2012年4月18日に1stアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」でメジャーデビューし、今年10周年を迎えたクリープハイプ。ツアータイトル「今夜は月が綺麗だよ」は1stアルバムの初回限定盤のボーナストラックで、10年の時を経て今年4月18日に配信リリースされた「ex ダーリン」のワンフレーズから付けられたものだ。バンドにとって節目とも言える本ツアーで4人は、最新アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」の収録曲を含む全25曲を真摯に届け、ロックバンドとしての揺るぎない存在感を示した。
ツアーの宮城公演は当初、5月に東京エレクトロンホール宮城で行われる予定だったが、3月に東北地区を中心に発生した地震の影響で休館となり中止に。日程も会場も変更されたものの、仙台サンプラザホールの客席はライブを待ちわびたファンで埋め尽くされた。場内が暗転すると、ジャケットのモチーフとクリープハイプのロゴで飾られたステージに尾崎世界観(Vo, G)、長谷川カオナシ(B, Key)、小川幸慈(G)、小泉拓(Dr)が登場。スモークが立ち込める中、インストナンバー「なんてことはしませんでしたとさ」でライブの幕を開け、「身も蓋もない水槽」で強烈なバンドアンサンブルを響かせた。「君の部屋」では衝動をほとばしらせるようなプレイが繰り広げられたあと、カオナシがメインボーカルを担う「月の逆襲」へ。リフレインするイントロを経て、カオナシが尾崎とテンポのいい掛け合いを聴かせたかと思えば、小泉が刻むタイトなビートに合わせて小川が心地よさそうに泣きのギターを鳴らした。
6月9日が“ロックの日”であることにちなんで「ロックの日にライブするの嫌なんだよね……」と切り出した尾崎。恐縮した様子の彼は「もっとその日にやるべき人がいたと思うんだけど、なんか申し訳ないよね。でもお客さんがいればそんな語呂とか関係ないね」と客席を見渡し、感謝の思いを述べる。アコースティックギターを手にした尾崎は「四季」を弾き語り、小泉、小川、カオナシが順に音を重ねて穏やかなアンサンブルを奏でた。続いて疾走感あふれる「しょうもな」「一生に一度愛してるよ」が怒涛の勢いでパフォーマンスされたのち、ステージは薄暗い闇で覆われ、カオナシのハミングだけが響き渡る。不穏な雰囲気に包まれる中、披露されたのは「しらす」。メインボーカルとキーボードのカオナシが主体となって、カオティックな楽曲の世界観を演出した。そんな奇怪なムードを引き継ぐようにメンバーは「なんか出てきちゃってる」へと移ると、尾崎のポエトリーリーディングと繊細な歌声が浮遊感のあるサウンドに重なった。
ライブ中盤で4人は人気曲「栞」を演奏。小泉のタフなドラミングに合わせてカオナシと小川がステージの最前に進み出ると、卓越したプレイで観客を惹きつけた。その後、初期を代表する「オレンジ」、カオナシがメインで歌う「すぐに」と感傷的なナンバーがステージから届けられ、場内はしんと静まり返る。歌い終えたカオナシは「怖い夢を見たんですよ」と話し始め、運転の荒い車に乗った夢を見てそれが現実になったことや、駐車に失敗してリアウィンドウを割ってしまったことを明かした。そして彼が「今日のライブは“安全運転”でいこうと思います」と気合いを入れ直すと、メンバーはダイアンのために書き下ろした「二人の間」、「ボーイズENDガールズ」の続編を描いた「モノマネ」を続けて披露。ハンドマイクを手にした尾崎のアカペラで「ナイトオンザプラネット」が始まると、ミニマルなアレンジやラップがオーディエンスに強いインパクトを与えた。
観客の温かい拍手で満たされるホール内。ライブ終盤では「左耳」「手と手」「ABCDC」といった初期のナンバーが一気に畳みかけられた。この流れで下積み時代を振り返り始めた尾崎は18歳のときに出会った、今は亡き友人のエピソードを語る。さらに「生きてる人にしか音楽は届かないと思ってるし、生きてる人に歌うことにしか興味がないから、だからお互い長く生きて、こっちもいっぱい歌いたいし、聴いてほしい。いろんなことがあると思いますが、一生懸命生きてまた聴きに来てください」とファンに声をかけた。準備を整えると、4人は「ex ダーリン」のバンドバージョンと、「風にふかれて」をひときわ思いを込めるように届け、会場に深い余韻を残した。ここでライブは終わるかに思われたが、尾崎が「ツアー中にずっと言えなかったんだけど、『モノマネ』の小川くんの動きがいいなって」と口を開く。するとカオナシも「わたしもけっこう好きです」と同意し、改めて「モノマネ」を披露することに。小川が観客の視線を一身に受けながらその動きを再現すると、メンバーとファンは大きな拍手を送った。そんな温かなムードが広がるホールに響いたのは「もう1曲追加でやろうと思います」という尾崎の宣言。その声をきっかけにメンバーは観客にエールを送るように「大丈夫」を届け、ツアーをファイナルに導いた。すべての曲目を終えた4人は1人ずつ挨拶。小泉は「無事にツアーを終えることができて、なんと表現したらいいか、感無量というか。皆さんのおかげでステージに立つことができました。ありがとうございます」と素直な思いを口にする。尾崎は小川の思いを代弁するように「振り替えたにも関わらず来てくれてありがとうございました。最高のライブができて幸せでした。今後ともよろしくお願いします」と深々とお辞儀し、4人は晴れやかな表情でステージをあとにした。
クリープハイプ「全国ホールツアー 2022『今夜は月が綺麗だよ』」2022年6月9日 仙台サンプラザホール セットリスト
01. なんてことはしませんでしたとさ
02. 身も蓋もない水槽
03. 君の部屋
04. 月の逆襲
05. 四季
06. イト
07. しょうもな
08. 一生に一度愛してるよ
09. ニガツノナミダ
10. しらす
11. なんか出てきちゃってる
12. キケンナアソビ
13. 栞
14. オレンジ
15. すぐに
16. 二人の間
17. モノマネ
18. ヒッカキキズ
19. ナイトオンザプラネット
20. 左耳
21. 手と手
22. ABCDC
23. ex ダーリン
24. 風にふかれて
25. 大丈夫
※記事初出時、曲名の一部に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
クリープハイプ @creephyp
【メディア情報】
本日配信開始!「音楽ナタリー」にて、6/9(木)に開催した 全国ホールツアー 2022「今夜は月が綺麗だよ」宮城仙台公演のライブレポート『デビュー10周年のクリープハイプ、ホールツアーを仙台で終え「最高のライブができて幸せでした」』が公開されています。
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