音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

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コロナ禍が収束に向かう中で、ライブエンタテインメントが活況を取り戻したと言われる2023年。5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられてからは、声を出してライブを楽しむという、かつて当たり前だったことの喜びを改めて噛み締めた人も多いのではないだろうか。9月には世界最大級の音楽アリーナである神奈川・Kアリーナ横浜がオープンしたりと、音楽ライブにまつわるポジティブな話題が増えた1年となった。

この記事ではそんな2023年に開催されたさまざまなライブの中から、音楽ナタリーの編集部員たちが“個人的に印象に残ったもの”を振り返る。

台風クラブ単独公演で初めて使った“ある言葉”

文 / 石井佑来

台風クラブ「遠足'23」 7月16日 東京・東京キネマ倶楽部

音楽ナタリーの編集部員は、それぞれ年間で何十本、多い人は100本以上のライブレポートを執筆します。目の前で起きた2、3時間の出来事を描写する──そんな仕事をするにあたって、その公演の内容に合わせた言い回しや表現方法はもちろん誰もが心がけているところ。それでもやはり人間なので、恥ずかしながら「この言い回し、前もどこかで使ったな……」「また自分の手癖が出てしまっているな……」と反省することも少なくないのが本音です。だからこそ「まだこんな言い回しが残っていたんだ」と実感できたり、「この言葉初めて使うな」と思えたりする瞬間には、なんとも言えない喜びがあるもので。そしてその喜びの裏には「普段使わないような言葉でしか言い表せない“未知の体験”に出くわしてしまった」という興奮が必ずあると思います。そんな喜びや興奮を与えてくれるライブというのも、“いいライブ”のうちの1つなのかもしれません。

自分が今年最も印象に残っている“初めての言葉を使ったライブレポ”が、7月に東京キネマ倶楽部で行われた台風クラブの単独公演のレポートでした。ライブを観るたびに「自分はまだこんなにも“ロックバンド”というものに夢中になれるのか」と思ってしまう人たちがいて、台風クラブもそのうちの1組なのだけど、この日ほど“ロックバンド”というものにロマンを感じた日はないかもしれません。この日の台風クラブは“呼ばれてないのに出てくる”という暴挙も含めて、4回ものアンコールを披露しました。本編だけで24曲と十分な曲数が演奏されたにもかかわらず、会場の熱気は一向に冷めることなく、それどころかますますヒートアップしていく始末。客席からコールが沸き起こった「台風銀座」に、原曲の持つ郷愁をぶった切るかのようにハイテンポで披露された「火の玉ロック」。ステージから去っては現れ演奏する。そのたびに倍増していく会場の熱気。その熱の中心には、普段はそれぞれの場所で暮らし、それぞれの生活を抱えている“遠距離バンド”だからこそ奏でられる音が確かにあったような気がしてなりません。ものすごく、ものすごくシンプルなライブのはずなのに、少なくとも自分は「もしかして今、かなりすごいものを観ているんじゃないか?」という気分にさせられたし、この日見た光景は、自分にとって間違いなく“未知の体験”と言うべきものでした。

興奮冷めやらぬ状態で会場を出て、心をクールダウンさせるかのように2駅分ほど歩きながら徐々に徐々に仕事のモードに頭を切り替える。そんな中でふと浮かんでくる1つの疑問。「4回目のアンコール」ってなんて呼ぶべきなんだろう? 調べてみると、英語で「ダブル」「トリプル」の次は「クアドラプル」らしい。なので正解は「クアドラプルアンコール」。クアドラプルアンコール……クアドラプルアンコール……なんなんでしょう、この猛烈な耳心地の悪さは。「トリプルアンコール」まではしっくりくるのに、「クアドラプル」になった途端に感じる大きな違和感。であればここは「アンコール(4回目)」などと書くのが無難だろうか? いや、あの熱狂をそんな味気ない言葉に収めてしまっていいのだろうか? 当たり前のように書かれた「クアドラプルアンコール」という言葉が放つ違和感こそが、このライブの異常さを、この夜の特別さを、何よりも雄弁に物語ってくれるはず。やや大袈裟ではありますが、そんな思いを持ってセットリストの「27. 火の玉ロック」と「28. まつりのあと」の間に「<クアドラプルアンコール>」という耳慣れぬ文字列を忍び込ませることにしました。記事公開後、真っ先にスカートの澤部渡さんが「クアドラプルアンコール……?」と反応してくれたときにどこからか込み上げてきた感情を、「うれしさ」と言うべきなのかなんなのか、僕はいまだにわかっていません。

ちなみに台風クラブ以外で「クアドラプルアンコール」という言葉が使われたライブレポートは、15年以上続くナタリーの歴史の中でたった3組。sads、黒夢、DAIGO☆STARDUSTだけでした。

男闘呼組が思い出させてくれた「自分もこんなふうにバンドをやってみたい」という気持ち

文 / 橋本尚平

「祝・日比谷野音 100周年 男闘呼組 2023 THE LAST LIVE -ENCORE- 2023」 8月26日 東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)

それまで自分が知っていた男闘呼組は、小学生の頃に歌番組で観た「DAYBREAK」や「TIME ZONE」くらい。だからあの日、高倍率なチケットの抽選に落ちたたくさんのファンが音漏れだけでも聴こうと日比谷野音の外に集まっている中で、そんな自分が解散ライブを観ることに若干の後ろめたさもありました。でも期間限定での再始動が発表されてからずっと、自分の中に「絶対に生でライブを観るべき」という確信めいた予感があったんです。

それなりに期待値を上げて行ったつもりでしたが、初めて観た男闘呼組は、想像以上に“完璧なロックバンド”でした。「すでに全国ツアーや日本武道館4DAYSを終えたあとだから」というのももちろんあると思いますが、29年もブランクがあったとはとても思えないほどに仕上がった演奏は圧倒的のひと言。生で観たのは初めてだったので過去の公演と比較することはできませんけど、それでも「今がこのバンドの全盛期なんだろうな」と強く感じさせられる内容でした。

突然の活動休止から長い年月、メンバー全員で集まることも叶わなかった4人が、その空白を埋めるように男闘呼組として最後に立ったステージ。再びこのメンバーで演奏をする喜びを心の底からあふれさせた彼らの、50代半ばにしてキラキラした青春を謳歌している姿を見ていると、バンドっていいな、自分もまたこんなふうにバンドをやってみたいな、という気持ちにどんどんなっていきます。若い頃ならともかく、誰かが演奏する姿を見て「自分だって」という気持ちが湧き起こるだなんてかなり長いことなかったので、もう40代半ばである自分が奮い立たされていることに不思議な感覚を味わっていました。

トリプルアンコールを終えても拍手が止まらず、完全燃焼しきった様子で「もうできる曲がない」と苦笑した彼ら。長い歴史の中でずっと推し続けているファンが多いバンドなので、新参の自分なんかがその魅力を完全に理解しただなんてことはとても言えませんけど、そう思わせられても仕方がないほどに、彼らはラストライブでバンドの重ねてきた日々の歩みをすべてを出し切っていたように感じます。男闘呼組の歴史はこの日で終わりましたが、今後はRockon Social Clubとしての彼らの活動を応援していきたいとますます思いました。

タトゥーや金のチェーンよりゴリゴリでいかついKREVAのラップスキル

文 / 三浦良純

OZROSAURUS「NOT LEGEND at YOKOHAMA ARENA」9月18日 神奈川・横浜アリーナ
KREVA「KREVA CONCERT TOUR 2023『NO REASON』」9月15日 東京・日本武道館

いろんなライブに足を運んでいると、出演者によって、観客の雰囲気が全然違うことに気付きますよね。男女比だったり、年齢層だったり、ファッションの系統だったり、ライブの楽しみ方だったり。同じジャンルのアーティストでもファンの傾向は千差万別です。

ここ最近で一番記憶に残ってるのは、横浜をレペゼンする伝説的ラッパーMACCHOを擁するOZROSAURUSのワンマンライブ。今年さまざまなヒップホップの大きなイベントがあった中でも特に注目度の高かったライブで、MACCHOをリスペクトするラッパーや気合いの入った日本語ラップファンが集結していたのですが、どこを見てもゴリゴリのタトゥーや金のチェーンが目に入り、ほかのライブでは味わえないような威圧感が漂っていました。

仲間同士で連れ立って来ている人も多かったので、1人で来た僕は会場内を歩いているだけでもちょっと緊張してしまい……開演前に売店でホットドッグを買って食べていたところ、横から強い視線を感じ「ひと口くれないかな」という声が聞こえてきたので、震えながら急いで口に詰め込んだのをよく覚えています。

そんな異様なムードの横浜アリーナをこの日最も沸かせたのが、MACCHOが過去に楽曲の中で批判していたと言われるKREVAを迎えて披露したコラボ曲「Players' Player」。決して交わることがないと思われていた因縁深い2人が、同じステージ、同じビートの上でバチバチと火花を散らし、笑顔で抱き合う姿はファンからすれば夢のようであり、歴史的名場面として後世に語り継がれていくでしょう。

ここで取り上げたいのは、2人の関係性ではなくファン層の違い。ちょうどこのライブの数日前、僕はKREVAが日本武道館で行ったライブも観ていたのですが、会場の雰囲気はまったく異なり、緊張感はゼロ。タトゥーや金のチェーンを見かけることもありませんでした。同じラッパーと言ってもリスナー層がまったく別で、メジャーに上り詰めたKREVAとアンダーグラウンドな日本語ラップのシーンには隔たりがあるのが事実だと思います。

もちろん日本語ラップが好きでKREVAを知らない人はいないでしょうが、この日、横浜アリーナに来ていた人で、最近のKREVAの活動も追っているようなファンは少なかったはず。そして、そんなアウェーと言っていい場所だったからこそ、KREVAが会場中を感動で震えさせる姿はより痛快に映りましたし、そんなことができたのは、どんなステージでもかまし続けてきた彼の絶対的なライブ力があったからこそだと思います。

YouTubeで公開されている映像をぜひ観てほしいのですが、そのラップスキルから佇まいまですべてが完璧で圧倒的。たった1曲のパフォーマンスで強面の観客たちをねじ伏せ、歓声を掻っさらっていく姿はスターそのものであり、ラッパーの中のラッパー「Players' Player」でした。メロディアスなラップで老若男女を魅了するKREVAですが、そのいかついラップスキルでも日本語ラップヘッズを唸らせ続けてほしいです。

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サザンオールスターズ、U2のライブを振り返る

読者の反応

RYUTist_info @RYUTist_info

"音楽ナタリーの記事を通じて、少しでもその存在を世に広める手伝いができたらと思う。"

音楽ナタリーさん、いつもありがとうございます。とても嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。 https://t.co/XIBeBkKrMV

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