「NEW ME」で冒険へ
東京ガーデンシアターのステージに設けられたのは、宇宙船のハンガーを思わせる巨大なセット。「これからワクワクする冒険が始まる」。満員の客席から立ち上る期待感がピークに達したとき、場内の明かりが静かに消えた。
するとスクリーンにはLiSAカラーである鮮やかなピンクの足と尻尾、耳を持つ猫が登場し、色のない世界を堂々と闊歩していく。雨が降っても歩みを止めないその猫には羽が生え、いつしかロケット前へとたどり着く。そのロケットに乗り込んだ猫は宇宙へ──。LiSAッ子たちが手にしたペンライトの色をピンクに変え、このツアーの“船長”であるLiSAの登場を待っていると、暗闇を切り裂く一筋の光のようにまっすぐな歌声が響いた。
約1年半前、日本武道館で新天地を目指すことを誓い、当時未発表だった「NEW ME」を届けてステージをあとにしたLiSA。彼女がLiSAッ子たちの声を約3年半ぶりに受け止める場として用意した全国ツアーのオープニングを飾ったのも、この「NEW ME」だった。星が瞬くように短く点滅する中、LiSAは1人ひとりに語りかけるように力強く歌い、ライブという“冒険”へと観客を誘った。
蠱惑的な“大人LiSA”
「東京ー!」。ローブのような紅い衣装をまとったLiSAは愛おしそうな声でそう叫ぶも、次の瞬間には表情を一変させ代表曲「紅蓮華」をパフォーマンス。全身から炎を立ち上らせるようにしながら彼女が「運命をー!」とシャウトすると、怒号のような「照らして!」のコールが沸き起こる。
「ようこそツアーファイナルへ。最高に楽しんでいきましょう! ピース!」。トレードマークである八重歯を覗かせながら誓ったLiSAはローブを脱ぎ、今度は蛍光グリーンの差し色が印象的な黒地の膝丈のワンピース姿に。そこから続いたのは、「コズミックジェットコースター」「アコガレ望遠鏡」「シャンプーソング」といったポップな衣装に似合うナンバーの数々。「シャンプーソング」でLiSAは、LiSAモデルのテレキャスターをかき鳴らしながらロックな表情をチラリと覗かせ、最後はピックを客席に投げ込んだ。
かと思えば、「dis/connect」で始まったブロックでは艶かしい、コケティッシュな“大人LiSA”を全開に。ミラーボールを想起させる銀色のミニドレスに衣装替えをした彼女は、バーレスクダンスを思わせる振付を踊り、首元に汗をにじませて「悪女のオキテ」「赤い罠(who loves it?)」を挑発的に歌い上げる。楽曲ごとに万華鏡のように変化していくLiSAに、LiSAッ子は翻弄されっぱなし。ジャジーなピアノの調べで始まった「逃飛行」ではLiSAは拡声器を持ち、1曲の中でロボットのように無機質なボーカルと、情感をにじませた歌声を使い分け豊かな歌唱力を披露。さらにシルエットのみが浮かび上がる演出の中、指先まで神経を尖らせた優美な動きで観客を魅了して、ステージを一旦あとにした。
下は5歳から上は75歳までのLiSAッ子
柳野裕孝(B)、PABLO(G)、生本直毅(G)、石井悠也(Dr)、白井アキト(Key)、Nona*(Cho, Per)からなるサポートバンド“わんたんにゅーめんず”が各々にツアーの思い出を語ったコーナーを挟み、蛍光色のフリンジをたっぷり使ったカジュアルな衣装に身を包んだLiSAが再びステージへ。サンプリングパッドを搭載したドラムを駆使し、会場をひとつにするように「た、い、せ、つ Pile up」を届け、続けて自身とLiSAッ子たちの“至福の時”を切り取った写真の数々を背に「シフクノトキ」を優しく歌唱。写真のコラージュで作られた東京タワーを前に満面の笑みを浮かべるビジュアルを背に、「東京、着陸でーす!」と改めて帰還を宣言した。
ここで再びLiSAが中座し、わんたんにゅーめんずの紹介へ。それぞれがスキルフルなソロを披露したのち、バンドメンバーの音頭で大合唱が始まる。勇壮な合唱に導かれるようにステージに戻ってきたLiSAは、髪を結い上げ、スタッズをあしらった黒い上着とホットパンツ姿で「一斉ノ喝采」をパフォーマンス。最後までボリュームが落ちなかったLiSAッ子たちの声にサムズアップしてみせた。
「1センチ」「say my nameの片想い」といったライブの人気曲で会場の熱気を高めたところで、LiSAはこの日のLiSAッ子の年齢層をリサーチ。結果、下は5歳から上は75歳まで、老若男女が訪れていることが明らかに。年齢層の幅広さに本人も驚いている様子だったが、年齢関係なく楽しめるのがLiSAのライブ。「こっから一気に行くよ!」と宣言した彼女は、「REALiZE」を皮切りに、ロッカーとしての側面を惜しみなく届けていく。曲を重ねるごとにエネルギッシュさを増す歌声に呼応するように、LiSAッ子たちも全身全霊のシンガロングを展開。「ADAMAS」では鎖を巻かれたフロアタムが運び込まれる演出も。LiSAはその鎖を壊すように何度もマレットを振り下ろし、観客の歌声を切実に求める。そうしてステージと客席の間には“ADAMAS”、つまりはダイヤモンドのように強い一体感が生み出された。
最高の幕開けに涙
「いつかまたこんな声が聴ける日を願って作った、幕が開ける日を願って作ったこの曲、一緒に歌ってくれる?」。そう口にしたLiSAは夜明けを意味するタイトルを冠した「dawn」を、自身がつづった歌詞を噛み締めるように歌い上げる。薄暗かったステージを照らす照明は、曲の展開とともに光量を増しLiSAをも飲み込んでいく。シルエットすらも曖昧にする眩い光の中、LiSAは「この先、どんな長い夜がまたやってきても、私たちでまた最高の幕開けを何度でも迎えよう。今日は最高な幕開けでした。本当にありがとうございました! ピース!」と思いの丈を叫ぶ。そうして暗闇の中で始まったライブ本編は、光に包まれながらエンディングを迎えた。
しかし、LiSAッ子たちは「まだ足りない」とばかりに、アンコール代わりのLiSAコールを巻き起こす。すると、メンバーが奏でる柔らかなピアノの旋律に乗せて、LiSAが「炎」を歌いながらファンの前へ。その声に合わせて真っ暗なスクリーンには炎で作られた円が描かれ、客席では無数の赤い光がゆらめいた。
静けさが会場を支配する中、スクリーンには込み上げる涙をこらえるように、唇を噛み締め、必死で口角を上げようとするLiSAの顔が。目のふちを赤くしながら、ようやく八重歯を見せた彼女は、全国ツアーを無事に完走できた感慨を口にした。「いつかこの日を夢見て作った曲がたくさんあって。私自身の世界も新しくなって……最高の今日を迎えられたことを誇りに思ってます」と観客の歌声が欠かせない自身のライブについて言及。あふれ出る涙を何度も腕でぬぐいながら、「完走したぞ! 最高の幕開けができたぞ!」と宣言した。
デビュー13周年を祝う日本武道館2DAYSライブ開催というファンを喜ばせる発表を経て、LiSAがツアーのラストナンバーとして届けたのは、新天地に向かうことを示唆する「ジェットロケット」。直接触れ合うことができなかったこの数年間の空白を埋めるように、LiSAはアリーナエリアに降りると、LiSAッ子たちとハイタッチをしたり、抱き合ったりしながら熱唱する。そしてステージに戻った彼女は「今日はでらありがとう! ピース! 『LANDER』ツアー、これにて終了!」と19公演におよんだツアーの終幕を宣言。何度も投げキッスをLiSAッ子に贈り、「本当最高! ばいちっ! 今日はいい日だ!」とおなじみの挨拶でライブを締めくくった。一瞬の暗転ののち、スクリーンにはオープニング映像にも登場した猫が再びロケットに乗り込む様子が。LiSAが新たな扉を開けたことを予感させる演出でライブは大団円を迎えた。
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楊(やん) @yan_negimabeya
【ライブレポート】「完走したぞ!」LiSAがホームでLiSAッ子と迎えた“最高の幕開け”に涙(写真15枚) https://t.co/SIevVl78iv