市川は1993年に「おんなの祭り」でデビューし、活動30年目を迎えた演歌歌手。「ソノサキノユキノ」という公演タイトルには、そんな彼女がこれからも歌い続けていくという思いが込められている。開演時間を迎えると、武士の礼服とも言われる裃(かみしも)をまとい、長い黒髪を一本に結んだ市川が緞帳の前に座り、前口上を述べた。大きな拍手が沸き起こる中で幕が上がり、肩衣(かたぎぬ)を脱いだ市川は、バックバンドの演奏に乗せて「月の渡り鳥」を1曲目に届けた。
この公演には第一景から第五景までのシーンが用意された。第二景「『月下夜想』~中国の風に乗せて~」は演劇風のステージとなっており、スクリーンには大きな月が浮かび、礼服姿の役者、花柳一が加わった。市川は黒を基調としたチャイナドレスを着て、孔雀柄の扇子で風を仰ぎながら、ピーター「夜と朝のあいだに」や、山口淑子「夜来香」、霧島昇「胸の振子」をカバー。このときのチャイナドレスは、ピーターからプレゼントされたものだ。流麗なメロディを伸びやかに歌い、花柳とステップを踏んだ。
転換中、スクリーンに三山ひろしの映像が流される。市川と三山は「ゆっきーの」「ひろっしー」とそれぞれ呼び合う仲とのことで、三山は「歌に対する真剣な姿と優しさ。何より人として素晴らしいお方。生涯を通して応援していきたい」と市川にメッセージを送った。さらに映像では由紀さおりから市川へのデビュー30周年を祝うコメントが紹介され、由紀は「彼女の努力とご自身が経験してきたいいこともつらいことも、その集大成として30周年を迎えられるのは素敵なことですね。“ソノサキノユキノ”はどんなことになるのかな? どうか私のあとに続いて、いい歌を歌い続けてください」と先輩らしい言葉を送った。
第三景で市川は「男の歌世界」を表現。スパンコールをあしらった純白のパンツスーツスタイルの衣装に着替え、梅沢富美男「夢芝居」、内山田洋とクール・ファイブ「東京砂漠」、井上陽水「心もよう」という男性が歌う曲を凛々しく歌い上げた。転換では市川が17歳のときに発売されたデビュー曲「おんなの祭り」の演奏とともに、バンドメンバーが紹介された。市川の歌声に寄り添うメンバーは岡本のはら(B)、近野真一(G)、松崎祐子(Violin)、石島大輔(Sax)、小野雄司(Syn)、広瀬修(Syn)、佐藤武美(Dr)、元永拓(尺八)、上原潤之助(三味線)、園田涼(Piano)の10名だ。
メンバー紹介を経て、第四景「『花宵或夜』~叶わぬ恋の歌語り~」は、尺八と三味線の演奏でおごそかに始まった。ステージの左右には桜の垂れ幕がかかり、舞台には提灯と1人が腰掛けられるほどの小さな赤い台。市川は和洋折衷の真っ赤な花魁スタイルで、キセルを一服する仕草を見せる。「男と女はこのキセルの煙と一緒。儚いものよね。女の心は男で満たされるもの。結局、男はみんな嘘つき」と語り、観客を指差しながら艶っぽく「あんたも嘘つき? あんたも?」と言い放ち、会場の笑いを誘った。このシーンの締めくくりに披露された「雪恋華」では、市川と和装姿の花柳が男女の恋愛のもつれを儚げに表現し、ステージには紙吹雪が大量に舞い散り、壮観な景色が広がった。
最後のシーンとなる第五景では、まず8月にリリースされたばかりの新曲「石狩ルーラン十六番地」が誕生した背景を伝える映像が流された。「石狩ルーラン十六番地」は北海道出身の画家・三岸好太郎とその妻である節子の人生を作詞家・吉田旺が表現した曲。市川は、好太郎と節子の絵画作品を映したスクリーンをバックにこの曲を歌い上げた。MCでは「16歳で当時の事務所の社長が声をかけてくださいまして、17歳でデビューして、30年目を迎えました。その社長がいなければ今の市川由紀乃はありません。今の社長とも似ているんです。いつも『がんばれよ』と声をかけてくれます。今日は最初の社長も今の社長もこの場で見届けてくださっています。人生には無駄なことなど1つもないと思います。いろいろな経験ができたからこそ、幸せだなと思える。これから先、どんなにつらく、苦しいことがあっても笑顔で乗り越えて、“その先の由紀乃”を見てもらいたい」とキャリアを振り返りながら、繰り返し感謝の言葉を口にした。
その後、サプライズがあり、「都わすれ」を歌おうとした市川のもとに、吉本新喜劇の座長である
ペンライトやうちわ、手を振る観客に改めて感謝を伝えた市川。「“ソノサキノユキノ”を見守っていただきたい。実はこのタイトルを見たときに競走馬のように見えたんです」と観客を笑わせつつ、「これからもとにかく走り続けて、笑顔という名のゴールに向かって、懸命に走っていきたい。私はサラブレッドではなく、じゃじゃ馬なんですけど、皆さんに『市川由紀乃を応援したい』と思ってもらえるように、前向きに走り続けていきたいと思います」と話した。最後にもスタッフや、バンドメンバー、観客に感謝を伝え、「私を生んでくれたお母さん、ありがとうございます。今日も兄と一緒にこの舞台に立っています」と、若くしてこの世を去った兄への思いも口にし、ラストナンバー「あなたがそばに」を歌唱。クライマックスでは勢いよくキャノン砲より発射された銀テープが場内を彩り、デビュー30年を記念したリサイタルは大団円を迎えた。
「市川由紀乃リサイタル2022 ソノサキノユキノ」2022年9月7日 東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)セットリスト
第一景
01. 月の渡り鳥
02. 流氷波止場
03. はぐれ花
04. 命咲かせて
第二景「月下夜想」~中国の風に乗せて~
05. 夜と朝のあいだに(ピーター カバー)
06. 夜来香(山口淑子 カバー)
07. 胸の振子(霧島昇 カバー)
08. 夜と朝のあいだに(ピーター カバー)
第三景 市川由紀乃×男の歌世界
09. 夢芝居(梅沢富美男 カバー)
10. 東京砂漠(内山田洋とクール・ファイブ カバー)
11. 心もよう(井上陽水 カバー)
第四景「花宵或夜」~叶わぬ恋の歌語り~
12. 秘桜
13. 横笛物語
14. 雪恋華
第五景
15. 石狩ルーラン十六番地
16. 海峡出船
17. 運命と呼ばせて(with
18. 都わすれ
19. あなたがそばに
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音楽ナタリー @natalie_mu
【ライブレポート】デビュー30年目の市川由紀乃、節目のリサイタル「ソノサキノユキノ」大団円
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