土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.13 [バックナンバー]
土岐麻子、敬愛するMAMAMOOとついに対面
3年ぶりの日本公演を観て受け取った「自由さ」
2022年12月20日 17:30 73
シンガー
本連載のVol.2では「MAMAMOOから学ぶ、生き方の構え」と題して彼女たちの魅力を深く考察し、2021年2月にMAMAMOOが「TRAVEL -Japan Edition-」をリリースする際に音楽ナタリーで展開した特集記事にはプレイリストを寄稿するなど、これまでもMAMAMOOへのリスペクトをたびたび表明してきた土岐。今回のライブの終演後にはなんと、楽屋を訪問しMAMAMOOの4人に挨拶する機会にも恵まれた。緊張の初対面の様子までをじっくりとお届けする。
取材・
MAMAMOOに会いにやってきた!
よく晴れた日曜日の総武線。車内のあちらとこちらに、淡い色合いのコーディネートで髪をきれいにセットした女の子たち。水道橋に着くと全員降りて行く。そうか、今日、東京ドームではSEVENTEENのコンサートがあるのか。行ってらっしゃい!
そのまま幕張本郷まで乗り続け、タクシーに乗り継ぐ。車を降りてからは、目的地を目指して巨大な建物内をひたすら歩く。ふと見渡すと、同じように1人で黙々と向かう女、女、女たち……。
そしてとうとうカッコいい4人組のポスターにたどり着いた。
私は幕張メッセに、MAMAMOOに会いにやってきた!
ホール2で行われていた企画ブース広場は「MOOMOO(ムム)」たちの社交場。「ムム」というのは「ママム」の響きに呼応する形で名付けられたファンダム名である。
彼女たちのペンライトはむっくりしたフォルムの大根モチーフなのだが、韓国語では大根のことを「ム」と発音するので、グループ名にもファンダム名にも入る「ム」にちなんでこの形なのだそうだ。
そしてこのペンライト(通称ムムボン)が大人気で、今回入手できなかった私の友人はなんと、しゃもじを使って自作のものをこしらえてきた。涙ぐましくて愛らしいシャモジボンである。
SNSでは、ほかにも本物の大根を使って工作したり、それぞれのムムボンを準備しているポストを少なからず見つけることができる。
フードブースには、大根モチーフのドリンクまである。まさかしぼり汁で!?とひるませておいて、味は安心の抹茶ミルク。
込み上げる気持ちを大根に託し
入場し、席から見渡すと年齢層はさまざま。前の席には、友達同士のように見えるお母さんとお嬢さんがいた。
客電が落ちると、暗闇の場内に浮かび上がった大根の畑が一気に乱れる。
オープニング映像のあとに4人が現れるとより荒れる畑。
ムンビョル。ソラ。フィイン。ファサ。
並んで立っているだけでも、なんてカッコいいんだろう。
メインステージから歩み出て、目の前のサブステージで歌い踊る姿は非現実的なほど美しかった。
可動域の大きな口からパワフルな声が飛び出す、明るいエネルギーのソラ。
曲線的な所作とけだるい歌声で、どんな一瞬もセクシーでクールなファサ。
指先まで魅せる動きと、節回しや語尾まで神経が行き届いた歌……繊細な美学にあふれたフィイン。
余裕があるラップと猫のような笑顔がかわいい、ハンサムなムンビョル。
オープニングから2曲、日本語のセリフを交えながら歌ったあとに最初のMCとなった。
3年3カ月13日ぶりだという日本公演。「忘れられているのではないか」と不安もあったというメンバー。
この光景と拍手に安心してくれたに違いない。そして、ほんとうに積極的に日本語を使ってくれることに感動した。ムンビョルが、ワールドツアータイトルの「MY CON」は、みんなのコンサートという意味とmic onをかけていると説明した。
続いて、日本のテレビ番組でも披露した「Dingga」を含む最高のアレンジによる7曲のメドレーを"ステージを飛び回りながら"(ムンビョル談)畳みかけた。
声を出せないながらも、込み上げる気持ちを大きな拍手や大根を振り回すことによって伝えようとする私たち。
そんな中「やってみたいことがある」というフィインのMCで、観客はペンライトでウェーブを作るムムボンウェーブにチャレンジすることとなる。うまくできていたのかはわからないが、素晴らしい無声のコミュニケーション!
それまでのメドレーとMCによるオープンマインドな雰囲気から一転、アジアの妖しい祭のような雰囲気で「AYA」が始まる。スリリングな展開で、1人ひとりがスポットライトを使いこなしていく。個性がより際立つ構成だった。
もう1曲続けて、4人はいったん退場。
前日の公演に行った知人の「VCRまで面白くてトイレに行くタイミングがなかった」との言葉通り、ここで流れたアニメーションが面白かった。大根の神様に仕える4人の子供の妖精たちに、それぞれメンバーが声をあて混沌としたストーリーがゆるく進んでいく。ラストはまさかのホラー展開。この話はソラが書いたものらしく、あの太陽のような彼女が1人でPCに向かってこれを打ち込んでいるところを想像するとなんとも愛おしく思えた。
そのあと、ほかのメンバーの顔のお面をつけてぐだぐだの(最高の)小芝居をしながらメンバーが再登場。そしてそのまま「Taller Than You」へ。
ところで私はこの曲のパフォーマンスが大好きなので、なぜ他人の仮面からの流れでこの曲だったのか、その謎を帰り道に考えていた。韓国でのタイトルは「1cmの自尊心」を意味する「1cm의 자존심」で、ほとんど同じ身長の彼女たちが、ミリ単位にこだわって背比べのマウントを取ったり取られたり小競り合いをするコミカルな曲である。仮面をつけて誰が入れ替わったってたいして変わらないのだという、ルッキズムの滑稽さを表現したものだったのだろうか……。考えすぎかな。誰か教えてほしい。
ここからソロ曲コーナーが始まった。
ここではメンバーがほんとうに入れ替わる。
フィインとソラが、ムンビョルとファサがそれぞれの曲を交換してパフォーマンスを。
それぞれが見事に自分のものにしていたが、全員が歌もダンスもできるからこそ成立するのだろう。身長差があまりないかもしれないけど、実力差もない素晴らしいグループだからできることではないか。
(ライブ中に取ったメモには
「Eclipse」ファサ=曹長
「Honey」フィイン=妖精
と走り書いていたが、なにか伝わるだろうか……)
そのあとはそれぞれのソロ曲を全員で歌って完結。
「正解はひとつじゃない」
見応えのあるトーク映像を挟んで再び登場し、キラキラしたベルベットブルーの衣装で3曲。美しいハーモニーと、ドラマチックなトーンのムンビョルのラップを堪能した。最後の「Star Wind flower Sun」では、ムムたちがメンバーへのサプライズとして事前に配られたスローガンを掲げてステージへ向けて見せた。「永遠に消えない炎のように MAMAMOOを照らす光になるよ」という内容の韓国語が書かれている。
前日は違うフレーズだったようで、サプライズとはいえメンバーは察していたようだ。ムンビョルは、曲が始まった途端みんなが準備する姿が見えてかわいかった、と話した。
日本語歌詞をワンコーラスだけ混ぜて歌った「Decalcomanie」のあとは「HIP」!
「Egotistic」「gogobebe」と盛り上げて、MCでは今日の公演を振り返った。
「マスクを着けていても使う言語が違っていても、いつも私たちがつながっているということを尊く思う時間でした」「コロナ禍で、海外のファンの存在の大切さを改めて感じた」とファサ。
「私たちだけでなく、ムムが今日のステージを作ってくれたと言っても過言ではないと思います。お互いに大きな拍手を送ってみましょうか!」とフィイン。
「2日間にわたって日本公演をしてきましたが、私たちに忘れられない素敵な思い出を作ってくれて本当にありがとうございました」とソラ。
「週末を一緒に過ごしてくれてありがとう。今日一緒に楽しく過ごして、明日からもまたがんばってこれから先を楽しんでいきたいと思います」とムンビョル。
ラスト2曲は日本語歌詞を交えて。
アンコールでは、日本公演のグッズTシャツをそれぞれのアレンジで着こなして登場。
フリースタイルな動きでの歌唱からは、MAMAMOOの仲のいい雰囲気が伝わってくる。
歌うムンビョルを囲んで惑星のように回り出す3人、歌詞を飛ばすメンバー、笑い合う姿、ファンのうちわを受け取ってキスをしてから返すソラ、裾からブラが見えるようにTシャツを留めているおしゃれなファサに対して、お母さんのように裾を引っ張って隠そうとするムンビョル。
メンバー同士ではわちゃわちゃ、そして客席とは温かいやり取りをしながら、ラストまでステージを楽しんでいた4人だった。
最後に日本語で「MAMAMOOは、続くからな!」と少年のように宣言したメンバーたちが勇ましくかわいかった。これからも、経験を重ねた彼女たちのステージをずっと観ていきたいと心の底から思った。
(※参照:セットリストを掲載した音楽ナタリーのライブレポート:ソロ曲のシャッフルも!MAMAMOOが3年ぶり日本公演でMOOMOOに愛伝える)
今回はとにかくバンドアレンジによるオケがかっこよかったので、ソウル公演のように生バンドやオーケストラでのパフォーマンスを今後も期待したい。
そして、今回生で観て強く感じたのは、4人がそれぞれ違ったタイプの熱さを持っていて、それを思い切りパフォーマンスで表現しているということ。ソラは花火のような、フィインは静かに灯すような、ファサは焚き火のような、ムンビョルは先陣を切る松明のような熱さ。その違った個性がひとつになって、音楽の中で共存している。
4人とも笑顔がチャーミングでウエストがキュッと細くて鍛えられたスタイルで「あんなふうになりたい」という憧れも抱いたが、同時に、それぞれの個性で思い切り輝く彼女たちからは「正解はひとつじゃない」とも言われているようで、なにか解放されるような、自由な気持ちになった。
たくさんの大根の灯りのもとで見上げた4人の姿は、私たちを全肯定してくれる戦士のようだった。
土岐麻子、ついにMAMAMOOと出会う
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土岐麻子とスタッフ @tokiasako_staff
最高の公演でした。是非読んでください!(土岐) https://t.co/4fTqnsMSO5