細野ゼミ 補講2コマ目 [バックナンバー]
「細野さんと一緒に聴こう話そう」安部勇磨編
安部勇磨のセッション苦手意識は克服すべきものなのか? 名曲にまつわるエピソードとともに検討する
2023年9月15日 20:00 30
細野晴臣に問う「どうやって曲を作ってるんですか?」
──デイヴィッド・T.ウォーカーからセッションの話になって、相当時間が経ちました(笑)。
安部 じゃあ次の曲に。レス・ポール&メリー・フォードの「Jazz Me Blues」。なんでこんなギターの音が出るんだろうね、素敵だな。
レス・ポール&メリー・フォード「Jazz Me Blues」
ハマ カッコいいよなー。
細野 意外なものが出てきたな。レス・ポールは以前はとてもポピュラーな存在だったんだ。ヒットチャートをにぎわせていた人。僕が小学生の頃にテレビが初めて家にきたんだけど、コマーシャルでは洋楽ばかりが使われていたんだ。その中にすごく音楽が印象に残っているCMがあったんだけど、それもレス・ポールの曲だった。そういう体験が刷り込まれているから、いまだに大好きだね。意識してレコードを買ったのは20代の頃だけど。
ハマ ジャンル的になんて呼ぶんでしょうね、レス・ポールの音楽って。ジャズギターっていうのかな。
細野 もう、“レス・ポール”がジャンルだよね。彼は、もともとカントリーをやってたんだ。それからジャズトリオを作って。トリオのときの音源もたくさんあるよ。で、セッションの音ではなくて、レコーディングの音なんだよね。
──レス・ポールは多重録音を始めたことでも有名で、レコーディング芸術の走りという評価もありますよね。
細野 だから“テクノの元祖”とも言えるというかね。
安部 こういう音楽を聴くと、「昔ってすごいな」って思う。このレベルの音楽がお茶の間にあったって……豊かというか、心が弾むし、なぜか懐かしくなります。で、次はドロシー・アシュビーさんの「Moonlight In Vermont」です。違うアルバム「Afro Harping」の曲もかけていいですか? そっちはもう少しビートが入ってくる。
ドロシー・アシュビー「Moonlight In Vermont」
ドロシー・アシュビー「Afro Harping」
ハマ カッコいい系じゃない? 黒人映画のサントラみたい。カーティス・メイフィールドの「Superfly」とか、アイザック・ヘイズの「Shaft」とかも聴いてみたら? マーヴィン・ゲイとか。けっこうこういうインストいっぱい入ってるよ。
──サンプリングソースとして、ヒップホップファンには有名なハープ奏者です。
安部 細野さんはこれを聴いて、どういう国が思い浮かびますか?
細野 え、国?(笑)
安部 僕の中では、ヤシの葉が揺れている南の島で、体がだらしないおじいさんが汗びしょびしょでふざけて踊っていて、その横でお姉さんがブラジャーを外して寝そべって背中を焼いている。で、お酒が入ったグラスが“カラン”って鳴って……みたいな、ちょっと怪しくてセクシーなイメージを思い浮かべるんです。
細野 想像力が豊かだね(笑)。寛容な気持ちで言えば、まあ、南の風が吹いている……ような……? まあ特殊な曲だね(笑)。
ハマ あははは。俺が聴いた感じでは「南国でお姉さんが~」みたいな“外感”はないけどな。逆にこの曲、全然クーラーがついているよ。
細野 確かに(笑)。でも、イマジネーションがすごいよ。僕、そんなこと考えたことがない。
安部 え! ……じゃあ聞きますけど、お二人はどうやって曲を作ってるんですか?
ハマ 「じゃあ、どうやって曲作るんスか!」だって(笑)。ちょっと強めに問い詰めてる感あったけど、どうしたの?(笑)
安部 例えばさ、「こういう雰囲気の曲、作ってみよう」と思ったときに、リズムから思い浮かぶとか、景色が思い浮ぶとか。っていうのも、この前、細野さんのラジオ「Daisy Holiday!」で僕の曲を聴いてもらって、「これはトロピカルですか?」って聞いたら「トロピカルではないなあ」って言われたから(笑)。
細野 僕はビジュアルはダメなんだよ。音についてしか考えてないね。でも“音のビジュアル”はある。スタジオの景色とか、マイクの位置とかだけど。
安部 歌詞も曲に引っ張られて書くんですか? 先に風景を思い浮かべて歌詞を書いたりすることは?
細野 前はやっていたよ。横浜の中華街を思い浮かべたりね。今はもう音だけになっちゃってるな。音像と、音色と、音の世界の広がり。自分のソロの曲のときとかはそうだけど、松本隆が歌詞を送ってきたりするときは詞の世界をもとに音を作っていくこともある。景色が浮かぶ詞だからね。
セッションは必須なのか? 安部勇磨、まだ悩む
安部 今日はホントにうれしい話が聞けました。というのも僕、細野さんはどんなものからイメージやインスピレーションを受け取って曲を作っているのか知りたかったので。
細野 僕の場合はすごく抽象的なんだ。感覚の世界の話だから、言葉じゃ説明できないな。
ハマ 勇磨にはロジックがあるから、言葉にできてるんだよね。
細野 それはうらやましいことだよね。
安部 ……絶対にそれは嘘だ!(笑) だって「細野ゼミ」で話を聞けば聞くほど、2人は感覚的なんですよ。でも僕は感覚的にできなくて。言語化されないと「なるほど」までの道筋がわからない。それなのに2人は「感覚だから、感覚だから」ってさ。「くっそー、その感覚を教えてくれ!」って思うんですよ(笑)。
細野 ごめんなさい(笑)。でも言葉にできないこともあるんだよな。まあ人のことはどうでもいいんじゃない。自分ができてるんだから。
安部 じゃあ質問しますけど、細野さんって、曲を作っていて悔しさを感じる瞬間はまったくないんですか?
ハマ 曲を作ってて、悔しさを感じるの?
細野 何が悔しいの?
安部 僕はもう、ずっとあるんです。いろいろと……具体的な何かとかはわからないですけど。
ハマ 感覚じゃん、めっちゃ(笑)。説明してくださいよ、それを。
安部 世界には素晴らしい曲がたくさんあるでしょ? 今だって生まれ続けてる。でも「僕にはそんな曲作れない!」ってなる。それなのに2人はいつも「まあ、作りたいから作った……かなあ?」みたいな。だから僕はホント、それを2人の口から聞きたい。「人気出たい!」「聴いてほしい!」って思ったこととかありますか?
ハマ 少なからずはありますよ、もちろん。曲についても、「別に誰にも知られなくていいや」とかはないよ。「聴いてほしいな」って思う。
細野 YMOは、そう思ってやっていたからね。
安部 はああ、そうですか……でも2人は感覚的でしょ。だから自分が打算で動いている感じがしていて、僕はなんて閉鎖的で、内弁慶な人間なんだろうって罪悪感に駆られるんです。僕はメンタルが弱いから、こんなことを気にしちゃうんだよな。
ハマ 強いと思うよ、逆に(笑)。でも、俺も似たようなことを思うことはあるな。同業者でKenKenとかを見てると、自分もいろんなところに顔を出したりしなきゃダメなのかなって思う。あの人はセッション大好き人間だから。でもやっぱり、さっきの勇磨のセッションの話もそうだけどさ、嫌ならやらなくていいじゃん?
細野 全然必要ないよ。ホントつまらないから。
安部 違うの! そんなことないの! やりたいの! だって2人とも“セッションできる人じゃないとわからない領域”みたいなもの、知ってるんでしょ?……ダメだ、悩み相談会みたいになってる(笑)。
細野 勇磨くんさ、一番大事なことは曲を作ることなんじゃないの? 曲作りの視点からすれば、ただ演奏だけやったってなんの意味もないよ。それにホントに好きな曲があるとしたら、まずはそれをみんなでコピーしてみるのもセッションなんじゃないかな?
安部 その言葉に甘えていいのかな。
ハマ セッションを崇高なものと捉えすぎているよ。
安部 違うの? 音で会話しているわけでしょ?
細野 でも、結局はパターンに陥っているんだよ、みんな。ともかく「
一同 あはははは!
細野 歴史的にセッションが新鮮だった時代はある。さっき話した通り、ロック的には60年代末あたりに「Super Session」とかに憧れてみんなやり出した。でもそんなに続かなかった。今なんて誰もやってないと思うよ。なぜなら、曲がよくないと演奏家としても面白くないじゃん。だから曲を作るのが大事なんだよ。一番、何よりも。演奏はその次だよ。
安部 心が軽くなった……お二人からすればバカバカしいことかもしれないんだけど。
ハマ だからこそ、新鮮で面白かった。
細野 でも、ホントに今まで考えたこともなかったな。
安部 ほら細野さん、またそういうこと言うじゃないですか! それが僕を傷付けるんですよ!!(笑)
ハマ でも逆のもあったじゃん。「南国で~」ってやつ。ナチュラルに思考がそんなふうに動くのは、俺からしたらすごいなって思うよ。
安部 くっ……悔しい! でも僕は大満足ですよ。皆さんと曲を聴けて楽しかったし、幸せでした。
ハマ まるでゼミを辞めるみたいになってるし(笑)。内容が選曲に伴っていないけど、よかったね。
細野 ホントに曲があまり関係なかった。
──でも1曲目のときに、「これ、セッションだね」という発言からこの流れが始まっていますから。これもトークセッションということで。
細野 そうだ、ハマくんが言い出したんだ。
ハマ 勇磨は言葉で説明したいし、されたいタイプだというのもわかって。
細野 教えてるつもりだったんだけどな、今までは。
安部 自分でも思うよ。細野さんがいろいろ教えてくれているのに、さらにまた言語化しろなんて、ヤらしい人間だなって。
ハマ 野暮を承知のうえで言ってたんだね(笑)。
プロフィール
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。2023年5月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」が発売50周年を迎え、アナログ盤が再発された。
安部勇磨
1990年東京生まれ。2014年に結成された
ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
バックナンバー
細野晴臣 Haruomi Hosono _information @hosonoharuomi_
【連載】「#細野ゼミ」補講開講中
今回のテーマは「ゼミ生が細野晴臣と一緒に聴きたい&話したい曲」 ブラジル音楽の話をしていたはずが話はどんどん脱線
安部勇磨くんのセッション苦手意識は克服すべきものなのか検討してみた🎸
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#細野晴臣 #安部勇磨 #ハマ・オカモト