2008年の4月から9月にかけて放送されたテレビアニメ「マクロスF」のランカ・リー役で声優デビューを果たした中島は、同年6月25日に同作の挿入歌「星間飛行」をランカ・リー=中島愛名義でシングルとしてリリースし、歌手としてのデビューも飾っている。この日は、それからちょうど15年目にあたる記念日。このメモリアルな1日を中島とともに過ごすべく、会場には熱心なファンが多数詰めかけ、フロアは端から端まであふれんばかりの人で埋め尽くされた。
開演前から言い知れぬ熱気に満ち満ちていた客席の照明が落とされると、場内にスペーシーなテクノサウンドのオープニングSEが響き渡り、ステージにはまずバンドメンバーが入場。西脇辰弥(Key)、菰口雄矢(G)、池尻晴乃介(B)、渡嘉敷祐一(Dr)がそれぞれ持ち場につき、続いてグリーンのワンピースをまとった中島が悠然と姿を現す。すると、マスク着用の条件付きで観覧中の声出しが認められていたこともあり、客席の至るところから歓声が沸き起こった。そしておもむろにドラムのフィルインが打ち鳴らされ、エレキギターのオクターブカッティングがそれに追従する。これを皮切りにバンドが軽快な16ビートのアンサンブルを奏で始めると、中島の「みんな起きてー! 起きてるー?」の掛け声からファンキーなダンスナンバー「Wake Up!」の演奏がスタートした。
1曲目から早くも盛大なコール&レスポンスが応酬され、中島も「すごい、声が聞こえる」と感慨深げ。この日のセットリストは中島の15年にわたる歌手活動を概ね時系列で追っていく構成となっており、序盤は初期楽曲が連発。「Raspberry Kiss」では「みんな覚えてるかな?」と、両腕を使ったキュートな振付をオーディエンスとともに楽しむシーンも繰り広げられた。
続いてライブは「マクロスF」関連楽曲のブロックへ。「What'bout my star?@Formo」や「ニンジーン Loves you yeah!」といった劇中におけるランカの下積み時代を象徴する楽曲群が並べられ、聴衆が「ランカ!」コールでそれに応えるなど、会場は一段と一体感を増していった。
そんな折、「ねこ日記」で異変が起こった。曲中のところどころで発声に苦労する様子を見せ始めた中島は、続く「アナタノオト」歌唱中にはついに歌えなくなってしまい、思わず演奏を途中で止める事態に。客席に向けて両手を合わせ謝罪のポーズを取り、いったん舞台袖に退場。しばしの間を置いてから「大変申し訳ございませんでしたー!」と小走りでステージへと舞い戻ると、「まさかの『ねこ日記』からやり直していい?」と大胆な提案をして観客およびバンドメンバーを驚かせた。
しかし、テイク2でも一部うまく声が出ない。納得のいかない表情を浮かべながらもどうにか「ねこ日記」を完遂すると、中島は再び「アナタノオト」を歌い始めた。やはり思い通りに歌声をコントロールし切れない様子ではあったものの、要所要所で負担の少ないミックスボイス風の発声法も交えるなど、臨機応変に工夫を凝らしながら乗り切っていく。そうした中でフロアから届けられるBメロの「大丈夫!」コールはもはや単なる合いの手ではなく、オーディエンスの心の声を代弁するかのように場内に響いた。万全な状態で歌えなかった悔しさをにじませながらも、中島は「やってみよう!」と気合いを入れ直す。そして「『ライブは一種の生き様ショーみたいなところがあるなあ』と昨日ぼんやり考えていたところに、こんなことになってしまいましたが……全力を尽くします」と前向きに語り、喝采を巻き起こした。
その後、公演はアニメ「たまゆら」関連楽曲ブロック、2017年の活動再開から最新アルバム「green diary」までのブロックと、つつがなく順調に進行。中島の歌声が途切れた瞬間には観客が機転を利かせて大合唱で間を埋めるシーンなども見受けられ、普段のライブとは少し意味合いの違う一体感が形成されていた。
そして本編ラストナンバーには、この日のために用意された新曲「equal」が選ばれた。前述の通り「ランカ・リー=中島愛」という名義で歌手活動をスタートした彼女が、初めてランカに向けて作った楽曲だという。流麗なピアノイントロに導かれ、ハーフタイムシャッフルの軽快なビートに小気味いいスラップベースとカッティングギターが絡み合う、いかにも中島らしいスタイリッシュなAORテイストのポップソング。これを歌い終えると、中島は泣き笑いのようななんとも言えない表情を浮かべながら「皆さんのおかげで走り抜くことができました。本当にありがとうございます!」と深々と頭を下げ、ステージをあとにした。
アンコールに応え、グッズTシャツに白のロングスカートを合わせた衣装で再登場した中島は、初期の人気曲「Hello!」「金色~君を好きになってよかった」を立て続けに披露。たちまち場内をさわやかなムードに包み込んだ。続くMCでは「配信ライブと比べるわけではないんですけど、やっぱりこうしてひさしぶりに皆さんが密集して……“密集”という言い方はよくないかもしれませんが(笑)、ひとところに集まってエネルギーをぶつけてもらえる、人の力をすごく感じるライブになりました。皆さんがしてくれました」と謝意を述べ、丁重に一礼した。
そして「次の曲……この曲を今日歌わないというのは、ないですね」と告げると、曲目を察した客席から歓声が上がる。「これまで私自身のライブではあえてセリフを言わずに差別化を図ってきましたが、今日はせっかくなので」と前置きしてから「みんな、抱きしめて! 銀河の果てまでー!」と高らかに言い放ち、15年前のこの日にリリースされた「星間飛行」をラストナンバーとして元気よくパフォーマンス。すべての演目を終えたあとにも「今日は本当に申し訳ない場面や反省、心残りなど私の中にはありますが……」と忸怩たる思いを表明しつつ「でも、今日も全力で歌わせていただきました!」とまっすぐな目で語り、いろいろなことがあったこの日のステージをポジティブに締めくくった。
なおStreaming+では、当日生配信されたライブの映像が7月1日23:59まで視聴できる。
「中島愛 15th Anniversary Live ~equal~」2023年6月25日 渋谷duo MUSIC EXCHANGE セットリスト
01. Wake Up!
02. TRY UNITE! -extended version-
03. Raspberry Kiss
04. What'bout my star?@Formo
05. ニンジーン Loves you yeah!
06. ねこ日記
07. アナタノオト
08. 風色のフィルム
09. 星空
10. ワタシノセカイ
11. サタデー・ナイト・クエスチョン
12. メロンソーダ・フロート
13. GREEN DIARY
14. All Green
15. equal
<アンコール>
16. Hello!
17. 金色~君を好きになってよかった
18. 星間飛行
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