映像で音楽を奏でる人々 第22回 [バックナンバー]
「主役は絶対に音楽」仲原達彦がA&R視点で映し出す3分間のストーリー
イベンター、レコード会社勤務、映像作家……特殊な経歴を歩むからこそ見えるもの
2022年12月27日 17:30 9
音楽の仕事に携わる映像作家たちに焦点を当てる本連載「映像で音楽を奏でる人々」。第22回にはカクバリズムでA&Rとして勤務する傍ら、映像作家として
日本大学藝術学部在籍時代からイベンターとして「プチロックフェスティバル」を企画し、2013年には当時“東京インディー”と呼ばれたシーンのミュージシャンが数多く出演したイベント「月刊ウォンブ!」を開催した仲原。イベンター、A&Rと一見映像とは関係ない世界にいた彼がなぜMVを撮り始めたのか? そのワケを探るべく仲原に話を聞くと、彼の特殊な経歴と映像作家という職業が紐付くポイントや、A&Rとしての視点がMV制作に与えるメリットなどが見えてきた。
取材・
cero、U-zhaanとの出会いで広がったミュージシャンとの交友関係
僕の実家は江古田にあって、日芸(日本大学藝術学部)の近くなんですよ。日芸の学科名に映画や音楽という言葉が並んでいるのを見て中学生くらいの頃から気になっていて。映画やバラエティ番組が好きだったから「映像の仕事に携われたらいいな」くらいの気持ちで日芸の映画学科に進学して脚本を学んだんです。在学期間は被っていないけど、大学の先輩にceroの高城(晶平)くんがいて。僕の1個上の先輩がceroと面識があって、その人に誘われてライブを観に行くことになったんです。初めて観たceroのライブが本当によくて、何度もライブに行って、気付いたらceroのみんなや、その界隈のミュージシャンたちとも仲よくなっていました。それからライブハウスに通うようになり、
そこで出会った面白い人たちを大学の友達にも紹介したいなと思って、学園祭で「プチロックフェスティバル」というイベントを企画することにしたんです。イベントにはceroやU-zhaanはもちろん、
東京インディーが集結した「月刊ウォンブ!」
自分のイベントに遊びに来てくれていた人にWOMB(※東京・渋谷にあるクラブ / ライブハウス)の関係者がいて、その方に「WOMBでライブイベントをやってほしい」と声をかけていただいたんです。それで1回だけの単発企画をやるのも違うなと思って「1年間、毎月最終火曜にやらせてもらえないですか?」と相談したら快諾してくださって、「月刊ウォンブ!」を始めることになりました。WOMBって読みは「ウーム」だけど、そのまま読むと「ウォンブ」だから、毎月やるイベントだし「『月刊ウォンブ!』でいいんじゃないか?」という安易な理由で決めたんです(笑)。イベントのロゴも「週刊少年ジャンプ」みたいにして、毎月のフライヤーも
「ウォンブ!」を企画していた頃は、高城くんが家族で経営しているRoji(東京・阿佐ヶ谷のカフェバー)でバイトをしていて。そのお店には
あの頃は今ほどSNSが普及していなかったから、シーン自体があまり掘られていなくて、“来ればわかる”みたいなムードがあったと思います。「ウォンブ!」は2013年にやっていたイベントなので、あれから約9年が経って、解散しちゃったバンドもいるけど、いまだにみんな活躍しているのはうれしいですね。当時ってCDも売れなくなってきていたけど、まだサブスクもなくて、自分たちでもどうすればいいかわからない時期だった。同世代のミュージシャンたちはサウンドやカラーはバラバラだったけど、「自分たちのやっていることは間違ってない」という感覚はみんな持っていたと思います。お互いをリスペクトし合っていたし、そういう意味で一体感があったのかもしれないですね。
A&R業務とMV制作の共通点
MVを撮るようになったのは2014年からですね。その頃はfelicityというレーベルでアーティストのマネージャーとA&Rをやってたんですが、当時担当していた思い出野郎Aチームの「TIME IS OVER」のMVを作ることになって。メンバーと僕で脚本を考えて、メンバーの後輩で映画監督の嶺(豪一)くんにディレクションをお願いすることにしたんです。ふざけた内容だったのですが、自分の脚本が映像化されるというのは本当にうれしかったですね。
そうやって嶺くんの仕事ぶりを間近で見学したり、A&Rとしてほかの映像作家さんにMVの制作を依頼して完成するまでのプロセスを見させていただく中で、「自分でも撮れるかもしれない」と考えるようになって。思い出野郎の「週末はソウルバンド」のMVで初めて監督をやってみたんです。
A&RがMVの監督をするというケースは少ないと思いますが、自分で撮影できれば予算を抑えられるから、その分、レコーディングやデザインに予算を回せたりとメリットが多かったんです。A&Rとしてレーベルで働いてみると、予算の使い方で悩むことが多いですからね。はじめましての人にお願いするより、メンバーのどういうところが面白いか、魅力なのかを知っている僕が撮ったほうがバンドのいいところを引き出せるんじゃないか、とも思っています。
ミュージックビデオは自分だけのものじゃない
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