DISH//にとって、2020年1月以来約1年4カ月ぶりの有観客公演となった今回のツアー。5月8、9日に予定されていた大阪公演は新型コロナウイルス感染拡大状況とそれに伴う政府の方針を鑑み中止となってしまったが、バンドは愛知と東京で全5公演を実施。2月にリリースされた最新アルバム「X」の収録曲を効果的に配置したセットリストで気迫に満ちたパフォーマンスを届け、目の前のスラッシャー(DISH//ファンの呼称)と熱いひとときを共有した。昼夜2部制で行われたツアーファイナル公演のうち、この記事では第2部の模様をレポートする。
ホール内に足を踏み入れると、来場者の目に飛び込んできたのは特徴的なステージセット。それぞれの機材が置かれたメンバー分の4つのステージは、その配置によって4人の中心に「X」の字が浮かび上がるというコンセプチュアルなもので、開演前から観客の期待と興奮を高めていく。場内が暗転してメンバーがそれぞれのステージに立つと、泉大智(Dr)の力強いカウントが告げたオープニングナンバーは「X」の1曲目を飾る「ルーザー」。「宣戦布告を致します」と高らかに歌い上げるこの歌で、4人はライブの幕を開けた。
北村匠海(Vo, G)は「ファイナルついにやってきました! 最後まで楽しんでいきましょう、どうぞよろしく」と観客に呼びかけ、ラウドな「rock'n'roller」へ。演奏に没頭する4人の姿は激しく明滅する照明に浮かび上がり、橘柊生(DJ, Key)はエッジーなラップで、泉もマイクに顔を寄せて北村のボーカルに加勢する。続く「ビリビリ☆ルールブック」では、マイクに向かうメンバーが代わるたび、ビビッドな照明のカラーにステージが染まるという演出も。光の色は客席に光るペンライトの色と呼応し、場内は一気ににぎやかなムードで満たされていった。
3曲を終えてのMCでは、「世界が止まってしまっている今、ライブの形も変わってきております。いろんな制約があって、今まで当たり前にやってきたものとは違うけど、今この場で同じ空気を吸ってることに変わりはないので。僕らもすべてぶつけていくんで、皆さんもぶつけてきてください」と、このひとときにかける思いを語った北村。彼の「じゃあ、へんてこな曲やります」という声から始まった「へんてこ」では、北村と矢部昌暉(Cho, G)の温かなハーモニーが会場に響きわたった。ステージが夕焼けのようなオレンジ色の光に包まれたのち、ここで届けられたのは昨年大ヒットを記録し、DISH//の代表曲となった「猫」。繊細な感情表現で歌に命を吹き込みながら思いを伝える北村、エモーショナルな演奏で曲の世界観を鮮やかに描き出すバンドメンバーの姿を、スラッシャーはじっと見つめ、静かに耳を傾けていた。
切なさのにじむ声で「君の家しか知らない街で」を歌い終えると、北村は「『CIRCLE』(2020 年2 月リリース)くらいから直接届けられていない曲がたくさんあるから、新鮮に感じるでしょう?」と優しく客席に語りかける。そして、ファンと会えなかった期間を振り返り「僕らにとっての新しいスタンダードを作ってきたつもりだし、僕らの音や言葉を届けようとしてきました」とスラッシャーに思いを伝えた。「次に演る曲も新鮮かも。パワーをもらえる曲なんで、みんなもぶつけてきてください」。北村がそう言うと、バンドは「Get Power」「KICK-START」とパワフルなロックチューンを連発。泉の派手なドラムソロからなだれ込んだ“ダンスロック”ナンバー「KICK-START」では北村、矢部とともに橘もショルキーを抱えてステージの最前線へと躍り出た。3人の軽快なステップにステージと客席の一体感も一層深まり、続く「NOT FLUNKY」ではそんな熱いムードを受け取った矢部が小刻みなステップで乱舞したり、高速で踏み台昇降をしたりと大暴れ。彼の振り切れたテンションに、橘や北村も思わず笑い声を上げる。最高潮のムードの中でキラーチューンの「東京VIBRATION」に突入すると、今度は橘が「声出せないけど、体は動かせるでしょ!?」と客席に呼びかけ、スラッシャーはタオルやペンライトを頭上で思い切り回して楽しげに音の波に乗っていた。
中盤のMCでは、「みんながみんな、あるはずの時間が止まってしまって、今もそんな毎日を過ごしていますよね」と切り出した北村。彼は「次にやる曲はこういう空間でみんなと一緒に歌いたかった曲だけど、そうもいかないので……魂込めて歌います。今は、誰かのために強く生きることが必要だと思うんです。みんなが思い合えば、暗い未来は存在しないと思う。今日も明日も、誰かを思って強く生きてください」と、まっすぐな言葉で胸の内を吐露し、はっとり(マカロニえんぴつ)と作り上げたメッセージソング「僕らが強く。」をタイトルコールした。「魂込めて歌います」と語っていた言葉通り、北村はTシャツの胸元をぎゅっと強く握り、渾身の歌声で思いを叫ぶ。力を入れ込むあまり少しかすれた彼のボーカルを後押しするように、矢部と橘も歌声を重ねた。4人の熱量を受け取ったオーディエンスは、曲を終えると惜しみない拍手を送り、気迫に満ちたバンドのパフォーマンスを讃えていた。
ステージ上のムードをガラリと変えたJQ(Nulbarich)楽曲提供による「QQ」では矢部のリズミカルなカッティングギターや橘のスクラッチがクールに楽曲を彩り、北村はグルーヴィに体を揺らす。「コロナが明けたらどこに行きたい?」という話題に4人が砕けた会話で盛り上がったあとにスタートした「SAUNA SONG」では、サウナの景色を再現するかのようにステージがオレンジ色に染まる。曲を歌う北村の後ろでは、ツアータオルを手にした矢部と橘がサウナ入浴の作法を再現しつつ、ドラムの前の段差に腰掛ける仕草でリラックスしたムードを演出。2人に続いて段差に座った北村も心地よさそうに天を仰ぎ、スペシャルな“サウナ体験”を楽しんでいた。
会場中が心と体をしっかりと“ととのえ”終えるとライブも佳境。北村の「ここから後半戦です、気持ちぶつける準備できてますか、皆さん!」という力強い声を合図に、4人は「勝手にMY SOUL」「I'm FISH//」とライブ人気の高いアッパーチューンを連発した。「X」収録のハイテンションナンバー「Seagull」では北村と泉、矢部と橘のボーカルの応酬がスラッシャーを盛り上げ、ホール内の熱気は最高潮の高まりを見せる。そして、ラストの曲を前に、北村は「当たり前のことなんてないですね。それを身に沁みて感じたツアー期間でした。今この瞬間ですら、明日があるなんてわからないんですよね。だからこそ、今をめちゃくちゃ生きようと思うし、歌えることを噛みしめるし、言葉を伝えられることを噛みしめています」と思いを語った。
熱を帯びた眼差しと言葉でオーディエンスと向き合う北村は「奇跡なんです。奇跡がライブを作ってるし、DISH//を作っているんだと思います」と続ける。そして「みんなとの絆、メンバーとの太い絆……見えないけど確かにあるものを、次の曲では歌い伝えられるのかなと思います。ラスト、みんなの分も僕らが歌うから。みんなはどうか、僕らのこの指に集まってください」と、まっすぐに呼びかけた。バンドがラストに披露したのは、5月26日にリリースされる最新曲の「No.1」。「いくぞ!」という叫びに気合いをみなぎらせた北村は、はちきれんばかりの熱情を歌に込め、持ちうるパワーをすべて歌に注ぎ込むようにマイクに向かう。彼が何度も力強く“No.1”の人差し指を突き上げると、会場中のスラッシャーも同じポーズで呼応するという光景が広がり、北村は「ありがとう」と微笑みながら、大きな一体感を噛み締めていた。
全18曲の披露を終えて4人がファンの前に並ぶと、橘は「匠海、ライブで泣いたのいつぶり?」と北村に問いかけた。「泣いてないけど……?」ととぼける北村をよそに、橘は「メンバー4人でさ、匠海の家に集まって、(バンドについて)いろいろしゃべった流れがあるじゃん。それで今日、匠海が泣いてるのを見て、俺もグッときちゃったって話でした!」と、自身の涙をごまかしながらメンバーとファンに気持ちを伝えた。そしてここでは、DISH//の次なるワンマン公演として、8月28日に山梨・富士急ハイランド コニファーフォレストで野外ライブ「DISH// SUMMER AMUSEMENT '21 -森羅万象-」が開催されることがメンバーの口から発表される。客席が歓喜に沸く中、4人は改めてファンに挨拶。泉は「こうして無事に開催できたことがうれしいです。来られなかった人の分まで、ちゃんと音楽を届けられた気がします」と語り、矢部は「次に会うときまでみんな気を付けて。帰ったらしっかり手洗いうがいしてくれよな!」とスラッシャーに呼びかけた。北村は最後に「DISH//は楽しいっす。DISH//でいられるって、いいですね。そんなことを噛み締めた時間でした」とひと言。オフマイクで「以上、DISH//でした!!」と思い切り叫んだ4人は大きく手を振りながらステージをあとにし、最後に1人残った橘は「また遊ぼうな!!」と、いつもと同じ別れの言葉で、再会を約束していた。
DISH//「DISH// Spring Tour 2021『X』」2021年5月15日 中野サンプラザホール 第2部 セットリスト
01. ルーザー
02. rock'n'roller
03. ビリビリ☆ルールブック
04. へんてこ
05. 猫
06. 君の家しか知らない街で
07. Get Power
08. KICK-START
09. NOT FLUNKY
10. 東京VIBRATION
11. 僕らが強く。
12. QQ
13. バースデー
14. SAUNA SONG
15. 勝手にMY SOUL
16. I'm FISH//
17. Seagull
18. No.1
リンク
ゐ く @taipikumi
いい子らや…
DISH//「みんなの分まで」声枯れるまで歌い奏でた東京公演、あふれた涙に「DISH//は楽しいっす」(ライブレポート / 独占カット含む写真13枚) - 音楽ナタリー https://t.co/dR6AqW6mij