ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.2(前編) [バックナンバー]
UMB、KOK設立の立役者:漢 a.k.a. GAMI
アンダーグラウンド発のリアルなバトルスタイル
2023年10月17日 19:00 15
ラッパーの
プレイヤーとしてだけではなく、“仕掛け人”としてもバトルシーンを牽引してきた漢。前編では、KEN THE 390が所属していたDa.Me.Recordsとの関係性、BBPや初期のMCバトルについてエピソードを語ってもらった。
取材・
しょっちゅうやり合ってたMSCとダメレコ
──連載の第2回は、2005年に「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)を立ち上げ、現在につながるバトルシーンの基礎を築き、現在9SARI GROUPの代表として「KING OF KINGS」を運営している漢 a.k.a GAMIさんをお招きして、KEN THE 390さんとの対談でお話を伺えればと思います。
KEN THE 390 僕と漢さんが最初にバトルで当たったのは、確か「お黙り!ラップ道場」(UMBの前身となったMCバトル大会)だったと思うんですよ。
漢 a.k.a. GAMI UMBの前にも当たってるんだっけ?
KEN 僕は「お黙り!ラップ道場」で準優勝して、その流れでUMBに出場したんですよ。
漢 じゃあ「お黙り!」でも当たってるかもね。
KEN よく考えたら「お黙り!ラップ道場」というのも、すごいイベント名ですよね。テレビ番組の「お笑いマンガ道場」が元ネタになってるのは、今じゃ伝わりにくいかも(笑)。
漢 完全にふざけてたからね。
──漢くん率いるMSCと、KENくんの所属していたDARTHREIDER率いるDa.Me.Records(ダメレコ)は、2000年代中盤はさまざまな場所でバトルやフリースタイルセッションを展開していましたね。
漢 ダメレコと俺らがイベントでかち合えば、オープンマイクやバトルでしょっちゅうやり合ってたよね。本当に数え切れないくらいぶつかってた。
KEN 世代も近かったし、お互いに人数が多いクルーというのもあったかもしれないですね。
漢 そうだね。「また出てくるのか! まだ出てくるのか!」って感じだったよ。「KEN THE 390まで長えな」みたいな(笑)。
KEN 当時はバトルのメンツとライブのメンツが近かったから、ライブにしろバトルにしろ、イベントで一緒になることが多かったんですよね。だからオープンマイクになると、バトルの延長戦が始まったり。
漢 その積み重ねで因縁ができたりね。
KEN 続きを楽しみにしてる人もけっこう多くて。
漢 言い方は悪いけど、ダメレコは勇気があったよね、俺らに突っかかってくるんだから(笑)。
──はなびのような元プロボクサーがダメレコにいたとはいえ、「ストリート」と「文系」の両極な感じはありましたね。
漢 でも、ダメレコ勢も「あ、この人たちはむやみに腕力を振るわないな」ということが、やってるうちに肌感覚でわかったと思うんだよね。
KEN 僕らも一線を越えるような「言ったらトラブルになるような内容」はラップしなかったし。
漢 いや、「さすがに今日のはひどくないか!? それは言いすぎだよ、KEN THE 390!」みたいなことはあったよ(笑)。
KEN ははは!
漢 大和民族のインダラはかなり手を振ってラップするタイプで、その手がMSCの誰かに当たって「この野郎!」となったときもあった。それを俺が制止しにいったら、余計にステージ場がワチャワチャになったり。
KEN 漢さんがステージから人を投げ飛ばしてましたよね(笑)。
漢 「インダラもわざとじゃねえんだから」って俺は止めに入ってるっつーのに、みんな収まらないからさ(笑)。俺は深くは知らないけど、メシアTHEフライ(JUSWANNA)とKEN THEは、周りが心配になるくらいやりあったりしたときもあったでしょ。
KEN そうですね。
漢 でも結局は言葉で、ラップで、お互いに技術を磨き合ってたと思うんだよね。あと、DARTHREIDERは、あいつはあいつでちょっとぶっ飛んでる部分があるし。
──一緒に「月刊RAP」の冊子を作ってたときに痛いほど感じましたね(笑)。
漢 俺とDARTHREIDER(という両陣営のトップ同士)は、超アンダーグラウンドな現場での遭遇率も高かったんだよね。「こんな現場にいるの?」とか「そんなやつといると……あーあ」みたいな、あいつなりに痛い目にも遭って、いろんな学びがあったと思うし、俺らと関係が深まることでも、いろんな経験をしたと思う。だから肌感覚で「漢にはこれくらい言っても大丈夫だろ」みたいなのもあったのかな。それに(DARTHREIDERの真似をして)「ダメレコの社長として俺が行くぜ!」みたいな気持ちもあったと思うし(笑)。それがみんなに伝播してダメレコ勢に勇気を与えたんじゃない?
KEN でも「やめてくれー」と思う瞬間もありましたよ。ライブのMCで漢さんが何か言ったら「あれは俺のことじゃねえか!」ってステージに上がろうとして「いや、今のは絶対違うから!」と俺らが止めたり(笑)。
超ギラついていた現場とゲリラマイク
──ちなみに、漢くんがMCバトルの存在を知ったきっかけは?
漢 学生パーティからチーマー系のパーティまで含めて、10代の半ばくらいからいろんなパーティに顔を出すようになったんだけど、そこでラップをやるやつらがちょいちょい出てきたんだよね。
──90年代半ばの東京のシーンはそうなっていたと。
漢 ストリート的なちょっとコアなパーティになってくると、スキルのある、ヒップホップに対する知識のレベルも深い、ちゃんとアンダーグラウンドな感触のある、わかりやすく言うと“本物っぽい”雰囲気を持ったラッパーが登場するようになって。そういうやつが出てるパーティのショータイムのときに、出番が前後だったグループがケンカを始めたんだ。でも暴力で戦うんじゃなくてラップで戦うような、マイクバトルみたいな形だったから、「お! なんだそれ!」と驚いたんだよね。それが最初に生で見たMCバトルだったかも知れない。
KEN 「生で見た」ということは、それまでにMCバトルに対する知識はあったということですか?
漢 「そういうものがあるんだな」というのは知ってたかもね。10代の頃は音源だけじゃなくて映画とかビデオ……当時はVHSも情報源だったけど、そこにフリースタイルやバトルの映像が入ってたりして、それで「そういう方法論もあるんだ」と知った気がする。当時はそんなにビデオも種類がなかったから、おそらく俺が観たのと同じような映像をみんな観てたと思うし、そこでバトルのイメージが共有されてたのかもしれない。
KEN もしかしたら、同時多発的にバトルが行われていたのかもしれないですね。
漢 かもね。不良でもヒップホップの知識がすごいやつ、コアに歴史や文化を掘ってるやつはいたし、その中でラップバトルが手探りで形になっていった部分もあると思う。いわゆるオープンマイクの時間も、俺が行くようなイベントで始まってたんだけど、当時は超ギラついてたよ。出るやつはみんな自分の見せ場を探してたし、周りを圧倒したいからケンカ腰にもなるし、セッションというより、自分の主張を押し出す感じだった。俺たちはそれだけじゃ足りなくて、それこそゲリラマイクもやってたし。
──いわゆるマイクジャックやライブジャックですね。
漢 ライブ観てて「しょぼいなー」と思ったら、ライブをジャックしちゃうっていう(笑)。それは俺たちや、般若のいた妄走族、それから当時は朧車(OBORO)だったKEMUIとか。
KEN 宇多丸さんと漢さんの対談(引用:【漢 a.k.a. GAMI × 宇多丸】RHYMESTER結成秘話からラジオパーソナリティ、日本初のフリースタイルバトル、今のシーンに思うことなど。黎明期からシーンを見てきた男の人生を紐解く!)で、FG(FUNKY GRAMMAR UNIT)のイベントでフリースタイルを観ていたと話されていたのは意外でした。
漢 FGのフリースタイルやMCバトルは衝撃的だったよ。エンタメというか、人を盛り上げようとしていたし、ショーとして成り立ってた。俺らのバトルやゲリラマイクは、「俺の方がカッケーだろ! スキルあるだろ! 強いだろ!」みたいな主張ばっかりだったし、それを見せたかったんだよね。だから、FGのフリースタイルでも内容や考え方の違いには驚いた。今になればそういうふうに言語化できるんだけど、当時は純粋に「すげえことやってるな」と。渋谷FAMILYにコアなファンが集って、KREVAとMCUのバトルを観て盛り上がってるというのは、興味深い状況が生まれてると思ったし、自分も単純に楽しく観てた。ただ、それが「カッコいい」かというと、ちょっと違ったよね。
KEN 美学の違いですか?
漢 そう。FGのイベントでやってたバトルは、純粋に100%の即興ではなかったと思うんだよね。もちろん、すごい技術のフリースタイルではあるんだけど、すでにそのときには1つの型になってたと感じてた。それは「B-BOY PARK」(BBP)のMCバトルで、KREVAやほかのKREVAフォロワーのラッパーからも受けた印象で。俺はもっと自由な形でやりたいと思ってたから、求めてるものが違うんだろうなと思ってたね。
KREVAとはまったく逆のスタイル
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漢さんと対談しています📝
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