JASRACの業務内容は
──JASRACは具体的にどんな業務をしているんですか?
私たちは著作権管理業務を行っている管理団体です。具体的には、権利者から著作権をお預かりして、権利者の代わりに利用したい方々に許諾を出します。その許諾に対する使用料をいただき、権利者に分配するのが主な業務になります。この、私たちが分配している使用料が、いわゆる著作権印税と呼ばれているものに当たります。
──僕みたいに個人で音楽を作ってる人も相手にしてもらえるんですか?
もちろんです。原則としてお持ちの楽曲が過去1年以内に第三者によって利用されていること、または利用予定があることが必要で、例えば「YouTubeで1000回以上再生された」などの条件を満たしていれば無料でご契約いただけます。
──でも手続きとか面倒くさそう……。
確かに以前は書面で印鑑登録証明書などを提出していただく必要があったのですが、今はeKYCシステム(※オンライン上で本人確認を完結できる仕組み)を導入しているので、オンラインで手続きができるようになっているんですよ。
──個人でも申し込みしやすいようにアップデートされているんですね!
そうですね。もしもJASRACと契約せず、音楽出版社にも権利を譲渡しないで自己管理しようとすると、相当に大変だと思います。どこで使われたかを把握してご自身で利用者全員とその都度交渉しないといけないので。
──そんなことやってたら音楽を作るどころじゃなくなっちゃう!
場合によってはGoogleやAppleのような海外企業とも交渉する必要が出てくるかもしれませんしね。
JASRAC設立の経緯は
──そもそもJASRACってどうして設立されたんですか?
1931年にドイツ人のウィルヘルム・プラーゲという人が東京に事務所を開いて、外国の著作権管理団体の代理人として権利を主張し、高額な使用料を求めてきたんですね。日本の音楽業界は大混乱に陥り、プラーゲ氏に対抗して作詞家・作曲家が自分たちで音楽著作権を管理する団体を立ち上げたんです。それがJASRACの前身となる大日本音楽著作権協会で、1939年に設立されました。この一連の騒動はプラーゲ旋風と呼ばれています。
──へえ、100年近く前にそんなことがあったんですね。ちなみに今ってJASRAC以外に、NexToneという団体も著作権管理業務を行ってますよね。JASRACとNexToneの違いってなんですか?
わかりやすい違いで言うとJASRACは非営利の一般社団法人。NexToneは株式会社です。また、楽曲を管理する方法にも違いがあり、JASRACは信託契約、NexToneは委任契約という形を取っています。
──信託か委任……?
JASRACが著作者から権利をお預かりするときには、著作権信託契約を結びます。それにより、作詞・作曲家の著作権が信託財産としてJASRACに帰属します。つまり、JASRACは自らが「著作権者」として管理業務を行うことができるので、例えば著作権の侵害行為があった場合などは、当事者として違法利用に対して訴訟を提起することができるんですよ。信託財産というのは、使い方などに制約が課された財産なので、JASRACが勝手に処分したりはできず、あくまでも著作者のための管理業務を行います。
SNSと著作権
──そう言えばたまにXで誰かが歌詞をポストしたときに、「それは著作権侵害だよ」という指摘を見るんですけど、本当ですか?
SNSの中でもYouTubeやTikTok、Instagramはプラットフォーム側がJASRACと包括的な利用許諾契約を結んでいて、投稿者による利用について代わりに手続きを済ませています。しかし、Xはそれができていません。なので、JASRACが管理している楽曲を含むポストをするときは、投稿者が個別にJASRACに許諾手続きを行ってもらう必要があります。
──やっぱそうなんだ。じゃあ別の質問。ライブに行くと「基本的には撮影はNGだけど、この曲だけはOKだからどんどんSNSにあげてね」ってアーティストが言ってるケースがあると思うんですけど、それって問題ないんですか?
JASRACが管理している楽曲であれば、JASRACと包括的な利用許諾契約を結んでいるプラットフォームに上げることは著作権的には問題ありません。ただし、著作権とは別に「実演家の著作隣接権」についても考える必要があります。実演家には、著作隣接権としての録音権と送信可能化権が定められています。録音権とは録音・録画することに関する権利、送信可能化権とはサーバー等に記録することで配信できる状態にする権利のことです。これにより他者がステージ上のパフォーマンスを無断で録音・撮影すること、配信することは禁止されています。実演家本人がOKを出したということであればその曲のパフォーマンスについては許諾を与えたということなので、SNSにあげることは問題ありませんが、このように著作隣接権の理解も必要です。
──確かに勝手にライブを撮影されてBlu-rayとかで売られたら大変だもんね。ほかにも気になってることがあって、アーティストの楽曲をBGMとして使った動画をYouTubeにアップすると、「Content IDの申し立て」っていう警告が出てきて、収益が受け取れなかったり、視聴できないように動画がブロックされたりすると思うんですよね。YouTubeは著作権の許諾契約をしていると言っていたのに、なんで曲を自由に使えないんですか?
CDや配信の音源をアップすると原盤権に抵触してしまうということですね。楽曲のカバー動画を上げる分には問題ないのですが、音源をそのまま使用する場合には原盤権の許諾が必要になります。JASRACとYouTubeの契約はあくまで著作権に関してなので。
──え? でもYouTube ショートやTikTok、Instagramのリールで動画をアップするときはアーティストの公式の音源をBGMとして選択できますよね。それは原盤権に抵触しないんですか?
それは各サービスの運営会社が各レーベルと個別に原盤権契約を結んでいて、使っていい音楽だけ選べるようになっているんですよ。自分でCDや配信の音源をアップするのは、この原盤権の契約外なのでダメなんです。
──そうなんだ! あ、ちょっと前にユニバーサルミュージックとTikTokが契約するしないで揉めてたのって、この原盤権のことだったんですね! なるほどなあ。勉強になります!(参考:ユニバーサルミュージック、TikTokとの契約終了を正式発表「アーティストの権利を守るために不可欠」 / ユニバーサルミュージックがTikTokと新契約、楽曲使用が再び可能に)
<次回、「著作権って何?」編に続く>
プロフィール
岩根茉佑
2018年に一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に入職。仙台支部を経て2022年より広報部に在籍。
一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC
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