「尾崎世界観の日」は“尾崎自身が共演したい人を呼ぶ”というコンセプトの恒例イベント。上野恩賜公園野外ステージでの開催は約2年ぶり、4回目となる。今回は尾崎をはじめ、門出船出、長谷川カオナシ(B)、
門出船出
好天に恵まれた「尾崎世界観の日 特別篇 2024」当日、上野恩賜公園野外ステージには心地よい風が吹き抜ける。緑に囲まれた不忍池のほとりにある会場だけあって、イベント中には鳥の鳴き声や木々のざわめきが聞こえてきた。
トップバッターを務めたのは、クリープハイプの小川幸慈(G)と小泉拓(Dr)からなる「尾崎世界観の日」ではおなじみのユニット・門出船出。ドラマ「世にも奇妙な物語」のテーマソングを合図に、門出こと小川、船出こと小泉が姿を見せた。赤と白のポロシャツが彼らのトレードマークだが、この日はきちっとしたジャケットスタイル。尾崎から用意されたというジャケット姿で、門出船出は腰に手を当てながらステージを駆け回る。その後、門出が丁寧に紡ぐアコースティックギターの音色に乗せて、船出が「世の中に言いたいことなんて別にない。ただおめでとうは言いたい」と切り出して朗読「say」を始めた。“あなた”を労い、祝福するメッセージが船出の深みのある声を通じて伝えられる。そんな朗読のあとには、「赤と白の弾丸」でつかみどころのない歌詞と熱いセッションが届けられ、会場をカオティックなムードに染めた。
船出は「おめでたいコンセプトでやってるんですけど、意外と明るい曲が少ないっていう……」とぽつり。門出船出の楽曲でも随一のアッパーチューン「KORYAMEDETEEENA」がドロップされると、力強いギターのストロークやタフなドラミングに合わせてオーディエンスの拍手が自然発生した。続いて披露されたのは、門出船出がこの日のために作った新曲「小走り」。情景が浮かぶ歌詞や安らかなギターサウンド、軽快なシェイカーがノスタルジックなムードを演出する。そして、門出船出の存在を改めて刻みつけるように、自己紹介ソング「ユニフォーム」で生き生きとしたパフォーマンスを繰り広げ、小走りでステージ袖へと去って行った。
長谷川カオナシ
カオナシのライブは「ハエ記念日」でスタート。狐のお面を着けた彼は、淡々とした様子でキーボードの音色を紡いでいく。さらに、クリープハイプのワンマンライブでも人気の「火まつり」や、明るい旋律と毒っ気のある歌詞が印象的な新曲「某は馬の骨に候(仮)」、繊細なメッセージを表現した「赤の前」も届けた。
弾むようなキーボードサウンドとは裏腹に物悲しい心情が描かれた「かくれんぼの達人」の演奏後には、カオナシが「スーパーできれいなお肉を買ったことしかなくて、自分の手を汚して食べてみたいと思ったんですけど、鶏を飼ってそういうことはできないと思ったんですよ。そういう曲です」と説明し、「某は馬の骨に候(仮)」と同じく初披露の「鶏姫様(仮)」へ。不気味さを帯びたサウンドで、カオナシらしいグルーミーな世界観を描き出した。しんと静まる会場でカオナシは「高校の2階の渡り廊下に幽霊が出るって話があって」と切り出し、「サッカー部の友達の目撃証言があって、その幽霊に会ってたらどんなに素晴らしかっただろうか、という曲です」と次の曲「白い子」に移る。なめらかな鍵盤の動きでオーディエンスを惹き付けたカオナシは、締めくくりに「ごめんなさい」を披露。30分の持ち時間で計11曲も演奏した彼は「お粗末様でした。どうもありがとうございました」と言い、さっそうとステージをあとにした。
ヘンダーソン
ライブ用のセットが撤収されたのち、ステージに姿を現したのはヘンダーソン。2人は登場するや否や「吉本の超若手芸人です! 22、23歳です。すみません……36、37歳です」と自己紹介でボケをかます。そんな彼らはアウェーの舞台を楽しむかのように、客席を見渡して執拗に手を振り続ける。温かな拍手を受けた子安裕樹と中村フーは、鉄板の歌ネタ「石焼き芋のうた」で観客の心をつかんだかと思いきや、中村が「嵐の二宮(和也)くんに似てると言われるんですけど」と言うと、オーディエンスの賛同を得られず不穏な空気に。気を取り直してヘンダーソンは、ラップバトルや酔っ払いをテーマにした漫才も披露。酔っ払い役の中村が尾崎に絡むシチュエーションでは、「『相席食堂』出てたな。お前が出てたら芸人出られへんやろ」と恨み節を言い、会場が大きな笑いに包まれた。
古舘佑太郎
「尾崎世界観の日」にクリープハイプメンバー以外のアーティストが出演するのは、2019年以来5年ぶり。今年2月にTHE 2の活動に幕を下ろした古舘にとっては、これがひさびさのライブとなった。
古舘はハーモニカとアコギを奏でながら「La La La Le Lu Le Lo」でライブを始め、「トマトキャンディ」では軽やかなギターストロークと少年性を帯びた歌声で観客を魅了。笑顔で挨拶したのち、クリープハイプとの共演について「The SALOVERS時代にクリープハイプとツアーしたんですよ。それ以来全然会ってなくて、ホントにひさしぶりです」と明かしつつ、「当時の尾崎さん、めっちゃ怖かったんです。『欠伸』って曲が大好きで、ツアーの途中で好きと言って以来、やってくれなくなっちゃって(笑)。ライブを観るといつもカッコよくて、背中で見せてくれる先輩だったんですよね。ツアーの打ち上げで隣になったときに、『仏教ソング』がいいよと言ってくれて、尾崎さんに褒められたのがうれしかったです。もう12年も前の話なんですけどね」と無邪気に語った。ひとしきり話し終えてから歌われたのは話題にも挙がったThe SALOVERS「仏教ソング」と、クリープハイプのインディーズ時代の楽曲「欠伸」。古舘はひときわ叙情的なギターとボーカルで鮮烈なインパクトを与えた。
優しげなギターリフとボーカルが響いた「夏の夜」、上野公園の17時のチャイムが重なった「ラヴ・ソング」で切ないムードに包まれる中、古舘はTHE 2解散後に出かけた1人旅を振り返る。「東南アジアと南アジアの9カ国ぐらいを回って。潔癖症を克服したかったのと、『不思議と縁がつながったりするよ』と言われたので、ガンジス川で沐浴をしたんですよ。そしたら、ガンジス川に入った直後に今回のお話をいただいて。これから音楽をやっていくかも含めて考えていたところで尾崎さんに呼ばれたので、しばらくアコギを触ってなかったんですけど、このために練習してきました」と明かした。出番の最後に古舘は、THE 2のラストソング「蛙鳴蝉噪」を熱演し、晴れやかな表情で舞台を去った。
尾崎世界観
大トリ・尾崎の1曲目は下積み時代のナンバー「君の部屋」。力強いアコギと感情を吐き出すようなボーカルが瞬く間に響きわたった。「500マイル」のカバー、「真実」という「尾崎世界観の日 特別篇 2023」での披露曲が続いたのち、「誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる」のブルージーなサウンドが薄暗い空に溶けていく。そして、天井から吊るされた白い布が風で揺らめく中、聴く者の背中を押すメッセージソング「ゆっくり行こう」では優しく穏やかな空気が流れた。
「このイベントはメンバーがそれぞれで出て、お互いのありがたみを噛み締めるイベントです」と話し始めた尾崎。門出船出とカオナシのライブをステージ袖で見守っていた彼は、「門出船出、がんばってましたね。充実した顔で戻ってきたのでよかったなと思いました。カオナシはピアノがどんどん弾けるようになってて……ベースの練習してるのかな(笑)。メンバーながら尊敬の念も湧いてきました」と言葉を送った。
情景が浮かぶバラード「風邪をひく日」「商店街、手紙、天気予報」のあと、尾崎は改めてここまでのライブを振り返る。ヘンダーソンの出演理由について「面識がなかったので『なんで呼ばれたんですか?』と聞かれて。ただ好きだからっていう理由なんですけど、今回出ていただけました。芸人さんが舞台に出ていくときの後ろ姿がすごく好きで、ネタも最高でした」と語る。続けて「最近はほとんど会うこともなかったけど、古舘くんの活動を見ていました。ずっといい曲を作っていていいなと思って」と古舘についても触れた。そして話題はネットでの誹謗中傷へとおよび、「ネットとかで人の作品がどうこうとか、いろんなことを言う人がいるでしょ。誰かがつまずいたときに強い口調で書き込んだりする人がいるけれど、腹を立てるのもバカらしいと思って。曲やネタを作ったり、0を1にするのはホントに大変なこと。でも、そういう作品を素直に受け取って感動しているお客さんが一番すごいと思います」と目の前の観客に感謝を伝えた。その流れで新曲(タイトル未定)を初披露すると、オーディエンスは言葉1つひとつを噛み締めるように、じっくりと耳を傾けていた。
イベントもいよいよ終盤。尾崎はファンに長く愛されてきた「ねがいり」、ライブ定番曲となりつつある「ナイトオンザプラネット」、失恋の痛みをつづった「傷つける」を切々と歌い上げていく。持参したカメラで客席を撮影したあと、「長時間ありがとうございました。またやれたらと思います」と素直な思いを口に。4時間のイベントの締めくくりには、インディーズ時代からの人気曲「ex ダーリン」をしっとりと届けた。すべての曲を歌い終えると感無量といった様子で天井をしばらく見つめ、改めて客席を見回す。「ありがとう」と深々と頭を下げる尾崎には、大きな拍手が送られた。
セットリストはこちら
クリープハイプ @creephyp
【メディア情報】
本日配信開始!「音楽ナタリー」にて、5/26(日)に開催した「尾崎世界観の日 特別篇 2024」のライブレポート『2年ぶり上野で開催、古舘佑太郎やヘンダーソンも駆け付けた「尾崎世界観の日」』が公開されています。
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