キニナル君が行く!

キニナル君が行く! 第2回 [バックナンバー]

「レコード会社」と「レーベル」の違いって何? メジャーデビューの定義は?

元unBORDEレーベルヘッド、現The Orchard Japan代表の鈴木竜馬さんがわかりやすく解説

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メジャーとインディーの違い

──メジャーデビューってなんとなくすごいイメージがあるんですけど、メジャーとインディーって何が違うんですか?

意外と知らない人が多いんだけど、世界基準でのメジャーレーベルって3つしかないんだ。ソニーミュージック、ユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック。これはグローバル3大メジャーと言われているところで、ビクターだったりポニーキャニオンだったり、日本でメジャーと考えられているレコード会社は、厳密に言うと最近は「ドメスティックメジャー」とか「ローカルメジャー」と呼ばれていて、海外の人にメジャーと言っても通じない。

──そうなんですか……!

今、「グローバル市場に向けて日本の音楽コンテンツ発信のために協力しましょう」ということで、一般社団法人IMCJ(Independent Music Coalition Japan)というインディーズ音楽業界のための団体がいろいろな活動をしているけど、ここにビクターや日本コロムビア、ポニーキャニオンも参加している。要は自分たちがインディーだという認識を持たれているということだよね。

──ドメスティックメジャーの定義はあるんですか? 日本レコード協会の正会員18社がメジャーという意見を見たことがあるんですけど。

メジャーレーベルの定義について質問するキニナル君。

メジャーレーベルの定義について質問するキニナル君。

日本ではそれをメジャーと呼ぶようにした、ということだよね。グローバルの定義としてはメジャーじゃないんだけどね。国内のインディーとメジャーの何が違うかと言ったら、やや崩れつつあるけど、地方に支店を持っているかどうかは1つの定義ではあるかな。例えば大阪のタワーレコードに東京からではなく大阪のセールスパーソンが行ける。全国各地にプロモーションができるというのは、メジャーのアイデンティティとしてあるかもしれない。ただ、今は地方の支店を閉じるレコード会社も増えているし、ショップを経由しなくても配信でリスナーに曲を届けられるようになっているから、だいぶ変換期ではあるけど。

──全国のショップにCDを流通できることがメジャーというわけではないんですね。

よくインディーアーティストが「全国流通盤を出します」と言うけど、流すだけなら卸しを使えばできる。流通をしたうえで、フォローアップ……要はプロモーションを全国でできるのがメジャーだね。

メジャーデビューするには

──つまりメジャーデビューすることのメリットって、たくさん宣伝してもらえるということですか?

そうだね。地方のショップへの営業もそうだし、テレビやラジオなどメディアの領域においてもプロモーターがいるのがメジャーレーベルの強さだったりするから、ある程度火が付いたものをよりブーストさせるときにメジャーの力を借りられるのは大きいんじゃないかな。ただ当然その分人も割くしインフラ費もあるから、大きく売れないとアーティストもレコード会社もお互いハッピーにならない。理想はインディーでやりながらチャンスを広げていって、より大きく届けたいときにメジャーレーベルと手を組むのがいいんじゃないかな。

──ちなみに僕はよくメジャーデビューする夢を見るんですけど、僕もメジャーデビューできますか……?

メジャーデビューの夢を打ち明けるキニナル君。

メジャーデビューの夢を打ち明けるキニナル君。

もちろん可能性はゼロではないけど、メジャーレーベルとしては投資をするということだから。「あなたの音源をより多くの人に届けるためにお金をかけるし、人というリソースも使いますよ」という投資。シビアな言い方になるかもしれないけど、それに値するアーティストになれたらってことだよね。そうなるためにはメジャーのA&R(※アーティスト&レパートリーの略。アーティストを発掘・育成し、宣伝戦略を行う職)と呼ばれる人たちの心を動かすいい曲を作るしかない。いい作品を作っていたら可能性はあると思うよ。

──鈴木さんがunBORDEでアーティストと契約するときも、やっぱり曲が一番大事でした?

もちろん。あれもこれも契約するのではなく、僕は百発百中でヒットを作りたかったので、それぞれのアーティストに一球入魂というか、さっきも言ったけど1ジャンル1アーティストに絞っていたよ。シンガーソングライターの高橋優にかける、あいみょんにかける、きゃりーぱみゅぱみゅのキャラクターにかける、みたいに。あとは音楽性のほかにビジュアルもすごく大事なポリシーとして持っていて。スマホで音楽を楽しむ時代になって、YouTubeでの見え方を含めてビジュアルとしても勝てるアーティストというのは意識していた。かまってちゃんのあのぶっ飛んだパフォーマンスは映像があると伝わり方が違うでしょ? きゃりーちゃんもそう。もちろん中田ヤスタカさんの音源は素晴らしいけど、MVのあの世界観があるのとないのとでは伝わり方が全然変わってくる。ビジュアルでも映えるというのは、自分の中で1つのボーダーとして持っていたね。

──掛け算みたいな感じですか? 曲×ビジュアルみたいな。

当時の僕のポリシーはそうだね。今、The Orchardでは全然違う観点でやっていて、むしろいい音源を世に届けたいということだけを主体においてインディーの人たちと向き合っているよ。

The Orchardのマーケットはグローバル

──The Orchardはインディーの人を対象に楽曲配信の手伝いをしているんですね。

基本的にはそう。とはいえ完全に個人のアーティストではなくて、レーベルや事務所を相手にしたB to Bだけど。chelmicoのように、メジャーから移ってきた人たちもいっぱいいるよ。海外ではその潮流が顕著で、エリック・クラプトンの全カタログがうちにきたし、Dream TheaterやThe Smashing Pumpkins、あとは去年の「FUJI ROCK FESTIVAL」でヘッドライナーを務めた元The White Stripesのジャック・ホワイトもそう。すでにファンダムが形成されている人たちは不特定多数へのプロモーションをそこまで必要としないし、そのうえThe Orchardは世界中に音源を流通した先の各国にスタッフがいるので、手厚くサポートができるのが強みなんだ。

──それってメジャーのレコード会社が行っている業務を、配信の領域で、しかもグローバルにやるということですか?

まさにそう。音源を届ける方法がCDから配信に移行したことでデータが可視化されるようになったよね。自分の音源がどこでどの年代の人にどういうふうに聴かれているかをアナリティクスツールで分析することで、国内でも海外でもバズが起きたときにキャッチしてSNSを使ってフォローすることができる。そういう一連のサポートをできるのがThe Orchardということになるかな。我々の理念は「いい音楽をテックの力を使って世界中に届ける」ということ。国内マーケットだと1億2000万人だけど、世界中の80憶人に対して届けることができたら、配信の単価が安いと言われていても実質的にアーティストにトータルとして入ってくる金額は大きくなるよね。マーケットは完全にグローバル。そういう意識を持つと、メジャーやインディーという領域じゃない視点で音楽活動を考えることができるようになるんじゃないかな。

──確かにそうですね。僕もがんばります! 今日はありがとうございました!

鈴木竜馬プロフィール

1969年生まれ。ワーナーミュージック・ジャパンにてRIP SYLMEやBONNIE PINKのA&Rを担当したのち、2010年に新レーベルunBORDEを立ち上げる。設立時の所属アーティストは神聖かまってちゃん、androp、高橋優、RIP SYLMEら。その後きゃりーぱみゅぱみゅ(現在は移籍)、あいみょん、ゲスの極み乙女。、WANIMAらも所属し、2010年代の音楽業界を牽引するレーベルに成長させる。現在はデジタルに特化した音楽配信会社・The Orchard Japanにてシニア・ヴァイス・プレジデントを務める。
The Orchard - Music Distribution
The Orchard Japan (@JapanOrchard) / X

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