声が出なくなっても意外に復活する
──これまで花粉症が原因でライブで失敗したことはありますか?
ステージに立つと意外となんとかなるんだよね。花粉症に限らず風邪気味でライブの途中に声が出なくなるときもあるんだけど、「また出るようになる!」って信じてがんばっていると本当に出てくるっていう。ちょっと喉を休ませるというか、きつい部分をかわしながら歌っているうちに出てくるときがある。そういうのはボーカリストはみんな経験があるんじゃないかな。
──へえ! ライブ中はアドレナリンが出てるから気にならなくなるとか?
それもあるだろうね。目が痒くても声が出なくても、「このステージの時間だけはなんとかする!」って気持ちを高めることで乗り切れるというか。だから花粉症の最中のライブでも絶対にあきらめないことが大事。声が出なくなっても復活する可能性があるから。お客さんも「この人花粉症で今日はダメだな」って思っても信じてあげてください。意外に彼や彼女はライブの中盤から復活することもある。そしたら「戻ってきた!」って讃えてあげてほしい。僕も客席に目を向けて「このお客さん花粉症だな」っていう人もよく見かけるけど、途中から回復することもあると思うので、お互い見守りつつこの季節をがんばりましょう。
──それでも本当にダメなときは?
弾き語りライブに魅せられる理由
──でも大槻さんは3月12日から弾き語りツアーをやりますよね。弾き語りは筋肉少女帯と違って爆音でお茶を濁せないのでは?
僕が弾き語りをやる場合は自分で歌の調子を制御できるから大丈夫。花粉症で歌いづらいときも「今日はあえてささやくように歌ってます」っていうふうに、意図的を装ってコントロールするので。
──なるほど(笑)。その弾き語りツアー、すごく楽しみなんですけどどんな感じになりそうですか?
僕は40代半ばからギターを始めたんだ。それまでまったくやったことがなくて。なのでギターに関しては素人みたいなものなんだけど、ギターって同じメーカーの同じ機種であっても本当に1本1本違うんだよ。楽器屋さんでどんなに大きい音を出してもわからないし、スタジオで大きい声で歌いながら弾いてもわからない。ステージで鳴らさないとそのギターが自分に合っているかどうかってわからないんだ。しかもその合っているか合ってないかっていうのは、お客さんにもわからなくて。
──あくまで自分の感覚で。
そう、自分の感覚。そこに僕みたいな素人もハマっちゃうと抜けられないんだ。この間も「これはいけるかもしれない」っていうギターを楽器屋さんで見つけて、スタジオやリハーサルでも弾いて「いける!」って思ったのに本番で弾いたらダメで。ガクーンときちゃった。そしたらメーカーさんが「もう1本同じのがあるからそれも試してみてください」って言ってくれたんだけど。そういうのにハマると面白いんだよね。
──じゃあ、今回のツアーでも公演によって使うギターが変わっている可能性もありそうですね。
うん、あるかもしれない。80~90年代のバンドブームで出てきたミュージシャンの人って、今弾き語りをやっている人も多いでしょ? バンドもいいけど、弾き語りもいいなって思うようになるんだよね。僕はその気持ち、すごくよくわかる。ギター1本で1時間半とか2時間、その場を演出することができて、その自由さがとても楽しい。あと今日はインタビューだからキニナル君も話を聞いてくれるけど、歳を取ると誰もおじさんの話なんか聞かなくなってきて。
──そんなことないですよ! ちゃんと聞いてますよ!
いやいや、そういうものなんだよ。周りの同世代を見てても実際に人の話聞いてないもん。逆に僕も人の話に興味がなくて聞いてないことも多いし。そういうふうになってくるんだよね。「俺の話なんか誰も聞いてない」っていうのは、中年期以降の絶望だと思う。自分も含めて。その絶対的な孤独の世界で自分の話ができるのはステージ上だけなんだよ。好きなことをずっとしゃべっていても僕の話を聞いてもらえる唯一の時間と言ってもいいかもしれない。この歳になるとすごく思う。
──じゃあ歌だけじゃなく、大槻さんの話もしっかり聞きに行きますね!
いや、しっかり聞くほどたいそうな話はしないです(笑)。
大槻ケンヂ
1966年東京出身の男性シンガー / 作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩世界と卓越した演奏力で、独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。1995年にはソロアーティストデビューし、1999年には
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