「ゼンジン未到」は彼らがアマチュア時代から行ってきたライブシリーズ。今年の3月に活動を再開した彼らは、今回“復誦編”と銘打って全国のZeppで全14公演を行った。
赤い照明に染まったステージに大森元貴(Vo, G)、若井滉斗(G)、藤澤涼架(Key)、サポートメンバーの森夏彦(B)とクラカズヒデユキ(Dr)の5人が登場。観客は期待のこもった大きな拍手で彼らを出迎えた。ステージに熱い視線が注がれる中、歪んだギターの音で勢いよく「藍」の演奏がスタート。青色の光の中でメンバーが強靭なサウンドを放つと、会場が揺れんばかりにオーディエンスが一斉に飛び跳ねた。近年はアリーナやホールなど大きな会場でライブを行う機会が多かったミセスだが、観客との距離が近いライブハウスツアーならではの熱気が場内にたちまち広がっていく。その高揚感をさらに引き上げたのは、2019年にリリースされるも、ライブでの披露の機会がなかったナンバー「灯火」。楽曲が制作されたのはアマチュア時代のため、初期のナンバーがライブのオープニングに続く。そして3曲目に演奏されたのは、活動再開と同時に発表して新たな始まりを告げた楽曲「ニュー・マイ・ノーマル」。晴れやかなアンサンブルがフロアを照らすように場内の隅々まで満ちていった。
本公演は新型コロナウイルス感染予防対策のガイドラインのもと声出し可能ということで、かつてのようにフロアにメンバーの名前を呼ぶ声が飛び交う。大森が「僕たちは今日最大の愛情を持ってきたんですけど、片思いで終わらないように、いい感じのところで戦い合いたいと思ってますので。どっちの愛情が大きいか勝負だと思ってます」と微笑みを浮かべると、観客も受けて立つとでも言うかのように気合いたっぷりに拍手と歓声で応えた。舞台上のミラーボールが眩い光を放つ「CHEERS」では写真撮影がOKに。観客は一斉にスマートフォンを構え、楽しげに演奏するメンバーの様子や光に彩られた美しい光景をカメラに収めた。
「How-to」では大声での合唱がまだ難しくとも、「心で!」と大森が心の声でのシンガロングを煽る。開放感あふれるダイナミックなサウンドに観客がそれぞれの“声”を重ねると、会場の一体感はますます高まっていった。「いけるかZepp!」と大森が叫ぶと、彼らはエネルギーを爆発させるように「インフェルノ」を演奏。「No.7」では藤澤が盆踊りのような振りで観客を煽り、遊び心たっぷりにメンバーの耳元で歌ういたずらも仕掛けてみせた。
ライブ序盤から駆け抜けるように演奏を行ってきたミセスだが、ここで演奏されたのはゆったりとしたナンバー「soFt-dRink」。胸をくすぐるような淡く切ない歌声とたおやかなアンサンブルが溶け合うように響き渡った。藤澤が奏でるメロディアスな鍵盤の音色にエモーショナルなバンドサウンドが重なると、ステージは夕焼けのようなオレンジ色に染まる。その舞台で「涼しい風吹く 青空の匂い」と大森がそっと歌い出したのは代表曲の1つ「青と夏」だ。さわやかなギターロックサウンドの印象が強いこの曲だが、今回彼らは大胆にスローテンポにアレンジ。どこか感傷的で美しい夏の夕暮れのような景色を観客の目の前に描き出した。一筋のスポットライトの光を浴びながら、大森がポツリポツリとつぶやくように弾き語りで歌い始めたのは「僕のこと」。その歌声に寄り添うようにメンバーの演奏が加わり、サビでは優しくも力強い歌とスケール感のある音像が場内に広がった。
続く楽曲は映画「ONE PIECE FILM RED」への提供曲「私は最強」というところで、大森がメンバーを見ながら「2人に頭のところを歌ってもらおうかなと思って。でも、普通に歌ってもらうのも面白くないから」と言い出す。「いや、ちょっと待って。普通に歌うのが難しい曲なんだけど」という藤澤のツッコミが入るも、大森は「息継ぎなしでどこまで歌えるか勝負しましょう」と提案した。藤澤が「あんなキーが高い曲を、ひと息でどこまでいけるのかな」と自信なさげに話す一方で、前日にこのゲームで勝ったという若井は「まあ任せといてよ」とやる気満々。しかし前日から難易度を上げるため、この日は伴奏がスローテンポになるという。まずは藤澤からチャレンジするも、あまりのテンポの遅さに大苦戦。力を入れるあまりにがなり声になりながらも、なんとか「歌唄えば ココロ晴れる」まで歌う。若井は限界まで息を吸い込み、少しずつ息を使いながら小さく声を震わせて歌唱。「シャバすぎるだろ!」という大森の声と観客の大爆笑にも構わず、若井は歌い続け、見事に最後の「大丈夫よ 私は最強」までたどり着く。メンバーが抱腹絶倒する中、若井は「最初に息を溜めといてよかった!」とこの日も勝利をつかみ取った。そんなにぎやかなやりとりを経て、ミセスは「私は最強」をパフォーマンス。彼らのパワフルな演奏に突き動かされるように、オーディエンスもクラップをしたり拳を突き上げたりと、ステージにありったけの熱をぶつけた。
その後ミセスは「私は最強」のエネルギッシュな空気を一変させて、冬の匂いが漂う情緒的なナンバー「Soup」をじっくりと演奏した。「1、2、3、4!」の掛け声を合図に投下されたのは「アボイドノート」。爽快なギターロックサウンドが心地のいい風のごとく場内に鳴り響いた。そして軽やかなカッティングギターでスタートしたのは、2022年のミセスの活躍を象徴するナンバー「ダンスホール」。天井のミラーボールが華やかに点灯してパーティのような楽しい光景が生み出され、最後には金テープがキラキラとフロアを舞った。
大森は初のZeppツアーについて「この距離感でライブさせてもらうのはひさびさ。ありがたいことにアリーナとかでライブをやらせてもらえるようになりましたけど、この距離感でしかできないライブってきっとありますよね。それをすごく実感した14公演でした」と話す。若井は「ひさしぶりにいろんな地方を回れて、待っていてくれるみんなが温かいなって。休止して復帰して、またこうやってたくさんの人が待っていてくれてるのは本当にありがたいことだなとライブをしながらしみじみと思いました」と感謝の思いを述べた。若井が「ライブって楽しいなと思いました。みんなのおかげです」と話を続けると、大森が突然ギターを鳴らし始め、若井以外のメンバーも即興で音を重ねていく。若井は「なんだなんだ?」と周りを見渡しながらも、迷うことなく「ここは東京! ここは東京!」とナチュラルにラップを披露。大森は「ちょっと困らせてやろうかな、どうでるかなって思ったら、意外とそれっぽくやるから戸惑ってます」と驚き、今度はカントリー調のサウンドをのどかに奏で始めた。すると若井はすぐさま応じて「『ゼンジン未到』ツアー 今日は晴れ♪」と楽しげに歌唱。大森が「今のノリ返せるのありえないでしょ! こんなに人がいる前で急にこんないじわるなギター鳴らされたら普通無理だよ。なんでテンパらないでできるの?」と目を丸くすると、若井は「ありがとうございます」とにっこりと笑った。
藤澤は「ゼンジン未到」シリーズについて「このタイトルを掲げているときはわりとライブハウスとか近い距離でやっていて。みんなとの時間をじっくりお互いに噛み締めながら楽しむというシリーズになっています」と説明。大森は「『ゼンジン未到』は4年ぶりくらいなんですけど、こうやって皆さんが足を運んでくれることが本当にありがたくて。めちゃくちゃ気持ちがいっぱいになっています」と感慨深げに話した。その後、彼らはひさしぶりの演奏となる楽曲「スターダム」を披露。グリーンのライトの中で疾走感あふれる演奏を繰り広げた。メロディアスなギターでゆったりと始まったのは「パブリック」。これまでのこの曲の衝動のまま駆け抜けるようなプレイとは異なり、メンバーは光のベールの中でじっくりと感情を注ぎ込むように演奏を展開。大森は体を揺らしながら切実さに満ちた声で絶唱した。「フロリジナル」ではメンバーが目を合わせて操り人形のようにコミカルな動きを見せながら、複雑に音を絡めて幻想的な世界観を構築。大森は会場を見渡し、「今日はどうもありがとうございました! めちゃくちゃ楽しい時間でした! 愛してる東京!」と告げた。ラストナンバーはメジャーデビュー発表を行った「ゼンジン未到とプログレス ~実戦編~」でも本編の最後を飾った「CONFLICT」。芯の強い歌声と剥き出しの音をまっすぐに届け、彼らはステージをあとにした。
熱い拍手に呼ばれて再びステージに現れたミセスは、結成10周年となる2023年に5枚目のフルアルバムをリリースすることを発表。さらに4月4、5日に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で約7年ぶりの対バンライブを行うこと、7月から8月にかけてバンド史上最大規模となるアリーナツアーを開催することを次々と告知して会場を沸かせた。そんな濃い1年になるであろうアニバーサリーイヤーを目の前に、彼らは初心が詰まったメジャーデビュー曲「StaRt」をプレイ。間奏ではフロアの隅々までおなじみのハンドウェーブが広がった。最後にミセスが演奏したのは、現在公開中の映画「ラーゲリより愛を込めて」の主題歌「Soranji」。白い光に照らされながら、大森は胸の内から1つひとつの言葉を大切に紡ぐ。次なる境地へと踏み出したこの曲を通してオーディエンスの心に深く思いを刻み、ミセスは「ゼンジン未到とリライアンス~復誦編~」を締めくくった。
Mrs. GREEN APPLE「ゼンジン未到とリライアンス~復誦編~」2022年12月27日 Zepp DiverCity(TOKYO) セットリスト
01. 藍
02. 灯火
03. ニュー・マイ・ノーマル
04. CHEERS
05. How-to
06. インフェルノ
07. No.7
08. soFt-dRink
09. 青と夏
10. 僕のこと
11. 私は最強
12. Soup
13. アボイドノート
14. ダンスホール
15. スターダム
16. パブリック
17. フロリジナル
18. CONFLICT
<アンコール>
19. StaRt
20. Soranji
Mrs. GREEN APPLE 対バンライブ
2023年4月4日(火)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
2023年4月5日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023
2023年7月8日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
2023年7月9日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
2023年7月15日(土)大阪府 大阪城ホール
2023年7月16日(日)大阪府 大阪城ホール
2023年8月3日(木)愛知県 Aichi Sky Expo
2023年8月4日(金)愛知県 Aichi Sky Expo
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