2019年にリリースした「ZIPANG」のミュージックビデオを京都・東寺で撮影したことを機に、神社や寺でのコンサートを考えていたというHYDE。6月下旬より開催されているオーケストラツアー「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」と並行して行われた2日間の公演は、平安神宮という場所にふさわしい静謐で神秘的な内容となった。
夕暮れどきからポツポツと降り始めた雨が、すさまじい豪雨に変わった初日。浴衣をはじめ、神聖な場所にふさわしいファッションに身を包んだオーディエンスたちはじっと席にとどまり、雷鳴も轟く中で開演を待つことに。無常にも雨脚は強くなるばかりで、石笛奏者の横澤和也が奉納のためにステージに現れたのは開演予定時刻の40分後。しかし、横澤が演奏を始めると雨は小降りになり、同時に会場一帯が神妙な空気で満たされる。続いて舞台に姿を見せた狩衣姿のHYDEが「UNEXPECTED」を歌い出し、オーディエンスをたちまち幻想的な世界へと誘った。
好天が予想されていたところの“UNEXPECTED(予期しない)”な状況ではあったものの、HYDEは雨をも演出の1つのようにしながら、粛々と歌を捧げていく。中盤ではHYDEが一旦退場したのを合図に、天理大学雅楽部・おやさと雅楽会が悠々たる音を奏でる。そこにオーケストラが加わり「ZIPANG」へ。HYDEは烏帽子も白で統一した浄衣を着用して登場すると、四季の移ろいを表現したプロジェクションマッピングを背に、西洋楽器と和楽器が融合した不可思議なアンサンブルに豊潤な歌声を委ねた。最新曲「NOSTALGIC」を歌い終えたあと、HYDEはびしょ濡れのオーディエンスに向かって「雨の中ごめんね……おしゃれしてきてくれたのにね」と優しく口にする。そんな言葉が呼び水となったのか、「Red Swan」が始まった頃から雨脚は弱まり、HYDEの伸びやかで開放的なボーカルに誘われるように雲間から星が瞬いた。雨の影響でこの日の公演は約1時間という予定より短い公演だったが、終演のアナウンスが流れるや否や、観客はHYDEをはじめとする演者たちの濃密なステージを讃えるように盛大な拍手を送っていた。
初日とは打って変わって、晴天の夏日となった2日目。16人編成の雅楽奏者による演奏が開場時間中に行われ、独特の雰囲気を醸し出す。そこに横澤が加わり、石笛の高らかな音色でコンサートの幕開けを告げた。雅楽とオーケストラのアンサンブルとともに姿を見せたHYDEは、松明の灯る舞台へと歩みを進め「UNEXPECTED」を歌唱。薄黄緑の被衣で目元を隠した彼は、その滋味のある豊かな声で観客を包み込んだ。被衣を脱いだHYDEが続いてパフォーマンスしたのは「WHITE SONG」。ライトアップされた本殿と風に揺れるスモークが雪景色を想起させる中、彼はオーケストラの音色に声を絡ませ、柔らかい表情を浮かべた。
一瞬の静寂を経て演奏されたのは、ソロ1stアルバム「ROENTGEN」に収録されている「A DROP OF COLOUR」「EVERGREEN」の2曲。約20年前にリリースされた楽曲が、日が落ち始めた平安神宮に響き、平穏な時間を紡ぐ。続いてHYDEは未発表の新曲「FINAL PIECE」を披露。ピアノの優しい調べに乗せて、愛する相手への思いを綴った歌詞が温かさを帯びた声によって歌われる。本殿の屋根に雪が舞う様子がプロジェクションマッピングで投影される中で届けられた「SMILING」を経て、HYDEはジャジーなアレンジが施された「flower」を目を閉じ、思いを込めるように歌う。すっかり日が落ちたステージはオレンジの照明で染まり、情感あふれるボーカルが風に乗って全方位に広がった。
しかし優しい雰囲気は「THE ABYSS」で張り詰めたものに。狂おしさをにじませた歌声とオーケストラサウンドがオーディエンスを飲み込み、松明から激しく炎が上がる演出とともに「NEW DAYS DAWN」がプレイされると、インダストリアルな音像と怒気をはらんだHYDEの歌声が会場を圧倒。その後、重厚な余韻を残して去ったHYDEと入れ替わるように、雅楽隊と能楽師・茂山逸平がステージへ。雅びやかな演奏に合わせて舞が披露され、麗しい空間が作り出された。そんな演出に導かれるように浄衣姿のHYDEが現れ、太陽を思わせるライトを浴びながら「ZIPANG」を丁寧に歌唱した。バラード調にアレンジされた「ANOTHER MOMENT」をコーラス隊との美しいハーモニーで紡いだあと、HYDEは手に繊細な動きを付けながら「NOSTALGIC」を情感たっぷりに熱唱。その背後では放射状の光が夜空に向かって放たれ、郷愁をにじませたスケールのあるサウンドの魅力を引き立てた。
羽根が舞う映像演出を交えた「Red Swan」では、シャウト混じりの声で絶唱し、爽快な空気を会場に吹き込んだHYDE。歌い切った瞬間、祈るように空を仰ぎ見たのち、今度は「SECRET LETTERS」を甘く深みのある声で歌い上げる。クライマックスでは本殿から後光のような金色のライトが灯り、オーケストラによるダイナミックなアウトロに合わせて花火のプロジェクションマッピングが本殿の屋根に施され、祝祭的なムードが漂った。
2日間の公演の最後を飾ったのは「MY FIRST LAST」。雅楽隊の引き締まるような演奏に合わせて、HYDEの浄衣にまばゆい光が投影されていく。その光はゆっくりと本殿の屋根へと移動し、広い宇宙を描き出した。壮大な演出を交えながらHYDEは、凜とした声を雅楽隊とオーケストラのアンサンブルに重ねていき、最後に「MY SOUL NOW RETURNS TO THE UNIVERSE」というフレーズを穏やかに歌い上げる。そして祈りを捧げるように恭しく跪き、力強く手を組みながらゆっくり本殿へと歩みを進め、厳かに公演に幕を下ろした。
なお、ライブの初日公演の映像は8月4日20:59まで、2日目の映像は本日8月2日21:00から5日20:59までアーカイブ配信される。詳細は特設サイトで確認を。
HYDE「20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU」2021年8月1日 平安神宮 セットリスト
01. UNEXPECTED
02. WHITE SONG
03. A DROP OF COLOUR
04. EVERGREEN
05. FINAL PIECE
06. SMILING
07. flower
08. THE ABYSS
09. NEW DAYS DAWN
10. ZIPANG
11. ANOTHER MOMENT
12. NOSTALGIC
13. Red Swan
14. SECRET LETTERS
15. MY FIRST LAST
※記事初出時、衣装に関する記述に一部誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
リンク
音楽ナタリー @natalie_mu
【ライブレポート】HYDE、雅で静謐なパフォーマンスを捧げた初の平安神宮公演(写真5枚)
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