活動休止発表後初のワンマンライブ
今年2月に最新アルバム「PORTRAIT」をリリースし、4月14日の20周年記念日にはバンドの“今”を表現するアニバーサリーライブ第1弾「NOW IS」を東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催したフジファブリック。しかし7月3日にメンバーは2025年2月をもって活動を休止することを発表し、ファンに衝撃をもたらした。
今回のライブ「THE BEST MOMENT」は活動休止発表後、初めて開催されたワンマンライブ。4月の「NOW IS」とはまた異なる、フジファブリックの20年間を総括するような内容で集まったファンを感動に導いた。
活動休止発表後初のワンマンライブということもあり、開演前の会場にはどことなく緊張感が立ち込める。そんな中で開演時刻を迎えると、ステージ後方のスクリーンにはバンドの結成当初からのさまざまな映像が流れ始めた。ライブ映像やミュージックビデオ、各作品のジャケット写真を通じてオーディエンスが20年の歩みを噛み締めていると、山内総一郎(Vo, G)、加藤慎一(B)、金澤ダイスケ(Key)、サポートメンバーの伊藤大地(Dr)がステージに登場した。
4人が最初に披露したのは「STAR」。徐々にスピードを増していく4人のプレイに観客も引き込まれ、場内のテンションも上がっていく。山内がステージ前方でエモーショナルなギターソロを響かせた「夜明けのBEAT」、加藤のベースラインを軸にフジファブリックらしいひねりの効いたグルーヴを届けた「徒然モノクローム」と、3人体制で再始動した当時の楽曲を連投したあとは「電光石火」へ。観客の軽やかなハンドクラップが響く中、山内は「感動的な夜を待ってる」という歌詞に続けて「待ってたぜ、東京!」と叫び、大歓声を浴びた。
志村正彦の音源&映像とともに演奏
最初のMCで山内は「こんばんは、フジファブリックです!」と挨拶し、笑顔で会場を見渡して深々と一礼する。そして「各地からさまざまな思いを持って来てくださっていると思いますが、今日はすべてを見せて、聴いてもらいたいと思います」と観客に呼びかけた。ここからはサポートメンバーとして朝倉真司(Per)も加わり、華やかさと深みを各曲に加えていく。青く淡いライティングの中で届けた「プラネタリア」、壮大なアンサンブルで感動をもらした「Green Bird」と、フジファブリックらしい芯の通ったナンバーが連続で披露された。
金澤はMCで「今日は暑い中、お越しくださりありがとうございます」と観客に感謝を述べたのち、「先日のお知らせでご存知かと思いますが……」と、活動休止に至った経緯に自ら触れる。公式サイトでは「20周年イヤーを全力で駆け抜け、その後バンドを脱退したい」という金澤の意思を受け入れ、活動休止が決まったと発表されていた。金澤は「ここで自分の中で区切りを付けようと思いました。思いを受け入れてくれた山内くんと加藤くんに感謝しています」と真摯な表情で語り、「今日はバンドにとって大切なライブです。いつもどおり、いつも以上に盛り上がってくれたらうれしいです」と、この夜に懸ける意気込みを明かした。
ステージ上に炎が吹き上がる中で情熱的なプレイが繰り広げられた「楽園」、メンバーたちが披露する複雑怪奇なアンサンブルに観客が息を呑んで聴き入った「KARAKURI」に続き、山内は「今日は特別なライブなので、志村くんと一緒に演奏しようと思います」と告げてオーディエンスを驚かせた。山内のエフェクターボードが上手側に動かされ、山内がギタリストの立ち位置にスタンバイして始まったのは「モノノケハカランダ」そして「陽炎」。山内、加藤、金澤、伊藤の演奏に乗せて、バンドの中心人物であり2009年に亡くなった志村正彦のボーカル&ギタートラックが流れ、スクリーンには生前の志村の映像も映し出される。観客は涙を浮かべつつ、彼らの演奏に合わせて力強く拳を挙げた。
「バウムクーヘン」では志村のキャラクターを語るかのような歌詞に合わせて、彼のさまざまなオフショットが上映され、しんみりとした中にも和やかな空気が会場に流れる。その後はバンドを代表する楽曲となった「若者のすべて」へ。丁寧な演奏に、オーディエンスは身じろぎもせずに聴き入った。志村との演奏を終えた山内は「ボーカルギター、志村正彦!」と紹介。客席からは万雷の拍手が長く続いた。
みんなで20周年を作り上げていることが“ショウ・タイム”
柔らかく切ない音像を金澤と加藤のコーラスがさらに引き立てた「Water Lily Flower」を終えると、山内は「20年やってきて自分も歳を取って、感じたことを歌にしました。うれしさや喜びだけではなく、寂しさややるせなさも積もっていく。寂しさこそが自分の人生だと肯定したいな、という曲です」と紹介し、アコースティックスタイルで「月見草」を歌う。金澤のピアニカ、朝倉が叩くボンゴのノスタルジックな音色が、山内が歌う歌詞の世界にそっと寄り添った。
加藤によるトークコーナー「加トーク」では、8月2日に誕生日を迎えたばかりの加藤が「なんか僕に言いたいことはないですか?(笑)」と観客に呼びかけ、「誕生日おめでとう!」という祝福の言葉を引き出す。「夏生まれで、小さい頃は夏休みだからクラスのやつは誰も祝ってくれなかった。大人になったら夏フェスが始まって、たくさんの人が出るのに誰も祝ってくれなかった」と嘆く加藤に、山内と金澤は傍らから「俺たちは祝ってたよ!」とクレームを入れてファンを笑わせた。恒例の謎掛けでは「20周年」というお題に対し、加藤が「『ペット』と解きます。その心は、どちらも“めでたい(愛でたい)”でしょう」と回答。金澤を「じわじわわかりますね」と感嘆させた。
フジファブリックのアニバーサリーライブはデビュー5周年と10周年の際には東京で、15周年の際には大阪・大阪城ホールで行われてきた。山内は「20周年で東京に戻ってこられてうれしく思います。今日は東京の人もいると思いますが、引き続き盛り上がっていければと思います」と話し、「東京」を披露。加藤のベースソロでは「ベース加藤慎一、おめでとう!」と改めて誕生日を祝福した。ライブもいよいよ終盤にさしかかり、「LIFE」「ミラクルレボリューション No.9」「Feverman」と会場の一体感をさらに高めるナンバーが連投される。朝倉のコンガの音が楽曲のファンキーさを掻き立てた「ミラクルレボリューション No.9」では金銀のテープが発射され、観客を沸かせた。
「星降る夜になったら」を演奏したあと、本編最後に山内は「僕らの音楽がわたった人、ライブに来てくれる人、すべてがフジファブリックです。みんなで20周年を作り上げていることが、まぎれもなく皆さんと僕らの“ショウ・タイム”だと思います」という言葉とともに、「PORTRAIT」のラストナンバー「ショウ・タイム」を披露。目まぐるしく変化する曲調とテンポを通じて、フジファブリックの豊かな音楽性を改めてファンにアピールした。
フジファブリックはまだまだ笑顔の居場所を作る
アンコールの前にはスクリーンに4人のこれまでのさまざまな瞬間を切り取った映像が流れ、最後は「THE BEST MOMENT」という今回のライブタイトルで締めくくられる。そして志村の「この曲を歌うためにがんばってきた気がします」という音声に続いては、「茜色の夕日」を志村のボーカルとともに披露。やや上手側に立った山内の隣では、マイクスタンドがピンスポットで照らされた。
金澤はこの日のステージについて「本当に特別なものになりました。今回のライブは志村家の皆様のご協力のもと、アイデアをいただきながら作らせていただきました。またデビューアルバムのプロデューサーだった片寄明人さんにも力を貸していただきました」と明かし、「少しの時間かもしれませんが、志村と過ごした時間が僕を作っていると思います。志村、どうもありがとう」と感謝を述べる。加藤は「本当にあっという間だったよね。志村とも演奏できて、瞬間瞬間が『THE BEST MOMENT』だったんじゃないかと思います」と今回のライブの意義を感慨深そうに語った。
山内は上京して半年で志村と出会った当時を「志村くんが『一緒にやりましょう』と言ってくれたおかげでここにいられます」と振り返り、「バンドメンバーだけではバンドはできないんですよ」とこれまで出会ってきたあらゆるスタッフ、ともに演奏してきたサポートドラマーらに感謝を述べる。そして「何より日頃ずっと気をかけてくれている皆さんとの出会いがなければ、フジファブリックは存在していません。あなたに出会ったことで、あなたに聴いてもらいたい音楽を作りたいと思うようになった」とファンに向けて熱く語りかけた。
「こんな話をしていると最後みたいですけど(笑)、まだまだありますからね。あなたの笑顔の居場所を作っていきますので、これからもフジファブリックをよろしくお願いします!」と来年2月までのさらなる飛躍を誓った山内の言葉のあとは「破顔」そして「SUPER!!」を披露。きらびやかなサウンドで20周年ライブを締めくくった。
セットリスト
「フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at TOKYO GARDEN THEATER 2024『THE BEST MOMENT』」2024年8月4日 東京ガーデンシアター
01. STAR
02. 夜明けのBEAT
03. 徒然モノクローム
04. 電光石火
05. プラネタリア
06. Green Bird
07. 楽園
08. KARAKURI
09. モノノケハカランダ
10. 陽炎
11. バウムクーヘン
12. 若者のすべて
13. Water Lily Flower
14. 月見草
15. 東京
16. LIFE
17. ミラクルレボリューション No.9
18. Feverman
19. 星降る夜になったら
20. ショウ・タイム
<アンコール>
21. 茜色の夕日
22. 破顔
23. SUPER!!
片寄明人 @akitokatayose
スタッフとして参加した20周年公演のレポート。全力を尽くす3人(+2人)の姿、志村くんと一緒に演奏すると告げて、総くんが「モノノケハカランダ」のリフを弾き出した瞬間、想像してた以上の強烈な何かが、会場を駆けめぐった記憶が忘れ難い。色々引きずってしまう夜でした…そろそろ現実に戻りたい。 https://t.co/oQ0ESV1JvF