ぼくりりは、昨年9月に2019年1月をもって“辞職”することを発表し、その際に「自分で作り上げたこの偶像を破壊することで、3年間の活動を全うしたいと思います」と宣言していた。3年間にわたる活動の終止符を打つ場所となった「葬式」は、会場のロビーエリアに献花台と“遺影”を飾った祭壇が設けられ、教会をイメージしたステージセットには巨大な十字架や数多くの燭台が配置されるなどタイトルにふさわしいシチュエーションが用意された。
会場にパイプオルガンのSEが流れる中、観客は各々の席に着き静かに開演を待つ。開演時間直前には、葬式のため声援やヤジの禁止、アンコールは行われない旨がアナウンスされものものしい空気に拍車をかけた。ライブが始まると、ステージの中央後方に設置された正方形のスクリーンに、ぼくりりが遺書を書く様子が上映される。映像内の彼が「ぼくのりりっくのぼうよみ 葬式」の文字を書き上げたのを合図に、ステージ後方から黒いジャケットにパンツ姿の本人が登場。バンドが奏でる軽快なアンサンブルに乗せて「遺書」を軽やかに歌い上げる。その姿を目に焼き付けるように、オーディエンスは身じろぎもせずステージを見つめた。
艶のある声を聴かせる「あなたの手を握ってキスをした」が終わると、「sub/objective」がスタート。スクリーンには池田エライザらが出演したミュージックビデオが映し出され、観客を楽曲の世界に引き込んでいった。続いてぼくりりは「CITI」「Black Bird」といったベストアルバム「人間」の楽曲や、ラストアルバム「没落」の楽曲を披露。アカペラで始まる「断罪」では美しいファルセットを効かせながら残酷な歌詞を淡々と歌い、「人間辞職」では挑発的なパフォーマンスを繰り広げる。“1曲入魂”とばかりにぼくりりは気合いの入った歌声を披露し、観客は曲が終わるごとに力強い拍手を送った。
ライブの中盤は2ndアルバム「Noah's Ark」の収録曲が続けて披露されるブロックに。ぼくりりは感情を吐き出すように、声を震わせながら「Be Noble」を歌ったのを皮切りに、「在り処」「liar」というシリアスなナンバーを連続投下しオーディエンスを圧倒した。その余韻が残る中、スクリーンに大雨が降り続けるモノクロの映像が投影され「僕はもういない」が始まり会場をチルアウトさせる。しかし穏やかな雰囲気を覆すように、「For the Babel」でぼくりりはバンドメンバーのアグレッシブな演奏に乗せてリリックを激しく繰り出していく。「blacksanta pt.2」になだれ込むと、ぼくりりは一層激しい歌声を響かせた。
「祈りを持たない者ども」を経て、ライブはいよいよ最終ブロックへ。ここでぼくりりの“最期”に華を添えるように、ストリングスカルテットが加わる。繊細な弦のアンサンブルと共に届けられたのは「輪廻転生」。緊迫していた空気が少しほぐれ、荘厳なコーラスとストリングスのハーモニーがホールに広がっていった。ぼくりりは「曙光」を叫びにも似た声で歌い、最後に嗚咽にも似た吐息を漏らしたのち、今度はアジテートするようにハンドマイクで「没落」を歌い出す。ぼくりりは、自身の心境やメッセージを反映したリリックを噛み締めながら歌唱した。
“最期”の1曲としてぼくりりが選んだのは、6分を超える壮大な楽曲「超克」。マイクスタンドに手をかけながら、繊細なビブラートを聴かせたかと思えば、低く深みのある声でラップを畳みかけ鬼気迫るような空気を醸し出す。そしてクライマックスでは曲の最後の一節を印刷した真っ白な紙テープが放たれ、パイプオルガンの神々しい音色がホールを満たした。
全19曲を歌い切ったぼくりりは、深々と一礼をして客席にくるりと背を向ける。一切MCを挟まないストイックなステージに、客席からはこの日一番の拍手が起きた。彼が舞台を降りたあと、場内はしばらく静寂で包まれていたが、いつしか観客のすすり泣く声に続いて拍手が沸き「葬式」は幕を下ろした。
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ぼくのりりっくのぼうよみ「葬式」2019年1月29日 昭和女子大学人見記念講堂 セットリスト
01. 遺書
02. あなたの手を握ってキスをした
03. sub/objective
04. CITI
05. Black Bird
06. 二度と来ない朝
07. 断罪
08. 人間辞職
09. Be Noble
10. 在り処
11. liar
12. 僕はもういない
13. For the Babel
14. blacksanta pt.2
15. 祈りを持たない者ども
16. 輪廻転生
17. 曙光
18. 没落
19. 超克
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