対バンがイヤでボカロPに。そして10万再生

──ただ、先ほど言っていたバンドは今の音楽性に多大な影響を与えたとはいえ「最後」のバンドだったわけですよね。

根がコミュ障なんですよ（笑）。ライブハウスのノリがあんまり好きじゃなかったんです。

──全国ツアーにまで出てたのに（笑）。

むしろそれがプレッシャーで。県外にツアーに出るようなバンドって、よそのバンドとの付き合いも増えるじゃないですか。その地方のライブハウスで対バンした地元バンドとかと。僕、その楽屋のノリというか、対バンの人と仲良くしゃべったりするのがホントに苦手で。今は少しは大人になったつもりなんで初対面の人ともしゃべれますけど、当時はホントに楽屋の隅で体育座りしてるみたいなタイプだったので（笑）。で「これからは絶対に1人で音楽をやろう」と思ってバンドを辞めたんですけど、ちょうどそういうタイミングでボーカロイドを知ったって感じですね。僕、歌を歌えないので「これはいいな」って。

──最初に動画サイトにボカロ曲を投稿したのは……。

2008年ですね。今回の「BLURRY」にもアレンジバージョンが入っている「shiningray」っていう曲を。

──当時の再生回数って？

初っぱなはどのくらいだっけな？ 1週間か2週間で10万再生くらいだったかなあ。

──すごいじゃないですか！

「まさか！」って感じでした。2008年にはもうたくさんボカロPがいて、いろんな曲をアップしてましたけど、だいたいの曲って数百再生がいいところじゃないですか。なのに、自分の曲がこんなに聴いてもらえるなんて、ってビックリしたっていうのはありましたね。

──勝因ってなんだと思います？

たぶんボカロの調声だと思ってます。

──確かに、164さんのトラックって基本的にどれもちゃんと歌詞が聞き取れますもんね。

今でこそ「神調教」って言われるくらいボカロの調声のうまいボカロPもたくさんいるんですけど、当時ってそんなに多くなかったし、正直、レベルもそんなに高くなかったんですよ。だから僕自身、動画サイトを観始めたころは「ボカロには人間らしく歌うことはできないんだろうな」って思ってたんですけど、「ぼかんないんです＞＜」っていう調声方法で有名なyuukissさんの上げてる動画の中に、初音ミクがスッゲー人間そっくりの声で浜崎あゆみを歌ってるものがあったんですよ。それを聴いて「あっ、こんなちゃんと歌えるんだ」って気付いて、がんばって調声してみたら、それがハマったって感じですね。

「『天ノ弱』は、もう僕の手を離れた」

──調声にこだわったのはより多くの人に聴いてもらうための戦略だったりします？

いや、実は初音ミクのかわいらしい声がちょっと苦手だったんです（笑）。そんな中、yuukissさんの動画を観たら、歌っている人の息吹すら感じられるような調声だったので「こんな感じでできるんだったらボカロもいいな」って思ったって感じですね。

──あっ、初音ミクやボーカロイドを偶像視してはいない？

してないですね。まさに楽器っていう感じかもしれない。シーケンスソフトのトラック名にも「メイン（ボーカル）」「ハモリ」としか書いてないし（笑）。ただ楽器だからこそキレイに鳴らしたい。だからこそガッツリ調声したいんです。

──そしてその調声の成果もあって、2011年には「天ノ弱」には200万再生を誇るヒット曲を生み出すことになる。

まあでも「天ノ弱」に関しては、もう僕の手を離れたって感じがしますね。実際ニコ動ユーザーやボカロファンの中には「天ノ弱」の名前や曲は知っていても164って名前は知らないっていう人もいっぱいいると思うし。ほかの曲の場合、歌ってみた動画を観ると「あっ、僕の曲を歌ってくれてる！」ってなるんだけど「天ノ弱」に関しては「僕の曲！」とはならないし（笑）。

──感激の反対、要は「こんな歌い方しやがって！」みたいなことも……。

ないです、ないです。