左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.7(前編) [バックナンバー]

「フリースタイルダンジョン」モンスターたちのバトル史:サイプレス上野&輪入道

即興だからこそ、何をどう言うか

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MCバトル、フリースタイルラップが社会的に広く周知されたことに「フリースタイルダンジョン」というテレビ番組が大きく寄与したことは間違いない事実だろう。同じテレビ番組であっても「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」が“荒削りな青春”をテーマにしていたとしたら、「ダンジョン」は“プロによるエンタテインメント”がテーマであり、“ラッパーという存在自体のスキルと凄味”が多くの視聴者に認知され、ブームを巻き起こす契機となった。

KEN THE 390がホストを務める「ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE」第7回は、「ダンジョン」初代モンスターのサイプレス上野、2代目モンスターの輪入道をゲストに迎え、“ブームという渦”の最中に彼らが何を感じ、何を考えていたかを語り合ってもらった。

取材・/ 高木“JET”晋一郎 撮影 / つぼいひろこ ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

俺はR-指定にバトルで無敗

サイプレス上野

サイプレス上野

サイプレス上野 呑みながら話していいの?

KEN THE 390 まあ、ほどほどなら。

輪入道 じゃあ僕もいただきます(笑)。

──今の会話からもわかる通り、今回は関係性の近い御三方ですが、まずサ上(サイプレス上野)さんは1980年生まれ、KENさんは1981年生まれと、2人は歳も近く、活動の場所も近かったと思います。バトルで当たった経験は?

サ上 実はそんなにないよね。「3ON3 MC FREESTYLE BATTLE」とか、数えるくらい。同じイベントには出てたし、フリースタイルで絡んだ回数は数え切れないけど。

KEN 「ONE」とか「触」みたいなイベントでフリースタイルセッションはひたすらやってたけど、バトルはそんなにないよね。2014年の「戦極MCBATTLE第8章 -新春2day Special-」とか、同じ大会に出ても当たらなかったり。

サ上 ああ、俺が優勝したときね。

──急にマウント取った(笑)。

サ上 あの日はR-指定にも勝った。「俺はR-指定にバトルで無敗」これは一生言ってく(笑)。「3ON3」のとき、KENはダメレコ(Da.Me.Records)チーム?

KEN だったと思う。

サ上 「3ON3」はISSUGIとのバトルをよく覚えてる。俺はZZ PRODUCTIONチームとして、確かMIC大将とまっちゃん(belama2)と出たんだけど、その2人がISSUGIに2人抜きされたんだよね。MIC大将からは「ISSUGI お前の母ちゃんの乳首 右にひねり」というパンチラインも出たんだけどさ。

──パンチラインなんですか、それは(笑)。

サ上 それで3人目で出てきた俺に、ISSUGIが「先方も雑魚なら中堅も雑魚」みたいに言って、俺も「そりゃそうだわ! 負けてるし!」と思ったら笑っちゃって。

──普通だったら「仲間になんてこと言うんだ」と怒るところですが。

サ上 それがMCバトルっぽいんだけど、俺は「ISSUGI……その通りだぜ! マジであいつらふざけんじゃねえ!」って。

一同 (笑)。

輪入道 仲間を死体蹴りしてどうすんですか(笑)。

サ上 そういう屍の上に今のMCバトルシーンがある(笑)。結果それが観客にもめちゃくちゃウケて、そこから俺はISSUGI含めて8人抜きしたからね。

輪入道 お~。

サ上 輪入道と当たったのも1、2回?

輪入道 チーム戦とかではあったかもしれないけど、タイマンで当たったのは1回だけかもですね。

サ上 2017年の「SPOTLIGHT」でしょ。

輪入道 その1回戦でしたよね。お互いに「輪入かよ~」「上野さんかよ~」みたいな感じで。

サ上 ちょっと照れたよね。昔から知ってる間柄だし、遺恨も嫌いな部分もまったくないから、「純粋にラップとしていい試合」を見せられればというノリだった。だって「これをバトルでバラされたらやべえな」という話も、戦う前にしちゃってるし。

輪入道 先に弱点をもらってるっていう(笑)。

サ上 でも「これは言っちゃいけない情報だな」みたいなところは止める、ある種のモラルや暗黙のルールはバトルにあるよね。

輪入道 でも、噂レベルの話でもバトルで言うやつもいますよね。それでトラブルにもなるし。

サ上 輪入道はそういうことを言わない信頼感があるし、もし言われたとしても「……その通りだ!」と開き直る(笑)。

輪入道 だからバトルとしてはちょっと困るタイプの試合でしたね(笑)。

サ上 やっぱり楽しみだったよね。輪入道はうまいし、熱いから、俺もそういう熱気が引き出される。しかも輪入道はエンタテインもできる相手だから、不安もなにもなく試合に臨めたし。

KEN 輪入道は対戦相手が決まったときに試合運びとかいろいろ考えたりするほう?

輪入道 俺はめっちゃ考えます。でも「あ、全然想定とは違ったわ」みたいなことも多いですよね。特に上野さんだと(笑)。

サ上 わはは。

輪入道 だから1回考えつつ、それは全部捨てるみたいな感じですね。

サ上 いろいろ考えて、全部捨てるというのはすげえわかる。ノープランではステージに上がれないし、上がらないけど、考えをゼロにしても、どこかにそのゲームプランが残ってるんだよね。

輪入道 それが結果として生きるときはありますよね。

サ上 その見極めがうまいやつが優勝する気もするな。

宇多丸さんに「お前はよくやったよ」と褒められた「B-BOY PARK」

左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

左から輪入道、サイプレス上野、KEN THE 390。

──お話はさらにさかのぼると、上野さんが最初に出た登竜門的なイベントはラップコンテストで、MCバトルではなかったんですよね。

サ上 曲を作ってライブで披露してそれを審査されるって感じで。それが17歳のとき。だから、まず曲がないとそういう場にもエントリーできなかった。

KEN 当時はコンテストのほうが多かったよね。俺も2001年くらいに志人と組んでたグループでコンテストに出たし、フリースタイルが登竜門になったのは、「B-BOY PARK」(BBP)や「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)でバトルが根付いてからだよね。上野はBBPのバトルにはほとんど出てないよね?

サ上 1回だけかな。俺自身「BBPに賭ける」という気はまったくなかった。ラップに対して一番屈折してた時期だったのもあるんだけど、友達に「BBPのMCバトルがすごい」とか言われても「なんであんなもんが流行ってんだよ、しょーもねえな」と思ってた。

──なぜそう感じたんですか?

サ上 “消費されてる感”がすごくあって、加わりたい気持ちが全然起きなかった。1回だけ出たのも、BBP予選の前日に韻踏合組合を横浜のイベントに呼んだら、COE-LA-CANTHとかアメ村の連中もみんな来て、「明日BBPのMCバトルの予選に出るから」って。それでじゃあ俺もついでに出てみるかみたいなノリで参加しただけ。だけどそのときの予選のルールが「4人同時にラップして、決められた枠線から出たら負け」だったから、「こんな囲いを作るなんてB-BOYじゃねえだろ!」みたいにガンガンに熱いこと言って、線を踏み越えたら当然失格になった。それでふてくされたのと二日酔いで会場の端っこで寝てたら、宇多丸さんに「お前はよくやったよ」と謎に褒められるっていう(笑)。

輪入道 へー。

KEN だから上野が本格的にバトルに出始めたのって、2000年代の中盤以降、CDをリリースしたあと、ライブも評判になってからだったよね。

サ上 確かに。

KEN 上野のバトルは、サ上とロ吉(サイプレス上野とロベルト吉野)のライブのいいところが反映されてるよね。バトルなんだけどサービス精神が旺盛で、相手と戦うだけじゃなくて会場を巻き込んで、客をつかんで歓声を上げさせて勝つみたいな。UMB以降のMCバトルは、ファンも含めて基本アングラ志向だったけど、その中でも上野は客を見てるし、ライブで培った生来のエンタテインメント性がバトルにも反映されてたのかなって。

サ上 ありがとうございます。酒がうまくなる(笑)。あとバトルならではのシステムやイズムを意識してなかった、そこに比重を置いてなかったのも大きかったかも。例えば吉野も「DMC」(世界最大のDJ大会「DMC DJ CHAMPIONSHIP」)に出てるけど、そもそものDJスキルの高さに加えて、メタルのレコードを使ったり、レコード割って破片で腹切ったり。

──最後のはDJ関係ない!(笑)

サ上 だからスタンダードなスタイルとは違うアプローチを込めるし、俺もその感覚だよね。ヒップホップやMCバトルの流儀だけじゃなくて、ほかのジャンルにもいい部分があるなら、それを取り込もう、みたいな。

フリースタイルから始めたラップ、お手本は般若

輪入道

輪入道

──1990年生まれの輪入道さんは、2007年に千葉のクラブ・BELTで行われた「REPRESENT MC BATTLE」に出場したのが最初で、しかも優勝しているんですね。

輪入道 そうですね。見様見真似でバトルを始めましたけど、今とそんなに大きくスタイルは変わらないと思います。事前に内容を決めたりはしていなかった。

──当時のお手本は?

輪入道 般若さんですね。ヒップホップを聴き始めたのもそうだし、当時のバトルも振り返ると、般若さんの真似をしてたなと思います。BBPのバトルを何度も見直してたんで、無意識に刷り込まれてたというか。

KEN 輪入道は最初の頃、フリースタイルだけでライブをやってたよね。しかもバチバチに盛り上げてたのがすごい。フリースタイルだけでショーケースを成り立たせるのはかなり難しいから。

輪入道 曲がなかったんで(笑)。

サ上 「あれだけできるならそれを書けよ」と思ってた(笑)。

KEN だから、ラップのスタートもフリースタイルだったってことでしょ?

輪入道 そうですね。

KEN それが世代の違いでもあるよね。俺らの世代は自分でリリックを書いてみて、それからフリースタイルだけど、輪入道の世代からは、その順番が逆の人がけっこう増えてると思う。

輪入道 イベントでも、フリースタイルをフロアでやってたりするのは普通でしたね。「みんなフリースタイルしすぎだからフロアでは禁止」とかクラブ側が決めることもあったし。

サ上 俺らは渋谷・HARLEMで、イケてるやつらがイチャイチャしてる中、隅っこのほうで「YO! 俺らはあんなやつらとは違え!」とかフリースタイルしてたな……「じゃあ来んなよ!」としか言えねえ(笑)。

KEN まあ、どっちの気持ちもわかるよ。

──ははは! 勝者側のコメント(笑)。

サ上 KENはモテてたからな(笑)。

KEN いやいや、クラブならではのナンパしたくなるような空気もわかるし、でもフリースタイルしないと自分の存在が証明できないし、シンプルに友達とフリースタイルするのも楽しいし、っていうね。

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「罵倒」で揉まれて鍛えられた

読者の反応

輪入道 @rap_wanyu

ブームという渦の最中に何を感じ、何を考えていたかを語り合った対談がアップされました。
サイプレス上野&輪入道で、飲みながら登場させて頂きました🍻笑
是非ご覧下さい!

MCバトルの歴史をKEN THE 390とゲストが語る「#ジャパニーズMCバトル」

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