万城目学

私と音楽 第42回 [バックナンバー]

万城目学が語るCHAGE and ASKA

2人の歌声以外では満足できない

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宇多田ヒカル、米津玄師、CHAGE and ASKA

10年前あたりのChageさんは、ライブが中止になったことなど、いろいろと責任を感じて本当に苦しんでいたんです。歌うのをやめようかと思ったときもあったそうなんですけど、「Chageのずっと細道」という“ファンがいるところならどこにでも行って歌う”というコンセプトのライブ活動を続けていくうちにどんどん強くなっていって、やがて「自分はファンのために歌うんだ」という境地にたどり着いたんじゃないかと思います。その姿を横目で見ながらすごくカッコいいなと思っていたので、そういう思いを込めた歌詞にしました。「飾りのない歌」は、そんなにいいことを書いてないんです。人生いいこともあれば悪いこともある。Chageさんだけでなく、人間は60歳を越えたら誰だって、出会いより別れのほうが多くなってくる。思った通りの展開にならないこともある。そういうことも含めながら人生を語る、すごく骨太な歌詞を提出したところ「今の自分を描いてくれてる気がする。宝物のような作品です」と言っていただけました。こんなファン冥利に尽きる言葉はないですよ。これまで30年以上にわたって莫大な量の幸せを与えてもらったわけで、わずかでも恩返しできたのではないかと思います。

Chage 「飾りのない歌」Music Video Short Ver.

僕はそろそろ50歳になりますけど、新しいことに挑戦してこんな手応えを得られるなんて、めちゃめちゃ幸運なことだと思います。そこに導いてくれたChageさんには大感謝です。作詞をするときって、他人の詞を見ても参考にならないんです。言葉の使い方も、チョイスも、その人の奥から出てくるものだから真似できない。それでも勉強がてら歌詞ばかり、特に自分よりも若い人のものを読みましたが、改めて宇多田ヒカルさんと米津玄師さんは別格ですね。簡単な言葉、みんなが知っている言葉を使って、並べ方やタイミングの妙で思わぬ効果を生む。そこが2人は突出しているなと思います。CHAGE and ASKAの詞もそうなんです。例えば「モナリザの背中よりも」というASKAさんが作詞した楽曲があるんですけど、どうしても手が届かないものを「モナリザの背中よりも遠い」と表現しているんです。「モナリザ」と「背中」という、誰もが知っている簡単な単語で、“永遠に見られない”ことを表現してしまうすごさ。僕もデビューしたばかりの頃、比喩表現を使うときは「モナリザの背中よりも」のことを思いながら、これぐらいちゃんと考えているかどうか自問自答していました。

[MV] モナリザの背中よりも / CHAGE and ASKA

「今の自分を見てほしい」というASKAのメッセージ

ASKAさんは、東京フィルハーモニー交響楽団と一緒にやった2018年の復帰ライブ(「ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018 -THE PRIDE-」)が忘れられないです。あの日は開演前からお客さんもみんな緊張しているのが伝わってきて。果たして今日はどうなるのかと。正直なところ、前半の1時間くらいは約5年ぶりのライブともあって、ASKAさんも思うように声が出ていなかったんです。オーケストラも一番声が出ている状態のASKAさんに合わせたチューニングなので、バランスが取れていなくて。ところが後半、「君が愛を語れ」という曲を歌う前のMCで、ASKAさんが曲についてぽつりぽつりといった調子で語って、客席のみんながその言葉にふっと引き込まれる瞬間があったんです。そのとき雰囲気が変わったんですよね。ASKAさんも何かを感じたのか、突然声が出るようになって。それまでバラバラだった、ASKAさんの声と、お客さんの気持ちと、オーケストラの音が、一点に収束されていくのが見えるんです。明らかに流れが変わって、どこか懐疑的だった会場の雰囲気が一気にひとつになっていって。「YAH YAH YAH」では1コーラス目が終わったとき、1人、また1人と立ち上がり始めて、いつのまにか全員が立って、Chageさんの「胸にしまった」「季節を抱くように」のパートをお客さんが歌ったんです。ラストの「YAH YAH YAH」の部分は全員で大合唱。本来ならオーケストラ演奏なので着席して静かに聴くものなんでしょうけど、みんな拳を突き上げていて、左右を見たらみんな泣いていて……素晴らしかったですねえ。あのとき、ASKAさんは「今がすべてで、こうして歌い続ける今の自分を見てほしい」というメッセージを送っているんだろうなと、僕は感じました。

ASKA「ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018 -THE PRIDE- 」(Teaser)

またいつか、並んで歌う2人の姿を

CHAGE and ASKAって唯一無二なんです。あれだけ売れたにもかかわらず、CHAGE and ASKAのような人たちはその後、全然出てこない。フォーク世代の最終ランナーが突然変異を繰り返して、今の姿になっていったという進化の過程を見ても、独自すぎて再現性が皆無だし、フォロワーも生まれようがない。あの2人が一緒に歌わなくなったからって、“じゃあほかの人を聴けばいい”とはならない。CHAGE and ASKAのファンは2人の歌声以外では満足できないわけです。Chageさんはご自身のライブでときどきCHAGE and ASKAの曲を歌うけど、ASKAさんのパートはゲストの方が歌うことが多いです。そのとき気付くのですが、Chageさんの声量がすごすぎて、ハモリのパートなのに存在感が大きくなりすぎてしまう。だからこそ、同じく尋常じゃない声量のASKAさんと歌うことで、見事なハーモニーが生まれる。あれだけ声の出る2人が出会い、一緒に歌うというのは奇跡と言ってもいいでしょう。1+1が2じゃなくて、4や5になる稀有な2人組なんです。

Chageさんはファンが再結成を望んでいることはもちろんわかっているから、いずれ時が来ればそうなるだろうと考えていらっしゃるように思います。我々ファンは待つしかない。もちろんそれは承知のうえなんですが、お二人が現在66歳ということを思うと、残り時間が少ないことも感じてしまいます。今年はデビュー45周年の節目の年だから、ひそかに期待していたファンも多いと思うんです。僕も代々木体育館で並んで歌う2人の姿を、1日でも早く観たい。そして一番好きな「HEART」を歌ってほしい。あの曲こそが、あり余るエネルギーと声量をどうメロディラインに昇華させるかを突き詰めた、CHAGE and ASKAの完成形のような気がするんです。

CHAGE and ASKA「HEART」ミュージックビデオ

万城目学

万城目学

プロフィール

万城目学(マキメマナブ)

1976年生まれ、大阪府出身の小説家。「鴨川ホルモー」で第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、2006年に同作で作家デビュー。その後「プリンセス・トヨトミ」「鹿男あをによし」などヒット作を多数発表する。2023年8月に刊行された「八月の御所グラウンド」にて第170回直木三十五賞を受賞した。

バックナンバー

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読者の反応

ノマアキコ @akko213noma

万城目学さんもファンとは!!!
素晴らしいインタビューです🥹 https://t.co/zsnOdLAM7v

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