歴史を塗り替え続けたBAD HOPが最後に見せた最高のヒップホップドリーム、5万人が東京ドームで大合唱

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神奈川県川崎市川崎区を拠点とするヒップホップクルー・BAD HOPのラストライブ「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」が昨日2月19日に東京・東京ドームで開催された。

BAD HOP(撮影:木村辰郎)

BAD HOP(撮影:木村辰郎)

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東京ドームまでの完璧な道のり

「高校生RAP選手権」での優勝経験を持つ双子のT-PablowとYZERRにTiji Jojo、Benjazzy、Yellow Pato、G-k.i.d、Vingo、Barkを加えた幼馴染8人で構成されるBAD HOP。2014年にクルーを結成した彼らは、トラップやシカゴドリルなど海外のトレンドをいち早く取り入れたサウンドと“川崎サウスサイド”の過酷な日常を描いたリリックで注目を浴び、T-Pablowがレギュラー出演したテレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」によるラップブームの追い風も受けながら、急速に規模を拡大していく。2018年4月に東京・Zepp Tokyoでのワンマンライブを成功させた8人は、同年11月に日本のヒップホップアーティスト史上最年少で東京・日本武道館単独公演を敢行。開催まで3カ月を切った状態での発表にもかかわらず、チケットは約3時間で完売し、当日は約8000人の動員を記録した。

「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」フライヤー

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2020年3月に開催予定だった横浜アリーナ公演がコロナ禍により中止となり、1億円以上の負債を背負うも、この苦難を乗り越え、トップランナーとして日本のヒップホップシーンを牽引してきた彼らだが、昨年5月にヘッドライナーとして出演したヒップホップフェス「POP YOURS」で突如解散を発表。同年9月に出演したヒップホップフェス「THE HOPE」にて、ラストライブの会場が東京ドームとなることを明らかにした。日本のラッパーが東京ドームで単独ライブを行うのはこれが初であり、BAD HOPにとっても過去最大の挑戦であったが、チケットは今年1月末にソールドアウトとなる。その勢いのまま2月9日にラストアルバム「BAD HOP」を配信リリースした彼らは、同日テレビ朝日系「ミュージックステーション」への出演を果たすと、その日から毎日ミュージックビデオを公開。気鋭のラッパーや大御所アーティストとのコラボを明かし、シーンの話題をBAD HOP一色に染め上げていった。

悪天候の中、5万人が集結

そうして注目度を高め切った状態で迎えたラストライブ当日。雨がぱらつき、風が強く吹きつける悪天候となったが、これから何かが起こりそうな不穏な曇り空がBAD HOPにはむしろふさわしかっただろう。東京ドームは朝からグッズ販売でにぎわい、16:00を迎えると入場がスタート。“完全ソールドアウト”という発表に偽りはなく、広大なドームは見渡す限り人で埋め尽くされており、国内ヒップホップフェスの動員を上回る約5万人もの観客がBAD HOPのために集まっていた。

「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」の様子。(撮影:新保勇樹)

「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」の様子。(撮影:新保勇樹)[拡大]

この規模のライブともなれば開演は遅れるだろうと思いきや、予定時刻の18:00を迎えると同時に会場は暗転。スクリーンにはBAD HOPのこれまでの歩みを振り返るような映像が流れ、5万人の観客は熱狂的に8人を待ち受ける。歴史的なライブの幕開けを飾ったのは、東京ドームに向けた思いを8人がラップする「TOKYO DOME CYPHER」。スモークの中に現れたBAD HOPは、並々ならぬ気迫にあふれており、それぞれの姿がスクリーンに大写しになるたび、客席からは地鳴りのような歓声が沸き起こった。

「川崎のヒップホップがここまできたぜ!」とYZERRが叫ぶと2曲目の「IKEGAMI BOYZ」へ。ステージに何本もの火柱が上がる中、彼らは生まれ育った池上町からここに立つまでの成り上がりをラップする。間髪をいれず「Round One」「Final Round」を畳みかけ、最後の勝負への意気込みを示した彼らは、アッパーな人気曲「I Feel Like Goku」でドームの熱気を一段と高めると、客演を迎えた楽曲を次々に披露。eydenDeech¥ellow BucksBonberoといった若手から地元・川崎の先輩であるSEEDAまでを東京ドームという大舞台に立たせた。

シーンを背負う仲間たちと巻き起こす熱狂

近年の楽曲を中心としたセットリストを出し惜しみのない盛大な演出とともに展開し、一気にドームを沸かせたBAD HOP。スクリーンに「2014年」と表示されると、彼らは「B.H.G」「Chain Gang」「White T-Shirt」といった初期曲もメドレー形式で聴かせ、古くからのファンを歓喜させる。そこから時を進め、2017年に発表した初の全国流通アルバム「Mobb Life」の表題曲になだれ込んだBAD HOPは、同アルバム収録の「Super Car」から新曲の「Supercar2」につなげつつ、「3LDK」「Asian Doll」「これ以外」と多彩な「Mobb Life」収録曲を連発。さらには2018年発表の「Prologue」「2018」と、そのキャリアを総括するように過去の人気曲を投下していった。

屈指のラップスキルを持つBenjazzyをはじめ、メンバーそれぞれがその実力を発揮する中、ライブ中盤に大きな存在感を放ったのがG-k.i.dだ。彼が「一緒に歌いたい曲あるんだけどいいかな?」と呼びかけ、「CALLIN'」を歌い始めるとファンはこれに応えてシンガロング。G-k.i.dはguca owlKEIJUを客演に迎えた「Day N Night」やTiji Jojo、YZERRとの「Locker」でも伸びやかな歌声を聴かせ、観客に強い印象を残した。見せ場の連続によりライブは開幕時の興奮を維持したままノンストップで進み、Vingoが高音ボイスでフックを歌う「Friends」で次世代スターのJP THE WAVYLEXが現れると爆発的な盛り上がりが発生。そこにAwichまでもが登場し、「GILA GILA」で観客のボルテージを絶頂に至らせる。その後もEric.B.Jr漢 a.k.a. GAMID.OIOC.O.S.A.MaRIと個性豊かな客演ラッパーが代わる代わるステージへ現れ、ドームの歓声は鳴り止まない。

アメリカ・アトランタのトッププロデューサーであるウィージーとターボがプロデュースした「Foreign」、川崎の後輩Candeeとのコラボ曲「TEIHEN」に続けて、YZERRが「Back Stage」を歌い始めると、金子ノブアキ(Dr / RIZE)、KenKen(B)、masasucks(G / the HIATUS)、伊澤一葉(Key / the HIATUS、東京事変)という凄腕メンバーによるバンドが登場。BAD HOPはHideyoshiJin Doggを迎えた「Suicide」や「Bayside Dream」をバンドセットで披露してメロウなムードを生み出しつつ、「Champion Road」ではエネルギッシュな演奏に乗せた怒涛のマイクリレーで観客を圧倒した。

憧れのスターたちとも共演

「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」の様子。(撮影:新保勇樹)

「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」の様子。(撮影:新保勇樹)[拡大]

彼らにとって憧れのスターだったANARCHYAIを迎えた新曲「Mukaijima」でライブは終盤へ。「ANARCHYさんがいなければBAD HOPは存在していない」とYZERRが語るほど、ANARCHYはクルーに影響を与えたラップスターだった。さらにYZERRはもう1人のラップスター・AK-69を迎えた新曲「SOHO」を初披露し、ヒップホップへの初期衝動を熱唱。AK-69が「解散なんてまだ早いんじゃねえの? だけど、この尊い時間みんな目に焼き付けろ」と言葉を残して去ったのち、YZERRが「Diamond」を歌えば、観客は「夢に見たシチュエーション 俺たち照らす iPhone 昔じゃ有り得ないよ」というリリックをドームで実現させ、これまでにない景色をYZERRたちに見せた。

「High Land」「Ocean View」といった人気曲に続けて、最後のパーティを歌った新曲「Last Party Never End」も披露され、フィナーレが近付く中、T-Pablowが迎え入れたのは、彼にとって父のような存在であるZeebraだ。STUTSがビートをプロデュースした初披露の新曲「Empire Of The Sun」でT-Pablowはキャリアの原点である「高校生RAP選手権」で放ったヴァースも交えながらヒップホップ愛をスピット。これに応えたZeebraは「俺と仲間が見てた夢の続きをお前と仲間で見せてくれてありがとう」「親を超えることが1番の親孝行」とラップし、「これがREAL HIPHOP 不可能なんて文字はねえ!」と言い放った。

「BAD HOPは今ここに立ってる」

ドームに感動が広がる中、さらに観客の心を揺さぶったのは「Hood Gospel」。何もないところから這い上がったYZERRが「遠く離れた場所で俺らを見てるお前に届ける」と次の世代への思いを歌い上げる。そして最後の曲を届けるため、仲間とともにセンターステージに歩み出したYZERRは「ここに集まってくれたヒップホップを愛するみんな本当にありがとう。俺たち本当にガキの頃から一緒で、まさかこんな東京ドームに立てるなんて思えなかったよ」と感謝。「最後に1つだけ言わせてほしいんだよ」と言葉を続けた彼は、「何かいろんなもん抱え込んでるやつとか、クソみたいな環境で生まれたってやつとかたくさんいると思うんだよ。『ああ、俺たちはこのままじゃ抜け出せない』とか『無理』だとか。俺も地元で貧困ばっか見てきて、まともになったやつなんて少ねえけど、全員に1つだけ言いたいのは『BAD HOPは今ここに立ってる』ってこと。それだけは忘れないでくれよ」と呼びかけた。

BAD HOP(撮影:木村辰郎)

BAD HOP(撮影:木村辰郎)[拡大]

四方を取り囲む観客から大歓声を受けたYZERRが「俺たちがどっから来たか知ってんだろ!」と叫ぶと、彼らの代表曲である「Kawasaki Drift」へ突入。8人のリリックを観客は全力で合唱し、「川崎区で有名になりたきゃ人殺すかラッパーになるかだ」という壮絶なパンチラインが空前のボリュームでドームに響きわたる。約2時間半をトップスピードで駆け抜けてきたT-Pablowは「みんなの心の中で生きてたら、俺たちBAD HOPは永遠に死なないと思うので……ここまでBAD HOPを応援してくれてありがとうございました。またいつか、本当に何十年後かわからないそのとき、みんなでこうやって集まれたら……また集まりたいなと思ってます」と最後に宣言。こうしてシーン全体を巻き込んだ日本語ラップ史上最大のライブは終演し、BAD HOPは約10年の活動に終止符を打った。

セットリスト

「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」2024年2月19日 東京ドーム

01. TOKYO DOME CYPHER
02. IKEGAMI BOYZ(feat. Bark, YZERR, Tiji Jojo & T-Pablow)
03. Round One(feat. YZERR, G-k.i.d, Vingo & Bark)
04. Final Round(feat. YZERR, Bark, Benjazzy & Vingo)
05. I Feel Like Goku(feat. T-Pablow, Vingo & G-k.i.d)
06. South Side Night(feat. Tiji Jojo, eyden & Deech)
07. Higher(Remix)(feat. ¥ellow Bucks, YZERR, Tiji Jojo, eyden, Bonbero & SEEDA)
08. B2B(feat. Benjazzy & Bonbero)
09. B.H.G(feat. YZERR & Tiji Jojo)
10. Chain Gang(feat. T-Pablow, Vingo, Tiji Jojo & Benjazzy)
11. White T-Shirt(feat. Tiji Jojo)
12. Mobb Life(feat. YZERR, Benjazzy & T-Pablow)
13. Super Car(feat. Tiji Jojo & Yellow Pato)
14. Supercar2(feat. Tiji Jojo & Yellow Pato)
15. 3LDK(feat. Yellow Pato, Bark & G-k.i.d)
16. Asian Doll(feat. T-Pablow, Vingo & Yellow Pato)
17. これ以外(feat. YZERR & Tiji Jojo)
18. Prologue(feat. T-Pablow, Benjazzy & YZERR)
19. 2018(feat. Vingo & Benjazzy)
20. CALLIN'(feat. G-k.i.d, Bark & Benjazzy)
21. Day N Night(feat. G-k.i.d, guca owl & KEIJU)
22. Locker(feat. G-kid,Tiji jojo,YZERR)
23. Friends(feat.Vingo, JP THE WAVY, Benjazzy, YZERR & LEX)
24. GILA GILA(feat. Awich, JP THE WAVY & YZERR)
25. Shoot My Shot(feat. Benjazzy, Eric.B.Jr & 漢 a.k.a. GAMI)
26. 4L(feat. Bark, Benjazzy, C.O.S.A. & IO)
27. Chop Stick(feat. Vingo & Benjazzy)
28. Hell Yeah(feat. Vingo, MaRI)
29. Foreign(feat. YZERR & Tiji Jojo)
30. TEIHEN(feat. YZERR & Candee)
31. Back Stage(feat. YZERR & Tiji Jojo)(※バンドセット)
32. Suicide(feat. Tiji Jojo, T-Pablow, Hideyoshi & Jin Dogg)(※バンドセット)
33. Bayside Dream(feat. T-Pablow, Tiji Jojo & Benjazzy)(※バンドセット)
34. Champion Road(※バンドセット)
35. Mukaijima(feat. YZERR, ANARCHY, Benjazzy, T-Pablow & AI)
36. SOHO(feat. YZERR & AK-69)
37. Diamond(feat. YZERR & Vingo)
38. High Land(feat. Tiji Jojo,Vingo & YZERR)
39. Ocean View(feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow)
40. Last Party Never End(feat, Tiji Jojo, YZERR, Yellow Pato & Vingo)
41. Empire Of The Sun(feat. T-Pablow & Zeebra)
42. Hood Gospel(feat. YZERR, Bark & T-Pablow)
43. Kawasaki Drift

BAD HOP「Kawasaki Drift」THE FIRST TAKE

BAD HOP「Champion Road」THE FIRST TAKE

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※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。

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豊田 俊一 @toyoshun

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