直木賞候補作となり、吉川英治文学新人賞を受賞した「オルタネート」から3年を経て刊行される「なれのはて」は、1枚の不思議な絵画の謎を追うミステリー作。第二次世界大戦下の終戦前夜、日本で最後の空襲と言われる「土崎空襲」を受けた秋田市を舞台に、大正から令和までのさまざまな時代を力強く生き抜く人々の姿が38万字を超える大長編で描かれる。
広島県で生まれ、その縁から原爆や戦争にまつわる仕事を多く引き受けてきたという加藤。その中でさまざまな人々から「戦争について書いてほしい」という言葉を受け「望まれるなら挑戦してみたいけれど自分が書いていいのか、自分が挑戦するのは正しいのだろうか」と悩んでいたという加藤は、日本で作品として描かれたことのない戦争について調べるうち、母親の故郷である秋田県での土崎空襲を知ったという。
「これは自分が書かなくてはいけないのではという宿命を感じ始めました」と語る加藤だが、「事実として起きた空襲、被害者がいるものを物語にしていいのかという葛藤はずっとありました」と執筆中の思いを振り返る。そして「戦争の悲惨さは徹底して描くべきですが、そういったことで(遺族や被害者の)苦しい記憶を呼び覚ましてしまうのではと自問自答しながら書くのは難しかったです。でもそこを躊躇して恐ろしさがうまく伝わらないのは。それはそれで間違っている。一番伝えなければいけないのは『戦争は恐ろしいものである』ということだ、と思って書きました」と強い信念を明かした。
この作品のプロモーションビデオは前作「オルタネート」に引き続き、OSRIN(PERIMETRON)とのタッグで制作された。2人は前作の制作時より「またいつか一緒にやろう」と意気投合していたとのことで、加藤は今回のPVについて「世代も近いので、戦争を知らない世代が戦争を描くことについてどうするべきかを話し合って作りました。小説を読んでもらえれば映像の中の細かい情報が改めてわかる、読む前と読んだあとで感覚が変わるようなPVになったと思います」とアピールした。
ファンや周囲からの反響を尋ねられると、加藤は「今NEWSのツアー中なんですが、ライブでうちわではなく(『なれのはて』が全文掲載された)『小説現代』を振っている人がいて(笑)、すごい光景だなと思いました。あと、書店員の方からの反響も今までの作品で一番あったかなと。本を愛する方々に届いたんだなとほっとしています」と告白。NEWSの小山慶一郎からは「読ませろ」と言われていると明かしつつ「『買え』って言ってます(笑)。一番身近な人間に買ってほしいので『10冊買ってご家族に配ってください』と言ってます」と笑いながら話した。
前作「オルタネート」が直木賞候補作となったことから、本作で「直木賞を狙っていますか?」という質問には「とんでもない質問ですね!」と目を丸くし、「文学賞のことはなるべく考えないようにしています」と苦笑い。一方で「直木賞候補にしていただき、いろいろな先生方の言葉に勇気付けられてこの作品に至ったのは間違いないので感謝しています。一番大事なのは作品として面白いものを書くこと、という気持ちで臨んできたので、書店に並んでも恥じぬ作品になったかなと思います」と直木賞候補となってからの3年間の手応えを明かした。
また、ジャニーズ事務所(現:SMILE-UP.)の創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、表現者としてどのように向き合うつもりかを尋ねる質問には、真摯な表情で「戦争の話と近いのかもしれないですけど、被害者に配慮しつつ、自分たちが一番組織や会社に対して厳しい目を向けるべきだと思っています」と答える。そして「僕自身としては内側から監視したい。執筆をするうえで自分の中で大きなテーマになる可能性もあります。おこがましいけれど自浄作用の1つになれればと」と、今後の自身のあり方についても語った。
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この方、以前友達との飲み会でお会いしたことあるんだけど本当に一生懸命書いていらっしゃるのがわかって「芸能人が作家とか、絶対ゴーストいるだろ」と思ってた身としては雷に打たれた気分だった。そして周囲の人が「こんな人格者いない」と言ってたのでずっと応援してる https://t.co/cCMsXgiYLN