ナタリー PowerPush - BLURRY 164 feat. GUMI, MAYU

ギター1本で“BLURRY”な世界と渡り合う

キャッチーさとテクニックの共存

──「BLURRY」の収録曲にせよ、「天ノ弱」にせよ、ものすごくメロディがドラマチックだから、ギターをガンガンかき鳴らして、感情のおもむくままに作ってるんだと思ってました。

むしろ逆ですね。ギターで曲を書いたらもっと複雑なメロディやコード進行ができあがると思うんですよ。ちょっとはギターが弾けるので、難しいコードや複雑なフレーズを使いたくなっちゃうはずなんです。でもあらかじめメロディとベースとドラムが決まっていると、そこに乗せられるギターフレーズやコードは限られる。だから、よりシンプルな曲ができあがるんだと思います。それにギターから作るとわりと曲調が固まっちゃう気もするので。

──ギターを握った瞬間、なんの気なしに押さえちゃうコードってありますもんね。

ええ。だからギターで作ると、無意識のうちにそんなコードから始まる曲ばっかりになっちゃう気がします。それに手癖もあるし。

──なんでシンプルな曲にしたいんですか? 複雑なフレーズやコード進行を作れるなら、そういう曲を作るのも1つの手のような気もします。

単純に僕が好きなんです(笑)。パワーコード(長調・短調を決定するIII度の音を省略したコード。ギターのフレットを押さえやすく力強いサウンドを鳴らせる)が大好きなので。聴くぶんには黒人音楽のちょっとオシャレなコード進行も好きなんですけど、弾くぶんにはシンプルなパワーコードが一番気持ちいいし。で、そんな中に、たまにオシャレなフレーズとかコードを挟んでたら「能ある鷹は爪を隠す」じゃないけど、ちょっとバカじゃないっぽく見えるじゃないですか(笑)。ただ、僕の曲ってたぶんコードネーム的にはわりと複雑になってるとは思うんですよ。ギターのコード自体はシンプルなんだけど、メロディやベースラインでそのテンションノート(コードを構成する音を外しつつも、コードの進行は阻害しない音。サウンドに緊張感をもたらす)を突くとか、そういう感じで作ってますね。基本的にはギターロックなんだけど、ちょっとオシャレ。でも変に鼻につく感じはしない。そういう曲が欲しかったので。

──それはなぜ?

「ETA」みたいなイベントに出るようになったら、聴いてくれる人の層がちょっと変わってきたんですよ。以前ならTwitterでリプライをくれるのは「なんの機材使ってるんですか?」って感じの男の子が多かったんですけど、今はもっと広い層がフォローしてくれることも増えてきているので。だから、さわやかさやキャッチーさはアップさせつつも、ギターのテクニカルな感じとかはちゃんとキープさせたかったんです。

自らの今いる場所こそが「BLURRY」

──上京してきたことでコミュ障が解消され(笑)、ファン層も広がった。にも関わらず、どの曲も歌詞はけっこう後ろ向きですよね。

よく考えたら、自分の音楽活動って最初に小学校でバンドを組んだときからずーっと上り調子なんですよ。

──そうですね。だからこそ詞がネガティブなのが不思議なんです。

でも、僕は黎明期からのボカロPだけに、こういう活動をしている先輩、前例がないんですよね。だから、こういう活動をしているミュージシャンのピークっていうのがどこなのかまったくわからないんですよ。もしかしたら明日には一気に転落してしまうかもしれない。アルバムタイトル「BLURRY」の「ブラー」って動画編集ソフトにだんだん映像をボカしていくエフェクトの「ブラー」と同じ。「不鮮明な」っていう意味なんです。で「じゃあ何が不鮮明なの?」って聞かれたら「僕の将来」と(笑)。

──端から見ていると、ソングライター、アレンジャーとしてはもちろん優秀だし、ギターもうまければ、ボカロの調声もうまい。それに言ってしまえば「天ノ弱」のような問答無用のヒット曲もある。何を不安になることがあろうか、って感じです。

でも当たり前のこととして「天ノ弱」にあんまりぶら下がりたくもないんですよ。さっき言った「将来」っていうのは別に食べていくってことじゃなくて、むしろ見向きもされなくなること。聴かれなくなることこそがミュージシャンとして死を迎えるってことだと思ってるので。

──じゃあ「BLURRY」はまさに最初に話したキャッチコピー通り。「ぼやけた」164さんのありようを「傷だらけのギターで晴らすアルバム」になってると言えますよね。これまでの作品に負けず劣らずカッコいいし、ほかのミュージシャンとのセッションという新機軸も打ち出しているし。

ええ。自分自身もそうだし、皆さんにも「今、聴きたい」と思ってもらえる曲しか入れてないつもりなので。自分をさらに高められるアルバムになったなとは思ってます。

164
164 feat. GUMI、MAYU「BLURRY」 / 2013年9月4日発売 / 2000円 / EXIT TUNES / QWCE-00309
164 feat. GUMI、MAYU ニューアルバム「BLURRY」
収録曲
  1. Rebirth / 164 feat.GUMI
  2. NO STARS / 164 feat.GUMI
  3. 神巫詞 / 164 feat.MAYU
  4. BLURRY / 164 feat.GUMI、MAYU
  5. ユメバナ / 164 feat.MAYU
  6. A Transparent Picture / 164 feat.GUMI
  7. ミスターデジャブ / 164 feat.MAYU
  8. サイコロジック / 164 feat.GUMI
  9. イージーモード / 164 feat.MAYU
  10. 迷妄少年と小世界 / 164 feat.GUMI
  11. ウロノキ / 164 feat.MAYU
  12. トオリスガリノダレカ / 164 feat.GUMI
  13. おやすみの街 / 164 feat.MAYU
  14. end tree / 164 feat.GUMI
  15. 青 / 164 feat.MAYU
  16. 天ノ弱 / 164×みきとP(ボーナストラック)
  17. 青 / 1640mP(164×40mP)(ボーナストラック)
  18. shiningray / 164×ジミーサムP(ボーナストラック)
164(いちろくよん)

2008年から動画共有サイトにボーカロイド楽曲を発表しているボカロP。自らのテクニカルなギター演奏によるパワフルなロックサウンドと、クオリティの高い調声で一躍注目される。2009年に1stアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE COMPLETE BEST OF 164 from 203soundworks feat.初音ミク」をリリース。2011年に動画共有サイトで公開した「天ノ弱」が、ダブルミリオン再生突破の大ヒット曲となる。2013年9月に4作目のアルバム「BLURRY」を発売。