神奈川県川崎市川崎区を拠点とするヒップホップクルー・
東京ドームまでの完璧な道のり
「高校生RAP選手権」での優勝経験を持つ双子の
2020年3月に開催予定だった横浜アリーナ公演がコロナ禍により中止となり、1億円以上の負債を背負うも、この苦難を乗り越え、トップランナーとして日本のヒップホップシーンを牽引してきた彼らだが、昨年5月にヘッドライナーとして出演したヒップホップフェス「POP YOURS」で突如解散を発表。同年9月に出演したヒップホップフェス「THE HOPE」にて、ラストライブの会場が東京ドームとなることを明らかにした。日本のラッパーが東京ドームで単独ライブを行うのはこれが初であり、BAD HOPにとっても過去最大の挑戦であったが、チケットは今年1月末にソールドアウトとなる。その勢いのまま2月9日にラストアルバム「BAD HOP」を配信リリースした彼らは、同日テレビ朝日系「ミュージックステーション」への出演を果たすと、その日から毎日ミュージックビデオを公開。気鋭のラッパーや大御所アーティストとのコラボを明かし、シーンの話題をBAD HOP一色に染め上げていった。
悪天候の中、5万人が集結
そうして注目度を高め切った状態で迎えたラストライブ当日。雨がぱらつき、風が強く吹きつける悪天候となったが、これから何かが起こりそうな不穏な曇り空がBAD HOPにはむしろふさわしかっただろう。東京ドームは朝からグッズ販売でにぎわい、16:00を迎えると入場がスタート。“完全ソールドアウト”という発表に偽りはなく、広大なドームは見渡す限り人で埋め尽くされており、国内ヒップホップフェスの動員を上回る約5万人もの観客がBAD HOPのために集まっていた。
この規模のライブともなれば開演は遅れるだろうと思いきや、予定時刻の18:00を迎えると同時に会場は暗転。スクリーンにはBAD HOPのこれまでの歩みを振り返るような映像が流れ、5万人の観客は熱狂的に8人を待ち受ける。歴史的なライブの幕開けを飾ったのは、東京ドームに向けた思いを8人がラップする「TOKYO DOME CYPHER」。スモークの中に現れたBAD HOPは、並々ならぬ気迫にあふれており、それぞれの姿がスクリーンに大写しになるたび、客席からは地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「川崎のヒップホップがここまできたぜ!」とYZERRが叫ぶと2曲目の「IKEGAMI BOYZ」へ。ステージに何本もの火柱が上がる中、彼らは生まれ育った池上町からここに立つまでの成り上がりをラップする。間髪をいれず「Round One」「Final Round」を畳みかけ、最後の勝負への意気込みを示した彼らは、アッパーな人気曲「I Feel Like Goku」でドームの熱気を一段と高めると、客演を迎えた楽曲を次々に披露。
シーンを背負う仲間たちと巻き起こす熱狂
近年の楽曲を中心としたセットリストを出し惜しみのない盛大な演出とともに展開し、一気にドームを沸かせたBAD HOP。スクリーンに「2014年」と表示されると、彼らは「B.H.G」「Chain Gang」「White T-Shirt」といった初期曲もメドレー形式で聴かせ、古くからのファンを歓喜させる。そこから時を進め、2017年に発表した初の全国流通アルバム「Mobb Life」の表題曲になだれ込んだBAD HOPは、同アルバム収録の「Super Car」から新曲の「Supercar2」につなげつつ、「3LDK」「Asian Doll」「これ以外」と多彩な「Mobb Life」収録曲を連発。さらには2018年発表の「Prologue」「2018」と、そのキャリアを総括するように過去の人気曲を投下していった。
屈指のラップスキルを持つBenjazzyをはじめ、メンバーそれぞれがその実力を発揮する中、ライブ中盤に大きな存在感を放ったのがG-k.i.dだ。彼が「一緒に歌いたい曲あるんだけどいいかな?」と呼びかけ、「CALLIN'」を歌い始めるとファンはこれに応えてシンガロング。G-k.i.dは
アメリカ・アトランタのトッププロデューサーであるウィージーとターボがプロデュースした「Foreign」、川崎の後輩
憧れのスターたちとも共演
彼らにとって憧れのスターだった
「High Land」「Ocean View」といった人気曲に続けて、最後のパーティを歌った新曲「Last Party Never End」も披露され、フィナーレが近付く中、T-Pablowが迎え入れたのは、彼にとって父のような存在である
「BAD HOPは今ここに立ってる」
ドームに感動が広がる中、さらに観客の心を揺さぶったのは「Hood Gospel」。何もないところから這い上がったYZERRが「遠く離れた場所で俺らを見てるお前に届ける」と次の世代への思いを歌い上げる。そして最後の曲を届けるため、仲間とともにセンターステージに歩み出したYZERRは「ここに集まってくれたヒップホップを愛するみんな本当にありがとう。俺たち本当にガキの頃から一緒で、まさかこんな東京ドームに立てるなんて思えなかったよ」と感謝。「最後に1つだけ言わせてほしいんだよ」と言葉を続けた彼は、「何かいろんなもん抱え込んでるやつとか、クソみたいな環境で生まれたってやつとかたくさんいると思うんだよ。『ああ、俺たちはこのままじゃ抜け出せない』とか『無理』だとか。俺も地元で貧困ばっか見てきて、まともになったやつなんて少ねえけど、全員に1つだけ言いたいのは『BAD HOPは今ここに立ってる』ってこと。それだけは忘れないでくれよ」と呼びかけた。
四方を取り囲む観客から大歓声を受けたYZERRが「俺たちがどっから来たか知ってんだろ!」と叫ぶと、彼らの代表曲である「Kawasaki Drift」へ突入。8人のリリックを観客は全力で合唱し、「川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ」という壮絶なパンチラインが空前のボリュームでドームに響きわたる。約2時間半をトップスピードで駆け抜けてきたT-Pablowは「みんなの心の中で生きてたら、俺たちBAD HOPは永遠に死なないと思うので……ここまでBAD HOPを応援してくれてありがとうございました。またいつか、本当に何十年後かわからないそのとき、みんなでこうやって集まれたら……また集まりたいなと思ってます」と最後に宣言。こうしてシーン全体を巻き込んだ日本語ラップ史上最大のライブは終演し、BAD HOPは約10年の活動に終止符を打った。
セットリスト
「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」2024年2月19日 東京ドーム
01. TOKYO DOME CYPHER
02. IKEGAMI BOYZ(feat. Bark, YZERR, Tiji Jojo & T-Pablow)
03. Round One(feat. YZERR, G-k.i.d, Vingo & Bark)
04. Final Round(feat. YZERR, Bark, Benjazzy & Vingo)
05. I Feel Like Goku(feat. T-Pablow, Vingo & G-k.i.d)
06. South Side Night(feat. Tiji Jojo, eyden & Deech)
07. Higher(Remix)(feat. ¥ellow Bucks, YZERR, Tiji Jojo, eyden, Bonbero & SEEDA)
08. B2B(feat. Benjazzy & Bonbero)
09. B.H.G(feat. YZERR & Tiji Jojo)
10. Chain Gang(feat. T-Pablow, Vingo, Tiji Jojo & Benjazzy)
11. White T-Shirt(feat. Tiji Jojo)
12. Mobb Life(feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow)
13. Super Car(feat. Tiji Jojo & Yellow Pato)
14. Supercar2(feat. Tiji Jojo & Yellow Pato)
15. 3LDK(feat. Yellow Pato, Bark & G-k.i.d)
16. Asian Doll(feat. T-Pablow, Vingo & Yellow Pato)
17. これ以外(feat. YZERR & Tiji Jojo)
18. Prologue(feat. T-Pablow, Benjazzy & YZERR)
19. 2018(feat. Vingo & Benjazzy)
20. CALLIN'(feat. G-k.i.d, Bark & Benjazzy)
21. Day N Night(feat. G-k.i.d, guca owl & KEIJU)
22. Locker(feat. G-kid,Tiji jojo,YZERR)
23. Friends(feat.Vingo, JP THE WAVY, Benjazzy, YZERR & LEX)
24. GILA GILA(feat. Awich, JP THE WAVY & YZERR)
25. Shoot My Shot(feat. Benjazzy, Eric.B.Jr & 漢 a.k.a. GAMI)
26. 4L(feat. Bark, Benjazzy, C.O.S.A. & IO)
27. Chop Stick(feat. Vingo & Benjazzy)
28. Hell Yeah(feat. Vingo, MaRI)
29. Foreign(feat. YZERR & Tiji Jojo)
30. TEIHEN(feat. YZERR & Candee)
31. Back Stage(feat. YZERR & Tiji Jojo)(※バンドセット)
32. Suicide(feat. Tiji Jojo, T-Pablow, Hideyoshi & Jin Dogg)(※バンドセット)
33. Bayside Dream(feat. T-Pablow, Tiji Jojo & Benjazzy)(※バンドセット)
34. Champion Road(※バンドセット)
35. Mukaijima(feat. YZERR, ANARCHY, Benjazzy, T-Pablow & AI)
36. SOHO(feat. YZERR & AK-69)
37. Diamond(feat. YZERR & Vingo)
38. High Land(feat. Tiji Jojo,Vingo & YZERR)
39. Ocean View(feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow)
40. Last Party Never End(feat, Tiji Jojo, YZERR, Yellow Pato & Vingo)
41. Empire Of The Sun(feat. T-Pablow & Zeebra)
42. Hood Gospel(feat. YZERR, Bark & T-Pablow)
43. Kawasaki Drift
BAD HOP「Kawasaki Drift」THE FIRST TAKE
BAD HOP「Champion Road」THE FIRST TAKE
※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。
豊田 俊一 @toyoshun
歴史を塗り替え続けたBAD HOPが最後に見せた最高のヒップホップドリーム、5万人が東京ドームで大合唱(セットリストあり) https://t.co/qNSYLw84JT