アイドルのセカンドキャリアを考える 第5回 [バックナンバー]
十束おとはは自分の“やってみたい”を叶えてまっすぐに進む(聞き手:レナ)
会社に勤めながらMC業などでも活躍……自分を否定せず、謙遜せず、やりたいことを紙に書き出そう
2023年3月27日 16:30 76
元
大学卒業後に一度は就職を経験し、2015年にフィロソフィーのダンスに加入した十束。彼女は現役時代からアイドル活動と並行して大好きなゲーム関連の仕事もしており、現在は裏方としてeスポーツ関連の会社で勤務する傍ら、ゲーマータレントやMCとしても活動している。今回は十束にアイドル時代を振り返ってもらいつつ、現在の仕事に就いたきっかけ、今後の展望について語ってもらった。
取材
でんぱ組inc.さんみたいになれるかもしれない
レナ 十束さんは大学卒業後、社会人経験を経て、フィロソフィーのダンスの一員としてアイドル活動をスタートさせたわけですけど、もともとアイドルになりたいという気持ちはあったんですか?
十束おとは いえ、芸能界自体に興味がなかったんですよ。大学時代は授業を受けたりアルバイトをしたり本当に普通の学生でした。ただ当時からアイドルは好きだったので、ライブや特典会には足を運んでいて。
レナ ちなみにどんなグループが好きだったんですか?
十束 でんぱ組.incさんやDorothy Little Happyさん、私立恵比寿中学さん、ももいろクローバーZさんなどですね。アイドル黄金期みたいな頃にオタクをやっていたので、どちらかと言うとお布施をする側として大学時代を過ごしていました(笑)。
レナ アイドルを応援する立場だったんですね。ちなみに大学卒業後はどんなお仕事を?
十束 会社が合わなくて辞めたと公表しているので詳しくは言えないんですけど(笑)、すごく大きな会社で働いていました。自由な社風の会社ではあったんですが、自分には合わなくて。
レナ そっか(笑)。フィロのスにはどうやって加入することになるんですか?
十束 フィロのスのオーディションは履歴書がいらなかったんですよ。加茂(啓太郎)さんという方がプロデューサーなんですけど、そもそも募集の告知にも加茂さんの写真だけドンッと出ていて「アイドルになりたい子募集中」みたいな。今思えばすっごく怪しいオーディションでした(笑)。
レナ それは怪しい(笑)。
十束 ただ、加茂さんはでんぱ組inc.さんをすごく好きな方なので、「この人のグループに入れば、でんぱ組inc.さんみたいになれるかもしれない」と思って。
レナ オーディションはどういう内容だったんですか?
十束 歌とダンス、質疑応答だけでしたね。オーディションで入ったのは私と佐藤まりあだけで、あとはスカウトで入ったメンバーなんです。
レナ 全貌が見えない感じだったんだ。
十束 そう、本当に怪しくて(笑)。オーディション会場の外に看板も出てなかったんです。それで道に迷っていたら、あんさん(佐藤)が通りかかって。声をかけたらすごくいい人で「一緒に行きましょう」と言ってくれて、そのままオーディションを受けて2人で合格したんです。
レナ アイドルを作る、ということ以外は何も知らされていなかったんですね(笑)。
十束 どういう音楽をやるのかも知らなかったので、こうなるとは誰も思ってなかったと思います。
レナ 半分騙されたみたいな?(笑)
十束 いや、半分じゃ効かないかもしれないです(笑)。私は王道のアイドル然としたかわいい楽曲やかわいい衣装を想像していたので。でも今思えばいい意味で期待を裏切られました。
アイドルは“愛され力”が無意識に培われる職業
レナ 実際にアイドルになってみて、社会人経験を生かせた部分はありましたか?
十束 “報連相”をしっかりするとか、目上の人に対して正しい言葉遣いで接するとか、遅刻はしないとか……そういう社会人としてのマナーは役に立ったかもしれないです。
レナ 確かに社会人経験がないとマナーの部分は疎かになりがちかもしれないですね。逆にフィロのスを卒業して改めて社会に出てみて、アイドル時代に培ったスキルが役立ったことは?
十束 役に立つことだらけというか、どんなお仕事も人と人が助け合って成立していると思うんです。アイドルは“愛され力”が無意識に培われる職業だと思っていて、「みんなを幸せにしなきゃ!」というモードに無意識になれる。そのモードで誰に対しても接することができるのは、アイドル活動の賜物だと思いますね。たぶん私はアイドル力を持ったまま墓に入るんだと思います(笑)。
レナ それはすごい(笑)。十束さんのアイドルスイッチは睡眠時間以外はオンになってる?
十束 はい。オンのままですね。
レナ 疲れたりはしないですか?
十束 うーん、もうオンの状態が普通になっているんです。アイドルになって気が付いたのですが、私は人に喜んでもらうのが好きみたいなんですよ。それがセカンドキャリアであったり、自分が今後どういう人生を歩んでいきたいかの軸になっていくんだろうなとアイドルを辞めて改めて感じました。
レナ なるほど。
十束 “24時間アイドル”という状態を7年間続けてきたので、自然と「常に誰かに見られている」という意識になったんです。私はアイドルになるまで美容にあまり関心がなくて、美容室に行くのも1年に1回程度だったんですよ。でも、アイドルになってからは「自分がかわいくなることが楽しい」と思うようになって。客観的に自分がどう見られているかを考える力が身に付いたのはアイドル活動があったからこそだと思います。
レナ 確かにオンの時間のモチベーションを保つのは難しいですもんね。
十束 そうなんですよ。だから私はファンの方々に育ててもらったと思っています。ありがたいことに今でもSNSとかで褒めてくれるんです。いつか偶然街でファンの方に会ったら「かわいくなったな」と思ってもらえるようにがんばります。
レナ すごい! 私ならスルーしちゃうかも(笑)。応援してくれたファンへの恩を大事にしているんですね。
夢眠ねむに見た理想のアイドル像
十束 ファンの方にはアイドルを辞めてからも「推していてよかった」と思ってほしいんです。私が真っ当な人生を生きて、幸せになることこそがファンの皆さんへの恩返しになると思うんですよね。だからこそかわいくありたいし、しっかりとセカンドキャリアを歩んでいきたいです。
レナ それは十束さんがアイドルを推していた立場だったことも関係があるのかな?
十束 あると思います。私の場合、夢眠ねむさんが永遠の推しメンなんですけど、彼女の生き方はオタクとして報われたし、すごく幸せな気持ちになったんです。だから自分もアイドルをやるんだったらこういう人生を歩みたいと目標にしていました。
レナ 夢眠さんにはどんなアイドル像を見ていましたか?
十束 夢眠さんはすごく情熱を持ってアイドル人生をまっとうしていて、推していて1回も悲しい気持ちになったことがないんです。卒業ライブも大泣きしたけど、最後は笑顔で見送ることができた。お店をやられたり、ご結婚されたり、そういうことも全部ファンに報告していて。その姿を見て「幸せに生きていてくれてありがとう」という気持ちになったんです。人生は続いていくものなので、アイドルを卒業したら終わりではなく、「またどこかで会えたときに誇れる自分でありたい」と思うようになったのは夢眠さんがいたからですね。
レナ 十束さんにとって推しの存在は大きいんですね。
十束 本当に生きるモチベーションになってます。
フィロのス卒業の理由、メンバーの反応
吉田光雄 @WORLDJAPAN
十束 相談できる人がいなかったらDM開放してるので連絡ください。本当に相談に乗ります!
レナ すごい! 女版・吉田豪みたいになってる!
十束 豪さんよりは明るいアドバイスができると思います(笑)。
アイドルのセカンドキャリアを考える 第5回 https://t.co/sT1nndIlhd