてそのまま箱に入れちゃうCDも多いんですけど、彼女たちのは聴き続けましたね。
──THE BEATLESのファンだと、カバーに対して抵抗のある人も少なくないと思うんですが。
NIGO そういう人もいますね。でも僕はタイムリーで聴いていないので少し捉え方が違うというか。
──なるほど。NIGOさんはそもそもクラシックを聴く人なんですか?
NIGO いや、ほとんど聴いたことがないですね。坂本龍一さんが出しているようなものとかは聴いたりしてたんですけど……。ただ静かな心地よい音楽は好きで。4つ打ちばかり好きなように見られがちなんですけど(笑)。
──メンバーの皆さんは、NIGOさんがそうやって聴いていることをどの時点で知ったんですか?
松浦梨沙(Violin) コンサートに来てくださったときに発見してしまったんですよ。スタッフが「会場にNIGOさんがいたよ」って。「NIGOさんってあのNIGOさん?」って帰りのバスは大騒ぎでしたね。
──皆さんの世代からしたら憧れの存在ですもんね。
松浦 中高時代、APEのバッグとかTシャツをみんな持ってましたからね。だからまさかそのNIGOさんが……絶対違うって言って、スタッフをたしなめたりしてました。
江頭美保(Piano) 何かの間違いじゃないかと思ってね。
──NIGOさんは普通にプライベートで行ったんですか?
NIGO そうなんです。たまたま地元だったんですけど。
──会場で聴いた生の演奏は、CDと何か違いがありました?
NIGO 僕的にはCDを聴いているような感じだったので、逆にすごいなっていうのがありましたね。そのあとお話を聞いたら、やっぱりその日のテンションによって全然違うっていうこともわかったんですけど。僕なんかが聴くような音楽って、ライブだとCDとはかけ離れたアレンジになってるものも多いんですよ。変にキーボードが乗ってしまったり。そういうものばかりなので逆に感動しましたね、シンプルだし。
──生で再現できることしかやっていないんですね。
花井悠希(Violin) そうですね。録ろうと思ったら今はいくらだって多重録音できるじゃないですか。でもCD用に音を作るのではなく、レコーディングでやったことはコンサートでもできるように、絶対5人にはならないようにしてるんです。
──そのポリシーが伝わったと。
江頭 うれしいですね。
こだわりのNIGOディレクション
──そんな縁から今回NIGOさんがアートディレクションを手がけることになったわけですが、1966 QUARTETは普段NIGOさんが関わるような人たちとは縁遠いジャンルの女の子たちですよね。
NIGO そうですね。あと、僕はあまり知らない人とは仕事をしない主義で……(笑)。
一同 (笑)。
NIGO いろんな話はいただきますが、興味がないことには本当に興味がないので、ほぼほぼお断りするんです。でも今回はどちらかと言うと自分のほうからお願いしたっていう感じなんです、実は。
松浦 光栄ですよ。ホントにいいんですか?って感じですよね。
──今作はNIGOさんが手がけただけあって、ジャケ写、アー写、PV、すべてにおいてこれまでとはまったく違うテイストになりましたね。衣装はトム・ブラウンのスーツでバリッとキメて。これはどういうイメージで選んだんですか?
NIGO THE BEATLESを1つのキーワードとしていろいろ考えて、一応自分が服を作ってるので服のイメージから入ったんです。そこで行き着いたのがトム・ブラウン。僕もずっと着ていてデザイナーとも面識もあるのですが、その中でも一番見た目がよかったベーシックなスーツを選びました。色はグレーをチョイスしてオーダーで作りました。
──メンバーの皆さんは、衣装を最初に見たときはいかがでしたか?
松浦 今まで衣装は自分たちで原宿とかに買いに行ってたんですよ。QUEENのカバーアルバムのときも、「QUEENっぽいやつ」って言いながら、迷走しながらも自分たちで探して。でも今回は天と地ほど違うものが来たので「カッコよすぎるだろ」って。
花井 そう。「着ていいのかな?」って。
松浦 でもすごいカッコいいし、これぞTHE BEATLESじゃんって。デビューアルバム発売時に着たカラーパンツはなんだったんだと(笑)。
花井 あの頃はギャルショップで買ってましたからね。
──180度変わったわけですね。PVでは、使うカメラやレンズにまでこだわったと聞きました。
NIGO ちょうどライカから動画を撮れるカメラが出たのでそれを購入して。で、リンゴ・スターが昔ZUNOWっていうブランドのレンズを使ってたので、それと同型のレンズを使いました。
松浦 へえー知らなかった。
──知らなかったんですね。そういうことは一切聞かされず?
NIGO オタクっぽいこだわりというか、どうでもいいといえば、どうでもいいから(笑)。撮った映像はレンズならではの質感を生かして、そのまま何もいじらずに使いました。
──グレー1色のインパクトがあるPVで、歌詞の字幕が入ってるのもいいですよね。まるでそこでジョン・レノンが歌っているかのような。特に「HELP!」のあたりがいいなと。
江頭 台詞が聞こえてきますよね、すごい新鮮でした。
NIGO これに限らず普段からPVの下に字幕を入れる手法をよく使っていて。今回は歌詞がないので最初は何も考えなかったんですけど、字幕があったら面白いかなと思って入れてみました。
──ジャケット写真は4人のフィギュアですが、なぜフィギュアに?
NIGO THE BEATLESのジャケのカバーをやろうとか、いくつかアイデアが浮かんだんですけど、僕が持っているTHE BEATLESのコレクターズアイテムで張子の首振り人形があるんですね。60年代のやつなんですけど、それを作りたいなと思って。
──あれはCGじゃなくて実際に作ったものを撮ったんですか?
花井 そうです。実在してるんですよ、あの子たちは。
- ニューアルバム「HELP! ~Beatles Classics」2013年6月5日発売 / 2940円 / 日本コロムビア / COCQ-85012
- ニューアルバム「HELP! ~Beatles Classics」
収録曲
- Help!
- Can't Buy Me Love
- And I Love Her
- I Feel Fine
- Hey Jude
- Back In The U.S.S.R.
- Hello Goodbye
- Nowhere Man
- Ob-La-Di, Ob-La-Da
- Girl
- Something
- Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
- Don't Let Me Down
- Here There And Everywhere
- Yesterday
1966 QUARTET
(いちきゅうろくろくかるてっと)
THE BEATLESの初代担当ディレクター・高嶋弘之が送り出す、クラシックのテクニックをベースに洋楽をカバーする女性カルテット。現メンバーは松浦梨沙(Violin)、花井悠希(Violin)、江頭美保(Piano)、林はるか(Cello)。THE BEATLES来日の年である「1966」をユニット名に冠し、2010年11月「ノルウェーの森 ~ザ・ビートルズ・クラシックス」で日本コロムビアよりCDデビュー。2011年11月にQUEENをカバーした2ndアルバム「ウィ・ウィル・ロック・ユー ~クイーン・クラシックス」を発売したのち、メンバー交代を経て2012年11月にマイケル・ジャクソンをフィーチャーした「スリラー ~マイケル・ジャクソン・クラシックス」を完成させる。2013年6月、再びTHE BEATLESに回帰した4thアルバム「HELP! ~Beatles Classics」をリリース。
NIGO(にごー)
クリエイティブディレクター、DJ。ファッションブランド「A BATHING APE」の創設者。現在はフリーのデザイナーとして活動。2004年にRIP SLYMEのILMARIとRYO-Z、m-floのVERBAL、WISEと結成したヒップホップユニット・TERIYAKI BOYZのメンバーでもあり、DAFT PUNK、カニエ・ウェスト、Corneliusといった国内外のそうそうたるアーティストとのコラボレーション作をリリースして注目を集めた。