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細野ゼミ 9コマ目(後編) [バックナンバー]

細野晴臣とシンガーソングライター

で、結局シンガーソングライターってなんだ? 細野晴臣、安部勇磨、ハマ・オカモトが大放談

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ジャンルに自ら入っていくこと=様式を真似すること

細野 前回も話したように、僕が思うシンガーソングライターって、ジェイムス・テイラー、ニール・ヤング、ローラ・ニーロとか、68~73年辺りにデビューした本当に数人のミュージシャンなんだよね。

ハマ 便利な言葉として残りすぎちゃったんですかね? 流行り言葉として誕生したのに、あまりに便利な言葉だから今に至るまでずっと使われ続けているという。冷静に考えるとけっこう仰々しい言葉かもね。

──ミュージシャンの皆さんからそういうお話が聞けるのは面白いですね。

細野 こんなこと考えたのは初めてだよ(笑)。

安部 音楽に興味がない人でも、“シンガーソングライター”って聞くと、なんとなくわかりやすい。

ハマ 今となってはそうかもね。ジャンルや集合体じゃなく、ある種の音楽をやってる人をなんとなく表現する言葉になってる。ある意味、大発明ですよ。ある種のイメージをわかりやすく総称するカテゴライズ。それこそ“AOR”とか“シティポップ”のような、あとからカテゴライズされて生まれたジャンルと実は同じ畑にあった言葉なんじゃないかとも思えますね。

安部 なんか僕、最近のシンガーソングライターと呼ばれる人の一部に思うんですけど、音楽的なルーツとか歴史を感じないというか、音楽的な根底の部分が見えないことがあるんだよね。美メロでいい歌を歌うけど、リズムも含めてほかの音楽的な要素が少ないから、音楽っていうよりは自分の気持ちを伝えることに重きが置かれているというか……もちろんそうじゃない人もいますけど。

ハマ それ、すごい発見かもしれないね。

細野 なるほどね。自分でオリジナルを作り出そうとするばかりに、ほかの音楽をあまり聴かないで作っていくような傾向はあるかもしれない。例えばロック好きの人はいろいろ聴くし、そうすると、ほかのアーティストに影響されまくるじゃない。シンガーソングライターってもともとスタイルではあるけれど、ちゃんと伝統も内容もある。けど、今はスタイルの部分だけ残っちゃった。で、内容としては歌や歌詞で自分のエモを表現しているケースが多い。そういうことなのかもしれないね。

安部 ところでシンガーソングライターって、日本だと頻繁に使われてるイメージがあるんだけど、海外ではどうなんだろう。今、海外のシンガーソングライターの代表的な存在って誰になるんですかね?

ハマ テイラー・スウィフトはそうでしょうね。カントリーのジャンルから出てきた新世代のシンガーソングライター、みたいな。あとはジョン・メイヤーもシンガーソングライターとして受け入れられていますよね。ただ僕の中でジョン・メイヤーって、どちらかと言えばブルースギタリストとしての印象が強くて。以前輸入CD店でジョン・メイヤーがシンガーソングライターとして売り出されてるのを見たとき、すごく違和感を覚えたんです。

安部 うーん、ここまでの話を踏まえて、僕は“シンガーソングライター”という言葉は使わないほうがいいと思いました。

──過激な(笑)。

安部 便利な言葉なんでしょうけど、便利なものって人をおかしくするんですよ。それに、形容するにしてももっと的確な言葉があると思う。作っているほうも、そう呼ばれなくてもいいと思っている人のほうが多いだろうし。

ハマ まあ、ジャンルについては今後考え直したほうがいいよね。シンガーソングライターを筆頭に。

安部 これを読んでいる人の中には、「そんなに肩書きを気にしなくても」と思う人がいるかもしれないけど、そういうちょっとした感覚が作品に表れてくると思うんですよ。

細野 ジャンルというのはスタイルだから、すでに様式が固まっていることが多い。そこに自ら入っていくことは、様式そのものを真似することになるわけだから、新しいことはあんまり起きないよね。

ハマ そうなんですよ。「細野ゼミ」のゼミ生たちは声を大にして言っていったほうがいい(笑)。僕もラジオ番組をやっていて、ネタとしてゲストのプロフィールをいじったりするんです。というのも、プロフォールの文章って自分で考えているわけじゃないですから。

安部 「プロフィールをいじる」(笑)。

ハマ 「情感に訴えかける透き通った~」みたいな文章をスタッフに「これどうですか?」って聞かれて、「恥ずかしいです」って。絶対に恥ずかしいんですよ、みんな。僕たちはレーベルの紙資料とかで、「恐るべき子供たち」って書かれてた。それで22歳の頃に、「もうやめてくれ」って。

細野 子供じゃないじゃない(笑)。

──ここまでで、議論が“アーティストの呼ばれ方”についての流れになってしまっています(笑)。かつて生まれた、ある表現スタイルを表すシンガーソングライターという言葉と、現在の“シンガーソングライター”という言葉の使われ方。そこを分けて語るべきだったのかもしれませんね。

ハマ 面白いですね、テーマが壊れる展開(笑)。

安部 今まで考えたことなかったですけど、よくよく考えたら少なくとも今の時代に有効な言葉ではないなって。実際みんなそういう感覚で音楽を作っていないと思うなあ。

すごく新鮮な音楽が現れたと思った

──そろそろまとめに入りたいのですが、いわゆる往年のシンガーソングライター……特にジェイムス・テイラーやニール・ヤングなどは、前回の講義で細野さんも音楽的に影響を受けたとおっしゃっていました。

細野 好きだよ。

ハマ 僕も好きですね。

安部 もちろん好きです。

細野 やっぱり、彼らが登場した当時は新しかったんだよ。実際シンガーソングライターと呼ばれる人たちは活躍していたし、僕自身もすごく新鮮な音楽が現れたと思ったんで、その時代のアーティストをシンガーソングライターと形容する分には抵抗がないわけ。

ハマ “シンガーソングライターという言葉の誕生と、ブームによって出てきた素晴らしいミュージシャンたち”ということですよね。

細野 そう。ハマくんの言うように、そこに「素晴らしい」っていうのがないとダメなんだよ。

安部 ああ!

細野 いずれにしても、今では音楽ジャンルを指す言葉としては死語かもしれないけれど(笑)、めちゃめちゃ才能があって素晴らしい音楽を作る人がこれから自分のことを「シンガーソングライターです」って名乗ったら、シンガーソングライターという言葉に新しい価値観が生まれるかもしれない。だから安部くんがこれからすごい音楽を作ってね、「自分はシンガーソングライターです」って言えば、意味がまた変わってくるよ。

ハマ “呼び方”の話で言うと、ウチのバンドも一時期「ロックンロールバンド」って言われることにすごい嫌悪感があって。自分たちがロックンロールが好きだからこそ、「いや、ロックンロールではないんじゃないんですか?」って答えたりしてました。逆にインタビュアーの方とかに聞くようにしているんですよ。「何バンドだと思います?」って(笑)。

──すごく言いづらいでしょうね(笑)。

ハマ 結局みんな言えないから、「ですよね、俺らも言えないんですよ」って。ウチは面白いと思ったものをやる器がバンドってだけだし、「一番聴いてきたものを考えると、まあロックバンドか……」ってレベル。だから「ロックバンドです」というのもあまり納得いってないし、とはいえファンクバンドじゃないし。「コミックバンドでいいんじゃないか」って1回本当に考えたことあるんですよ。「ドリフターズってやっぱすごくない?」みたいな話になったこともあるから。いずれにしても、音楽を作るうえで近年は特にジャンルって考えてないですね。

安部 スタッフの人に悪気はないけれど、商売するうえで、わからない人にもわかりやすくってことだね。

細野 まあ、YMOもテクノって言われてずっとそのまんまだよ(笑)。テクノっていうのも、あとから誰かが言い出したことだけど。

ハマ 僕らも最近の2作くらい、「ベース、入れるところないじゃん」って曲もある。でも、「いらないけど入れてみよう」って言いながら入れてみるじゃないですか。それがまた面白いものになっていくんですよね。だし、適応していかないと、いつクビにされるかわからない(笑)。その面白さがバンドかなと。まったく違う人間が集まってるよさ。ジャンルに生涯捧げるのもカッコいいと思うんですけど、そうじゃない面白さはそこかなっていう。生き物だから、やりたいことが増えちゃうじゃないですか。進化するし、退化もするし、変わっていく。だからデビューのときのジャンル感で言い続けられるのは本当に不思議な気持ちだな。

──細野さんは、キャリアの中でトロピカル期やアンビエント期、ブギウギ期などがありますけど、それぞれ「今はこのジャンルに取り組んでいこう」と狙って作っているわけですよね?

細野 まあ、無節操なミュージシャンなんで、逆に“ジャンルに入りたい”っていう気持ちがすごくあるんだよ。ずっと同じスタイルでやってる人を見ると、うらやましいよ。

ハマ わかるなあ。

安部 そういう人にしかない説得力もありますからね。

──今回はシンガーソングライター編のまとめの回のはずが、シンガーソングライターという言葉の意味を起点に、“アーティストの呼ばれ方”を巡る大放談に発展していきました。でも、“シンガーソングライター”がいくつかの意味を内包する言葉である以上、連載の本質からずれているようでいて、でもやっぱり本質的な内容でもあったのかな、と。

安部 ここまでいろいろと言ってしまっているけれど、別に僕、シンガーソングライターの人と喧嘩したいわけじゃないですから(笑)。ただ自分もそう言われることがある中で、個人的によくわからない言葉だなっていう素直な気持ちでした。

ハマ でも、この連載の中でこういう話をできたのは大きいですね。どこかの場で持論として話す機会はあったかもしれないですけど、ここで話すことで説得力が出ると思うんです。読んだ人に気付きを与えたいとまでは言わなくても、「そういう考え方もあるんだ」くらいは思ってもらいたいかもしれない。いやあ、今日はめちゃめちゃ脳の使ってないところ使ったなあ。すごい面白い。寝るまでつぶやきそうだな。「シンガーソングライター?」……自分のCDとか見ながら(笑)。

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。9月にオリジナルアルバム全3作品をまとめたコンプリートパッケージ「"audio sponge" "tronika" "LOOPHOLE"」を発表した。

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安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカル&ギター。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、上海、北京、成都、深セン、杭州、台北、ソウル、バンコクなどアジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsよりリリースした。

never young beach オフィシャルサイト
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ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2021年9月29日にニューアルバム「KNO WHERE」をリリース。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

OKAMOTO'S OFFICIAL WEBSITE
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死後くん @sigo_kun

細野ゼミ「シンガーソングライター後編」です。今回は「シンガーソングライター」という言葉をめぐって各々のSSW論を語らってます。深夜のファミレス談議を聞いてるようで面白い!

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