本作には1993年にリリースされたミニアルバム「BABY, YOU'RE LOVE」の収録曲、同年リリースのコンピレーションアルバム「The Birth Of The True II」より「Afro Blues Combo」、1994年リリースの「Surfin' Music」よりThe Beach Boys「Had To Phone Ya」のカバー、同年リリースのミニアルバム「Cytron's Fancy Manifesto」の収録曲が収められる。
収録曲のうち「American Citron」は当時商品化されなかったオリジナルバージョンとなっており、CDには加えて「American Citron」のリミックスバージョンも追加される。なおこれらの音源はアナログ化されるのが今作が初めて。ジャケットにはinstant cytronメンバーである片岡知子がお気に入りだったという、1994年に南フランスで撮影された写真がデザインされた。
アナログ、CDともにinstant cytronメンバーである片岡知子の夫・岡田崇が運営するレーベル、リル・デイジーからリリースされる。
猪野秀史(INO hidefumi)コメント
シトロンとの出会いは30年くらい前になります。
僕は福岡でザ・ラブライツというロック・バンドをやっていました。このあいだ惜しくも先立ってしまった森裕史がベースを担当したバンドで1990年頃に結成し、あいさとう氏率いるザ・ヘアーと福岡をはじめ東京大阪で対バンしたりしていました。シトロンとも同じようにバンド同士での交流が必然的に深まっていきました。
シトロンたちとは最初どこで会ったか思い出せないですが、レコード屋でよく一緒になったり、楽屋でバッファロー・スプリングフィールドやザ・フィフス・アヴェニュー・バンドの話で盛り上がったことを思い出します。友人の森裕史がバンドを脱退することになった時には、シトロン松尾くんがベーシストとして正式加入してバンドを支えてくれました。
話せばいろんな思い出がありますが、特に印象に残っているのはシトロンと一緒にレコーディングした時のこと。僕はオルガン(KORG CX3)を担いで自転車でスタジオに向かいました。巨大なコンソールのあるスタジオで、シトロンのメンバーとスモールサークル・オブ・フレンズのお2人、そして僕に初めてフェンダー・ローズを触らせてくれた敬愛する鍵盤奏者の冨田謙氏らと共に、このレコードに収録されている『サマーワイン』という曲をレコーディングしました。この曲を聴くと当時の記憶が蘇ります。ゴローくんと松尾くんの素晴らしい演奏と彼らに寄り添うように唄うトモコちゃんのあの独特な声。聴いているとなんだか泣けてくる。彼女の声はヘヴンリーなんです。
90年代初頭に僕らが過ごした福岡では現在のように音楽ビジネスとしての機能を果たすことはできませんでしたが、レコードを偏愛した異るジャンルの者同士が毎晩のように交流し、無我夢中に手探りでスタートしたイベントやライヴはめんたいロック以降の博多に異様なうねりを引き起こし、それに共感する人達がひしめき合っていました。
おそらく他の街では類を見ないほどどこか飛び抜けていた文化的磁場が、その当時の福岡に存在していたこともここに記しておきたい。
これはそんな時代の音楽都市で生まれたインスタント シトロンのレコードです。
冨田謙 コメント
私が福岡で音楽活動を模索していた頃、頻繁に通っていたCD屋さんのスタッフに片岡さんがいた。一見して音楽が好きそうで可愛い子がいるなと思っていた。レジで「small circle of friendsのトミタさんですよね?」と声をかけてくれて、彼女も音楽を作っているという話を聞いた。実は自分の友人関係のネットワークに彼女も深いつながりがあって、ほどなくして「片岡知子が新しいバンドを始めたらしい」という噂を聞く。ベースはかねてから一目置いていた松尾くんだと知り、これはなんだか面白いことになりそうだと感じた。偶然なのか私がアルバイトをしていたリハスタに彼女たちは練習に現れて、スタジオの扉越しに聞こえてくる彼女たちの音楽に衝撃を受けた。片岡さんのキッチュな歌声、ルーツミュージックとニューウェーブを両方通過したからこそ出せる松尾くんのベースライン、五郎くんはずいぶん若いくせにいわゆるシンガーソングライター系に精通している感じ。要するに全部自分の好きな感じだったのだ。そのスタジオのアナログな録音機材を使ってプリプロダクションをする時に私がオペレーションを、そしてついでにキーボードパートや打ち込みをそこでみんなと一緒に考えたりもした。それが私のインスタント シトロンとの関係の始まり。そこから“CYTRON'S FANCY MANIFESTO”のレコーディング、“CHANGE THIS WORLD”のレコーディング、ショーケースや発売記念のライブなど、ことあるごとにお誘いをいただき一緒に音楽を作り演奏をした。後輩であり同期でありライバルでもあった当時の彼女たちは野心的で生意気でたまらなく愛おしかった。シトロンの初期作品にはそのムードがとてもピュアにパッケージされている感じがあって大好きだ。エヴァーグリーンな曲の数々、30年を経て聴き返してもあの当時の彼女たちのワクワクがキラキラと詰まっているのを感じる。
坂井壱郎(エレキハチマキ)コメント
今思えば
才能のある若者3人と出会えたこと
初期のシトロンの活動に参加できたこと
とてもラッキーだったなと思います。
シトロンのツアー中に
トモちゃんからもらった
オムニバスカセットテープは
今も大切に保管しております。
Small Circle of Friends コメント
1990年代初頭。
私たちがまだまだ手探り状態で音楽を作りはじめていた頃、
すぐそばにいたインスタント シトロンの3人は、
そのポップス・メーカーとしての嗜好と志向と思考でもって、
既に職人気質を纏わせていました。
それを私たちは畏怖と憧れを持って眺めながら、
歴史の一部になる音楽ってこういうものなんだろうと、
なんとなくではあるけれど感じるところがあって、
今またレコードに刻まれ新たなリスナーにも届くならば、
やっぱりそうか、
と答え合わせができた気分です。
レコードリリース、おめでとうございます。
とてもとても、嬉しいです。
関美彦 コメント
階段を登ると小さなレコードショップがあった。
場所は渋谷の外れ、1993年の出来事だ。
僕はその店の店員だった。毎日好きなレコードをかけてあまり多くないお客さんを待ちレコードを磨く事に関してはなかなかの腕前だった。
三人の若者が店にやってきた。天神から来たという。レコードカンパニーの人たちも一緒だった。
三人はとても若かったがシンガーソングライターの名盤やザ・バンドなどのロックにも詳しく流行りとしての渋谷系というよりロックが好きなガッツのある音楽の好きな印象を受けた。
その三人がインスタント シトロンだ。
ポルスプエストレーベルから出たシングルを頂き僕は繰り返し聴いていた。
「カーテンのドレイプ」という歌詞のフレーズが品がよく、生活感があり、ちょっと手が届かないような届きそうな、これが福岡のポップミュージックなのかなと感じた。
片岡知子さんは繊細で理知的なボーカリスト、長瀬五郎くんは天才的なソングライター、松尾宗能さんは優しげで窓から遠くを見ている感じだった。
それから僕らは親しくなり、音楽を一緒に演奏した。
インスタント シトロンは同じレコードレーベルの仲間であり戦友であり先を行くライバルだった。
あの頃そして今でも。
instant cytron「IT'S A FANCY DAY 1993-1994」収録曲
01. Baby, You're Love
02. Happy Contact -恋はカリプソ-
03. Chic
04. Mon Oncle
05. Afro Blues Combo
06. Had To Phone Ya ~ Guess I'm Dumb
07. It's a Fancy Day
08. きみにわくわく(Afro Blues Combo)
09. Summer Wine
10. American Citron
11. American Citron(SMALL HOPE MIX REPRODUCED BY KEN INAOKA)※CDのみ
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岡田崇 @_okadatakashi
instant cytronのレア音源が初アナログ化、LPとCDでリリース(コメントあり) https://t.co/5P5xTzqAGV