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細野ゼミ 補講1コマ目(後編) [バックナンバー]

ソウルミュージック補講

細野晴臣の音楽性はなぜ変化していくのか? バンドにおけるレコーディング論とともに探る

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バンドは勉強になる

──そもそも細野さん自身がバンド出身であることも、プロデュースワークで生かされているんでしょうかね。

細野 そうかもしれない。バンドは勉強になるんだよ。

ハマ トロピカル三部作(「トロピカル・ダンディー」「泰安洋行」「はらいそ」)を作っているときに感覚が異なるスタジオミュージシャンとかを呼んでいたら、いろいろ質問されていたでしょうね。「これってどういうこと?」「この弾き方で合ってるの?」「さっきまでラテンっぽかったのに、急に民族音楽みたいなのはどういう意味?」みたいな。

細野 そういう会話は全然したことがなかったな。

ハマ 「そんなこと説明するのが一番面白くねえな」ってなっちゃう気がしますね。あれは、あのメンバーで録っていたからできたのかもしれない。

安部 基本的にはコード進行だけみんなに伝えて、「ちょっとやってみよう」って感じで作っていたんですか?

細野 まあそうね。譜面で“行き方”だけ伝えてね。リピート、ダルセーニョとかを書くわけ。それでコードを書いて、「ここは1拍食う」とかね。ハイフン付けて。

ハマ だとしても、「Choo Choo Gatagoto」をそうやって演奏するってすごいですよね。

安部 うん、それでまとまってるっていうのがすごい。僕の場合、自分が「このアプローチでいきたい」と思って、バンドメンバーが違うものからの影響を入れてきたりすると、それがいい意味で混ざるといいんだけど……細野さんがおっしゃる通り「そこも含めて面白くなるかも」とは思いつつも、「このアレンジは絶対に違うんじゃない?」と言ってしまう自分がいる(笑)。細野さんの三部作とかを聴いていると、「あれだけいろんなミュージシャンがいて、なんでああいうふうに曲を作れるんだろう」って。自分の体験としてはないことだから、すごく不思議。

細野 今やれって言われたってできないよ。あの時代だからできたことで。

ハマ 俺はプレゼンはするよ。みんなにリファレンス音源を聴かせて、「ちなみに自分はこういうふうに弾いていました」って。で、相手からもそういうのが出てくることもあるじゃない。その場合はどっちのアイデアがハマるかを考えはするものの、それこそ細野さんが言ったように、「できることしかできない」っていうか。「確かにこの感じがいいからやってみよう」でできることもあれば、「そういう音楽を聴いてきてないし、そもそもあんまりいいと思っていない」ってことになることもある。で、そういう人に無理やりやらせてもよくない。そうなると、プレゼン力がある人が勝つよね(笑)。

安部 そうだよね。

細野 歌謡曲の仕事とかがそうだったけど、オールマイティなスタジオミュージシャンを集めてやるときは、もう少しコミュニケーションを取るけどね。でも、バンドっていうのは情報量がそれほど多くなくていいわけだ。特に70年代はそういう時代だったし、それが普通だったんだよ。だから、今あれをやるとなっても難しい。ブギウギのバンドなんかは、自分自身もブギウギをやったことないし、メンバーもみんな知らないわけで、試行錯誤でやっていたんだよ。それがまた面白かったんだよね。

ハマ 細野さんも含めて、「みんなで知っていこう」みたいな感じか。

細野 そう。初めてだったから、最初は音にはならなかったね、もちろん。

誰でもできるようになると面白くない

安部 またソウルとは関係のない話なんですけど、細野さんって、1つのプロジェクトを終わらせて別のプロジェクトを始めるとき、どういう感覚なのか知りたくて。「もうやめどきだな」とか「つまらなくなってきたな」とかなのか、「なんか違ってきたよね?」みたいなテンションなのか。例えばですけど、「はっぴいえんどを残しながら違う音楽をやってみよう」という話にはならなかったんですかね? あるいは、「電子音楽をそのままはっぴいえんどでやってみよう」とか。

細野 はっぴいえんどの頃は、電子音楽を作ろうなんて全然考えてなかった。はっぴいえんどってバンドは、どちらかといえばカントリー系だったんだよ。でもそのうちに、僕が林立夫とか鈴木茂とか、周りの人間と一緒にビリー・プレストンとかブラックミュージックを聴き出したわけ。それで、ああいう要素を取り入れたソロを作ろうかなと思って。それでも半分はカントリーだから、大きくは変わってないつもりなんだよね。そこから先は変わっちゃったわけだけど。

ハマ 「新しく目についたものを、今やっているバンドでやってみよう」というのと、ソロでのそういう方向性が、混在しているってことですよね。

細野 そう。だから、スパッと変わるわけじゃないんだよ。ただ、長い間音楽やバンドをやっていると、「あれやりたい、これやりたい」がいっぱい出てくるじゃない。そして「やっとこれができる!」とやってみたものがそれまでとテイストの違うものだったりすると、傍から見ると急に変わったように見えちゃう。最近もそうなんだよ(笑)。

安部ハマ はははは。

ハマ リスナー側は、その思いはわからないですからね。やっぱり「やりたい!」っていうのは、全然新しいプロジェクトを発足させる前からあるわけで。

細野 そう。機運が高まってきたりしてね。そういう意味では、特にこの3年間は難しかったよ。つい2、3年前に考えていたことが今はもう違うから。どういうアルバムを作ったらいいか、まだわからないんだよ。

ハマ 次作に関してはたびたびお話しされていますよね。「次はどうしようか」って。

細野 うん。例えば最近、SKETCH SHOWとか(高橋)幸宏のアルバムをずっと聴き直しているんだよ。SKETCH SHOWの活動期間は2年間くらいかな。本当にのめり込んでやっていたんだよね。ノイズを“チリチリ”いわせて(笑)。そのあと別れて、幸宏はソロを作り出したわけだ。最近、SKETCH SHOWが終わったあとの初めての幸宏のソロの「BLUE MOON BLUE」ってアルバムを聴いていたら、SKETCH SHOWをより洗練させてカッコよくしたような作品なんだよね。で、僕が何をやり始めていたかというと、SKETCH SHOWとはまったく違うことをやり始めたんだ。

──細野さんのSKETCH SHOW後は、アルバムで言うと「FLYING SAUCER 1947」です。このあたりからブギウギに至るまでの流れが始まっていきます。

細野 なんで僕が全然違うことを始めたかというと、SKETCH SHOWの後半あたりになると、いろいろなアプリがリリースされて、エレクトロニカが定番になっちゃった。要するに誰でもできるようになってしまったわけ。そうすると面白くないんだよ。特にああいう音楽は、手作り感が必要だったからね。だからアプリがたくさん出てきたことで、「ああ、もう繰り返しになっちゃうんだな」って思ったわけ。

ハマ 確かに、「この機材を買えばあの音が出る」というのが定番になったら、創作意欲は湧きづらいですよね。「あれ、どうやってやってるんだ?」が大事だった。

細野 そうそう、全然クリエイティブじゃなくなっちゃう。それはファンクのリズムに夢中になったときだってそうで、「どうやってるんだろう?」っていう気持ちから始まっているからね。

──細野さんの取り組んでいく音楽が変化してきた理由が伝わりましたね。安部さん、いかがでしたか?

ハマ 勇磨は、バンドの中での殴り合いとかを望んでいるんでしょ?

安部 いやいや(笑)。なるほどなと思いました。僕、「もうやりきったな」とか、「違うな」とか、ついつい考えてしまうわけですよ。「30代に入ったな」とか、「何歳まで続けるのかな」とかね。そういうのを、細野さんはいつもどうしてきたのかなって。

細野 現実に生きていると外的要因が影響することも多いよ。「これをやりたい」という気持ちだけじゃダメなんだよね。

──とはいえ、「同じようなものが増えてきたから、そうじゃないものを作ろう」と考えて違うことを始めることも、動機としてはあるわけで。

ハマ そう、ホントにその繰り返しもある。一昨年くらいに細野さんと昨今のシティポップブームについて話していて、細野さんはひと言、「わからない」で終わったんだけど(笑)。とはいえ、海外発のシティポップブームってあるじゃない。ああやって広がることはいいことなんだけど、一方で、みんな横一列になっちゃう。その横一列の感じを見てもなお、「ああいうものを作りたい」と思うか、「いいでしょ、もうやらなくて」になるか。

細野 まあ、この時代になると、もう出尽くしてしまっているところはあるよね。僕は大瀧くんが言う“ポップスの外に出たアバンギャルドな人間”だから(笑)、どこかまっしぐらになれないところもあるのかもしれない。ただ、1960年代、70年代のポピュラーミュージックって、ヒットする曲はほかの曲とどこか違ったんだよ。“似てるけど違う”。それがヒットの要因だったわけだ。すごく直接的で……まあ理屈じゃないものがあるわけ。その頃のヒット曲が全部面白かったというのはそういうことで、それに影響されていたわけだ。そういう意味では僕も大瀧くんと同じように、根っこはポップスの人間ではあるとも思うね。

──はい。巡り巡って最終的には細野さんのプロデュースについての話にまで到達しましたが、今回はこのあたりでお時間です。次回以降も、“補講”というフォーマットでいろいろとお話を伺えればと思います。

<終わり>

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

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細野晴臣 | ビクターエンタテインメント
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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsより発表。2023年5月17日に新作EP「Surprisingly Alright」を配信と12inchアナログでリリースする。

never young beach オフィシャルサイト
Thaian Records
never young beach (@neveryoungbeach)|Twitter
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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2023年1月にメンバーコラボレーションをテーマにしたアルバム「Flowers」を発表。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
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読者の反応

Oh!兄さん @Oshiete23ZZ

「そんなこと説明するのが一番面白くねえな」ってなっちゃう気が

「いろいろなアプリがリリースされて、エレクトロニカが定番になっちゃった。要するに誰でもできるようになってしまったわけ。そうすると面白くないんだよ」


横一列で似たり寄ったり クソつまんねぇ

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