土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.12(前編) [バックナンバー]
「&AUDITION」で投げかけた「音楽、好き?」の真意
Soma Genda(HYBE LABELS JAPANサウンドディレクター)と語る“指導者”側の思い
2022年10月7日 17:30 51
15人とは線を引いていた
──Somaさんと一緒にパフォーマンスディレクターとして参加者たちを支えていた井上さくらさんが、とあるインタビューで「アーティストには近くなりすぎないように気を付けている。あくまで先生として見られるように線を引く」とおっしゃっていたのが印象的だったんですが、Somaさんは15人とどんな距離感でいることを意識していましたか?
Soma 僕もさくらさんと同じく一線を引いていましたね。「ちゃんと評価ができなくなるから」というわけではないんですが、妥協を許す関係になるのは嫌だったので。
土岐 15人とはどのくらいの頻度で接していたんですか? YouTube(「HYBE LABELS+」のYouTubeチャンネル)に、Somaさんがマンツーマンで丁寧にボーカルトレーニングしている動画もメンバーごとに上がっていましたけど。
Soma 毎週ですね。あの動画のような感じで、毎週1人1時間くらいずつ指導していました。
土岐 15人で15時間。それを毎週やるだけでもけっこう大変ですよね。それ以外にグループごとのミッションの指導やチェックの時間もあるわけですし。でもそれだけ見ていたら1人ひとりの歌い方のクセや個性も熟知できるし、楽曲も細かく作り込んでいけますね。それぞれのパフォーマンスのパート割もSomaさんが決めていたんですか?
Soma さくらさんと僕で決めていましたね。
土岐 Somaさんとさくらさん、2人の絆もすごく感じましたよ。協力しあって15人を成長させようとしているんだなと。
Soma さくらさんはすごくフレンドリーで、誰とでも仲よくなれる方です。メンバーのお姉さん的存在というか、すごくかわいがっていましたね。
「音楽、好き?」は自分がかつてもらった言葉
土岐 オンエアだとどうしても厳しく指導しているところがメインで使われるじゃないですか。Somaさんと「&AUDITION」のことを話していたときに、「ちょっと怖く映っているかもしれないけど、実際の僕はもうちょっと柔らかいので」とおっしゃっていましたよね。自分が実際より怖く映っているような感覚があったんですか?
Soma 逆に、ご覧になっていてどう思いましたか?(笑)
土岐 私はご本人のことをもともと知っていたのもありますけど、全然怖いとは感じなかったんですよ。ナタリーの担当さんには、ちょっと怖く見えてたみたいですけど……(笑)。
──すみません、番組で見えている範囲だと、怖い方なのかなという印象が正直ありました(笑)。もちろん15人への愛は端々からしっかり感じていたんですけど、厳しいアドバイスをされている印象が強くて。
Soma あはは(笑)。大丈夫です。番組を観た知人からも「今度会ったら俺も怒られるんじゃないか。緊張しちゃいそう」って言われましたから(笑)。
──(笑)。練習生たちを引っ張っている実力者のKさんにも「実力者だからこそアドバイスするね」と前置きをしながら「ステージでKの歌を聴くとグッとこない。踊りを殺さない最低限の歌を歌ってる。(それだと)歌では感動させられないんじゃないか」と指摘したり。いろんな視点からアドバイスを与えているんだなと感じました。
Soma 彼らの普段の姿を見ているからこそ、ステージでももっとできることを知っているから、そういう部分はちゃんと伝えたかったですね。
土岐 私はSomaさんが落ち着いたトーンの方だということを知っていたし、自分のレコーディングのときに感じていた細やかな集中力や気遣いが、そのまんまカメラに映っている印象でした。新人アーティストや、これから育てていかないといけない子に対しては、そりゃ厳しいことを言わないといけないわけで。でもSomaさんは絶対に感情的には伝えてなかったですよね。逆に、淡々とした感じが怖く見えてしまう人もいるのかもしれないですけど。すごく冷静に伝えていたから、言われた側もスッと受け入れられそうだなと思いながら観ていました。私は感情的に言われるのが当たり前だった昭和世代だから(笑)、Somaさんはすごくいいメンターだなって。1つひとつの言葉にすごく共感しましたよ。コンセプトミッションの中間チェックでHARUAさんとEJさんに言っていた「音楽、好き?」という問いかけも、すごく響きました。
Soma そう言ってもらえてよかったです(笑)。「音楽、好き?」っていうのは、僕が昔、師匠に言われた言葉なんですよ。ギター弾いてた17歳くらいの頃に、「ステージ上で全然楽しそうじゃないし輝いてない。音楽を好きにならないと楽しませられないよ」って言われたのをすごく覚えていて。同じことを彼らに言ってあげたら、響くかなと思いました。
土岐 ああ、そうだったんですね。その問いかけがなんで響いたかというと、私も自分自身に同じように「音楽、好き?」って問いかけていることがあるんです。練習してもうまくいかないときや、パフォーマンスが硬くなっているときに「なんか今、全然私音楽を楽しんでないな。好きで始めたことなのに」って。音を楽しむことを思い出すと、そのスランプから抜けられるんですよね。なのですごくいいアドバイスを投げてるなあと思いながら観ていました。
Soma 番組での僕の指導を見たミュージシャンの方は、そういうふうに「わかる!」って共感してくれることが多いです。僕はもしかしたら指導者というよりは、ミュージシャン寄りの目線で彼らに接していたのかもしれないですね。
(後編へつづく)
土岐麻子
1976年東京生まれのシンガー。1997年にCymbalsのリードボーカルとしてデビュー。2004年の解散後よりソロ活動をスタートさせる。本人がCMに出演したユニクロCMソング「How Beautiful」(2009年)や、資生堂「エリクシール シュペリエル」のCMソング「Gift ~あなたはマドンナ~」(2011年)などで話題を集める。最新作は2021年11月にリリースしたオリジナルアルバム「Twilight」。CM音楽やアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV・ラジオ番組のナビゲーターなど、“声のスペシャリスト”として活動。またさまざまなアーティストへの詞提供や、エッセイやコラム執筆など、文筆家としても活躍している。K-POPでの最推しはMONSTA XのジュホンとBLACKPINKのジェニ。
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Soma Genda
HYBE LABELS JAPANのサウンドディレクター。幼少期から培ってきたアカデミックな音楽理論と類まれなるトラックメイキングのセンスでダンス、ロック、ポップス、エレクトロ、劇伴など、幅広いジャンルのプロデュースで定評を得る。楽曲提供したBTSの「Crystal Snow」(2017年)はリリースと同時に全世界約10カ国のiTunesチャート1位にランクイン。提供曲が収録された嵐のアルバム「Untitled」はトリプル・プラチナディスクに認定されている。2022年、オーディション番組「&AUDITION - The Howling -」に出演した。
・Soma Genda Works(Spotify)
※10/11追記:記事初出時より、一部本文の表記を変更しました。
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懐かしいインタビューを読み返してる
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