私と音楽 第29回 [バックナンバー]
岡本玲が語るASIAN KUNG-FU GENERATION
アジカンは絶対的なヒーローであり、どこか危うい存在でもある
2022年12月7日 18:30 61
各界の著名人に愛してやまないアーティストについて話を聞く本連載。29回目となる今回は、
取材・
出会いは友達が歌った「電波塔」
昔からのファンの方々に比べたら、私がアジカンのことをちゃんと知ったのはけっこう遅いほうでした。中学生の頃に「鋼の錬金術師」のオープニングテーマになっていた「リライト」などのタイアップ曲をいくつか聴いたことがあったぐらいだったので、当時は漠然と「アニメの曲を歌う人たちなのかな」くらいの認識しかなくて。高校の頃に上京してYUIを聴くようになり、自分でもギターに興味を持ったりして音楽好きな友達ができたときにカラオケに行ったんですよ。そうしたら友達がアジカンの「電波塔」を歌って。「うわー! いい曲!」と思ってアジカンのことをメモして帰ったんです。そこからどんどんアジカンの曲を聴くようになりました。
沼にハマったのは高校時代に「新世紀のラブソング」(2009年12月リリースの楽曲)を聴いたとき。小学6年生からこの業界で仕事をしていたからか、大人に反抗心があったみたいで、「大人の言うこともわかるけど、大人の言うことすべてを鵜呑みにはしたくない」というような気持ちがあって。おそらく思春期の頃に自分の中でバランスを取れていなかったんです。そんな時期に「新世紀のラブソング」を聴いたら、1番のAメロの歌詞が自分の境遇そのままだと感じて。人に見せたい自分と本当の自分が乖離しているというか、優等生でいようとすればするほどそういう自分が嫌いになるような感覚に陥っていたし、「どうせ自分がいなくなったって誰も気付かないし、周りは何も変わらないじゃん」と考えていた。そういう私の悩みが全部そのまま歌詞になったかのように感じたのが「新世紀のラブソング」でした。
「新世紀のラブソング」ではゴッチ(後藤正文)さんのパーソナルな記憶や思いだけじゃなくて、「9.11などの世界を震撼させる劇的なことがあっても世界が続いていく」という普遍的なことも歌われていて。だから、私にとっては自分の部屋から外に出て視野を広げてくれるような曲でもあります。愛について歌ったサビの歌詞もすごく好き。「それでも僕らは愛と呼んで 不確かな想いを愛と呼んだんだ」という歌詞にハッとさせられて、「私が寂しいと思っていたのは愛を求めていたからなんだな」と気付かせてくれた曲でもあります。
怒るわけでも諭すわけでもないゴッチのMC
「新世紀のラブソング」に現れているように、ゴッチさんは政治のことや環境問題のこと、東日本大震災のあとには節電のことなど、いろんなことをMCで熱心に話されていて、当時の私はそれをしっかり受け止められていませんでした。でもそれはゴッチさんもわかっていたみたいで、昔から「いつか君たちが何かのタイミングで俺の言ったことを思い出して、それが何かのきっかけになってくれれば。今は『うるせえ』って思われてもいいよ」といったことを話していて。あの頃の私はその言葉の意味すらよくわかっていなかったけど、大人になってから、怒るわけでも諭すわけでもなく、ゴッチさんなりの寄り添い方をしてくれていたんだと気付きました。
役者の仕事をしていると環境問題や社会問題を扱った作品に携わる機会が多くて、そのたびにゴッチさんの言葉が頭をよぎるんです。でも実際に私がちゃんと向き合うようになったのは「弥生、三月-君を愛した30年-」(2020年3月公開の映画)の撮影で東日本大震災の被災地を訪れたときなので、2018年頃でした。メディアから発信される情報だけで物事を判断する自分にすごく気持ち悪さを感じていて。ちゃんと自分で現地を訪れて、そこにある問題を肌で感じること、やらなきゃいけないと感じたら自分からアクションを起こすことが必要なんだなって、理解することができた。
ゴッチさんの言葉を私が受け入れることができたのは、諭されなかったからだと思う。言わなきゃいけないことを、彼なりのテンションと気遣いで、体温を持って伝えてくれていた。熱すぎるわけでもなく、冷たくもしない。その体温が私にとってちょうどよかったのかな。
“楽しさ”を伝える難しさ
ロケバスや電車での移動中に、よくアジカンの曲を聴くんですよ。ドラマの撮影だと朝早いから始発に乗ることも多いんですけど、そのときには必ずアジカンの音楽を聴いてます。曲を聴きながら寝ちゃって、気付いたらなぜか涙が流れていることもあって(笑)。「あれ、この曲で涙を流すとは思ってなかった」と思うこともあるんですけど、楽曲を受け取るときの自分の状況だったり、抱えているものだったりで曲を聴いて感じることも変わってくるんですよね。
とにかくやらなきゃならないことがたくさんあって逃げたくなったら「稲村ヶ崎ジェーン」を聴きます(笑)。「稲村ヶ崎ジェーン」が収録されている「サーフ ブンガク カマクラ」(2008年11月発売の5thアルバム)は、一番好きな作品ですね。どのアルバムも大好きだけど、「サーフ ブンガク カマクラ」が聴けなくなったら耐えきれなくなって生きられないかも。アルバムとセットで大好きなのがDVDの「映像作品集6巻 ~Tour 2009 ワールド ワールド ワールド~」(2009年10月発売の映像作品集。2009年に行われたバンド初のホールツアーよりツアーファイナルのライブ映像が収録されている)。このDISC 2で「サーフ ブンガク カマクラ」が曲順通りに披露されていて、それが最高なんですよ。どれだけ観たかわからないくらい、このDVDのDISC 2は観まくりました(笑)。
アジカンのライブの魅力は、なんと言っても楽しそうなところですね。お芝居をしているとわかるんですが、 “楽しさ”を伝えるのって難しいんですよ。つらさや憤り、悲しみは意外と伝わりやすいけど、心の底から楽しんでいることを観ている人に届けるのはすごく難しい。それをアジカンはステージで難なく伝えてくるところがすごいですね。特にこのDVDは楽しさがすごく伝わってきます。曲間で展開されるMCも最高なんですよ。「ドラゴンボール」のヤムチャの話になったら、ゴッチが「さっき楽屋で山ちゃんが『ヤマチャ』って言ってた」みたいなくだらないことを言い合ってる。そんなやりとりからいきなり間髪入れずに演奏に入ってバッチリ合うところとか、ずるいなあって(笑)。アジカンは休止も解散もせず、ずっと続けてきてくれたバンドなのもあって、4人ならではの空気感がステージ上に存在する。常にカッコよくアップデートを繰り返しながらも、変わらずにライブをし続けてくれるアジカンってすごいなとしみじみ感じています。
この取材のためにゴッチさんがプロデュースを手がけたアーティストのCDも持ってきました。もともと私はいろんなアーティストを聴くタイプではなくて、洋楽だったらアヴリル・ラヴィーンばっかり聴いていたのと、父親の聴くThe Beatlesをちょっと聴いていたくらい。アジカンを知ってからはゴッチさんがいろんなアーティストを紹介してくれるから、それを頼りにいろんなアーティストの音楽に触れることができました。アジカンが主催するフェス「NANO-MUGEN FES.」に出る人たちをチェックしたり、ゴッチさんがブログに書いていたOasisやWeezerを聴いてみたり。彼がプロデュースしていた
好きすぎてすぐに立ち去りたくなる
ずっとお世話になっていたスタイリストさんから、実はアジカンを手がけていると教えてもらったときはすごく驚きました。そのスタイリストさんに「一緒にライブに行こうよ」と誘われて初めて行ったライブが、DVDに収録されている「Tour 2009 ワールド ワールド ワールド」だったんです。そのときに挨拶させてもらったんですが、好きすぎて近付くのが恐れ多くて(笑)。「大好きな音楽を聴かせてもらうだけで幸せなので大丈夫です」って思いながら、今でも足を運んだライブでは挨拶させていただいています。
2019年の「Tour 2019『ホームタウン』」のとき、スタイリストさんともう1人、音楽番組のMCをやっている友達とライブを観に行ったことがあって。そのときに初めて記念写真を撮らせていただいたんですよ。
おそらくずっと口角が上がっていたと思います(笑)。メンバーの皆さんが優しいから「どんな曲が好きなの?」と聞いてくれるんですけど、私は好きすぎるがゆえに今すぐにでも立ち去りたいような気持ちもあって……。でも一生の思い出ですね。
自分の世界を彩ってくれたアジカンの音楽
私にとってアジカンは、逃げずに現実と向き合わせてくれるように背中を押してくれた存在なんです。優しく包み込んでくれるだけじゃなくて、そのときどきの自分が向き合わなければならない物事に対して、考えるためのヒントやエネルギーを与えてくれる。もちろん、楽しいときはちゃんと楽しませてくれる。“絶対的なヒーロー”ではあるんですが、私の中ではどこか危うい存在でもあるんですよね。ただ手を引っ張ってくれるだけじゃなくて、こっちからもちゃんと手を握っていないと振り落とされてしまうような。何かがあったときも、ただ正解を教えてくれるのではなくて「あなたはどう考えますか?」と呼びかけてくれる。その温度感が私には一番響くんだろうなあ。
それと、大学に入ってたまたま仲よくなった子が私と同じくアジカンが好きで、そのことにすごく救われた経験があるんです。それまで自分が本当に好きなもので友達と通じ合えた経験がなくて、特に上京してからの私は世界に色が付いていないような感覚があった。でも、その子と一緒にいろんな話をしたり、ライブを観に行ったりすることで、自分の世界にどんどん色が付いていくような気がしたんです。そのきっかけをくれたのがアジカンだから、この恩は絶対に忘れないと思います。彼らが活動する限り作品を聴き続けるし、ライブも観に行き続けると思います。
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