DISH//が同会場でワンマンを行うのは、2019年8月に行われた「DISH// SUMMER AMUSEMENT' 19 [Junkfood Attraction]」以来、2年ぶり2度目のこと。昨年の8月に予定されていた公演は無観客の配信ライブに変更となり、今回のライブも当初8月の実施予定だった公演が一度延期になっていたが、このたび無事開催されることとなった。会場にはたくさんのスラッシャー(DISH//ファンの呼称)が足を運び、場内は開演前からひさびさの野外ライブへの期待感があふれていた。
数日前から雨の予報が続いていた17日のコニファーフォレスト。ライブ当日を迎え、会場を冷たく濡らした予報通りの雨は昼過ぎには次第に弱まり、開演を迎える16時には小さな雲の切れ間から青空が覗いていた。サイケデリックなカラーリングで炎や水、雷や植物が描かれたステージセットの巨大ビジョンにカウントダウンが映し出されると客席エリアのファンは一気に総立ちに。観客の大きな拍手に迎えられた4人のメンバーは、泉大智(Dr)の力強いカウントとともに「星をつかむ者達へ」でライブをスタートさせた。
打ち込みのヒップホップナンバーをバンドアレンジで披露し冒頭から聴き手の驚きを誘った彼らは、北村匠海(Vo, G)と橘柊生(DJ, Key)によるアグレッシブなラップの応酬で場内を一気にヒートアップさせる。北村は曲が終わるなり「どうも、DISH//です! コニファーフォレスト、やってきましたね!」と気合いのにじむ自己紹介。続く「未完成なドラマ」では矢部昌暉(Cho, G)がサイケなギターサウンドを響かせ、「Rock Your Body Rock」ではステージ前方に置かれたステップに飛び乗った橘の煽りに合わせ、オーディエンスもハンズアップしてリズムに乗った。
演奏の合間に矢部がステージの左右へ猛ダッシュをしたり、ギターを置いて突如ブレイクダンスのワーム技をしてみせたりと大暴れでメンバーの笑顔を誘った「NOT FLUNKY」を終えると、この日最初のMCへ。北村は「雨、止みましたね。すごい霧がかかってきましたけど、まあ山の中なんでね」と笑いつつ「今日ここに来る決断をしてくれた皆様、本当にありがとうございます。来てくれたからにはこの世で一番楽しい空間にします」と、力強く約束してみせた。
「本来8月にやる予定だったから、夏っぽいセクションを作ったんです。そのままやりますけど楽しんでください(笑)。てか、夏なんでね、今!」という北村の誘導から始まったのは、“水”をイメージした曲を集めたセクション。「イェーイ!!☆夏休み」「I'm FISH//」「Seagull」というDISH//のレパートリーの中でも屈指のゴキゲンさを誇る曲の連投にステージ上も客席のファンも晴れやかな笑顔で盛り上がり、オーディエンスの熱気は曲を重ねるごとに高まっていく。北村がMCで触れていた濃い霧が山からぐんぐんと会場に迫り、さながら大きな波のようにステージを飲み込む瞬間もあり、自然の力がもたらしたダイナミックな“演出”は、その場にいる誰しもに忘れ難い光景を焼き付けた。このパートを終えた北村は「なんか酸素薄くない?(笑)」と観客に問いかけ「こうして大自然の中で集まって音楽やって、気持ちが1つになって。それってやっぱり、繰り返される日々の中で特別なんですよね」と噛み締めていた。
“森羅万象”というライブタイトルがハマりすぎるほどの自然現象を会場中が受け入れ、楽しみながら進むステージ。続いて届けられたのは昨年の自粛期間中に泉が曲を書き、北村が歌詞を書いて作り上げた「宇宙船」で、北村は「UFO来るかもよ? たまに上空を見上げてみてください。(宇宙人が)見てると思うんで」と呼びかけて楽曲をスタートさせた。軽やかなシティポップサウンドを鳴らしつつ、矢部や橘、北村は時折空を見上げて笑顔を浮かべる。そして、この曲が終わるとビジョンにはステージ上に置かれた1本の缶ビールが映し出された。それを手に取った北村は自身のマイクスタンドに缶を寄せて「プシュッ」とタブを開け、この音を合図に橘が作詞作曲を手掛けた「缶ビール」へ。缶に口をつけて少しだけ喉を潤した北村は、橘らしい洒脱なセンスが光るアーバンなサウンドにゆったりと体を預けつつ、女性視点で書かれたこの曲のストーリーを鮮やかに描き出していた。
さかいゆうが作曲し、北村が作詞に参加した「Shape of Love」の美しくほろ苦い世界観にオーディエンスがじっくりと聴き入る頃には霧も晴れ、曲が終わるなり橘は「すごい楽しいんだけどさ、何よりとても気持ちがいいね!」とひと言。清々しい空気感の中、北村は「地球って大きくて、自分の人生の中で出会える人は限られているじゃないですか」と切り出すと「DISH//を好きになって応援してくれる。こんなに美しい奇跡ないなと思うんです。だから、ライブで皆さんに会うと、いろんなことを思います。次の曲はそんなことを伝えたい曲。皆さんに明日があることも、僕らに明日があることも、全部感謝しています」と伝え、まっすぐな歌声で「This Wonderful World」を歌い上げた。
会場のムードを一変させる泉のパワフルなドラミングから「KICK-START」に突入すると、北村と矢部はギター、橘はショルダーキーボードを手に花道へと歩みを進めた。この曲で彼らが披露したのは、楽器を演奏しながら軽快なステップを踏む“ダンスロック”のパフォーマンス。グルーヴィなロックサウンドを響かせながら間近で躍動するメンバーの姿に客席は一気に熱を帯び、そんなオーディエンスの盛り上がりを受け取ったメンバーは続く「HIGH-VOLTAGE DANCER」でもエネルギッシュなダンスで聴衆を魅了する。“雷”に打たれたように刺激的な楽曲群を集めたパートのラストを飾ったのは「ビリビリ☆ルールブック」。メンバーはセンターステージ、花道、メインステージの端から端まで……と、縦横無尽に動き回ってファンをまとめ上げ、大きな一体感を作り上げていた。
DISH//の野外ライブには雨が付き物であることに触れた橘は、「今日は雨のエモさ、1mmも要らないから!(笑)」と言葉に力を込め、この日のライブに向けて北村が「晴れると思うんだよね」とたびたび口にしていたことを明かす。厚い雲に覆われながらも雨は降らずに持ちこたえている空を見て、橘は「匠海の言霊、怖ない?」と彼らしい言い回しで北村の幸運を称えた。そんな橘の言葉に小さく笑った北村は「次にやるのは僕が18歳のときに初めて作詞作曲した曲。思い返せば僕のルーツなのかな。僕らしさが詰まっている気がします」と、アコースティックギターを抱えてスツールに腰掛け、「モノクロ」をゆったりと歌い出した。
歌い進めるほどに熱を帯びる北村の歌声とリンクするように、シンプルなスポットライトは徐々にカラフルな照明へと変わっていく。夜の帳が下りたコニファーフォレストにドラマチックな光の演出が映える中、ライブはクライマックスへ。スケール感のあるバンドサウンドとエモーショナルなボーカルが聴く者の心を揺さぶる「DAWN」では、バンドメンバーのシンガロングを背に受けた北村が「誰かが『僕は一人ぼっちだ』って言った。でも俺は、誰も一人ぼっちじゃないと思う!」とオーディエンスに向けてまっすぐに訴え、Tシャツの胸元を強く握った。疾走感あふれるロックナンバー「No.1」で声を振り絞る北村が力強く“No.1”の右手を掲げると、ファンも同じポーズでハンズアップ。声援を送ることのできない環境ながらも絶対的な結束を感じる、大きな一体感が会場を包んでいた。
“火”を連想させるアッパーな楽曲の連続で一気に駆け抜けてゆく最終盤。キラーチューン「東京VIBRATION」では花道の先のセンターステージに泉のドラムセットが出現し、メインステージでパフォーマンスする北村、矢部、橘と対峙しながらドラムを乱打するという新鮮な光景が観客の目を奪う。ラストサビで全員がセンターステージに移動したのちドロップされたのは、「Newフェイス」と「rock'n'roller」のマッシュアップ。4人は互いのほうを向き合い、激しいヘッドバンギングをしながら無心で攻撃的なアンサンブルを轟かせた。ファイヤーボールや左右に揺れる火柱のダイナミックな演出も会場のムードを一層ヒートアップさせる中スタートした「愛の導火線」ではステージセットの上部から音玉が放たれる。ファンの両手がリズミカルに揺れる中でメンバーは情熱的な演奏を届け、場内の盛り上がりは最高潮に達した。
ここでMCの時間を取った北村は、「正直、倒れる寸前までいきました。それだけ熱かった」とここまでのライブを振り返った。「HPが残り1になったとき、みんなが目の前で応援してくれてて。表情、けっこう見えるんですよ。それに助けられました」。彼はそう続けると「生きるのって大変だし、悩むこともいっぱいあるけど……最高ですよ、生きるって。息するって最高です。歌うって最高。明日があるって最高だし、それはみんなにも同じことが言える。DISH//を応援できるって最高と思ってくれたら、うれしいです」とあふれる思いをそのままに、静かに耳を傾けるオーディエンスに語りかけた。
「次に会ったときに、またその笑顔見せてください。僕らもそのときまで楽しく生きます。最後の曲です」という北村の言葉を合図に始まったのは、昨夏にはっとり(マカロニえんぴつ)がDISH//に贈ったロックバラード「僕らが強く。」。無数の松明の炎が揺らめく中で、メンバーは思いのこもったエモーショナルな音を響かせる。そして、力強い眼差しで広い客席を見据える北村は持ちうる力をすべて出し切るような渾身のボーカルで「生きることを譲るなよ」と思いを届け、本編のステージを締めくくった。
止まない拍手を受けてのアンコールでは、バンドの最新曲「沈丁花」がライブ初披露された。そののち、バンド最大のヒット曲となった「猫」を、柔らかな演奏でじっくりと届けた4人。「いろんな奇跡があったような気がします」とこの日のワンマンを振り返った北村は、ラストナンバーの曲振りを橘に託す。すると橘は残る3人に缶ビールを持つように促して「乾杯ー!」とひと言。お互いのほうを向き“エア乾杯”をした4人は、「乾杯」の演奏をスタートさせた。「関係ねえけど アイラブユー」「乾杯 そんで アイラブユー」というフレーズが印象的なこの曲は、4人がDISH//というバンドに抱く思いをリリックに込めたナンバー。2年前のコニファーフォレスト公演では雨の降りしきるセンターステージで披露され、ライブの中でも印象的なシーンとしてその場にいた者の記憶に深く刻まれた曲でもある。「ラララ」のフレーズを順に歌いつないでいく場面でメンバーがオリジナリティを競い、ふざけ合う姿はファンの笑顔を誘い、和やかなムードの中でライブは終演を迎える。音が鳴り止むと会場の後方からは鮮やかな花火が打ち上がり、メンバーもファンも余韻を噛み締めながらこの花火を見上げていた。
予測の付かない自然環境の中に置かれた舞台で「森羅万象」というライブタイトルに沿ったコンセプチュアルな楽曲構成を組んでオーディエンスの想像力を広げつつ、メンバーのクリエイティビティが光るセクション、そして全体を通し熱量の高いアンサンブルでバンドとしての進化もしっかりと提示してみせたDISH//。最後に4人でファンの前にラインナップし、北村は「完全にきれいじゃなかったかもしれないけど、俺ららしさをすごく感じたライブでした」と、言葉に充実感をにじませた。なお、U-NEXTで生配信が行われたこの公演は、10月24日(日)まで見逃し配信が実施される。
DISH//「DISH// SUMMER AMUSEMENT '21 -森羅万象-」2021年10月17日 富士急ハイランド・コニファーフォレスト セットリスト
01. 星をつかむ者達へ
02. 未完成なドラマ
03. Rock Your Body Rock
04. NOT FLUNKY
05. イェーイ!!☆夏休み
06. I'm FISH//
07. Seagull
08. 宇宙船
09. 缶ビール
10. Shape of Love
11. This Wonderful World
12. KICK-START
13. HIGH-VOLTAGE DANCER
14. ビリビリ☆ルールブック
15. モノクロ
16. DAWN
17. No.1
18. 東京VIBRATION
19. Newフェイス×rock'n'roller
20. 愛の導火線
21. 僕らが強く。
<アンコール>
22. 沈丁花
23. 猫
24. 乾杯
リンク
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生きるのって大変だし、悩むこともいっぱいあるけど…最高ですよ、生きるって。息するって最高です。歌うって最高。明日があるって最高だし、それはみんなにも同じことが言える
2021年10月17日野外ライブ森羅万象にて
北村匠海くんのMCより
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