「性的ヒーリング ~其ノ伍~七~」は2011年以降のMVを収録した作品。一方の「The Sexual Healing Total Orgasm Experience」には「性的ヒーリング ~其ノ伍~七~」に加え、過去作「性的ヒーリング ~其ノ壱~四~」の内容と複数のボーナス映像がパッケージされる。このイベントは、椎名の作品を数多く手がける映像ディレクター・
MVの上映中、ファンはじっくりとスクリーンに観入って、映像で描かれる楽曲の世界観に浸っていた。この日椎名は「性的ヒーリング ~其ノ伍~七~」のジャケットに合わせて、チョコレート色のエレガントな衣装に身を包んでステージに登壇。「お忙しいでしょうに、こんな寒い中来ていただいて……ありがとうございます」とファンを気遣い、児玉監督と並んで着席した。まずはMVの制作過程の話になり、椎名は「アルバムをプロモーションするときに、どの曲を取り出してアルバムを伝えるかについても監督に任せています」と選曲の段階から児玉監督に委ねていることを明かす。児玉監督も「『鶏と蛇と豚』『青春の瞬き』など、僕が選ばせていただきました。今回のアルバムはこの曲を観せたらいいんじゃないかと言うと、『なるほど。それでいきましょう』とおっしゃっていただけるような感じです」と信頼感あふれるやり取りを述べた。
児玉監督は2015年に発表された「長く短い祭」のMV撮影で、椎名からさまざまな提案があったことを振り返る。椎名はダンサーのSAYAが主演を務めるこのMVについて「ビデオというのは、例えば石鹸のような日常的なアイテム1つひとつによって、その人の暮らしぶりが具体的に描写されてしまうんですよね。ヒロインがどういう人生を歩んで、どういう時間を過ごしてきたのかが間違って伝わるのだけは許せないと思って、自分の家からいろんなものを持ち込みました」とこだわりを熱く語った。児玉監督は改めてMVを“音楽を体感する装置”と表現し、「ディズニーランドのアトラクションみたいに、いつの間にか終わってしまうけどもう1回並びたいというような、そういうMVが理想的。そのアトラクションの設計をしているような気分で毎回作っています」と述べる。椎名が「曲作りも似ています。『このドラマーにはこういった手癖があるから、こういうふうになるだろう』と自分の頭の中で想像しながら音を重ねていって資料を用意し、狙い撃ちするように素材をいただきにいく。そういうやり方は共通点かと思います」と述べると、児玉監督は「音楽の設計図がしっかりされてますもんね。いつもすごいなと思いながら見ています」と感嘆した。
椎名は「今日、絶対このことに触れたいなと思っていました」と前置きし、MVの中に過去や未来の映像とつながるような伏線が仕掛けられているとファンの間で噂になっていることについて言及。児玉監督が「辻褄が奇跡的に合っちゃうんですよね。いつの間にかパズルがカチッとハマっていくんです」と意図的ではないことを明かすと、椎名はその理由について「それは“リアリティの差”だと思っているんです。私たち作り手がちゃんと現実社会で暮らしているからこそ、お客さんと共通の部分が多くあって、映像がつながっているように感じる。私たちがお客さんと共にこの令和の世を生き抜いていくことで、もっと辻褄が合っていくのではないかなと、夢を見ています」と語った。
イベント終盤には児玉監督がデビュー当時の椎名の印象を「僕はその頃まだサラリーマンだったんですけど、外からMVを観ていて、『ガラスを割ったり、車を割ったり、とんでもないことをする人がいるんだな。こわいな』と思っていたんです」と本音をこぼし、椎名が「そうですかー。そのようにご覧になっていたんですね」と淡々と返して観客を笑わせる場面も。最後には椎名が「これからもMVや曲といった枠を超えたものを作って、皆様の暮らしに溶け込みたいです」とファンに向けて述べ、上映会を締めくくった。
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