おんがく と おわらい 第8回 [バックナンバー]
ニッポンの社長・辻×トリプルファイヤー吉田靖直 インタビュー
通じ合う2人が実現させるかもしれない、音楽とお笑いの完成形
2023年5月31日 18:30 20
音楽とお笑いの密な結節点をさまざまな角度から探るこの連載。今回は、歌詞のみならずエッセイや脚本を執筆し、大喜利などバラエティ番組にも出演する
取材・
トリプルファイヤーの歌詞はコント書ける人の感じ
──トリプルファイヤーとジュースごくごく倶楽部のツーマンライブ「ごくごくファイヤー」が3月に行われましたが、対バンをしてみていかがでしたか?
辻(ニッポンの社長) もともとトリプルファイヤーのライブは観たことがあって、僕らと雰囲気は真逆のバンドだなと思ってたんですよ。
──確かにステージ上での佇まいとか、衣装や照明は対照的かもしれません。ド派手なジュースごくごく倶楽部に対して、暗めなトリプルファイヤー。
吉田靖直(トリプルファイヤー) 照明の人が「こいつらには青でも当てておこう」とか思ったんじゃないですか(笑)。ジュースごくごく倶楽部にも1曲参加したんですけど、辻さんはインタビューとかで「バンドはウケ狙いゼロでやってます」って言ってますよね。
辻 え、そんなこと言ってた? なんでそんなこと知ってんの(笑)。
吉田 確かにボケてる感じが全然ないなって。ユーモアがある歌詞なんですけど、笑いを取ろうしてる感じじゃない。ライブはポップで、人の明るさが伝わってくるんですけど、「芸人さんがやってるバンド」と聞いて多くの人がイメージするものとは違うから。
辻 ふざける感じでやるのはバンドに失礼やなっていうのがあって。一応言葉を扱ってる職業なんで、歌詞のユーモアは考えてますけど。トリプルファイヤーも歌詞はすごく面白いけどウケは狙ってないから、そこは共通してるんかなと。狙ってないもんな?
吉田 そうですね。
辻 ユーモアにとどめてるというか。狙っちゃうとコミックバンドになる。コミックバンドでもいいんですけど、芸人がそれをやったら寒いなとは思ってたんです。僕がミュージシャンやったら、芸人がコミックバンドやってたらダルいと思うんですよ。お笑いやるんやったらやっとけ、みたいな。逆にバンドマンがM-1にバンド編成で出てきたら「なんかちゃうな」と思うし。楽器を持たずにしゃべりだけで出てきて面白いならいいと思うんですけど。
──難しい線引きですよね。面白いけどふざけてない、という。この連載でもたびたび話に出ていますが、「面白げな音楽」という意味での音楽と笑いの融合は難しいんでしょうか。
辻 コミックバンドってバレへんかったらカッコいいと思うんすよ。Sex Pistolsとか、実は演じてただけみたいな感じじゃないですか。
──ああ、「ザ・グレイト・ロックン・ロール・スウィンドル」というドキュメンタリー映画やアルバムもありますもんね。プロデューサーのマルコム・マクラーレンが描いた絵図にメンバーは乗っかっていただけ、というか。
辻 そうそう。騙しきったらカッコいいと思うんです。「俺ら本当はコミックバンドだぜ」みたいな。THE TIMERSもカッコいいですよね。忌野清志郎さんによく似たZERRYの正体をみんな知ってるという。ああいう、それまで誰もやっていなかったようなやり方で突き抜ければカッコいいっすよね。
──トリプルファイヤーの歌詞について吉田さんに以前取材させていただいたとき、「『パチンコがやめられない』とか誰も歌ってないし、うまくいけば先駆者になれるかもと思った」とおっしゃってました。歌詞の面白さについてどのように意識していますか?
吉田 一応「自分が本気で思っていることを書く」というのがあって、それで聴いた人が笑ったりするのは別にいいです。「なんでこんなこと言ってるんだ」という感じで自分でも面白くなることはあるんですけど、本当に思っていることならセーフという線引きですね。
──「小手先で笑わせにいったらダメだ」と。
吉田 まあ、でも思ってないことを歌ってるときもたまにありますけど。
辻 わかるよ(笑)。線を引くってなると難しいよな。
──演奏中にお客さんの笑いが起こるのはうれしいですか?
吉田 狙いに行くわけではないですけど、「ここで笑いが起こるだろうな」と予想している場合もあります。笑いが起きたらちょっとうれしさもありますけど、どんどん笑わなくなっていくんですよ。それでライブのよさが減ったと思われたら嫌だなって。
──最近のワンマンは、笑うよりも没頭して聴いている人のほうが多い印象があります。初見のお客さんのほうが笑ってますよね。
吉田 あと、初期の曲のほうが笑う人が多いですね。「ちゃんとしないと死ぬ」という曲の「ドラッグをやってる奴はクズ」っていう歌詞でウケるときがあって。これは別に思ってることじゃないんですけど、自分と関係ないことを突然言い出すのが面白いなっていう。単にワードで笑わせてるわけじゃなくて、自分との距離感の表現だから、まあいいかなと。
辻 トリプルファイヤーの歌詞の構成は、ネタを作れる人の感じやなと思いました。大喜利じゃないけど、歌詞の順番とか展開に構成力がある。特に「トラックに轢かれた」は、1個面白いものを見つけてそれをいかに引っ張れるかという部分で、僕らのコンビのネタと似てるなと。あんまり得意じゃない人だったら歌詞をどんどん変えていくと思うんです。
──トラックじゃないものが出てきたり?
辻 はい。「トラック」はそのままで、ほかの要素でもたせるのがコントを作れる人だと思います。
吉田 しつこいのが面白いと思っていて。ニッポンの社長のネタも好きなんですけど、同じことを何回もやってると意味が変わってくる。テクノとかヒップホップみたいな繰り返す音楽をやりたいと思ってたときに、ジャルジャルの「おばはん絡み」っていうネタを観たんです。
吉田 この「おばはん」って言い続けて、だんだん頭おかしいやつになっていく感じがいいなと。リフもずっと繰り返してるとなんか変な気持ちになってくるし。
辻 確かにメッセージ性をこっちが勝手に汲み取ろうとしますよね。「トラックに轢かれた」が10秒で終わったら「ああ、面白いことしたかったんやな」で終わりですけど、あれを2、3分聴いたら「確かにいろんなことがあってもトラックに轢かれたらおしまいや」と思えてくる(笑)。こっちが深みを探すというか。
──それがミニマルな音楽性と合致してますもんね。すごく展開する曲だったら、歌詞の捉え方も変わるでしょうし。
辻 歌詞と曲含めて癖にさせる音楽なんですかね。
吉田 ずっと同じことやってると、ヤバい人っていう感じになるじゃないですか。ニッポンの社長のシャチのコントも、繰り返しですよね。
吉田 しかも展開が全然変わらない(笑)。音楽でもお笑いでも、同じ感じにグッとくるときがあって。やっぱり繰り返すのがカッコいいし、興奮するし、面白い。ちゃんと構成されてる音楽やお笑いには、その高揚感はあんまりないですね。
辻 洋楽の歌詞って英語がわからないと意味が通じないじゃないですか。僕は洋楽をよく聴くんですけど、歌詞の意味は調べないんですよね。だから洋楽好きな人のほうが入りやすい可能性があるんかなって。僕もわけわからん歌詞を書くんですけど。「入玉したいよ」とか。将棋用語ですけど、別に将棋なんかわからなくていいと思って書いてるんですね。歌詞って、ダサくなければなんでもいいと思うんですよ。
──辻さんが思うダサい歌詞ってどういうものですか?
辻 「あなたが好きだ」という歌詞を「あなたが好きだ」という気持ちだけで書いちゃうやつですかね(笑)。それが似合う人やったらいいんですけどね。ウルフルズさんがあえてストレートにやってるのとかはカッコいいんですけど、なんにも考えずにパッとやってるのもあるじゃないですか。で、それがめっちゃ売れたりするじゃないですか(笑)。中高生に人気っていうのはそういうことなんかなって。
──確かに「トラックに轢かれた」を聴いてこっちが深読みするのとは真逆ですもんね。
辻 「あなたが好きで~」みたいな歌詞は、文章やと思うんですよ。「トラックに轢かれた」は音楽に乗らないと意味が出てこないから、歌詞なんですよね。洋楽の意味を調べないのと同じで。
吉田 歌詞って本当にそうあるべきだと思うんですけど、「今後もそれでやっていけるのかな」って不安になってきました。この先「これ文章やん」と思われるんじゃないかって……。
辻 大丈夫やろ(笑)。
ラブソングとの距離がとれない
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