音楽ナタリー PowerPush - 164
ボカロPから“ギターヒーロー”へ
ニコニコ動画で300万再生を記録した「天ノ弱」などで知られる、ボーカロイドプロデューサー・164がベストアルバム「THIS IS VOCAROCK」をリリースした。今作では164がこれまで発表してきた楽曲がバンドサウンドで再録音されており、そのレコーディングにはピエール中野(凛として時雨)、おさむらいさん、Ken☆Ken、ふわりPといったアーティストたちが参加。アルバムには腕っこきのバンドマンによるエモーショナルなプレイと、164によって徹底的に調声されたボーカロイドの歌声があいまった15曲のロックナンバーが収録されている。
ナタリーではこのベスト盤の発売を記念して164のインタビューを企画。今、ベスト盤を出すに至ったワケ、そして自身のヒット曲の数々に大胆なアレンジを施したワケに迫った。
取材・文 / 成松哲 撮影 / 小坂茂雄
“作家164”ではなく“ギタリスト164”
──これまでもベスト盤を発表するタイミングでいろんな方の取材したことがあるんですけど、ベスト盤にはキャリアを一旦総括する意味があるとおっしゃる方が多くて。
あっ、僕の今回のベスト盤もまさにそのひと区切りのための1枚ですね。
──なぜキャリアにひと区切りつけようと?
これまでの僕のオリジナルアルバムは、ある意味ボーカロイド推し。164という存在よりも初音ミクやGUMIを前面にフィーチャーした作品になっていたと思うし、実際そういう作り方をしていたんです。だけど、ここ数年、ETA(EXIT TUNES ACADEMY。164の所属レーベルEXIT TUNESが主催するライブイベントシリーズ)などにギタリストとして出演するようになったら、作品だけでなく僕個人に注目してもらえることが多くなって。そういうこともあって「今後は“作家164”ではなく、“人前に立つギタリスト164”に転向していくべきなのかなって思ってたんです。
──ベスト盤をリリースしようという構想はいつ頃持ち上がったんでしょう?
前回のアルバム(2013年9月発売の「BLURRY」)を出して半年経った頃には「ベスト盤作りましょうよ」って提案してました。ボーカルはボーカロイドなんだけど、ほかの楽器は打ち込みではない。僕もギターを弾くし、ほかの楽器についてもバンドメンバーを集めて一緒にスタジオでレコーディングをして。ジャケットには僕自身も立つというか、GUMIのイラストだけじゃなくて、僕の写真も載せる。そういうアルバムを作ろうとは当時から考えていました。まさか事務所が完璧に叶えてくれるとは思ってなかったですけど(笑)。
164の考える“注目曲”
──2008年のボカロPデビュー以来、164さんは多くの楽曲を書いていますよね。その膨大なディスコグラフィの中から、この15曲が選ばれた理由って?
ベスト盤を出すときって普通はヒット曲ばかりを並べるべきだと思うんですけど、今回のアルバムには一定の評価をいただいているのに、入れていない曲もあるし、逆にそういう人気曲よりも再生数は少ないんだけど入れてみた曲もあるんです。で、それはなぜかというと“注目された曲だから”なんです。
──つまりどういうことでしょうか?
例えば「sleeping beauty」なんかは、公開している動画の再生数は比較的少ないんですが、実は“歌ってみた”界隈では注目されていたりするんですよ。“歌ってみた”動画の数はけっこう多いし、歌い手の秋明音さんが自分のアルバムの中で歌ってくれていたりもする。今回、ベスト盤の選曲をするにあたってはそういう意味での“注目度”も加味してます。
すべて逆をやろう
──「THIS IS VOCAROCK」の収録曲を、既発のボカロバージョンと聴き比べてみると、単に楽器が生になっているだけではない。かなり大胆にリアレンジされてますよね。
そうですね。今回のコンセプトは「すべて逆をやろう」っていうことだったので。
──「逆」というのは?
ボカロ曲って基本的にクオンタイズされた音楽ですよね。
──ええ。164さんの楽曲を含め、多くの曲が打ち込み主体なだけに、リズムはジャストで刻むようにできてます。
それってある種、洗練された音楽だと思うんです。普通のバンドの場合、最初の頃の作品は初期衝動任せの荒々しいもので、その後、だんだんテクニカルになったり、打ち込みを導入したりして、洗練された作品を作っていくものだと思うんですけど、僕はある意味、その洗練された状態から音楽活動をスタートしていると思っていて。でも今の僕はギタリストとしてやっていきたいという欲求が強くなっている。だからそのクオンタイズされたボカロ曲、洗練されたボカロ曲を荒々しいものに生まれ変わらせてみたかったんです。
──ただボーカロイドを使う以上、ボーカルトラックに関しては、クオンタイズのくびきから解き放たれはしないわけですよね。
もちろん楽器隊のレコーディング前にGUMIの声は打ち込んでおくんですけど、楽器を録り終えたあと、改めてGUMIの調整をかけています。バンドが生んだグルーヴにハマるように声の鳴る位置を細かく調整してるんです。
──確かにどの曲もバンド感がハンパない。だからその目論見は成功していると思うんですけど、「大変なことをしてるなあ」っていう気もします(笑)。
確かに生のドラムにボカロを当てるのはやったことがなかったんですけど、シミュレーションだけなら家でたっぷりできるので(笑)。そこまで難しくはなかったですね。
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- 164ベストアルバム / 164 feat. GUMI「THIS IS VOCAROCK」/ 2014年7月16日発売 / 2160円 / EXIT TUNES / QWCE-00367
- 164 feat. GUMI「THIS IS VOCAROCK」
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収録曲
- 天ノ弱[G:164 / B:mao / Dr:ピエール中野]
- sleeping beauty[G:164 / Piano:Starving Trancer / B:亜沙 / Dr:Ogunya.]
- 迷妄少年と小世界[G:164 / B:mao / Dr:Ogunya.]
- 4時44分[G:164 / B:mao / Dr:Ogunya.]
- リセット[G:164 / B:亜沙 / Dr:Ogunya.]
- STATIC[G:164 / B:YM / Dr:Ogunya.]
- heavenly blue[G:164 / B:東野恵祐 / Dr:ピエール中野]
- 例えば、今此処に置かれた花に[EG:164 / AG:おさむらいさん / B:mao / Dr:ピエール中野]
- ミスターデジャブ[G:164 / B:東野恵祐 / Dr:ピエール中野]
- 異世界ノットパンピー[G:164 / B:東野恵祐 / Dr:Ken☆Ken]
- タイムマシン[G:164 / Piano:40mP / B:東野恵祐 / Dr:Ken☆Ken]
- 未来線[G:164 / Piano:40mP / B:東野恵祐 / Dr:Ken☆Ken]
- end tree[G:164 / Piano:ふわりP / B:亜沙 / Dr:Ogunya.]
- 青[EG:164 / AG:りょーくん / B:YM / Dr:Ken☆Ken]
- shiningray[G:164 / B:YM / Dr:Ogunya.]
- イベント出演情報
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EXIT TUNES ACADEMY FINAL SPECIAL 2014
- 2014年8月3日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
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EXIT TUNES ACADEMY SUMMER TOUR 2014
- 2014年8月16日(土)東京都 Zepp Tokyo
- 2014年8月17日(日)東京都 Zepp Tokyo
- 2014年8月23日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2014年8月27日(水)愛知県 Zepp Nagoya
- 2014年8月29日(金)大阪府 Zepp Namba
- 2014年8月31日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
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EXIT TUNES ACADEMY 2014 広島 ~HOME開局45 - 1周年記念ライブ~
- 2014年11月3日(月・祝)広島県 上野学園ホール
164(イチロクヨン)
2008年から動画共有サイトにボーカロイド楽曲を発表しているボカロP。自らのギター演奏によるパワフルなロックサウンドと、クオリティの高い調声で一躍注目される。2009年に1stアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE COMPLETE BEST OF 164 from 203soundworks feat.初音ミク」をリリース。2011年に動画共有サイトで公開した「天ノ弱」が、トリプルミリオン再生突破の大ヒット曲となる。EXIT TUNESが主催するライブイベントでは持ち前のギタープレイを披露し、プレイヤーとしても注目を集めている。2014年7月、キャリア初のベスト盤「THIS IS VOCAROCK」を発表した。