エイベックス、講談社、大日本印刷(DNP)の3社が共同で展開する音楽×仮想世界プロジェクト「十五少女」が今春、本格始動した。
2021年4月1日に発表されたデビューシングル「逃避行」以降、リリースを重ねながらも楽曲以外の情報がほぼ明かされていない謎多きプロジェクトとして約1年にわたって展開されてきた十五少女プロジェクト。デビューから1年という節目を迎えた今年の4月1日に“第一期”の全容が発表され、音源化、小説化、またVR空間を用いた物語化などの展開計画と、アニメ化というプロジェクトの最終目標が明らかになった。
これを機に、音楽ナタリーでは現時点で判明している情報をまとめた特集記事を展開。プロジェクトのコンセプトやキャラクター設定、用語などを読み解きながら、その全貌に迫る。
文 / ナカニシキュウ
「十五少女」プロジェクトとは、ひと言で言うならば音楽と仮想空間(メタバース)を軸に展開されるメディアミックスプロジェクトだ。“此方(こちら)”の世界とよく似た“彼方(あちら)”の世界がどこかに存在しており、その2つを結び付けるものが「Juvenile Commune」と呼ばれる仮想空間である、という世界観がプロジェクトの核として設定されている。その“彼方”の世界で暮らす15人の少女にフォーカスし、彼女たちの体験を“此方”に広く知ってもらおう、というのが大まかな「十五少女」プロジェクトの内容ということになる。
「十五少女」で描かれるメインストーリーは、「カグツチ市に暮らす15人の少女たちが、『大人になるには必ずあのバスに乗らなければならない』と言い伝えられている“大人バス”に乗って“子供都市”への旅に出る」というもの。これを本編に据え、さまざまなサイドストーリーや音楽などによって物語を肉付けしていく寸法だ。そのうち音楽分野をエイベックスが、小説・マンガ分野を講談社が、メタバース分野を大日本印刷(DNP)がそれぞれ主導する形を取っている。
すでに大きく展開されている音楽分野においては、「十五少女」をアーティスト名に掲げる15人組のバーチャルアーティストが精力的に活動中だ。“彼方”の彼女たちをイメージした楽曲を“此方”のクリエイターが制作し、仮想的な彼女たちがそれを歌うという構図が取られ、これまでに9作のシングルと1作のミニアルバム、スピンオフ的な位置付けとなる2作のシングルが配信リリースされている。
プロジェクトのコンセプトに掲げられているのは「ジュブナイル」。少年少女を対象とした冒険小説や映画などを表す言葉だが、ここで重視されているのはジャンル論ではなく、それらが少年少女にもたらす効果のほうだ。多くのジュブナイルにおいて登場人物たちは夢のような胸躍る冒険を繰り広げるが、大抵の場合、その夢と決別して現実世界を歩んでいく(=大人になる)決意をするところで物語が終わる。つまり思春期特有の“いつか大人になってしまうことへの恐怖感”を克服する姿が描かれるケースが多く、それを目の当たりにした読者(=少年少女たち)のアンバランスな精神状態に均衡をもたらす中和剤として機能しているという指摘もある。
「十五少女」プロジェクトではこれを「ジュブナイル効果」と呼称し、もっとも重要視すべきポイントとして挙げている。物語への没入の度合いが高ければ高いほどその効果も強まるとしており、例えば将来的な展開としてメタバース空間への一般ユーザーの参入が想定されているのは、そのコンセプトを忠実に具現化しようとする意思の表れと見ていいだろう。
もう1つの重要なコンセプトに「サイバーパンク」がある。テクノロジーが過剰に発達した世界観を持つSFの総称で、「十五少女」においては主にメタバース世界のデザインワークにその要素が色濃く反映されている。もともとは1980年代から90年代にかけて大流行したジャンルであるが、近年世界中で同時多発的に再燃の様相を呈しているのは周知の通り。「十五少女」プロジェクトには、そんなサイバーパンクシーンで活躍するビジュアルアーティスト・ケイゴイノウエ、ゆうたONE、Max Prentis(イギリス在住)をはじめ国内外のクリエイターが多数参画しており、仮想空間の共創に力を注いでいる。
「十五少女」ではこれらのコンセプトを総括して、そのカテゴリを「サイバーパンク・ジュブナイル」と位置付けた。
参加クリエイター陣には前述の3人のほかにも、仮想空間を手掛ける3DCGアーティスト・藤田将、minori PICTURES、Creative label “yoru”などの映像制作チーム、ichica、かいゑ、白神真志朗、平牧仁(シキドロップ)、FZ(sfpr、Radical Hardcore Clique)などの音楽クリエイター、円居挽、望月拓海といった小説家、今後はマンガ家まで、各方面から多彩な才能が集結。多角的に「十五少女」の世界を作り上げている。
具体的なコンテンツ展開としては、音楽、小説、マンガ、音声ドラマ、アニメーションなど多様な表現形態で作品が発表されていく。このうち音楽については2021年4月1日リリースのメジャーデビュー曲「逃避行」を皮切りに順次リリースを重ねてきており、すでに大きな反響を呼んでいる。また小説についても、ウェブサイト「tree」にて本編の前日譚にあたる「竹虎レオナの場合(参照:小説「十五少女」【音楽×仮想世界プロジェクト】|〈十五少女〉竹虎レオナの場合(前篇))」(作:円居挽)を公開中。5月18日には第2弾小説「猿飼サキの場合(作:望月拓海)」が公開されるなど、以降も引き続き無料コンテンツを中心とした展開でユーザーの意見を集めていき、考察を含むファンとのコミュニケーションを図りながら新たな共創の形を模索していくという。
プロジェクトの最終目標は、“本編”のアニメーション化だ。「十五少女」においては、それに先立つさまざまなコンテンツ展開を“第一期”と位置付け、資金ではなく関心を集める新たな形のクラウドファンディングであると定義している。
※カッコ内のCVは音声ドラマを務める声優を示す。歌唱担当は別途。
- 伊田知リン(17)[CV:日原あゆみ]
- 特進クラスの高校2年生。生まれたときから「自分はずっと17歳のままでいられる」と強く信じている。勉強もスポーツも万能で、常に自分の信念を貫き、大人や社会を嫌っている。
- 辰見アクア(16)[CV:小椋美安加]
- 小中高一貫のお嬢様学校に通う高校2年生。大人びた一匹狼タイプで、モデルとしての活動が忙しく学校にはあまり行っていない。小学校まで同級生だったリンとは、今も交流を続けている。
次のページ »
「十五少女」を紐解く15のキーワード