音楽ナタリー編集部が振り返る、2022年のライブ
アイナナ、Aマッソ×フレシノ、蓮沼執太&ユザーン、吉田山田、超とき宣、soraya、安全地帯、BiSH、King Gnu、ラルク、GLAY、鬼龍院翔、虹コン、リリスク、フィロのス、エビ中
2022年12月30日 20:00 28
PA卓の後ろから
文 / 倉嶌孝彦
吉田山田「吉田山田弾き語りツアー2022~愛された記憶~」2022年6月19日 Live House浜松 窓枠
長らく記者をやっていると、同一ツアーの公演を何度か拝見する機会がある。
早めに現地に着いてしまった静岡公演ではリハーサルからお邪魔させていただき、吉田山田の音作りの現場を見学することに。そこで出会ったのが、PAの箕輪勝利さんだ。リハーサルでは、ギターボーカルの吉田さんと二人三脚で音作りをしている姿が印象的だった。PA卓とステージを何度も行き来しながら自身の耳でも音の鳴りを確認し、納得のいく音作りをアーティストとともに探る。その姿勢に、同じくライブに携わる者として背筋が伸びる思いがした。
終演後、吉田山田の2人と箕輪さんと話す機会があった。そこで話していたのはこの日のライブハウスの鳴りについて、子供が観に来ていたのを受けて開演前に箕輪さんが子供の位置を確認していたこと、予定になかったダブルアンコールでのSEを切るタイミングが遅かったのではないか、など。ライブならではの不確定要素を予想し、ときにつまずきながら(この日の転換中、箕輪さんは実際に機材につまずいていた)アーティストとPAが二人三脚でライブを作り上げる様子を魅力的に感じた。
そんなセミファイナルを経てのツアーファイナル。記者として席に座った僕はもちろん、PA席の箕輪さんも、セミファイナルと同じくダブルアンコールがあることを予想していた。アンコールの2曲が終わったあとも箕輪さんはセットリストに書かれていた最後の候補曲を照明さんに示し、何が起きても対応できるよう気を緩めない。オーディエンスの拍手に応える形で再び姿を表した吉田山田は、ここで思わぬ行動に出る。客席にもっとも近いステージ端まで歩み寄った2人は、マイクやPAシステムを通さず、生音で「約束のマーチ」を歌い始めたのだ。これまでアーティストの歌唱中も絶えずツマミに手を添えて調整をしていた箕輪さんは、最後の曲を吉田山田の2人に委ね、そっとPA卓から手を離した。その背中がカッコよかった。
ライブには「特等席」というものがある。多くのファンにとっては最前列が特等席だろう。場所はどうあれ、大切な人の隣が特等席である人もいると思う。僕にとってのあの日のライブの特等席は、PA卓の後ろから箕輪さんの背中と2人のライブを見守れる、あの席だった。
超ときめき♡宣伝部はもはや“ハードコア正統派”
文 / 近藤隼人
超ときめき♡宣伝部「行くぜ!超ときめき♡宣伝部 in 幕張メッセ!~星をめざして~」2022年10月22日 幕張メッセ 幕張イベントホール
“アイドル戦国時代”という言葉が生まれた2010年以降、日本の女性アイドルシーンには数多くのグループが誕生してきました。ラウドやメタル系の楽曲を歌うアイドルも過激なパフォーマンスをウリにするアイドルも今や珍しくなく、ビジュアルや音楽性、活動形態は本当に種々様々。今後どんなに奇抜なコンセプトのグループが出てきても驚くことはないだろうと謎の自信を覚えるほど、女性アイドルシーンはこの約10年の間にあらゆるベクトルに手を伸ばし、すべてをやり尽くした飽和状態になってひさしいように思います。
そんな中、
前置きが長くなりましたが、超とき宣史上最大規模のワンマンライブとなり、見事チケットがソールドアウトした千葉・幕張メッセ 幕張イベントホール公演は、その正統派路線を凝縮し、大舞台用に昇華させた集大成のステージでした。センターステージのせり上がりなど、大箱定番の演出が6人の歌に見事にハマり、アイドルとしての破壊力を倍増させる。もはやハードコアな域の“アイドル的かわいさ”を携え、正面から笑顔で圧をかけていくパワータイプのアイドルです。TikTokで「すきっ!」がバズったことが彼女たちの人気拡大につながったのは間違いないですが、それが一過性のものに終わらなかったのは、この路線を簡単には真似できないレベルで続けてきたからこそ。幕張に集まった約7000人の観客の男女比率がほぼ半々だったことも特筆すべき点で、ハロー!プロジェクトやK-POPのグループなどのいわゆる“女性が憧れる女性グループ”とは逆のスタイルかもしれませんが、“アイドルらしさ”をもってしても女性ファンからの支持を得られることを超とき宣は証明しました。
王道があるからこそ、そこへのカウンターとして新奇なスタイルが生まれる。その逆も然りで、アイドルシーンではこの現象がすでに何周もしている印象ですが、王道が人気なのはそのジャンルがまだ元気な証であるような気がします。超とき宣は2024年1月に神奈川・横浜アリーナで2DAYSワンマンを開催予定。右肩上がりでスケールを大きくしている彼女たちの活動がシーン全体の活性化につながることを期待しています。
いい音のする現場には、あのもじゃもじゃパーマ
文 / 臼杵成晃
soraya「そのいち」2022年10月29日 晴れたら空に豆まいて
「耳の肥えた音楽ファン」「早耳のリスナー」みたいな言い回し、すごい嫌いなんですよね。何基準だよと思うし、早いことになんの価値があるんだろうと。「音楽シーンのことはまるでわからないが同じ曲だけを30年以上聴き続けている人」との音楽的幸福度にどのような違いがあるのか、などと考えてしまう。これは僕らの名刺に“ライター”ではなく“記者”と記されていることが大きいかもしれません。情報を取り扱うことが主たる仕事であって、音楽を論じる、評する立場には基本ないからです。純粋な音楽ライターであれば「肥えた早耳」に大きな価値があるだろうし、それは今の時代だとキュレーターとしての価値にもなるのでしょう。そうは言っても、今まで聴いたこともない音楽に出会ったときの快楽はなかなかほかでは味わえないもので、ついついレコ屋を、ネットを、サブスクを徘徊してしまう。これは「音楽で道を踏み外してしまった者」の性ですね。
上に書いた「キュレーター」、雑に言うならば「紹介屋」でしょうか。サブスクがない時代、SNSがない時代、もっとさかのぼればネットのない時代、それは音楽に関して言うならば、主に音楽雑誌と音楽ライターが担っていたところかなと思います。あとはDJやラジオのパーソナリティか。CDショップ、レコード屋の陳列棚やPOPも貴重なキュレーションスペースでしたし、そこは今でも変わらないですね。好きなライター、好きなDJ、好きな店&店員……自分好みのジャンルやシーンに詳しいキュレーターはいつの時代にもいて、頼りにしています。その点で少し特殊な例を挙げると、「いい現場に必ずいる人(客)」。ポップカルチャーの伝道師である故・川勝正幸さんは気になるアーティストのライブに行くと必ず先回りをするかのようにそこにいたし、ラッパーのA.K.I.さんもそうでした。1990年代、いわゆる“渋谷系”的な面白い現場には必ず川勝さんとA.K.I.さんがいたし、その熱が落ち着いてきた2000年代前半、うっかりのめり込んだメロン記念日の現場でA.K.I.さんを見かけたときは「俺がハローの現場に流れ着いたのは必然だったのか」と不思議な安堵を覚えました。
そしてもう1人、自分にとって「この人が現場にいるってことは間違いないな」と思える指標たる人がいます。おそらく2000年代前半から、渋谷系以降の流れを感じさせるポップ音楽の現場でかなりの高確率で遭遇する金髪もじゃもじゃパーマの青年。交流のある音楽家の知人曰く「パトリックくん」というんだそうです。どこの国の出身で、いつから日本にいるのか、何度も遭遇しているにもかかわらず会話をしたことがないので何も知らない。でも、ちょっと気になるなと足を運んだ会場で、あのもじゃもじゃパーマが目に入ると「きっとこの夜は間違いないものになるだろう」という確信が持てます。直近であのもじゃもじゃパーマを見かけたのは、今年10月に行われた
安全地帯、BiSH
吉田山田の山田義孝 @yamadayositaka
来年も沢山ライブします✨ https://t.co/EfcxLgzHPM