土砂降りの野音に響き渡ったsyrup16gの咆哮、記憶に刻まれた伝説の一夜

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syrup16gが11月2日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブ「遅死11.02」を開催した。

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

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雨粒に彩られた鮮烈なステージ

20年前の2004年10月10日、syrup16gは日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でワンマンライブ「遅死10.10」を開催。“第1期完結”と謳われたこの公演ではアルバム「delayedead」の曲を中心に演奏した。「遅死11.02」と題された本公演でも、彼らは「delayedead」の頃の曲を中心としたセットリストでライブを繰り広げた。

この日は夕刻に近付くにつれて雨脚が強くなり、開演時間の17:30には地面を打ち付けるように大粒の雨が空から降り注いでいた。日の入りもすっかり早くなり、3つのライトに照らされて無人のステージだけが闇の中に浮かび上がる。会場に集った観客は雨粒の向こうにあるステージを期待の眼差しでじっと見つめ、その時を今か今かと待ち望んだ。

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

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大きな拍手を浴びながらステージに登場したsyrup16gの3人は、光を背に受けながら20年前の「遅死10.10」と同じく「クロール」でライブの幕を開けた。鼓動のように力強く轟くビートと五十嵐隆(Vo, G)の切実な歌声が一瞬で雨音を掻き消していく。土砂降りの光景の中で「前頭葉」「Heaven」を絶唱する五十嵐の姿は人々の目を奪い、この日が伝説の一夜になることを予感させた。4曲目の「もういいって」を終えたところで「ありがとう。ごめんね」と五十嵐が申し訳なさそうに雨に濡れた観客に告げると、どうってことないと言わんばかりの温かな拍手が客席から沸き起こる。中畑大樹(Dr)は「散々だよね。こんなバンドを観に来たばっかりに。もうちょっと、たぶん徐々に……強くなってくると思うんだけど……」と一瞬期待を持たせつつも天気予報通りに正直に述べ、「最後まで楽しんでいってくれたら。無理なさらずにね」と観客を気遣った。

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

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20年前のライブでは1曲目から4曲目までこの日と同じ曲順で進行し、当時5曲目には「これで終わり」が続いたが、「いきますか!」と五十嵐が気合いを入れて弾き始めたのは「翌日」。水色の照明に雨粒がキラキラと照らされる美しい光景と柔らかなアンサンブルが相まってオーディエンスの心に光を灯した。その後3人はなりふり構わずに前のめりで突っ走っていくように「生活」「真空」をプレイ。そして「遅死10.10」で演奏されなかった「Breezing」も届けられ、五十嵐と中畑の心地のいい掛け合いが響き渡った。

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

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ゆらめくような音色が漂う「エビセン」を経て、五十嵐が「つらいことばかりで 心も枯れて」と「明日を落としても」を歌い始めると、胸をくすぐるような切なくも優しいギターの音色が夜の空気にそっと溶け込んでいく。歌い終えた五十嵐は「『つらいのはこっちだ』って思ったよね。ごめんなさい。楽しい日にしたかったんですけど……楽しいけど、こんな野戦病院みたいになっちゃって……」と客席を見渡す。「ちょっと弱まってきた?」と少し雨脚が弱まってきたことを感じ取った五十嵐に、「前まで出てみればわかるんじゃない?」と中畑が促す場面もあった。

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

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さらにここからsyrup16gは、20年前のセットリストにはなかった「赤いカラス」や「I Hate Music」といった楽曲を続けて披露。曲間に訪れたわずかな静寂の時間に雷鳴が轟き、夜空が時折光った。「In My Hurts Again」では青と緑の幻想的なライトをバックに「La la la」と口ずさむ五十嵐の歌声が夜風のようにゆるやかに漂い、続く「変拍子」でどこか現実離れした夜の空気は一層深いものになっていった。そして眩い光を背後から浴びながら3人が演奏したのは「光なき窓」。はかなくも美しいアンサンブルと剥き出しの叫びを夜空に響かせ、彼らは楽器を置いてステージをあとにした。

再会、そして新たな約束

五十嵐隆(Vo, G)(撮影:河本悠貴)

五十嵐隆(Vo, G)(撮影:河本悠貴)[拡大]

アンコールを求める拍手を受け、まずはキタダマキ(B)がステージに姿を現すと、聴き馴染みの深い「Sonic Disorder」のイントロのずっしりとしたベースを弾き始める。続いて登場した中畑も生命を注ぎ込むようにドラムスティックを振り下ろした。五十嵐はキタダを盛り立てるように手で煽ったあとギターを手に取り、心揺さぶるような三位一体のアンサンブルを生み出す。夜空を指差し、咆哮する五十嵐の姿に客席から大きな歓声が上がり、「神のカルマ」で会場の空気はさらに熱をはらんでいった。乱れ打つようなドラムで「落堕」が始まると、五十嵐が前に出て座り込み、ハンドマイクで衝動的に言葉を放つ。立ち上がった五十嵐が客席にマイクを向けて「寝不足だっていってんの!」とオーディエンスに歌わせる場面もあった。「空をなくす」ではありったけのエネルギーを解放するようなプレイが繰り広げられ、ギリギリのところまで手を伸ばすような五十嵐のロングトーンも響き渡った。

syrup16g「遅死11.02」の様子。(撮影:河本悠貴)

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その後も拍手は鳴り止まず、3人は三たびステージに姿を見せた。「今年初ワンマンということで。というか、(ワンマンは)今年これ1回だけだったので、業が深かったんだよ。一極にパワーが集まりすぎて、雨雲が集まって皆さんに災害をもたらしてしまった……本当に申し訳なかったです」と改めて詫びつつ、「でも、めっちゃ楽しかった! 野音やれてよかった!」と声を弾ませた五十嵐。彼は「20年経ってできてよかった。皆さんも生きていてよかった。来てくれてた人いる? また会えてうれしいね。来年も会いましょう」と告げ、20年前と同じく「Reborn」で特別な夜に幕を下ろした。

セットリスト

syrup16g「遅死11.02」2024年11月2日 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)

01. クロール
02. 前頭葉
03. Heaven
04. もういいって
05. 翌日
06. 生活
07. 真空
08. Breezing
09. エビセン
10. 明日を落としても
11. 赤いカラス
12. I Hate Music
13. In My Hurts Again
14. 変拍子
15. 光なき窓
<アンコール>
16. Sonic Disorder
17. 神のカルマ
18. 落堕
19. coup d'Etat~空をなくす
<ダブルアンコール>
20. Reborn

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