使用料が発生するケース④楽曲の複製
──ほかにどんな場合に著作権の使用料がかかってくるんですか?
JASRACの管理楽曲を映像ソフトや録音物、出版物などで利用する場合に複製権の使用料がかかってきます。例えばライブのパッケージ化、CDやオルゴールの制作、楽譜や歌詞を掲載した出版物の発行などですね。著作物の多くは複製することによって収益を上げています。英語では著作権のことを「コピーライト」=「複製する権利」と言うくらい、複製権は重要な権利なんですよ。
──映像ソフトっていうのは例えばテレビドラマや映画をBlu-rayやDVDにしたものも該当しますか?
はい。それがBlu-rayなのかUSBなのか、今後出てくるかもしれない新しい記録媒体でも、音楽を含む映像を有形物に固定する場合は該当します。なのでライブはもちろん、ドラマや映画をBlu-ray化する場合もそうですし、個人の方であっても例えばBGMが流れる結婚式のプロフィールムービーや吹奏楽のコンサートなどをメディアに記録する際も使用料が発生します。
──吹奏楽のコンサートなどは、あくまで個人で楽しむ分には問題ないですよね?
個人で楽しむ分には問題ありませんが、それを超える場合は手続きが必要になります。例えばダビングしたものを友達に配ったり、レンタルショップでCDを借りてきてコピーしたりする場合も同様です。ご自身や家族の範囲なら大丈夫ですが、それ以上は使用料がかかってきます。
──レンタルCDって、お店が払ってるんだと思ってました。
レンタルショップ側に払っていただくのは貸与権にかかってくる使用料となっております。
──あと歌詞の掲載についてなんですけど、僕、大学のゼミで教授から引用なら問題ないって聞いたことがあります!
確かに、著作権法第三十二条に「公表された著作物は、引用して利用することができる。(略)その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」とあって、この条件に当てはまれば使用料はかかりません。それに関しては文化庁発行の「著作権テキスト」でも確認ができます。
使用料が発生するケース⑤サンプリング
──僕、最近ヒップホップが好きでよく聴いてまして。ヒップホップカルチャーってサンプリングがキモだと思うんですけど、サンプリングする場合ってもちろん使用料はかかるんですよね?
著作権的には、著作物に創作性を加えて別の著作物を作成する翻案権や著作者人格権の中の同一性保持権に考慮する必要があります。それとは別に、原盤権の許諾も必要になってきますね。ただ、店舗BGMの説明で触れた通り、著作権には保護期間が決まっていまして、著作権が消滅した著作物のことをパブリックドメインと呼ぶのですが、P.D.に関しては許諾は必要ありません。
──へえ。どのくらいで著作権は消滅するんですか?
著作者が実名であれば死後70年、無名であったり団体名義の場合は公表後70年ですね。一方著作隣接権にも保護期間がありまして、「実演家の著作隣接権」はその楽曲が実演されてから70年、レコード製作者の著作隣接権は音源が発行(発売)されてから70年です(※)。
※発行されなかったときは固定(録音)後70年。
──平原綾香さんの「Jupiter」はホルストが作曲した組曲「惑星」の中の「木星」の一部を使ってるけど、それはP.D.だったっていうこと?
ホルストが亡くなったのが1934年、「Jupiter」が発売されたのが2003年で70年未満なのですが、当時の著作権法では死後50年だったので問題なかったということですね。
──サンプリングに関してもう1つ気になることがあって。ちょっと前にNovelbrightの竹中雄大さんが、Lil Diva feat. Minto「Remember」という曲が自身の楽曲「ツキミソウ」を盗作したものだとX(Twitter)にポストして、それに対して作曲者のMintoさんが「YouTubeのフリービートから独占権とビートを購入し、制作しました」と言っていて。最近ヒップホップシーンではフリービートやタイプビートが普及しているんですが、これの問題点ってどこにあるんでしょう?
【X】竹中雄大 Yudai Takenaka
ビート販売業者がどういう条件で販売したのかわからないのでなんとも言えないんですが、著作者の許諾を得ずに販売してしまったということであればシンプルにサンプリングするときはちゃんと手続きを踏んでねという話に尽きると思います。
使用料が発生するケース⑥楽曲のカバー
──アーティストが誰か別の人の楽曲をカバーする際も、たぶん著作者に使用料の支払いが必要ですよね?
前回お話した通り、YouTubeなどのSNSに上げる分には、プラットフォーム側とJASRACが著作権の包括契約を結んでいるので不要です。ライブで披露する場合には冒頭にお伝えした通り演奏権のお手続きが必要となります。またカバー曲を自身のCD作品などに収録したり、配信リリースしたりするような場合は、複製権にかかってきます。ただ1つ注意点がありまして、これはあくまで原曲をそのままカバーする際の話でして、歌詞を変えたりアレンジを加えたりする場合にはJASRACにご申請いただく前に権利者──作詞者や作曲者、音楽出版社──の同意が必要になります。
──またまた難しい話が出てきた……! 僕、もう頭がパンクしそう……!
難しいですよね。著作権法第二十七条では「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と定められていて、譲渡や相続することはできないんです。著作物のアレンジをしてもいいか悪いかは、作った本人しか判断できないということですね。
──さすがに自分で作詞作曲して誰かに提供していた曲をセルフカバーする場合はアレンジとか気にしなくて大丈夫ですよね? 自分が著作者になるわけだから。
そうですね。ほかのアーティストに提供したものであれば、業界慣習的に事前にセルフカバーしますとお伝えしたほうがいいと思いますが、それは権利関係というよりは、マナーの問題かなと思いますので。
──その場合も著作権使用料の支払いは必要になるんですか?
コンサートで自分の曲を演奏するときと同じで、結局は戻ってくるけれども、私たちがお預かりしている楽曲に関しては、やはり一度お支払いいただいて、その後分配するという流れになります。
今、著作権使用料が多い分野は?
──いやー、JASRACが本当にいろいろなシーンで著作権の使用料を徴収して、著作者に分配しているのかがよくわかりました! それで、よかったらこっそり教えてほしいんですけど、今ってどの分野の分配率が高いんですか?
ここ数年は動画投稿をはじめSNSでの利用がずっと右肩上がりで、分配額も増えていますね。
──2024年のJASRAC賞ではYOASOBI「アイドル」、HoneyWorks「可愛くてごめん」、[Alexandros]「閃光」がそれぞれ金・銀・銅賞を獲得してましたけど、どれもSNSでの利用が大きかった?(参照:YOASOBI「アイドル」が金賞!JASRAC賞でAyase、ハニワshito、アレキ川上が喜びの声)
そうですね。JASRACでは動画配信、音楽サブスクリプション、ダウンロードなどをインタラクティブ配信として扱っているんですが、「アイドル」は分配金のうち71%、「可愛くてごめん」は88%、「閃光」は96%がインタラクティブ配信による収益となっています。2023年時の分配額をもとに2024年に発表しているので少し前の数字にはなりますが、やはりTikTokをはじめとするSNSの力は著作権使用料においても大きいようです。
──僕が夢の印税生活を送るには、やっぱりそのへんを狙っていくのがよさそうですかね……?
TikTokでは短ければ短いほど再生が回るということもあるので、アーティストの方も短い時間の中にいかにキャッチーな音楽を入れ込むかを考えたりもしているみたいですね。そうやって工夫してバズる音楽を作るといいかもしれないですね。
──がんばります! 今日はいろいろと教えていただいてありがとうございました!
※本記事で言及しているのは一部のケースで、著作権の手続きが必要なすべてのケースを網羅しているわけではありません。
プロフィール
岩根茉佑
2018年に一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に入職。仙台支部を経て2022年より広報部に在籍。
一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC
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MATSUTANI Soichiro @TRiCKPuSH
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