2月29日、
暗転し、大歓声ののちに静まり返った場内。するとステージ奥のせり上がりから、椎名林檎(Vo)が「生きる」を歌いながらゆっくりと姿を現した。最新ライブDVD / Blu-ray「Discovery」のジャケット写真を彷彿とさせる民族的かつデコラティブな衣装も、観る者に強烈なインパクトを与え、武道館には悲鳴と歓声がこだまする。椎名は荘厳な弦の音に乗せてゆったりと歌いつつ、一歩ずつステージ前方へ。そしてオリジナルの音源どおり曲がアッパーに転調した瞬間、バンドメンバー4人が一斉に演奏を始め、背面スクリーンが真ん中から2つに分かれて開き、斎藤ネコ率いる40名の大編成オーケストラが姿を現した。
間髪入れずに「新しい文明開化」で、椎名は拡声器を使用しながら「いらっしゃいませ! 武道館へようこそ」とオーディエンスにひと声。場内の客電が全て点灯し、天井から虹色の紙吹雪が舞い散るなど、ライブは2曲目にして既にフィナーレのような多幸感に包まれる。さらに続く「今夜はから騒ぎ」では、上空からのプレゼントが特製の“壱百万事変”紙幣に変わる。この曲で椎名はタンバリンを手にし、ここまでエレキギターを弾いていた伊澤一葉(Key)はグランドピアノの前に座った。
椎名とオーディエンスのコール&レスポンスが楽しめる「OSCA」では、赤いワンピースにショートヘアのウィッグで揃えた4人の女性ダンサーが登場。この曲の演奏では恒例となっている、亀田誠治(B)、刄田綴色(Dr)、浮雲(G)、伊澤のそれぞれにソロパートでスポットライトが当たった場面で、伊澤はとりわけ元気に「東京事変でーす!!」と両手を広げて挨拶していた。
その後、「シーズンサヨナラ」までを終えてひと息ついたステージでは、オーケストラのみで椎名林檎の楽曲「カーネーション」が奏でられる。同時に、スクリーンを使って東京事変のメンバー紹介VTRが上映された。メンバーからもファンからも“師匠”の相性で親しまれる亀田、音楽的な面で頼り甲斐のある伊澤、メンバーいちバンド愛の深い刄田、人格にもギタープレイにもスパイスやこだわりが効いている浮雲、一妻多夫と言わんばかりの環境でメンバー全員を高めてきた椎名。このように5人の人柄を紹介するアナウンスが、それぞれの歴代アーティスト写真とともに流れた。
第2部は、アルバム「大発見」収録の「海底に巣くう男」からスタート。男性陣はパステルカラーのスーツ、椎名はピンクファーのトップスにスパンコールのホットパンツ&ピンク色のアフロのウィッグというファッションに着替えた。続いて最新アルバム「color bars」の収録曲を披露。伊澤がヴィジュアル系さながらの世界観で妖しく歌い上げる「怪ホラーダスト」、刄田が骨太ロックボーカリストと化す「ほんとのところ」、浮雲が作詞作曲したスペイシーなナンバー「sa_i_ta」と、全く異なるメンバーたちのカラーが発揮された。さらにバンドは、見事3分ちょうどで完結する「能動的三分間」や滑らかなレーザーが効果的に使われた「修羅場」、打ち込みのトラックとストリングスの化学反応が楽しめる「絶体絶命」と、人気の高いナンバーを連投していく。
ここで再びメンバー全員がステージからいなくなり、新たなパートに突入。始まったのは、男性陣4人が歌う、童謡「アイスクリームの歌」のビッグバンドアレンジ。蝶ネクタイを付けたベルベットの赤いスーツ姿の4人が、満面の笑みをたたえながら登場してくると、場内には黄色い歓声が沸き起こった。また、次の「おいしい季節」は、椎名プロデュース&東京事変の演奏で栗山千明に提供した楽曲。椎名は宝石を散りばめたような真っ赤なドレスをまとって、ドリーミーかつスウィートな歌声を響かせる。「女の子は誰でも」では、軽快かつ優美な楽曲に合わせた照明やダンサーがショーを彩り、豪勢な演奏で観客を圧倒。続く「御祭騒ぎ」のイントロで椎名はドレスのスカートをサッと取ると、ショーガール風のコケティッシュなチュチュ姿に早替わりし、ダンサブルな展開を見せた。
次曲「天国へようこそ」で、会場はハッピーな祭典ムードから張り詰めた空気に一変。後奏の間ステージ上部のスクリーンでは、この日のライブの模様が逆再生されていた。曲が終わり、場内の観客はその映像がライブの最初まで戻るのをじっと見つめる。そして暗転の中、静かにメンバー5人が再スタンバイして、「タイムカプセル」から第4のパートが幕を開けた。亀田誠治が作詞作曲したこの曲は、彼らしい美しいメロディが印象的な王道バラードナンバーだ。
白いレーザーやフラッシュを多用した「電波通信」から、オーディエンスの熱は徐々に上がり始める。このタイミングで、開演後初めてのMCが行われた。「皆さん、雪の中どうもありがとうございます! ボンボヤってるかい!?」という飄々としたテンションの浮雲。メンバーに促された刄田も「ボンボヤってます? 僕もボンボヤってまーす」と照れながら挨拶する。椎名は「ご清聴いただきありがとうございます。今頃終演してる感じですよね、いつもの私たちのペースですと。今日はたくさんご一緒させていただいてます」と丁寧に言葉をかけたあと、再び浮雲にマイクを譲り、彼が「じゃあ最後までボンボヤり切りましょうね。あとちょっとですが、お付き合いください」と話して短いMCタイムを締めた。
その言葉に続いて披露されたのは「閃光少女」「勝ち戦」「キラーチューン」という鉄板ナンバーたち。亀田と伊澤は、ステージ両翼の花道に走っていきオーディエンスを煽る。椎名は「キラーチューン」の最中、手旗で客席を端から端まで指しながら「♪貴方は私の一生もの」というフレーズを歌った。
本編最後の曲となった「空が鳴っている」は、イントロが鳴った瞬間からオーディエンスの大歓声が。椎名は「どうもありがとうございます。最後の曲、お聴きください」と小さな声で紹介し、ボーカルパートを全て歌い終えると、いつもどおりマイクスタンドの前で深くお辞儀をして颯爽とステージを去る。その後バンドも演奏を終えて退場すると、彼らの全身全霊のパフォーマンスを称える大きな拍手が武道館に響いた。
アンコールは、“新たな船出”というこのツアーのコンセプトにふさわしく、マリンボーダートップスを着た5者5様のスタイルで登場。バンドのクールな魅力に浸れる「丸の内サディスティック」、2004年9月にリリースされた東京事変のデビュー曲「群青日和」で場内は最高潮の盛り上がりを迎える。「群青日和」の大サビでは、ギターを弾く椎名、同じくギターの伊澤、そして浮雲、亀田の4人が全員ステージの前へ出て、背面の大型スクリーンには椎名の顔のアップがはっきりと映し出された。
このあと、バンドとオーケストラ総動員でじっくりと演奏された「青春の瞬き」でアンコールは幕を閉じるも、総立ち状態でダブルアンコールを求める拍手が止まない場内。そして5人は、ダブルアンコールに応えて再登場した。伊澤はメンバーを代表して「ありがとう。映画館でご覧のお客さまもありがとうございます」と挨拶。この日をもってバンドが解散することにも触れ、「そう、もうこれで最後なんだけど。続くから、音楽は。君たちが持ってるから。君たちの中に俺たちの音楽はもう育まれてる。だからこの先もずっと好きなときにピッてやって(笑)。でも足りないなあと思ったら、椎名さんに連絡してください(笑)。」と話す伊澤に「みんな仲間ですから、僕たちの」と浮雲が続く。その言葉に、「ありがとう!」「最高!」というファンの声が至るところから飛んでいた。
彼らが東京事変として最後に演奏した曲は、2ndアルバム「大人」の収録曲で人気の高い「透明人間」。椎名はイントロが鳴っている間に「すみません、感無量でなんの言葉もありません。本当にありがとう! 最後1曲お聴きください、『透明人間』」と、このバンドのボーカルとして最後の言葉を届けた。曲中、ステージ上部のスクリーンには椎名、背面のスクリーンには4分割で男性メンバーが大きく映し出され、花道では4人のダンサーと舞台袖にいるスタッフが、自らの手で白いテープを客席に投げ入れる。彼らなりの手法で幸せな大団円を作り出し、「♪またあなたに逢えるのを楽しみに待ってさようなら」と全力で歌い切った椎名、演奏し切った亀田、刄田、浮雲、伊澤は改めて「ありがとう!」と笑顔を見せた。
メンバーが去ったあとの場内では、スクリーンに「merci(毎度あり)」「up, up and away!(さらばだ!)」の文字が。そして「ハンサム過ぎて」がBGMに流れる中、エンドロールとして5人のスタジオ作業やツアーリハーサルの様子を捉えたオフショット、歴代の集合アーティスト写真、スタッフクレジット、メンバークレジットが映り、最後に画面は砂嵐となった。全てのオリジナルアルバムのタイトルをテレビ番組とかけてきた、東京事変ならではの演出で有終の美を飾った。
東京事変「東京事変 Live Tour 2012 Domestique Bon Voyage」
2012年2月29日(水)東京都 日本武道館公演 セットリスト
01. 生きる
02. 新しい文明開化
03. 今夜はから騒ぎ
04. OSCA
05. FOUL
06. シーズンサヨナラ
07. 海底に巣くう男
08. 怪ホラーダスト
09. ほんとのところ
10. sa_i_ta
11. 能動的三分間
12. 修羅場
13. 絶体絶命
14. アイスクリームの歌
15. おいしい季節
16. 女の子は誰でも
17. 御祭騒ぎ
18. 天国へようこそ
19. タイムカプセル
20. 電波通信
21. 閃光少女
22. 勝ち戦
23. キラーチューン
24. 空が鳴っている
<アンコール>
25. 丸の内サディスティック
26. 群青日和
27. 青春の瞬き
<ダブルアンコール>
28. 透明人間
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もう一度会えたらいいなと思うけど、再結成するのは違うと思う
解散決めた椎名さんと、一番予想外の伊澤さんが最後までウェッティにぐずってたのが可愛かった
一番好きな人たちだったなーしんみり https://t.co/b200C3ZLPt