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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 12回目 後編 [バックナンバー]

作詞作曲家・星部ショウとハロプロソングを考える

目指せ!JASRAC1000曲登録

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ハロプロソングの特徴「既視感と違和感」

佐々木 YouTubeは視聴者の反応を見ることができるのも楽しいですよね。

星部 そうなんですよ。ハロプロファンの皆さんの耳が肥えてるのがうれしいですね。「何々ちゃんカワイイ!」とかじゃなくて、もっと濃いですよね、コメントが。「ここはあの曲のオマージュなのか!」とか。ちゃんと聴いてくれてるのはありがたいですよね。

佐々木 OCHA NORMAの曲の回では、ハロプロっぽさ3か条を挙げていましたよね。なるほどと思って。1つ目が「ミクロとマクロの行き来」、2つ目が「リフレイン・連呼」、3つ目が「既視感と違和感」。

星部 すべて覚えていただいて(笑)。

佐々木 ハロプロソングの特徴を挙げるにあたって、特に「既視感と違和感」っていうのは、まったくその通りだなって。それにしても、こんなに自分の楽曲を客観的に分析できるのはすごいなと思います。

星部 1つもアーティスティックなところがないですね(笑)。全部意図的にやってるっていう。でも曲に比べて、歌詞は分析して書けない感じがあります。歌詞って書き手の人となりがある程度出ちゃうので、どうしても自分の性格的なものを消し去ることができなくて。曲では自分の個性を消すことができるんですけど、言葉は難しいですね。

南波 でも「ウチらの地元は地球じゃん!」のサビに出てくる「新宿駅ダンジョン」ってフレーズはすごくハロプロ的じゃないですか。「確かにそうだけども! サビ頭でそれを言わんでも」みたいな(笑)。

星部 はははは。そうですね(笑)。

南波 ああいうフレーズって、閃きみたいなものじゃないですか。それすら研究を重ねることで精度を高めることができるんだなと、今お話を聞いて思いました。

星部 ありがとうございます。

南波 これまでもこの連載でコロナ以降、演者の方のモードが変わったという話をいっぱい聞いてきたんですけど、星部さんがYouTubeを始めたのも、やっぱりコロナがきっかけだったんですね。「何かやらなきゃ!」って。

星部 そうですね。「何かやらなきゃ!」とは常に思っていますけどね。職業作家として食べられている人があまりいない中で、お仕事をいただけているというのは本当にありがたいですし。でも反面、こういう状況は長くは続かないだろうと思っています。作家としての仕事がなくなったときに何かできるようにという意味で、筋トレみたいなことをしておかないとヤバいなと思ったんです。

南波 それって音楽ビジネス的な不安ということですか?

星部 業界を憂いているというより、自分が今現在すごくありがたすぎる立場にいるんだろうなという思いが強くて。あと、自分の中にある引き出しが底を突く日が来るんじゃないかという漠然とした不安もありますし。

佐々木 ハロプロ以外のグループやアイドルじゃない人たちにも曲を書きたいという希望はあるんですか?

星部 もちろんあります。男性と女性の曲だとまた違ったりもするし、どちらかというと男性ボーカルのほうが歌詞を書きやすいだろうなって。ちなみに1月にリリースされたKinKi Kidsさんのシングル「The Story of Us」の通常盤のカップリングに、作詞を堂島孝平さん、作曲編曲を私が担当した「Endless Promise」という曲が収録されたんですよ。ジャニーズには以前から曲を書いてみたかったのでこの仕事はうれしかったです。

星部ショウ

星部ショウ

佐々木 やっぱりジャニーズの仕事は特別な感じがしますか?

星部 職業作家的には頂点な気がしますね。もちろんハロプロもすごいですし。女性アイドルと男性アイドルのトップという気がします。

佐々木 両方押さえたら一生やっていけるだろうと(笑)。

星部 この職業に就いたからには目指すべきところなのかなって。

佐々木 星部さんだったら、男性版BEYOOOOONDSみたいな曲も書けそうですもんね。

星部 求められるのであれば、BEYOOOOONDSで培ったノウハウを(笑)。

佐々木 生かせる気がしますよね。

星部 そうですね。何かお役に立てることがあれば。

佐々木 楽曲を提出して実際に世に出るまで、すごく時間がかかることって、作家の世界ではよくあることだと思うんですけど、それって実際どういう感覚なんだろうと思うんです。そのままお蔵入りする可能性もあるわけですよね?

星部 そうですね。実際、「眼鏡の男の子」も世に出るまで5年ほどかかっていますし(笑)。

佐々木 過去に提出した曲が「今度のシングルに入るよ」って突然言われるわけですよね。

南波 あとは、あるグループに書いた曲が、ほかのグループで採用されたとか。

星部 それはよくあるみたいですね。ただ僕はわりと少ないほうだと思います。例えばBEYOOOOONDSに書いた曲はBEYOOOOONDS以外で使えないんで(笑)。Juice=Juiceに使ってもらおうとはならないですよね。

佐々木 グループに特化して書いてるから。

星部 1回ボツになると使えなくなるので難しいところですけど。

佐々木 でもここ最近のJuice=Juiceのシティポップ路線みたいなものを星部さんの曲でやるのも面白そうですよね。いかにもシティポップみたいな既視感がある曲なんけど、そこに忍び寄る違和感というか(笑)。そういうのは聴いてみたいですよね。

星部 ちょいダサ路線にしたいですね(笑)。やや古めのサウンドにしたりして。

仮歌公開は……考えておきます(笑)

佐々木 インタビューの冒頭で、作家として活動していくにあたっての「JASRACに100曲登録する」という目標を達成されたというお話をされていましたが、今後の目標についてはいかがですか?

星部 なんでしょう。なるべく多く、いい曲を書いていきたいという気持ちはもちろんありますけど。

佐々木 でも5年で100曲来ているなら、長く活動されれば、それこそ1000曲も夢じゃないんじゃないですか? 目指せ、筒美京平さんで。

星部 筒美さんは3000曲とかですかね? つんく♂さんは2000曲くらい?

佐々木 筒美さんが一番多いと近田春夫さんの本に出てきましたね。でも歌謡曲の時代はそもそもリリースされる曲自体が多かったから。

星部 コロナが落ち着いたら、ハロプロもリリースのペースが加速したりするんですかね?

南波 ハロプロだと今は1グループ、年にシングル2枚くらいですよね?

佐々木 で、シングルに3、4曲入ってるっていう。

星部 そこのペースが上がっていくと曲数も増えてくるのかなって思いますけどね。

南波 自分は星部さんのいろんな曲が聴きたいので、今後はJASRAC1000曲登録目指してがんばってください。

佐々木 あと、星部さんくらい音楽的な知識が豊富だったら曲作りの先生みたいなこともできると思うんですよ。音楽版のNSC(吉本総合芸能学院)みたいな。そういうことも将来的には全然できちゃうんじゃないかなって。

星部 そうですね。誰かを引っ張るようなプロデューサー的な仕事は向いてないと思うんですけど、教えること自体は好きではあるので。

南波 あそこまで言語化できるわけですもんね。

佐々木 ちなみに自らアーティストとして活動したいという思いはないんですか?

星部 いやー、ないですね(笑)。

佐々木 謎の覆面アーティストとしてデビューするみたいな。

星部 人前で歌うのがそんなに好きじゃないという実感があるので(笑)。50歳くらいで、肩の力が抜けたら突然歌いたくなるのかもしれないけど。

南波 でもご自身で仮歌を歌ってるということなので、僕はそれを聴きたいですけどね。

星部 キーが下がってる状態ですけど(笑)。YouTubeとかで流せばいいんですかね?

南波 ハロプロのイベントでつんく♂さんがサプライズ登場するときは、つんく♂さんの仮歌バージョンが流れていて、みんな「その音源が欲しい!」って言ってましたよね。ハロプロファンは絶対に星部さんの仮歌バージョンを聴いてみたいと思いますよ。

星部 エンディングテーマでしれっと流しておきますかね(笑)。

南波 めっちゃ面白い。いつかこっそり聴かせてください。

佐々木 YouTubeで仮歌特集を。

星部 2015年の作品からドーンと。考えておきます(笑)。

左から佐々木敦、星部ショウ、南波一海。

左から佐々木敦、星部ショウ、南波一海。

星部ショウ

1985年、東北出身の作詞作曲家。12歳でギターに出会い、作曲に興味を持つ。高校卒業後、音楽学校進学のため上京。2015年より作家活動をスタートする。以降、ハロー!プロジェクトを中心に、さまざまなアーティストに楽曲提供を行っている。2020年9月にYouTubeチャンネル「星部ショウのハッケン!音楽塾」を開設。ハロプロ楽曲を教材に、音楽・作曲理論を教える授業を配信中。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。近著に「映画よさようなら」(フィルムアート社)、「増補・決定版 ニッポンの音楽」(扶桑社文庫)がある。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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終わりそうで終わらない、忘れた頃にやってくる音楽ナタリーの南波くんとの連載、星部ショウさんの回。
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