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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 12回目 後編 [バックナンバー]

作詞作曲家・星部ショウとハロプロソングを考える

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続き作詞作曲家・星部ショウをゲストに迎えてお届けする。YouTubeチャンネル「星部ショウのハッケン!音楽塾」におけるマニアックかつ明快な音楽解説も好評を博している星部。後編となる今回はYouTubeチャンネル立ち上げのきっかけや作家としての今後の展望などについて語ってもらった。

構成 / 望月哲 撮影 / 沼田学 イラスト / ナカG

音楽を通じて伝えたいメッセージは1つもない

佐々木敦 BEYOOOOONDSの曲って毎回ユニークな仕掛けが施されていますよね。星部さんご自身の中でも、「こういうことやってもアリだろう」みたいな感じで、あえて新しいことを試しているような感覚もあるんですか?

星部ショウ 普通の曲を作っている感覚ではない気がしますね。普段とは違う脳みそを使ってる感じです。これはこうなったら面白いんじゃないかとか。

星部ショウ

星部ショウ

佐々木 「面白い」っていうのは大きな要素ですよね。

星部 BEYOOOOONDSに、曲中でカスタネットを叩きまくる「涙のカスタネット」という曲があるんですけど、あの曲とか同じハロプロでもBEYOOOOONDS以外のグループだったら採用されないだろうなって思うんですよ。

南波一海 アンジュルムはやらないですよね(笑)。

星部 はい。でもBEYOOOOONDSが歌ったら面白いだろうなって。実際カスタネットは面白かったですね。ライブではお客さんも一緒に叩いてくれるんですけど、こんなにキレイにそろうんだなって。あと物販のカスタネットが売り切れたのも面白かったし(笑)。

南波 ボーカルディレクションもそうですけど、BEYOOOOONDSに関しては、いち作家とは違う関わり方なんですかね?

星部 わりと具体的にディレクションさせてもらっています。みんな歌がうまいんで、あとは表情とかですよね。声に表情を付けたりとか、そうすると普通じゃない感じになるので。あと、BEYOOOOONDSは曲中にセリフが入ってくるパターンも多いんですけど、メンバー全員うまいんですよ。自分でやってみたけど必ず噛んじゃって(笑)。あれをライブでやってるのは普通にすごいなと思いますね。

南波 ご本人たちは初期曲のセリフを聴くのは恥ずかしいと言ってました(笑)。

佐々木 うまくなった人たちだから言えることだよね。

南波 家族と車で聴いたりすると、すごく恥ずかしいみたいです。本人たちも飽くなき欲求と探求心があるんだなって。

星部 そこを好きでやってくれているのがうれしいですよね。

星部ショウ

星部ショウ

南波 逆に、欲しがってる感じもありますよね。

星部 「この曲、セリフないんですね」みたいな(笑)。

佐々木 むしろ、それが今やグループのアイデンティティになっている。

星部 デビューした頃は戸惑いもあったと思うんですけど、今はみんな自信を持って堂々とやり切っていますからね。

佐々木 ちなみに星部さんがまったくコンセプトとかテーマなしに素で曲を作るとどういう感じになるんですか?

星部 それが一番苦手なんですよ(笑)。誤解を恐れずに言うなら、音楽を通じて伝えたいメッセージって僕には1つもないんです。

佐々木 投げられた球をどう打ち返すかっていうところが一番面白い?

星部 むしろムチャぶりしてほしいタイプです。演劇とダンスとアイドルを組み合わせて1曲作ってくれ、とか。「このコンセプトで大丈夫なのかな?」っていうところから何かを作り上げていくのが好きなんです。

南波 むしろお題がないと、っていう感じなんですね。

星部 そのへんも自分は全然アーティスト的じゃないし、すごく職業作家的ではあるなと思います。

佐々木 職人的って言えばそうでしょうけど、普通の意味での職人とも違う、すごく特殊な職人というか(笑)。むしろ今までやったことないようなお題を出されるほうがやりがいがある感じですか?

星部 そうですね。

すごくいびつな服を作ってるような感覚

南波 OCHA NORMAの「ウチらの地元は地球じゃん!」は、星部さんの持てる技を集めた頂点のような曲ですよね。

星部 そうかもしれません。分析して答えを出すという意味では。

南波 つんく♂さんの楽曲の特徴を徹底的に分析して、組み立てて1曲に仕上げてしまうという。

星部 あれ、つんく♂さんに怒られますよね(笑)。でも、ハロプロの楽曲って、オマージュとか振り切ってるのが面白いなと思うので。

佐々木 実際、星部さんの楽曲からはご自身が楽しみながら曲を作っている感じが伝わってきます。

星部 スパイスの入れ方はつんく♂さんがずっとやられていることを参考にしていますし、そこがハロプロ楽曲のキモになっている気がしますね。

南波 「ウチらの地元は地球じゃん!」に関して、モーニング娘。’23の小田さくらさんが、「つんく♂さんっぽすぎて逆につんく♂さんぽくないと思った」と言っていて。分析の仕方が、さすが小田さんだなと思いました(笑)。

星部 僕と似た匂いを感じますね(笑)。

星部ショウ

星部ショウ

南波 あの曲って、どうしてああいう形になったんですか?

星部 曲自体は先にあって、最初は適当な歌詞を付けていたんです。「みんな同じ空の下」っていう歌詞だったんですけど、OCHA NORMAのメンバーは出身の都道府県がバラバラなので、ただのご当地ソングよりも宇宙規模にしたほうがハロプロっぽいかなと思ったんです。

南波 それをゴーした人もすごいですよね。

星部 「眼鏡の男の子」をゴーしている会社だっていう信頼感があります(笑)。ハロプロだったら大丈夫だろうっていう。こういう曲は外部のコンペにはまず出さないですよね。すごく独自な基準があるというか。

南波 確かに星部さんが外部に提供している曲は、もうちょっとオーソドックスな感じですよね。

星部 もうちょっとちゃんとっていうとアレですけど、ある程度飾り立てています。ハロプロの楽曲は、もうちょっといびつな感じですよね。片方だけ裾が長い洋服みたいな(笑)。すごくいびつな服を作ってるような感覚はあります。

佐々木 星部さんは、BEYOOOOONDS以外にもハロプロのグループに曲を書かれていますよね。ある程度イメージがはっきりしているグループに曲を書く場合は、それを意識するんですか?

星部 そうですね。アンジュルムとかに書く場合は、グループのカラーに合わせて作ります。だから絶対BEYOOOOONDSみたいな感じにはならないです(笑)。

佐々木 それはそれで面白い気がするけど。

南波 いざそういう曲を作ってもアンジュルムには振り分けられない気もしますけどね(笑)。

星部 こぶしファクトリーのデビュータイミングで曲を書かせていただいたり(「ドスコイ!ケンキョにダイタン」)、印象深いところで言えば、アンジュルムの「七転び八起き」「臥薪嘗胆」とか、あれはうまくハマってくれたなって感じでしたね。今はヒットソングってなかなか生まれづらい時代ですけど、90年代のあの感覚っていうか、自分の中での「いい曲」というのをベースにして曲を書かせてもらっています。

南波 ご自身でYouTubeをやろうと思ったのはどういうきっかけだったんですか?

星部 コロナ禍になって時間ができたので(笑)。リリースのタイミングもゆるくなったし、今までやってなかったことに挑戦しようと思ったんです。せっかくYouTubeを始めるのであれば、ハロプロ楽曲のMVを使わせてもらいたいなって思って。それで、つんく♂さんに使用許可をいただいたんです。ハロプロのファンはマニアックな音楽好きが多いので、そういう方々に向けて楽曲の魅力を言語化したいなと思って。「この曲とこの曲は一緒のダシが効いてるんですよ」みたいな話をすると、「わかる気がする!」っていう人が出てきたりして。マニアックなコメントを書き込んでくださる方もいて、友達ができた感じですごく楽しいです(笑)。

佐々木 毎回めちゃくちゃ作り込んでますよね。準備にすごく時間をかけているのが伝わってきますし。収録前にホワイトボードに書き込んでいる姿が目に浮かぶと言うか。

南波 さらに言えば、キャラも作り込んでますよね(笑)。

星部 そうですね(笑)。暗く語ったら誰も観てくれないよなと思って。

佐々木 あれはYouTubeをやっていくにあたって、こういう星部ショウを演じようと考えたうえで生まれたキャラなんですか?

南波 楽曲同様、そこも研究して(笑)。

星部 まあ変装みたいなものなので、どういうキャラになってもいいかなっていうのはありました。作曲家ってブツブツ話すイメージあるし、もうちょっとオモロイ感じのほうがいいかなと思って。

南波 にしても、ですよ(笑)。キャラが立ちすぎている。

星部 はははは。

佐々木 撮影のときはだいぶテンションを上げてる感じなんですか?

星部 そうですね。リハビリみたいなものでもあるというか。普段、人にあまり会わないので、発声練習みたいなところもありますし(笑)。噛まずに話せるかなって、リハビリも兼ねてやってます。

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ハロプロソングの特徴「既視感と違和感」

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佐々木敦 @sasakiatsushi

終わりそうで終わらない、忘れた頃にやってくる音楽ナタリーの南波くんとの連載、星部ショウさんの回。
https://t.co/DaTvmZTLiY

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