清水恵介

映像で音楽を奏でる人々 第23回 [バックナンバー]

映像ディレクション未経験の清水恵介が「THE FIRST TAKE」や「おかえり音楽室」で目指したものとは

音楽業界に旋風を巻き起こす秘密を探る

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音楽番組ではなくミニマルなドキュメンタリー番組

「THE FIRST TAKE」はただの音楽番組ではなく、ドキュメンタリー番組であるということをすごく大事にしています。スタジオに入ってきてから歌い終わるまでが1つのストーリーで、アーティストの奏でる音楽も、そのドキュメンタリーの一部という扱い。音楽とそれ以外の部分を分けるのは好きじゃなくて。僕が映画配給会社にいたときに配給していた作品で、Talking Headsの「ストップ・メイキング・センス」というライブ映画があるんですけど、そこで起きている出来事を追体験できるドキュメンタリーのような見せ方をしていたんです。そういう撮り方が好きだったので、「THE FIRST TAKE」もミニマルなドキュメンタリーだということを意識していて。スタジオの中はアーティスト以外に誰もいない状態で、複数台の定点カメラで撮影しています。それはアーティストがカメラを意識した予定調和な固い画になってしまうのを避けたかったんです。人の無意識の状態の動きを撮りたくて。ドキュメンタリーの手法なんですけど、定点カメラにすると被写体はそのうちカメラの存在を忘れた状態になっていくんです。

正面からではなく横顔を映している理由としては、テクニカルな話で言うとマイクが顔に被らないというのもあるんですけど、本人の見えないところからこっそり覗いてる感じにすることで、客観性、すなわちドキュメンタリー感が強くなる気がしていて。あと、荒木経惟さんがよく「顔は究極のヌード。その人の人生が一番出る場所」とお話しされている通り、顔にはものすごい情報量が詰まっているんですよね。なので正面から撮影するより、横顔にすることで余白を持たせられるんじゃないかと思っています。

以前、坂本龍一さんが「ノイズも音楽の一部である」とおっしゃっていたのを聞いて感銘を受けました。パフォーマンスの前後の無音に近い状態での、歩く音、ヘッドフォンを付ける音、衣擦れの音、準備する音。「THE FIRST TAKE」では、その全部の音を音楽として大事に取り入れています。カット割りに関して言うと、アーティストが歌っている姿を至近距離から1アングルでずっと観ることってなかなかないと思うので、間が持つか持たないか、ギリギリのところを攻めたい気持ちはあります。漫才でも同じことをしつこく繰り返していくとだんだん面白くなってくることってありますよね。それと同じで、1アングルを長回しで見せることで、ディティールが見えて、アーティストのパフォーマンスのすごさが伝わると思っていて。まあ、まったく画が変わらないとさすがに観ているほうも飽きてくるので、いろいろなアングルを入れていますけど、気持ちとしてはずっと1アングル長回しで没入感を高めるのが理想ですね。ちなみに楽器を弾く手元の寄りのカットは、教則ビデオが元ネタになっています。僕もギターをやっていたのでお世話になったんですけど、ああいう映像って、手の細かい動きをずっと観ていられますよね(笑)。

清水恵介

清水恵介

パブリックなものになっていくのが理想

サムネイルのデザインは、シンプルで1回見たら覚えられるものを意識しました。先ほども言いましたが、僕がデザインで大事にしているのは、アイコニックで非言語コミュニケーションであるということなんです。とにかくシンプルに、線、丸、三角、四角くらいそぎ落としたものが理想。僕が好きな亀倉雄策さん(※1964年の東京オリンピックのシンボルマークやポスターをデザインした日本を代表するグラフィックデザイナー)がデザインされたものの1つにNTTのマークがあるんですけど、あれ、美術館の展示で大きくプリントされているのを見たときに衝撃を受けたんですよね。あのマークを見たら誰でもNTTだとわかる。無意識に到達しているデザインで、そのことに怖いくらいの魅力を感じました。これを政治的に使うとプロパガンダになりますけど、それくらいデザインの持つ力が強いことを知ったし信じているから、いつか自分もそういうものを作りたいとずっと思っていました。

「THE FIRST TAKE」のサムネイルには、雑誌の表紙のイメージもあります。センターにある縦の一本線がロゴで、毎回アーティストが変わるし、それに合わせてロゴの色も変わってフレッシュさを印象付けられるというイメージ。あとは二次創作が生まれやすいように、みんなが真似できる余白も作りたいと思っていて。誰でもあの一本線はデザインできて、「THE FIRST TAKE」っぽく見せられますよね。そうやってパブリックなものになっていくのが理想です。

YouTubeというプラットフォームがある限り「THE FIRST TAKE」のコンテンツはずっと残るだろうし、そうするとアーカイブの価値がこれからどんどん上がっていくと思っています。美術館のパーマネントコレクションみたいなもので、20年後、30年後に「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンス映像を誰かが観たときに、また再評価されることがきっとあると信じていて。「THE FIRST TAKE」の映像は語り継がれていくでしょうし、そういうものに関われることができて本当に幸せですね。

人間の本質をあぶり出すフレームを作りたい

僕にできることは、アートディレクターの視点で余白を大事にしつつ、いろいろなものを削ぎ落としたうえで、コンセプチュアルなフレームを作ることだと思うんですよね。僕はバラエティ番組の「はじめてのおつかい」が大好きなんですけど、あれはフレーム作りが成功している素晴らしい好例だと思っていて。番組の枠組み自体は何も変わっていないのに、いまだにまったく色あせないですし、世界で評価されていますよね。その理由を考えると、根本にあるものは親が子を思う気持ちだったり子供の成長だったり、人間の本質を描いているところなんですよね。僕が企画と監督をして、NHK総合で放送された「おかえり音楽室」でもそういうところを意識しました。

この番組はアーティストが過去の自分を振り返りながら帰郷をして、友人や恩師と再会をしていき、最後に到着した母校の音楽室でライブをやってもらう音楽ドキュメンタリーでして、「母校の音楽室でライブをしたら誰しもこういう気持ちになるだろうな」という本能の部分を引き出すようなフレームを作りたいと思って。もちろん映像のディティールやライティングもこだわりますが、僕がやるべきことは人の本質とか本能みたいなものをあぶりだすような仕組みを作ること。それによって出演する人と観る人の琴線に触れるものを作りたいという思いはありますね。1回目はDa-iCEの花村想太さん、2回目はAwichさん、3回目はマカロニえんぴつのはっとりさんに出演していただいたんですけど、アーティストによって毎回全然違う内容になるんですよ。決められたフレームの中で遊んだり、はみ出したりしてくれるのが本当に面白いです。

僕自身、MVを作ったことはまだないんですが、映像監督を本当に尊敬していますし、だからこそ僕が作るとしたら、やはりコンセプチュアルなフレーム作りから考える映像になると思います。単発のMVではなく、ある程度連続する枠組みの中でハプニングが生まれたりして、人間の本質をあぶり出すようなもの。もし複数回を僕に任せてもいいというアーティストの方がいたら、ぜひオファーをお待ちしています(笑)。

清水恵介が影響を受けた映像作品

ジョン・カサヴェテス「Faces」

2002年に映画配給会社で働いていたときに、シネ・ヴィヴァンの元支配人の塚田誠一さんがそこの社長をされていて、「清水くんはきっとこの映画が好きだ」と教えていただきました。即興演技、クロースアップした顔の連続、長回しなどの技法で、表面的な部分ではなく人の本質が映し出されていると思います。自分にとって、最も影響を受けた映画です。

エイフェックス・ツイン「T69 Collapse」

2017年の「FUJI ROCK FESTIVAL」でエイフェックス・ツインのステージ映像を観て度肝を抜かれてから、ビジュアルアーティストWeirdcoreを追いかけてます。学生時代から、いろんなジャンルの音楽が好きでしたが、WARP RECORDSなどのエレクトロニックミュージックのビジュアル表現にはたくさん影響を受けました。

チャールズ&レイ・イームズ「Powers of Ten」

ミッドセンチュリー家具のデザインを牽引したイームズ夫妻が、映像作家として1977年に制作した実験的な教育映画。チャールズ&レイ・イームズやディーター・ラムス、ル・コルビュジエなど、建築やインダストリアルデザインの思想にたくさん影響を受けてきました。視点(カメラ)をどこに置くか、被写界深度を変えてものをどう見るか。いつ見ても、たくさんの気付きがある映像です。

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清水 恵介|Keisuke Shimizu @_KeisukeShimizu

ナタリーの丸澤さんとは、同じ歳で見てきたことも近く、盛り上がり沢山話させていただきました!
原点を振り返ることで、これからも"つくること"に精一杯取り組んでいきたいと改めて思いました。

映像ディレクション未経験の清水恵介が「THE FIRST TAKE」や「おかえり音楽室」で目指したものとは https://t.co/UfvVzbqyth

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