活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている
ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(
取材・
ダンスをさせない”音楽が好きだった
──ここまで2回にわたって、YMOの話を中心にテクノについて学んできました。テクノ編の最終回となる今回は、1990年代頃から台頭してきた“ダンスミュージックとしてのテクノ”だったり、2000年代以降のトピックだったりに触れながら、まとめに入っていきたいと思っています。
細野晴臣 “ダンスミュージックの人”って、例えばどういう人たち?
──例えば、デリック・メイやジェフ・ミルズなどのデトロイトテクノの面々などはシンボリックかと……。
細野 そのあたり、あまりわからないな。だってYMOとは全然違うものだからね。
ハマ・オカモト ……教えてくれる人がいない!(笑) 僕ももう、赤点をもらう気で来てますよ。そのあたりの学はないですね。
安部勇磨 僕もまったくハマくんと同じです(笑)。何もわからずに来てしまいました。
──あとは、以前このゼミで名前が挙がったAutechreやエイフェックス・ツインだったり、細野さんとも関連が深いThe Orbだったり、あるいはrei harakamiさんなどの話もいいかもしれません。“ダンス”とくくるのが適当ではないかもしれませんが。
細野 彼らの音楽は聴いてたよ。でもそれは“アーティスト”としてだね。“踊りたい”じゃなくて、“音楽を聴きたい”っていう気持ちで聴いたから。ダンスミュージックと言うと違和感がある。ダンスミュージックって、四つ打ちのイメージになってしまうしね。それにEDMなんかもそうだけど、今はDJの人たちの音楽でしょ。そうなってくると、僕らミュージシャンにはあまり関係ないから。
──四つ打ちは、ディスコやハウスをはじめ、ダンスミュージックで多用されるリズムです。もちろんテクノでもたくさん使われています。
安部 そうか、“踊りたくて音楽を聴いている人”がいるのか。音楽が好きというだけじゃなくて、音楽も好きなんだけど、“踊りたい”が勝つ。
細野 でもYMOの初期、特に1枚目(「イエロー・マジック・オーケストラ」)は、ディスコでかかることを想定していたんだよ。みんなに聴いてもらいたいために、あえてね。でもそれも1年も続かないくらいの短い期間。それから完全に逸脱しちゃったのが「BGM」だね。「BGM」で踊ってる人は見たことがない。だからYMOはほとんど四つ打ちはやってないんだ。四つ打ちが嫌いになっちゃったからね(笑)。
安部 嫌いになるきっかけはあったんですか?
細野 そういう音楽にあまり興味が湧かなかったから。あとは、“踊らせよう”という音楽には作意があるじゃない? それが嫌だったんだ。だから僕は音響系にいっちゃったんだよね。Autechreだって音響系で、踊るってものでもない。
──確かに本連載のエレクトロニカ編で、細野さんはAutechreのことを「踊らせるための音楽じゃない、リスニング系」とおっしゃっていました。
細野 そう。そしてその頃は、“ダンスをさせない”音楽が好きだったんだよ。ただ、The Orbはクラブでアンビエントハウスという音楽をやって出てきた。ドラッグカルチャーもすごく濃いジャンルで、要するにチルアウトとダンスを分けないでトランス状態にさせる……“踊りながら沈静していく”みたいな、すごく呪術的な音楽。これと関連してアシッドハウスもあるけれど、それらは四つ打ちじゃないと嫌だったね。
ハマ その四つ打ちは嫌じゃなかったんですね(笑)。
細野 そう考えると、僕の嫌いな四つ打ちは“ある狭いジャンル”だけの話かもしれない(笑)。
ハマ それはもう、“体感”ですよね。「これがこうだからいい、悪い」っていうものでもない。
──ダンスというところに焦点を当てると、ポピュラーミュージックと踊ることは切り話せない側面はありますよね。細野さんのブギウギのライブでも踊っているお客さんをよく見かけます。OKAMOTO’Sやネバヤンのライブも、お客さんが踊っていますし。
ハマ そうですね。
安部 動いたほうがただ楽しい、っていうだけなんですけど。
細野 僕も音楽を聴き始めた頃は、踊りながら聴いていたからね。
ハマ そういえば、我々がデビューした頃の日本のロックフェスって、本当に四つ打ちがすごかったよね。
安部 ロックバンドの曲がみんな四つ打ちで。
ハマ 聴かされすぎて嫌悪感を抱くくらいに……って、これナタリーに載るんだよ。怒られますよ。僕自身は当時もそういう発言をしてすごく反感を買ったことがあるから、かまわないんだけど。
安部 「これを言っちゃだめ」みたいになっているのがよくない。あの当時は、四つ打ちに快楽を求めて、そっちに走りすぎて思考停止になってるみたいな状況があったよ。
ハマ 創造性もなく、「これが一番盛り上がるから正義だ」っていう。
安部 単純に下品だったんですよ。でも細野さんの言うような、上品な四つ打ちもある。音響的に工夫されていたりして、カッコいいのもあるから。
ハマ
──これはこれで面白いんですけど、話を戻しましょう(笑)。
安部 ちなみに細野さんはディスコやクラブは好きだったんですか?
細野 昔はニューウェイブ系のクラブがけっこうあって、好きだったよ。その後の80年代だと、六本木のディスコで照明が落ちる事故なんかがあって(※1988年1月にトゥーリアで発生した照明事故)、それからディスコブームがちょっと静かになっちゃった印象がある。それまではわりと面白かった時代が数年あった。DJもざっくばらんで、好きな曲しかかけない。ダンス系に限っていないからニューウェイブとかもかける。そういう時代があったんだよね。新宿のとあるディスコにYMOがKraftwerkを連れていって、踊っていたこともあるよ。
安部 へええ。
ハマ そのくらいの頃は、細野さんも行かれていたんですね。
細野 そうそう。一方で、そのうちにジュリアナ東京みたいなところも出てくるでしょ。ああいう感じだと僕らミュージシャンには関係ないから……。
ハマ シンパシーはないんですね、そこに(笑)。
現代は“何かをどこかに置き忘れている世界”
──では、比較的最近のトピックに触れていきます。Daft Punkなどはいかがですか? デビューは90年代ですが、2000年代に世界的にヒットして、見せ方もコンセプチュアルで、電子音楽をやる。前々回で名前が挙がったジョルジオ・モロダーとの共演作「Giorgio by Moroder」も話題になりましたよね。
安部 Daft Punkをテクノだと思って聴いたことないんだよな。
ハマ “Daft Punkとして”だよね(笑)。でも、本当にカッコいい。なんかわからないけどカッコいいなって。
安部 そう。“カッコいい、スペイシーな人たち”みたいな。
細野 僕はあまり知らないんだ(笑)。うっすら耳に入ってきたけどダメだったな、歳だからだと思うけど。
安部 意外ですね。
ハマ Daft Punkのトーマ・バンガルテルのお父さんが、70年代にYamasukiっていうグループをやっていたんです。どこで聞いたのかわからないような日本語を危うい感じで曲に取り入れている変なグループなんだけど、不思議な魅力があって。細野さんに聴いてみてほしいな。でも、細野さんはDaft Punkの存在は知りつつも、あまり聴く感じではなかったんですね。
細野 そう。だいたい、最近テクノがあまり好きじゃなかったんだよね。
ハマ モードってありますからね。
細野 テクノに責任はないんだけどね。というのも、最近のテクノロジーがあまり好きじゃないんだ。メタバースじゃないけど、どんどんそういう方向に社会が行ってるでしょ。それが嫌でね。テクノ自体をやりたいと思うときはあるけど、そういうことが頭によぎって、どうも手が出ない。KreftwerkやYMOの頃はロマンがあったんだよ。未来に。
安部 メタバースみたいな言葉を聞くと、前向きな気持ちよりも、「やりすぎじゃない?」「どうなの?」っていう気持ちになるんですかね。
細野 うーん……というか、嫌いなんだよ。
安部 嫌悪感(笑)。
細野 ネットショッピングもあまり好きじゃない。物がないのが嫌なんだ。五感が衰えるから。指で触ったりとか、五感を大事にしないと人間が衰退しちゃう。そういう意味でも、最近のテクノロジーと、それが中心になっている社会の仕組みが気持ち悪くて。
──そもそもはテクノロジーに対する理解度が高いほうなのに。
ハマ そうですよね。テクノロジーの進化を自分が面白いと感じる物差しにうまく乗っけていらっしゃったわけじゃないですか。だからこそ、今の状況が気持ち悪いっていうのは、ただの悪口とは違う説得力があります。
細野 ただの悪口だよ(笑)。嫌なことがいろいろある中の、中心にあるのがテクノロジーなんだよね。今は、“何かをどこかに置き忘れている世界”だね。それをすごく感じる時代になってきちゃった。
細野晴臣 Haruomi Hosono _information @hosonoharuomi_
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