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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 特別編

K-POPについて語ろう

急激な速度で進化を遂げるその音楽的魅力とは?

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変化をよしとする文化と安心を求める文化

南波 ここ最近の来日ラッシュもすごいですよね。とはいえ新人グループは、ライブというよりも、ファンミーティングみたいなものが多くて。

佐々木 持ち歌があんまりないという事情もある(笑)。だからフルサイズのライブができない。

南波 それでもガンガン来日しちゃうという(笑)。

佐々木 持ち歌が少ないということで思い出したんだけど、韓国には異常なほどたくさん歌番組があって毎週チャートを発表してるんだよね。だから持ち歌が少なくても人気のあるグループは何週にもわたって番組に登場するし、その結果、認知度が一気に高まっていく。昔は「ザ・ベストテン」みたいな番組があったけど、今の日本では同じアーティストが何週も続けて同じ歌番組に出てくることなんてありえないもんね。

佐々木敦

佐々木敦

南波 露出の多さが日本とは全然違うわけですね。

佐々木 毎週同じ曲を歌うわけだから、出演するアーティストも視聴者を飽きさせないように、ファッションや髪形を頻繁に変えていて。Kep1erとか、めちゃくちゃ目まぐるしく髪色が変わるから一瞬、誰が誰だかわからなくなる(笑)。ピンクと金髪が突然交代してたりするんで。

南波 でも、ホント不思議だなと思うんですよ。日本だと芸能人が髪形を変えたりすることに対して、昔からすごく慎重じゃないですか。CMに出てるからその期間は髪の色を変えちゃいけないとか、謎のルールだなと思っていて。

佐々木 たぶんそういう縛りが慣習として残っているんだろうね。

南波 よく考えると理由はないんだけど、そういうルールでやってきたから今もそうやってます、みたいな。ホントに意味がわからない。アイドルだって新曲を出すたびに髪形が変わったりしたら、ファンは楽しいと思うんですよ。そこを変えられないのは不自由だなと思います。

南波一海

南波一海

佐々木 また炎上しそうなモードになってきた(笑)。

南波 「地下アイドルはよく髪形を変えてるぞ」って。

佐々木 俺、実際にそれ言われたんですよ、Twitterで(笑)。でもガンガン髪形を変えてるK-POPのアーティストが、今や世界の名だたるハイブランドのアンバサダーを務めているわけだから。

南波 例えばBLACKPINKのリサはセリーヌやブルガリのアンバサダーを務めていますし。世界的に人気を得ている人が普通にイメチェンしてる現状があるのにどうして、それができないんだろう。

佐々木 髪形を変えることとか、似合っているかどうかは別として、韓国ではアーティスト本人が変わっていくことに面白さを見出していて、ファンもそれを楽しんでいる。日本の場合、どちらかというと安定した不変のイメージを大事にするところがあって、ファンの側にもそれを好む風潮がある。徐々に変わってきているとは思うけどね。変化をよしとする文化と安心を求める文化の違いというか。

とんでもない競争を勝ち抜いてきた人たちだから歌えるリアリティ

佐々木 その一方で、韓国の芸能界の特殊さに驚かされることも多々あって。例えば中学時代のいじめ疑惑が問題になって専属契約解除となった元LE SSERAFIMのキム・ガラムの件もそうだし。

南波 韓国の芸能界はタレントの素行に関してかなり厳しいですよね。

佐々木 とにかく過ちを犯したらほぼ一発でアウトだから。例えばアメリカだと一度罪を犯したとしても更生すればセカンドチャンスが与えられるよね。ヒップホップの世界にそれが顕著だけど。韓国の芸能界では一度の失敗が取り返しのつかないことになるから過酷だなと思う。日本とは比べ物にならないくらいインターネット言論が発達しているということもあるんだろうけど。

南波 デビューが決定した瞬間にネットで粗探しが始まって。日本でもありますけど、もう影響の大きさが違うというか。

佐々木 異常なまでにネットで叩く人がいるからね。その結果、自殺に追い込まれるタレントもいたりするわけで。韓国の芸能界でサバイブしていくには相当タフじゃないといけない。

南波 そして常に潔白でいなければいけないという。

佐々木 それこそ幼少時代までさかのぼって調べられちゃうわけだからね。

南波 日本だと「記憶にございません」とかで逃げ切れたりしますからね(笑)。山際前大臣もギリギリまで居直っていたし。

佐々木 責任ある大人がそれだからどうしようもない(笑)。日本は建前社会だから、建前が維持できるうちはそれで乗り切ってしまおうという風潮があるよね。イメージだけ整えておけばいいというか。韓国では、それが許されず徹底的に糾弾されてしまう。社会の厳しさが日本とは比べ物にならない。

南波 安易に比較するべきではないですけど、日本社会は競争がゆるやかだから、アイドルがいろんな形態で存在できているというのもあると思います。見る側にも、ある種の寛容さがあるというか。そこまで競争が苛烈じゃないから、地下シーンまで見渡すと、すごくいろんなタイプのアイドルが活動していますし。

佐々木 それこそ本来の意味での多様性なのかもしれない。実力至上主義だけではなく、いろんなアイドルが共存できていて。不祥事を起こして脱退したアイドルもほかのグループで復活できたりするし(笑)。それは日本のアイドルシーンのいいところでもあるよね。

南波 韓国にも地下アイドルシーンが少しあるみたいですけどね。ともかく、日本はゆるやかな形で共存システムが形成されている。

佐々木 そう。逆に韓国は完全なる競争社会だから。冒頭で昨今のK-POPの歌詞には自己実現をテーマにしたものが多いという話をしたけど、そこには何年もの育成期間や、世界規模のオーディションだとか、とんでもない競争を勝ち抜いてきた人たちだから歌えるリアリティがあって。

南波 確かに。

佐々木 宮脇咲良はHKT48AKB48で天下を取り、そして韓国に渡ってIZ*ONE、LE SSERAFIMでも天下を取った。彼女は最近、「私には生まれついての才能は1つもない。でも努力する才能だけはあったんです」という名言を残しているんだけど、実際、LE SSERAFIMのメンバーになって歌もダンスもすごくうまくなってるんだよ。努力すると人はここまで変わるんだなって。だから彼女の存在には圧倒的な説得力がある。

佐々木&南波が挙げる2022年のK-POPフェイバリットソング

佐々木 なんちゃんが2022年のK-POPのフェイバリットを挙げるとすると?

南波 真っ先に思い浮かぶのはクォン・ウンビの「Glitch」ですね。とにかくあの曲は衝撃的でした。

佐々木 あれこそHyperdubだよね(笑)。どういう発想でああいうトラックができたんだろう。最近のK-POPの曲には、ああいうタイプの曲が多いよね。ハードコアなダンスミュージックの上にキャッチーなメロディが乗っているという。日本のポップミュージックの場合、曲を提供している側がちょっと及び腰になっているところがあるのかもしれない。「ファンが付いてこなかったらどうしよう」って。でもアメリカだって、ビヨンセの曲とか、めちゃくちゃアバンギャルドだったりするし。

南波 あとK-POPの曲は、2~3分台で終わる曲が多いですよね。日本のアイドルの曲はAメロ→Bメロ→サビときて、最後に行く前に落ちサビも用意されていて、4分半とか5分になってしまう。あの強力な構造から抜けきれないところがあると思うんです。なので「Glitch」とかを聴くと、こういう曲が普通にヒットしちゃうのが単純にすごいなって。

佐々木 本当にびっくりするよね。

南波 「Glitch」は自分の中でナンバー1だったんですけど、NewJeansの登場でそれが塗り替えられました。デビュー曲の「Attention」は衝撃的でしたね。

佐々木 僕は「Hype Boy」が好きなんだよね。ミュージックビデオが4パターンあって、どれもよくできてる。4つの動画で1つの物語を作り上げていて。アートワーク1つ取ってもセンスがいい。ただ音楽的にいうと決して今っぽくはないんだよね。90年代の日本っぽい音作りともいえる。ある種のエモさというかセンチメントがあって。

南波 こういうことをやりたかったという日本のプロデューサーはたくさんいると思います。

佐々木 NewJeansはK-POPの新しい流れを明らかに狙って送り出されたグループだよね。HYBEの今後に向けた展望が垣間見えるというか。

南波 BTSのメンバーが兵役に行くことを見越して。

佐々木 一歩先を見据えていると思う。

南波 佐々木さんはどのグループが好きなんですか?

佐々木 客観的にはIVEとLE SSERAFIMが今年のツートップだと思うけど、個人的にはLE SSERAFIMに可能性を感じる。LE SSERAFIMは、毎回MVの最後に次の曲のヒントになるような言葉が出てくるんだよね。例えばデビュー曲「FEARLESS」のMVの最後に「DO YOU THINK IM FRAGILE?」というメッセージが流れるんだけど、それが次作のリード曲「ANTIFRAGILE」の予告になっている。曲タイトルもよく考えられていて。「FEAR+LESS」とか「ANTI+FRAGILE」とか否定的な言葉にもう1つ否定を重ねてポジティブな言葉に変換している。そういう戦略的な部分も含めて、めちゃくちゃクールだし、今後に向けた可能性を感じる。

南波 そういったコンセプト作りが頭ひとつ抜けてる感じはします。

佐々木 あと可能性といえば、Kep1erの日本オリジナル曲「Wing Wing」は面白いなと思った。K-POPの日本語バージョンや日本オリジナル曲ってイマイチな仕上がりになってしまうことが多いんだけど、「Wing Wing」は本当によくできている。今のK-POPの歌詞は半分くらい英語が入っていて、それはもともと韓国語と英語の馴染みがよくてできてるところがあるから、そのぶん日本語は不利なんだけど、Kep1erの「Wing Wing」は日本語と英語の混ざり具合が絶妙だなと思った。日本オリジナル曲ということでいうと、LOONA(今月の少女)の「LUMINOUS」もカッコよかったし、つい最近日本デビューしたSTAYCの「POPPY」もすごくよかった。

南波 僕は、そもそも「K-POPの日本語バージョンってなんであるんだろう?」と思ってしまうタイプなんですけど、Kep1erの「Wing Wing」は新しいなと思いました。実際、YouTubeにも海外のリスナーからのコメントがたくさん付いてるから日本語でもちゃんと届いてるんですよね。ああいう状況を見るとすごく可能性を感じます。

佐々木 日本の音楽の世界進出に関して、言語の壁みたいなことがずっと取り沙汰されてきたわけだけど、BTSが韓国語曲でも世界で売れたことで、言葉の壁を乗り越えられることを証明したわけだから。日本語のマイナー性によって、日本のポップソングが世界に進出できないとは今後はもう言えないと思う。YouTubeとかで歌詞の翻訳も付けられるわけだし。エイベックスがXGで、全員日本人メンバー、英語詞曲で韓国デビューというアクロバットをやってのけたわけだけど、日本語のポップミュージックもやり方次第で、絶対にブレイクスルーできる道があると思う。そこに期待したいね。

左より佐々木敦、南波一海。

左より佐々木敦、南波一海。

佐々木敦

1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。同年8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「南波一海のアイドル三十六房」でナビゲーターを務めるほか、さまざまなメディアで活躍している。「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。

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読者の反応

Oh!兄さん @Oshiete23ZZ

「ここ最近、日本のアイドルへの熱量が明らかに下がっているような気が…… 」

笑🤣

「アンジュルムの動画を頻繁に観てて、KPOP のMVがどんどん関連動画に上がってきて。」

「わかりやすくAIのアルゴリズムに導かれて 。」

「佐々木さんが今注目している日本のアイドルは?」 → 〇〇
. https://t.co/lUwuRClmM3

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