第2回となる今回は、メインパートの「(3)全曲解説」を一挙掲載。志磨独特の文才が冴えるこの貴重な文章を、アルバムを聴きながらぜひ読み込んでみてもらいたい。
毛皮のマリーズ 2ndアルバム「ティン・パン・アレイ」全曲解説
(3)全曲解説
1. 序曲(冬の朝)
セルジュ・ゲンスブールとジェーン・バーキンの美しく儚いデュエットのイメージ、冬の朝には荘厳なギター・ノイズ!そして詞世界は、まるで安部愼一か上村一夫か? という、俺ルール発動しまくりのなんとも叙情的なオープニングは、この“東京のための作品集”の幕開けに相応しいナンバー。
「フレンチ・オルタナ」をテーマに、ミックスには南石聡巳さんとヒジョーにアタマを悩ませました。デュエットは私とヒロT。エンディング間近に聞ける、生まれてはじめての曲中セリフに若干赤面。おはよう、東京!
2. 恋するロデオ
「街」を歌うアルバムならば、やはり『ペニー・レイン的』なフレーズは必須なのでは?と書きあげた曲。トランペットは佐々木史郎先生。うつろなメロトロンの響き、タイトルにはバーズの匂いも。
うら若き恋人たちが夜明けの東京を眺める頃、西部の田舎街ではこうしてひとつの幼い恋が終わりを告げ、そして…
3. さよならベイビー・ブルー
同じ頃、どこかの港町では汽笛を遠くに聞きながらひとりの女が冷めた恋の面影に、まもなく訪れるであろう別れの匂いをかぐ…
はー!なんともコンセプチュアル!さまざまな街を舞台に同時進行の3つの恋を描いてる訳ですね!アタマ3曲で!
私にしてはめずらしい、というか意識的に書くのを控えていたものの、ひさしぶりに封印を解いた「物憂げ系」のラブソング。ダルな物語もたまにはスパイスかもね!(アイ!マイ!まいん!)であります。竹野昌邦さんのクラリネットが絶品!運指の音までが生々しく(ピアノのマイクからはコッ、コッ、と奥野さんがリズムをとる靴音も…)全くもって南石さんの仕事はすばらしー!
そしてこの曲は、浅川マキさんの訃報をうけて生まれた楽曲でもあったりします。(今これを書いてるのが名古屋のホテルの一室なことに気付いてゾクッとした!)私の胎教音楽はビートルズと浅川マキさんでした。
4. おっさんOn The Corner
そして通りすがるおっさん。全然コンセプトと関係ないよ、おっさん。
家からスタジオまで私は徒歩で通っているのですが、路地の角を曲がったところで遭遇したおっさんのために生まれた鼻歌がどーしても頭から離れず、そのままスタジオで合わせて完成。そのおっさんのために高田漣さんとASA-CHANG先生を用意するのが私の恐ろしいところ!特にエンディングのフリーキーなペダル・スチールは漣さんの本領発揮!イエイ!
製作中のスタジオやコロムビア社内で当初から異様に人気が高く(笑)我々は“ココロのリード曲”と呼んでおります。私はずっと昔から、そう、とっとと老いてしまいたいのだ!
5. Mary Lou
アルバムに先立ち発売された我々のメジャー1stシングル。初週のチャート18位は、ビートルズ史に照らし合わせてもまずまずの結果。(彼らのデビュー・シングルは初週17位)しかしてこの時期、きっと日本で最も愛された楽曲!
これまた非常にティン・パン・アレイ的なナンバーでもあったのでした。シングル・バージョンより若干フェイドアウトが長めに。
6. C列車でいこう
「東京を歌う」というコンセプトを決め、歌うべきか否か最も悩んだテーマ、中央線。あまりにもイメージが固まっているこの沿線… しかしこの10年私の運命を乗せて走っていたのもこの沿線!
結局落ち着いたのはシャングリラス、ロネッツ… フィル・スペクター感満載のアレンジ。やはり恋と列車は相性がいい!そしてエンディングは“ロコモーション”~“恋の片道切符”、とちゃっかり『ティン・パン・アレイ』メドレーであります。
7. おおハレルヤ
ここでまたしても俺ルール発動。寒い季節はフリー・ソウル!誰が何と言おうと70’sフリー・ソウルなの!
という事で、無謀にもアル・グリーンに挑戦。細かいアレンジ、音作りに若干の課題。ベーシック・トラックは今作でほぼ唯一の一発録り。
8. 星の王子さま(バイオリンのための)
レコーディング中の或る日、ポツンとスタジオに空き時間ができたので、その場でササッと書き上げそのまま録音した小品。こういうのがよかったりしますね、往々にして。題材はもちろん、私がこよなく愛する同名の美しい絵本から。
あとでバイオリンを入れてもらおう、とエンディングはファイド・アウト用に長めに録っておいたのですが、竹内純さんのバイオリンがあまりに素晴らしく、止めるのを忘れて聞き惚れてたらラストまでいっちゃった、というね。
9. 愛のテーマ
今作のリード・トラックにして、私の全キャリア中で最も優れた楽曲。ええ、ここまで完全な“音楽”を、私は今まで書いてはいなかった、誰が何と言おうと!
今作の制作中、割と最初の方のセッションでチャレンジしたもののその時は頓挫し、アレンジを一からやり直して再度録音、やっと完成した楽曲。私の人生初のストリングスを迎えた曲でもあります。
レコーディング当日、目の前で演奏されるクァルテットの厳かで清く、慈悲に溢れた美しい響きに私は声も出ないほどの感動に打たれました。お子さん達の無垢な歌声は、私が書いた歌詞にまさにピッタリでした。間奏部にパーカッションをオーバーダブし終えたASA-CHANG先生は「よし!今のはもう二度とできない!」と言って笑って帰られました。
そしてこの曲を最終ミックスまで終えた時私は、これで安心して死ねるなあ、と不謹慎だがつぶやいてしまいました。生まれてきて、初めてこの世になにか仕事を残せた、そんな気が確かにしたのです。大げさかもしれませんが、そういった感慨にふけったのを覚えています。歌詞もアレンジも演奏も、一部の隙もなく美しい。私のすべてをも超えた、わずか3分半のポップス!ただのポップス!
10. 欲望
初めて目のあたりにした生クァルテット(しかも一流)のショックに、もう一度あの感動を味わいたいという下心で譜面を書いた大作。えへへ。しかし曲自体は最も古く、実はインディーズ時代『Gloomy』完成の翌日に生まれた曲であります。苦悩と失望の、まさに我が身を削って生み出した大作のあと、ほろっとこぼれた安堵のメロディと言葉が走り書きされた希望の楽曲、といったところでしょうか。なぜか前作には入れたくなかったんだよねー。2番のお子さんとの掛け合いのアイデアは当初の構想からありました。
壮大なホーンによる導入部、サイケデリックなミドル・エイト、これこそ私が今作で手に入れた新しい世界の、一つの頂点!
11. 弦楽四重奏曲第9番ホ長調 「東京」
ピアノと12弦のアコースティック・ギター、そして徳澤青弦さんによる四重奏でお送りする、本編のクライマックス・フィナーレ。なにも言う事はありません。 東京、気に入ってくれるかなぁ!
それじゃあおやすみまた明日、さよなら三角またきて四角!
隠しトラック “彼女を起こす10の方法”
3分33秒、という意味深な静寂のあと、新たにはじまる朝… ということで隠しトラックはヤング・ラスカルズ調のさわやかなナンバー。当初はもう少しテンポがあってハネ気味の、ロッド・スチュワートっぽいバンド・アレンジを考えていました。ちなみに仮タイトルは“逢坂大河は俺の嫁”。ええ、「♪My Girl」のとこですね。ええ。 あと、この歌入れの前にスタジオのロビーで「のど自慢」観てたので若干こぶし回ってます。
※明日1月21日に全曲解説・第3部「(4)制作についての告白」および「(5)あとがき」を掲載します。
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